息絶えのなか

冷たい光のなかでだけ鏡の奥に咲く花を見たら、消えさる時間を追いかけるじゃないが、きみの名前は覚えようじゃないかと、その面影なら撫でるように愛されたはずだ。
山頂から山頂への飛翔は華々しくて好きになれないが、深海から深海への沈潜だって曖昧過ぎて好きになれやしない。だから平野を歩くのだと聞いたが、そのときに吹いていた風を覚えていないように枯葉だけを落とす木立の歩みで歴史を忘れながら一つのベンチから眺める滑り台には子供がいない。

封鎖されたすべての公園から対岸を目指せよ、解放を謳歌するすべてを抹殺するように沈黙し、そのまま目指せよ。川瀬を踏む足音で目覚めるきみを探しているから、封鎖されたすべての公園から旅立ち対岸を目指せよ。
あらゆる魂を乗せて走る電車は銀河を知らないが、冷たいときも温かいときも汚れに満ち続ける川から眺める夕暮だけを知っている、そこに昏い背を持つ夕暮なら知っている。

理由を問うならば決して応えない静けさを追って私たちの時間が走る。決して使われないことばを探して私たちの一つだけの時間が走り、並走する無数の幻想時間たちを振り払おうとし続けている。
忘れてしまったきみの名前が泣いて、嗚咽が響く。汚れた川だけに凭れる夕陽が静かに息絶えてゆく。無限に繰り返す死のなかで、たった一つにもなれない息絶えのなかに沈んでゆく。
2014-12-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

久遠に降る

-だれの足跡も残されなかったら
 それはぼくが登った山だ
永遠に降る雪のなかできみが言う

-今宵、聖夜なら星は天に還るだろう
ぼくは、そんなフレーズを想いつきながら黙っている

街にはきらびやかなすべてがあった
醜悪さえ輝けるなにかがあった

ただ雨が降らないという理由だけで壊れる愛があったし
ただ風が吹いたという理由だけで蘇る愛さえあった

通りすぎるのは車であって欲しくなくて
素敵な香りをまき散らしながら走る地下鉄だって走らせた
きみとぼくの二人さえ、そこにあったのだ

世界中の希望を一つに集めたような
そんな歌だって響き続けていた
壊れる愛も、蘇る愛も、生まれる愛も

-すべてを祝福する意志となった影なら忘れられる
きみが、そんなフレーズを想いつきながら黙っている

-だれの足跡も残されなかったら
 それはきみが登った山なんだね
永遠をさえぎって降る雪のなかでぼくが言う

ぼくらの幻想を雪が降る
絶望の不足を補うために雪が降る
はるかな垂線を横切って
永遠を知らずに雪が降る
2014-12-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

恋人のいる里では

寒さを距離として、かじかみながら萎える足の冬になり
遠くへと進むより近くへと進んだひとつの影を追い
恋する雪なら雲にすがりながら、いくつもの山を越える。

恋人のいる里いない里、恋人のいる里なら知ることがない

人のいない田畑がきらめいているので
ざわめく季節が指先に触れると、
そのまま季節になりたくなるだろう。
大股の歩みが山頂を巡り途絶えているが
男の姿は、もう見えない。

冷酷な祈りの鐘が響いてくる、
荒波の岬だ。
身投げするだろう女が独りで生きている。
あばら家に乳飲み子を置いて、
ふくよかな胸をはだけながら。

輪舞が始まる静かな夜にだけ去る季節がある。
人気のない一瞬を過ぎ去るだけの小さな季節がある。
寒ささえ距離となる季節を知らず、
過ぎ去ることだけしか知らない季節が、
男と女を永遠に隔て続けている。
2014-12-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

届かない吐息

公園には揺れることがないブランコがある
甘い香りの雪が降り始めていて私は
あなたの涙が怖くて影を落とせない

遠くから訪れるものだけを待っていたのに
今ならとなりにいるものだけを待っている
風のなかに消えるものだけを待っている

瞳を隠して瞼が陽のなかで泣いている
あなたの吐息が届かない
やさし過ぎるあなたの手紙が手のなかで冷たく
微かな風にさえ散る脆さであれば

記憶の波に侵される愛ならば要らなかった
あなたが歩く街の記憶なら要らなかった
私をなぞるあなたの指の記憶なら、要らなかった
2014-12-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

腐乱する夕暮れ

街中の、街外の、
すべての輪郭を無情に奪ってゆく
夕暮のやさしさよ

ゆっくりと指示される腐乱が
静かすぎて気づかれない
だれも気づかない

腐乱する夕暮だけを愛した
どこからでもよかった

夕暮の輪郭を奪う様が見れさえすれば
その意味を考えることもなく
分かっているはずだったし
分からなくても良かったから

-さようなら

そんな一言さえ腐乱させて夕暮は
だれにも止めることが出来ない絶対さで
ゆっくりと、でも確実に-

暴力的な光は、嫌いだよ
2014-12-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

あまい歌で

残酷なことだけを真実として与えられるから
ずるがしこい詩人の笑みで
冷たい陽射しがことばの輪郭をなでている
季節のない陽射しでことばの輪郭を探っている

-わかりそうでわからない心を
 とけそうな甘い歌なんかで誤魔化そうとしないで

鈍色の空をこえて宛先のない問いが飛んでゆく
飛び立ったばかりの飛行機の音は低いままで
さっき梢に引っ掛かった風船をすり抜けて
そのまま雲の向こうに消えていった

いくども数え直された愛の数が合わないまま
知らない恋人の甘いくちびるの感触が想い出されると
グラスのなかでは溶けない氷が眠りを探している

-わかりそうでわからない心を
 とけそうな甘い歌なんかで誤魔化そうとしないで

そういった恋人を覚えていない
最後の恋人は覚えていられない

ことばの輪郭には
二度とは触れることが出来ない
一度目も触れることが出来ない
2014-12-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

くちびる

むしろ それは永遠のくちびる
あわい雪ひとひらのとけるだけの一瞬だけ
幼く赤みをおびて
むしろ それは永遠のくちびるなのだ
なによりもかろい空をのせて
どこまでも深くくちづけする
むしろ それは永遠のくちびるです
わたしがふれることなく
おもいだすことも許されない
むしろ それが永遠のくちびるでした
2014-12-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

波する吐息

冷たい吐息を抱えて戻る道すがら
夜は昏い波を想い出す
水平線のかなたまで光を持たないゆらめきと
ほのかな暖流に呼吸を預ける無力さを

星の語らうまにまに死にゆく命は
その無価値さを輝きに変えられただろうか
乾いた血潮のめくられる灼熱の岩肌よ
夜はお前とは出遭わない

猥褻なネオンの鼾を叩き
しかし止まないネオンの鼾を聴きながら
夜は昏いだけの波を想い出す
波音だけになった波を想い出す
2014-12-24 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

散策の表紙

冷たい本の表紙で踊るきらめきの光たち
その楽しげな様子を見つめる不思議な子供の瞳
つむじは激しい回転を続けている
ついとも揺らぐことのない緑の葉を一枚、乗せて

晴れやかな埠頭を湿り気を帯びて足跡は行く
あてどない足取りに、かの子供の笑顔を乗せて
遠洋にすなどる漁船は、もう水平線を越えた
世界を周回するような豪華客船は出航の見送りに酔っている
船員なら、手榴弾を懐にしまいながら船を物色している
足跡は、それらを横切って沈黙し直す

飽きることを知らない幼い視線に、罪は映らない
腐臭すら、どこか懐かしい甘美さとして鼻腔に覚える
萎えた男、萎れた女
その間で花開く残酷な無垢よ
このひとつの季節さえ越えることないか弱き命よ
テーブルの上では一冊の本が
ただ、その表紙だけで二つの瞳を見上げている
2014-12-23 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

荒岩

磯の荒い岩を洗う波など見たことがないのに、
こうしてありありと想い浮かべることが出来るのは
きっと、どこかで写真でも見たからだろう…しかし、
その写真の視点さえ、機械的なものでなければ
私も見ることが出来たはずなのに、
私には、その波を見たという記憶が、むしろ資格がない

おもむろに吹き抜ける風の、その先につむじ風が巻き、
一つの記憶を魔法のように消してしまう
公園では、いつもそんな風に封印されて私は
ただ置き忘れられた置物のように
冷たい涙も持たず、描かれた涙の筋だけを浮かべ
もう何も想い浮かべまい

夜にさえ夜を迎えた記憶がなく
今の昼を昼とする力とてなく
せめて静かに息絶えるようにと願ったとしても
ゼィゼィと醜い息ばかりが響き渡るばかりだ
それでも愛した人はいたろうに
それでも恋したこともあるだろうに
今でも沈黙したまま、波は荒岩を洗っている
2014-12-22 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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