季節に花は咲かない

なんども、なんども、だ
遠く…と書いては(あるいは言っては)立ちどまる、
あるいは、それを待っては流れゆく花という花が咲くのだ
まるで季節を問うことを知らない花たちが狂い咲くのだ
遠くに、遠くで、遠くまで、なんでもよいのだが、
近くさえわかりはしないので、遠くと呼んでいるだけなのだが
砂埃のような季節さえもが通りぬけようとしたが、
かれらは諦めて別の道を探しながら消えてしまった
もう、きみの後ろ姿すら覚えていない夕暮れ、
遠く、そうだ、遠くを通りすぎるようなふりをしながら
愚かな満員電車が立ちどまっている
その響きがいつまでも途絶えることを知らないので、
まるで、その街には永遠というものが存在するかのようだったし
その永遠のなかにだけ、あの、無数の花たちが咲き乱れているかのようだった
無数の、むすうの永遠の花たちが永遠を咲こうとしているようだった
2017-02-22 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

週末プレゼント

まるで四月を雪で降りながら北を目ざすように、きみが電車を降りてくる
いつでも週末は、あまりに遠い月日を数えすぎたに違いないと想わせる
もっと温かいなにか、たとえばスープのような、そんなものを創造するべきだろう
風だけで道ができてしまうような異教の国ではスープという食べ物は知られていないらしい
物憂げに週末の電車がおし黙っているが、黙ったままでしか走れない(のだ)
週末の疾走は、つまり…沈黙でしか成立しない、ということだ(ろう)
2017-02-04 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

存在しないように瞳は、瞳が存在しない

土塊のような空だった、木の根が光っている
川の瀬音を想いだそうとしながら、遠くを行き交う街を想いだす
走馬灯のように、という言葉が想い浮かぶが走馬灯は想いだせない
雲のように、だれしもが去っていった
ひとり、動けないまま、土塊のような空だけを見あげている
泣きやむことを知らない赤んぼうの泣き声に共鳴させる
静けさに似せた朝のように、光りつづける木の根を見つめながら
いくつもの、無数が通りすぎるのを、ただ見つめている
いくつもの、無数の、見えないものたちへの叫びを聞いている

(初出:2016/06/28 From note)
2016-06-28 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

炎症性腐食、あるいはひとつの終宴

川面に吸いつけられたような落葉が数枚、滑らかにくだってゆこうとしている。淀みのうちには、残されたものたちが川虫どもに食われて川底に横たわるのをじっと待つように渦巻いている。

老いた男は、水切りをする子どもたちが高らかにのぼってゆくのをボンヤリと聞きながら、彼らを遠巻きにする少女たちを虚ろな視界のなかに沈めてから足元に視線を落とした。もう幾年も前に流行ったのだろうグラビア女性があられもない姿をさらした週刊誌は雨風に打たれて萎れている。チャイムが鳴ると子どもたちが一斉に遠ざかってゆく駆け足の音が聴こえ、また、唐突に吠えだす犬の鳴き声が聴こえた。
男はなんともなしに古い週刊誌を拾いあげ、岩群のうちに横たわるように座って足元と川のあいだに放り投げた。川底には群なす小魚たちの魚影が鮮やかに滑らかに静かに遠く泳いでいると、やおら男は陽物を取りだしながら呟く。

-もし衆生あって淫欲多からんに
 常に念じて観世音菩薩を恭敬せば
 すなわち欲を離るることを得ん…-

くりかえし呟かれる一節を知らぬかのように葉ずりする音が風音を遮って雨模様を読んでいる。男は委細、構わぬように陽物を慰めはじめた。川面を伺っていた一羽のカワセミが、ようやくに狙いを定め、水面に波紋を投げかけて去ってゆく、その程度の時間であっただろうか、男はそこらじゅうに陽物の淫液をばらまき、その淫液は大した量もないままに木の葉に隠れようとし始めた陽の光を鈍く濁らせて反射していたが、それはもう、陽の光とは呼べまい光でもあった。澄みきった空を引き裂いてゆく鳥を追うと、ちいさな校舎の時計台の向こうに消えてゆき、そこからは子どもたちを整列させるのであろう笛の音が響いてきた。
陽の光を消すように葉ずれの音がざわめくと、一羽のカラスが男の傍らの岩に佇んで、鈍さを増してゆくばかりの瞳が消えてゆくのを見守っていた。男の左手には数珠が、そしていく人かと笑顔で映る男の写真とともに握られている。男の頬に涙のような滴が落ちたように想われると、せせらぎを消すように雨音が一面を支配しはじめ、男の存在も雨音のひとつに過ぎなくなっていった。

嬌声をあげながら一斉に子どもたちが川から遠ざかるように去ってゆく。傘また傘を打つ雨音が葉を打つ雨音と競いはじめると、男の淫液は雨音のなかに溶けるように石間に消えてゆき、ただ一冊の古びた週刊誌、そのグラビア女性だけが雨音に微笑んでいた。一羽だったはずのカラスは無数の濡れガラスとなって雨のなか、ただ男を、雨音よりも甘い男の血肉を川に戻すように啄ばみながら、巣で待つ子どもたちを想いだしはじめていた。
幾葉かの落葉ならば、ようやく川底に沈むことができ、濁った川を濾しては澄みきった川に戻しながら無言を守ることに、ことのほか安堵し始めていた。雨雲を切る陽が時折、彼らを照らしながら、だれも知らない遠くへ傾き消えてゆこうとしていた。

(初出:2016/05/02 From note)
2016-05-04 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

Zero Area

日常×仏教×易経=第五(中道)

喜:水雷屯:貪:生:因:苦諦:慈
怒:坎為水:瞋:老:縁:集諦:悲
哀:水山蹇:痴:病:果:滅諦:喜
楽:沢水困: :死:報:道諦:捨
( From Memo @ 2016.04.06. )
2016-04-06 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨と星の距離ならば白い鳥よ、見いだして

「雨がふっているときに雨について語るべきではないだろう」
雨音のまにまに舞いおりる雪のように、あなたはつぶやいた、冷たい季節を知らないまま別れた。小雨を嫌う小川の無数の小魚のように都会は人であふれている、けっして溢れることなくあふれている。
雨について語るときには雨はやんでしまう、そう、それだけのために雨にうたれる理由を求めよう、抱きしめたときにだけ震える、その肩を打つ季節を見つめるために。
「…のために」
けっして聴こえることのない点線が延々と線路を分断してゆく路線には、わたしたちが横たわり続けている。非常灯の時間のように横たわり、星をみうしなって空になった空を見あげている。
「この雨は、きみが笑っている聲のようだ」
けっして笑ったところを見たことのない、あなたに向かってつぶやいてみる。
「星たちなら、ほら、わたしの胸にあるわ」
露わにした、けっして豊満ではない胸を波音が洗っていた。
とおくを横ぎる白い鳥を幾羽か置いたまま、わたしたちは季節のない雨になった、星をみうしなった大地になった。

(初出:2016/03/23 From note)
2016-03-31 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ぷりーず・ぷろぽーず・もーにん

めざめると天井はみえない、ゆびさきに掛かるシーツをひき寄せようとするとカリカリと軽い音が夜に似た朝を呼び起こそうとする。
わたしたちの涙をわたしの涙にかえようと想いながらいくつかの風景を想いだそうとする。テーブルのうえには千円札がわたしの顔をしてヒラヒラと舞っていて、待っている(誰を?)。
わたしは海を想いだしたくて湖しか想いだせない、もっと想いだそうとすると川しか想いだせない、さらに想いだそうとすると雨しか想いだせない、わたしは雪国育ちではないから。
うん、うん、うん…-
もう数十年前のきみの延々と続くうなづきが木霊する、そこはどこ?
だれもいない部屋の室外機が緩慢に回っていて、波の寄せ返しを真似しているね。わたしたちの傍では室外機が回っていた、そのときも。
遠すぎる、迂遠すぎる、手を繋ぎながら、夕闇に消えた(ように見せかけた)。
お酒の味を覚え始めたかい、そろそろ?
気がつけば太陽が南にかかっている、それがお酒の味だ。もしかしたらばわたしたちは、けっして天井を見ることができないのかもしれない。
天井、そう、天井にむかって呟く、きっときみのことが好きだと、けっして聴こえないように、だれにも聴こえないようにだけ呟く。

(初出:2016/03/15 From note)
2016-03-23 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

行先を告げるように季節を呼ぶ

季節を呼ぼう、そういうだけで行先を告げるきみをぼくは知ることができない、知る必要もないだろう。そう、知りたいだけで知る必要はない、すべては、すべてが…
すべてを、が抜けているよね-
いつものように海辺でささやくきみの声が川面に揺れる。
小石を拾うような気持ちで季節を呼ぼうよ-
季節は行先を告げるだけさ、呼んでもきやしないよ-
ぼくたちが行先を告げるんじゃないの-
子どもたちが詮無い会話をくり返して帰路をみうしなっている。
遠くない校庭は無人のまま校庭でありつづけようと固く誓っている。青空には雲の一片が通りすぎるだけで、波音たちは校庭なんてないかのようにとびこえてゆく。
季節になりたい-
そう、つぶやいたきみの笑顔を描いても波がさらってゆく。
いくども、いくども永遠をしるために描かれつづける微笑を、わたしはどうして忘れたのだろう、水平線の行先は、ぼくたちをわたしたちにひきわたす。
そうして暮れる、海辺の十六時、ぼくはわたしには決してならない、そう誓いながら、ひとりのぼくが行先を告げわすれた季節を睨み続けていた。

(初出:2016/03/09 From note)
2016-03-15 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

季節という問いに応えながら

男がひとり、男物のシャツを握りしめて「男になりたい」と叫んでいる。通りすぎる女たちが「なれるわけないじゃない」「バッカみたい」と嘲りながら街灯に消えてゆく。
割れることなく立ったままの酒瓶の口に雨が降る、霧のように上も下も知らない雨が降る。もう、そうとうに永い月日を経たはずだ、ネズミに似た親子が囁きながらいぶかしんでいる。電線が招いた風を音が裂く、昨夜のことを覚えているかと喉笛を切り裂きながら、夜に似たまま夜になれない夜が訪れる。
海を想いだしてはいけないし、想いだすこともできない、もう、海は消えた。この街に海はない。この街からは海が見えない。
男物のシャツが一枚、男に絡みついてささやく、
「ねぇ、わたしを愛するよりも女を抱きなさいよ、味わいなさいよ」
霧笛のように海が覚えているのは、一枚のステンド・グラス、光だけしか持ち得ないステンド・グラス、もう、けっして記憶を許さない海が神の記憶のなかに眠り眠る。
リフレインに似たような雨のなか、きみに抱かれた男たちは乾いてゆく、死に人たちの腐敗に巻きこまれないように、静かな夜を迎えるために。

女の街が、朝焼けに染まり始める。

(初出:2016/03/04 From note)
2016-03-07 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
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【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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