それ以外は、その前も後もどうでも良いのだというように、君は改行記号だけを見つめている。実際、私の手はペンを持ったまま宙を漂うだけで後といえば別の原稿用紙でも持ってこようかというばかり。それまでに書いたものも全て忘れてしまった。
「改行は
罪そのものなのよね憎悪、それとも罰なのかしら?」と君はこの上なく美しく意地の悪い微笑を浮かべながら改行をなぞり、私は唯、その横顔を見つめるだけで窓外の庇からここ数週間の寒さが運んだ雪が融けて落ち、夫婦のメジロが梢を急ぎ渡って行く。
「君のいうことはいつもサッパリ分かりやしない」と呟くと「私も」と同じトーンで呟き、私の掌に掌を合わせて消え、そして私は溜息をつく。私達の関係は、そういうものだった。
近所の公園に行くと私は砂場に近いベンチに座り、残された遊具の汚れ具合を確かめ安堵し、全てに安心した気持ちになり、そして家を想い浮かべては不安に駆られ、また歩き出す。
朝焼けの中、風に吹かれた新聞紙が舞う中を新聞配達の少年とすれ違いながら佇み、酔っ払いの吐瀉の匂いの中に改行記号を残して少しだけ歩く。やがては学生や勤め人で溢れる駅前の商店街を、ゆっくりと歩く。
時折、シャッターの音がカラカラと響き渡り、そして又、全てが朝焼けの中に溶けながら今日を想い出すけれど、私は昨日のことや明日のことばかり考えているから歩くしかない。そうこうしているうちに、きっと私はあの公園に再び戻るしかなく、やはりボンヤリと砂場に近いベンチに座り、残された遊具の汚れ具合を確かめる。
空に向けて七十度の角度で刺さったプラスチック製のおもちゃのシャベル、その柄のひんやりした感触を手に受け、さらに砂場に押し込みながらカサカサと舞う枯葉を身にまとい、きっと何かが間違っているに違いないと想うのだけれど、それが私自身だと気付いてからはその柄に触れることもなく「改行は
罪そのものなのよね憎悪、それとも罰なのかしら?」と泣きながら私は呟き続ける。
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- 2008/02/15(金) 22:57:18|
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一人で語り継いできたつもりだった哀しみの一欠けらを曇ったガラス瓶に入れて川に放った
すぐに霧に包まれて見えなくなったガラス瓶を、川から遠ざかりながら振り返ると少しだけ、涙が光った気がした
海には続かない閉鎖した川で私は何も見えず、誰とも語ることなく浮き沈み、流れ、忘れられ
時に出会う幻光に瞳を焼かれ、あの日を遠く想い出しながら泣き笑ってしまう
ここには誰もいない
私と私を入れたガラス瓶と、そして川があるが
時折、赤い夕焼けか朝焼けを感じるのも気のせいだと想う
音なく川に揺られ続けたための幻覚なのだと想う
こうして、いまだ語り継いでいるつもりの哀しみの一欠けらを誰が見つけようか
誰が拾おうか
ガラス瓶に詰められた少しの空気が尽きる時は遠くない
無数のガラス瓶がお互いに触れることなく、お互いを知ることなく、ただ流れている
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- 2007/07/05(木) 12:57:23|
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遠くに行きたいと想った
あの、なんの音だか分からない微かな音の元に
山を越えたろう、谷を跨いだろう、あるいは海を渡っただろう
あの音の元に遠くを見ているままの明日が遠ざかる日々の中で
そこに望む、かほどに強い想いは何処へと見失うものなのか
いつも、そうして一人きりになる
(きっと、それは想い込みにしか過ぎないのだが)
一人きりになることで寂しさを紛らわせ、僕は穢れていく
透き通った、あの
臭いのしない、あの
何もない穢れ
「遠くに行きたいと想わなければ」
いや、そういうものではないのではないかと想う
ただ本当は触れていたいのだろうものに触れることなく
(触れることが出来るものなのかも知らない)
そのままに過ぎていくことが一番、私の気にしていることだ
そうすると、やはり遠くに行きたくなるのだ
遠くに
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- 2007/02/05(月) 16:00:01|
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遠さを知るにはどうしたら良いのかと想いつつ
近さを知るにはどうしたら良いのかと想いつつ
一歩の歩みを前に、後ろに
椅子に座ってジッとしていると、いくつもの妄想が過ぎる
誰も、何もない世界と、その逆とか
窓外の景色は穏やかに変わり続けるのに変わらぬまま座り続ける私と
触れることが出来るものには触れることもない
触れることが出来ないものだから触れようとする
常にすれ違うことだけが確かにする行為の中にいる私
乾いたままのXを抱えたまま提示されたYを眺め
公園の脇に積まれたままの壊れたブランコが私だ
新調され、子供の嬌声に包まれたブランコが世界だ
その二つだけがあればいいのだろう
必要としない切迫感はきっと、その二つの間に滑り込んでくるのだろう
その隙間を感じるとき、私は何故か涙する
その涙で隙間が埋まれば良いのに、と想いながら涙する
涙で埋まる隙間などありはしないのに
そう、何度も知ったのに涙する
ただ、それだけだという想いを抱きながら涙する
私が胸に抱いているのは掌からすら零れる涙なのだと想う
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- 2007/01/03(水) 16:12:37|
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最後の線香花火のあなたの横顔と
微かな燭光の中で消えゆく私の顔と、壁と、擦りガラスと
来るはずの季節を眺め過ぎた風に吹かれ千切れた雲の一切れに
響く歌声が届かないことへの祈りの歌を捧げた誰か
麦畑の中に満ち香る土への
揺れず背高い先に咲く一輪のコスモスの花への
芯まで錆びたナイフで切り裂いた壁紙の中で
広がる暗い宇宙の中に浮かぶ無数の、
全方向に向けられた虚ろな瞳
やはり響く歌声は届かないのだ、という呟きの
全てが全てを含む青いだけの海の、
やはり響かない波音に耳を傾けながら
めくるページを失ったままに手に残る一冊の詩集に
一字さえ書くことの出来ない鉛筆をテーブルに眺め
きっと、あなたである足音を聞き分けることが出来なくても
私は吐息を、青く、赤く、そして透明にシャボンに包み
一つ一つを決して忘れずに
終わりを迎えないキスをして目を閉じる
終わりを忘れたキスをして目を閉じる
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- 2006/12/17(日) 20:21:18|
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冷たさを増していく雨の中で傘を閉じ、目蓋を閉じ、君への想いを閉じる
きっと今もどこかの空は青々としているに違いない
昨日の空は蒼かった
やがて来るはずの涙は遡る時間の中に散り、
光を反射しない屋根の上で跳ねる小鳥と向こうに湧き上がる雲と
走り行く車の中を見ても誰もいないが、きっと私は覗いてしまう
雨だまりの中で一つになった雨滴は雨滴ではなく、
泥を飲んで明日には子供らに踏み濁らされ
陽が照れば、地が吸えば、きっと乾いてしまう
なくなってしまう
愛らしい赤の子供傘が揺れていく
曇り空の下、鉛色の空気を裂いて
愛らしい赤の子供傘が揺れていく
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- 2006/12/09(土) 11:14:51|
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日曜日ではない土曜日にツラツラとヌードを眺めていると、どうも女性の胸には大きさという概念がないらしいと気付いた。いや、改めて気付いたと言うべきか。
街行く、あるいは電車で向かい合う、その他もろもろの状況において、女性の胸は凝視すべからざるものという信念でおり、夏のビキニもサングラス越しに見つめると、胸を見ているというよりもパットなるものに込められた技術に想いを馳せてしまうのは一人、私だけであろうか。
しかしこれ(ら)は、男性誌のグラビア等等を見る限り女性のみの責とするのは甚だ理不尽であって、やはり男女による共同作業の結果と見るのが相当であろうかと想う。
今、ここで一つはっきりとさせておきたいのは、私も巨乳(虚乳ではなく)が好きであるということであるが、その理由に関しては全くに不明であって、微々たる胸の隆起にもまた、美しさを見出さないということが必ずしもないわけではないことである。
ここに一つの大きな矛盾を与えるとすれば、女性が一般に「美」を求めるものらしいにも関わらず、こと、その大いなる象徴たる乳房に対しては「美」よりも別の視点、あるいは価値基準を以って望むことであろう。
先に述べたように、私のみならず、相当数の男性が巨乳よりも微々たる胸の隆起に乳房の美しさを求めることは十分に期待出来ることであるわけだが、何故か敢えて想像を断言するならば男性の貪淫の象徴の一つでもある巨乳こそが、男女のコンセンサスによって望ましい乳房像を形成しているかに想われる。
その結果、これも先述したように巨乳たる見かけを有するための涙ぐましい努力が日々、どこかでだれかがし続けることになる。恐らくはCカップもあるかないかの胸は現代日本において決して巨乳ではないはずであるが、寄せて上げて、さらには若干の前屈を加え、正面からこれを見れば、そこには巨乳の証であったはずの谷間が形成されるというグラビアに見られる常套手法も、一方、男性にばかり責を求めるのは事ここに至って妥当であろうか。今や谷間は巨乳と虚乳の、双方の可能性を内在する証拠現象に変化したのである。
房事において淫猥なるあれやこれ、それやこれが役に立つことについては異論は大きくはないと想われるが、さて、現代日本の女性にとって歌麿は淫猥なる存在となり得ようか。
大きいものは良いことだ
という文化的価値基準を他ならぬ日本も持っていた、この歌麿の巨大男根を見て、仮にそれが実物だとしても、驚きこそすれ、よもや、そのようなもので体を貫かれるとは、というのは乏しい私のアンケート調査の結果であり、実際、かかる歌麿を必要とするほどの奥深さは女体にはないものである。
つまり、歌麿に関してさえ、それは
大きいものは良いことだ
という、ただ一事において本質的な意味があることは明白であり、恐らくは、その結果として妄想をたくましゅうする女人がいようともいずとも、それはここでは意味がない。
さて、ここで私は局所増大用吸入ポンプを使用する時間となったことを記し、一先ず筆を擱くこととする。
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- 2006/10/29(日) 11:24:18|
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夢を見終わり、指でなぞる遠ざかった漣の合間に落ちる影に隠れた物語と、木漏れ日の中を歩く昔の君とを重ね合わせた一枚の便箋を前に誰もいない椅子があり、テノヒラから飛び立った土色の小鳥を追いながら過ごす夏の日の真中にあるはずのない一滴の雫を舌に受けて癒す渇きを受止めきれない喉の奥のヌメリが気持ち悪くて吐き捨てた唾を飲み込んだ暗い壷。
そうして知るもの全てが飲み込まれていく暗い壷を無数に抱えながら青い大陸を眺め、黄色い声を糸引き巻いて紫に腫れ上がった指と腐り始めた爪の臭いと恐れが生む正義の腐臭を帯びた下着を吊るした部屋の裸ランプの下で抱き合う男女と男男と女女と男男女と男女女と数えられない男と女とそうでないものと隅に蹴やられた白いままのタオルケット。
「だからタオルケットなんかいらないんだよ、あいつらにはね。」
常に忙しく瞬く目に留めるものなく腹の脂肪を揺らしながら中年女が言うと、隣で作業する若者は胸に抱いたタオルケットが無性に愛しくなり、果てた。
「そのタオルケットで拭きなよ。」
中年女は淫靡な視線を若者の股間に向けながら手を休めずに言うと、若者は静かに下半身を拭って回収ボックスに放った。
(この先は書かない)
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- 2006/10/23(月) 15:32:19|
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僕はヒトカケラでありたかった
あの広い夜空のヒトカケラで
星がどれだけ無限にあるとしても
夜空は星だけではなかったので
僕は、そのヒトカケラでありたかった
星も月もヒトカケラだと
だからヒトカケラだと
ただ何も考えずにヒトカケラでいたかった
痛みや哀しみはどこに行くのだろう
どこから来たかは、どうでも良かった
どこに行くのかだけ、それだけでも
誰も知らないということだった
だからヒトカケラになれれば
痛くて哀しいヒトカケラになれれば
それは、それで
僕を通り過ぎて行く全てよ
全てが通り過ぎて行く僕よ
時間の逆流する公園のブランコを漕ぎながら
雲は後ろ向きに流れ
ベンチの詩人は白紙になっていくノートに向かい
これ以上ないほどの正確さで逆流する時間が
全てに復讐する様をブランコの上から眺めて
やはり僕は
ヒトカケラでいいと祈る
ヒトカケラに閉じ込めて欲しいと祈る
どんなに、どれほどに
ヒトカケラに閉じ込めて
僕を忘れて
僕のいない時間を作って
全ての不幸は
僕が作っている
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- 2006/10/17(火) 21:30:51|
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愛の吐息に紛れた影の光に惹かれて人は
影の中を歩いている
過ぎた季節は細る残光に潜み
戻ることのない光の影に消えていく
平板で大きな城に縋り泣き、一枚の絵となり
<地図に記されない点は存在する>
触れることの出来ない影として
非存在の影として
ヘルメットの中を覗き込んだ明日。
勇気を失うとき
漆黒の影に宿る命と涙と怒りに震える声が
同時に響く
どうしても消せない記憶だけで君を見つめ、
霧散した記憶を追い掛けながら泣き叫ぶ矛盾と
一冊の手帳の切なさを風に乗せ
曲がる度に伸びる影に怯え、立ちすくみ
小さな怒号が胸倉を引きつけながら
引き摺る力によってのみ
引き剥がされる<ここ>は照らされることはない夢?
影を伴わない光によって滅亡した世界を
全ての影を奪い去る光を
風化し続ける未来の記憶に投げ出した自分の影が
消えることの出来ない、
を背負い
ため息に溶ける今日を
望んだ通り
全てが望んだ通りなのに足りない
を背負い
ため息に溶ける今日を消えていく
テーマ:詩・想 - ジャンル:小説・文学
- 2006/09/28(木) 12:54:34|
- 天の震え、地の涙
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