忘れた遠景を仰ぎながら

流し忘れられた涙を後にして
慌ただしさに忘れられた寂しさを過ぎ
森の奥を突き抜けると見える山の頂きを
遠くの霧向こうに仰いだ

濃紺の夜空には月も星もないままで
深く静かな海面そのままのように
淡い光が緩やかに波打ち、寄せては返し
その息遣いだけが全てだった

微かな境界を保って浮かぶ山並は
息を潜めることで夜空と離別しつつ
暖かく柔らかな夜風を吹き下ろし
そっと優しさを運んでもいる

そっと私を包んでいる手は華奢で静かだが
今にも駈け出して行きそうな鼓動を抑えるように
放すまでには至らない優しさを探している

二人の手が離れぬ幅の小川を跨ぎ
結ばれたままに漫ろ歩きをしていると
時折、辿り着くはずもない遠くの方で
何かが跳ねる水音が響いてきては
二つの微笑みも重なり、夜に溶けていった
2012-06-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

太陽と月との間で起きること

月が泣いて大粒の星を流し
眺める人のいない夜空を呆け
影だけが映る湖は静まり
音のない波が足を洗っていた

長く歩く人のない湖畔の道は途絶え
白鳥を模した乗物が船着場をふらつき
森に耳障りな音を響かせるが
山を越えることはないままに消え
気付く人のいない夜が更けていた

釣り人のいない魚には時が与えられず
ただ泳いでいるということすら知られぬので
私達は互いの傷を見て時を知る

貴方の影が水面に揺れると
風が吹いて、その髪を靡かせ
私達の乗った舟は離岸し
届くはずのない夜空に向かい始める

泣き終えた月は森向こうに沈み
哀しみだけを空に置いて眠りに就いたが
陽が昇る程には乾いていない空は
語り合うべき相手の眠りに戸惑ったままに
宛てなく彷徨う舟に苦笑いを向けていた
2012-06-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

忘れたはずの夕暮れの中を走っていた二人は
今では、もうビル街に埋もれてしまい
お互いを見つけることは出来ないのだろうかと
夕空を渡る天の川から零れる水を掬っては問うだけでなく
指の間から零れる涙を貴方に届ける方法を考えよう

汗で額に張り付いた前髪は風に吹かれず
陽射しに生じた一粒一粒は貴方の頬と首筋を伝い
渡したタオルに含まれたままに乾いてしまったが
きっと、どこかで空に浮かぶ雲となっているに違いないので
その雲を探しに行こうか

遠くから響いてくる波音は二人を包むというのに
私達の距離は測れぬ程に遠く、遥かで
それでも互いの身体の温もりは届くから
別れを決めるのは私達の他にはないのだろう

互いを見出すことが出来ないことに飽かないままに
私は今日も暮れゆく空を見上げ
貴方を探すために、この心を夜空に放とう

私達になるには二人は必要で
もし貴方が諦めて涙に暮れるだけだとしても
私が諦めずに空を見上げるから
貴方も私も独りきりになることは、きっとないし
私は、私達であることを捨て切ることなど
やはり出来ないのだ

遠くを探せば探す程に、ほんの近く
足元に残された貴方の足跡はハッキリとしていて
その跡を追うことは出来ないのだけれど
歩き続ける、この地表は果てなく貴方に届いているので
私は今日もトボトボとではあるけれど
夕暮れの中の二人を忘れることが出来ないままに
歩き続けずにはいられない
2012-06-28 23:11 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

知らない季節の訪れる街で

雨の中を通り過ぎた風が吹くと
若葉の匂いは、あらゆる境界を跨ぎ
一つの季節の訪れを知るが
誰も知らない季節は黙って去った

小窓に反射した陽が人影を射抜くと
露わになった路面には小虫が蹲り
何処からともなく現れた蜥蜴が咥え
草叢の影の中へと消えて行った

傾いた陽に人影は戻ったが
小さな空を雲が通り過ぎただけで
何も変わらない午後が終わり
夜を彩る人々が街を目指し始める

街は常に異国の装いを纏い
違う時間の流れることを祈るが
街を行き交う人々は無関心に通り過ぎ
ただ街を去る看板と街に来る看板とが入れ違い
新しい居場所を求める人が彷徨う

昼の陽の熱が去ると小雨が降り
草叢も一頻り濡れそぼったが
一顧だにすることなく人々は通り過ぎ
街は黙ったままに濡れ冷えて
渇き切った夜を迎えるのだった
2012-06-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

とうに忘れられた夢があり

忘れられた風音は独り、山を越え響くが
椅子に置き去りにされた鞄は独りでは立てず
空虚さを抱き締めたままに眠っている

廃線を辿り歩いて行くと
信じることに飽いた夢達が舞うのに出遭い
途絶えてままに揺れる電話線に出遭った

陽中にも赤錆は線路を冒し続け
戻る道も徐々に消えてゆくが
それで良いのだと飯場の影が呟いて
暗い硝子向こうに消えて行った

寂しさだけを懐に抱いたままに
静かな山間の古道は細り
まだ明るい夕空を見上げては
もう響かない足跡を待ち続けていた
2012-06-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

遠くを見るために峰から下って峠に出れば
静かな緑に沈む山並が、ただ連なっているだろう

九十九折の道を手を繋いで歩くのは大変なので
私達は弾む互いの息の音を確かめながら
それでも自分の足跡を山道に刻みつつ歩くだろう

峠から投げ掛けた呼び声は木霊となって
私達の許へは戻らないままだったが
遠くと遠くを行き来して遠くと遠くを結んだに違いない

小さな谷川のせせらぎの音は微かでしかなく
貴方は、その音を嫌いだと言い、もっと確りと聴きたいと呟くので
私達は峠に連なる道を外れ、そして、せせらぎは見つからず
終いには峰と峠を結ぶ道も断たれてしまった

それでも山道の傍には愛らしい花が咲き
冬を越えた山は聞こえない春の音に満ちて夏を待ち
私達は遠くを見ることを忘れたままに
山と山との間に抱かれながら、手と手を結ぶ

柔らかな貴方の手を、この掌に包むと
互いの額に浮かんだ汗に気付いては笑い合い
私達は峠を捨て、もう一度、手と手を結んだ
2012-06-26 10:55 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

街が泣く理由

誰かが涙を流すと泣き咽ぶ街があり
夢の間に間に貴方の吐息は部屋に響いたが
街灯は静かに点滅を繰り返すだけだった

遠くの木霊は山を鳴らしつ岩を砕きつ
微かな囁きとなって届きはしたが
涙には頬を伝い切る力とてなく消え
誰にも気付かれることがないままに街は泣く

いつかの優しさを偽りと知ったままに
それでも通り過ぎすにいられぬ街があり
私も又、偽りの涙を流しながら通り過ぎるのだ

狭い入江には小さな浜があるが
一つの言葉を並べるだけで埋まってしまい
幾度、往復しても誰に届くこともなく
嘲りの波音だけが響いているだけだった

やがて浜を離れるトラックに乗ると
潮の匂いと砂粒がシートに散って
ほんの少しの想い出も隙間に入り込んだまま
波音のない街々を運ばれ過ぎるのだが
微かではあったけれど
誰かの泣く声が耳を掠めたのだった
2012-06-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ある、街のない風景にて

乗客のいない終電の通り抜ける街があり
タクシーの来ないタクシー乗り場があり
人の通らない商店街に差す陽光があった

遠くの波を忘れるために響く波音があり
季節を運ばないために吹く風があり
時を刻まないために回り続ける時計があった

忘れられた全てのものが過ぎる街角があり
その街角にだけ吹き続ける風があり
私達の誰もが辿り着けない街があった

通り過ぎる時間は誰に知られることもなく
ただ時間を創るだけのはずの空間は歪んだままに
私達と私達の全てを飲み込んでは消えてゆく

私の知る貴方が決して貴方ではあり得ないように
貴方も私を知ることなど出来ようはずがないというのに
ただ二人の頬を同時に流れるだけの涙があった
2012-06-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

明日は今日の後には来ない

遠くで降る雨の音は耳元で今日を囁き
泣き疲れた昨日を忘れる術を教えてくれるが
既に明るみ始めた空には虹が架かり
早くも明日へと導いている

過ぎない昨日は、まだ来ない明日と同じく
別れることだけが全ての今日を優しく包み込み
終わることを忘れた歌が全ての道を渡る

忘れ掛けていた頬を掌で包み
反対の頬にはキスをしたが
微風に吹かれていた項の産毛だけが
今も静かに揺れて眠りを誘う

カップに注がれただけのコーヒーが
誰の手に触れられることもなく冷めることがあり
湯気の立たないカップが二つ
捨てられることだけを待つコーヒーを湛え
私達と沈黙を共にしていた

抱かれた後に必ず飲むはずだのに
乾いたままの背中を波打たせたまま
その決意を固く胸にしたままに
たった一つの言葉を指で壁に書き続けていた
2012-06-24 00:00 : 想葉 : コメント : 3 : トラックバック : 0 :

ラブ・レターは届かない

その優しさを追うと必ず雪が舞い
乱れた足跡が数歩分、残されるだけで
全てが今の雪面に変わった

疎林を抜けた風は頬の涙を許さず
哀しみに穢された指先は悴み
ただ歩くことの難しさだけを想い歩いた

哀しみが前行く哀しさを追い抜くと
哀しさは立ち止まり私達をも包んだが
二つが交わることはなく
パラレルな涙が空を渡るだけだった

ドアを開けると時が流れ込んで来たが
手紙に書いたはずの言葉も何処かへと去り
結局、決して世界に出ることはないのだ

ポスト前に立つと集荷員が笑顔を向け
握り締めた空封筒を指差したが
忙しげに手を振って去り
私には曖昧な笑顔だけが残された

やがて0時を告げるチャイムが響き
一日の過ぎたことを知る度に
また明日も書くだろう手紙を想っては
貴方の面影も消えてゆく
2012-06-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

流れぬ季節を渡りながら

通り過ぎた季節を数えながら
炎絶えない草原の風に吹かれ
迎えねばならぬ季節に戸惑い
白煙の中にだけ浮かぶ影を見た

山を越えては街と遭い
街を捨てては荒海を越えて
満天のオーロラの下で独り
雪原を照らす火を灯した

やがて忘れたはずの貴方に遭い
やがて愛したはずの貴方と別れ
過ぎ行く先を失った季節の中で
一握の雪を口に放り入れた

偏西風に圧された雲が行き交い
時折は街の匂いを運びもするが
貴方の記憶はそこにはないままに
止まったままの季節と共に立ち
通り過ぎたはずの季節を想おう

氷雪の果てから歩み寄る狼との間で
雪原は白夜の弱陽に怪しく光り
やがて去る日を静かに告げるだろう
2012-06-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

二人が遭う夕暮れには必ず雨が降り
道を走る車は注意深く静かに過ぎるので
まるで傘を打つ雨音だけが
貴方を待っているようだった

夕陽に照りつつ降る雨を避けながら
小走りする貴方は、やはり、びしょ濡れになり
それでも温かい雨に微笑んで別れを告げた

今日も雨だったわ
そう、ぼやきながら忙しげにタオルで髪を拭い
濡れたシャツのままに頬を寄せる

全てを冷ましてしまうはずの雨を抜け
全ての繋がりを断ってしまうはずの雨を抜け
それでも濡れる雨を拭っては
濡れたシャツのままに頬を寄せるのだ

そんな貴方を待っていたのは
抜け殻になって雨音を響かせるだけの傘だのに
傘の下には、いつの間にか私がいて
頬寄せる貴方の背に深く、手を回していた
2012-06-21 01:23 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

明日に向かう歩調

哀しみの涸れた涙を通り過ぎると
鈍い色の雲と半天に架かる虹に出遭い
山を駈け下って来た冷たい風に遭った

子供のいないグラウンドには
掛声の余韻が残ったままで
あちこちの水溜まりにはボールが沈んでおり
折れたままに朽ちゆくバットが転がり
ブランコだけが軋む音を響かせ
私の傍らに、いつまでも寄り添っている

卒業アルバムに載らなかった、あの横顔を
無意識に追い掛けていた机に凭れると
サイズの合わなくなった椅子が啼き
机に刻まれた名前を指が追った

やがて教室に陽が差すと
交通整理のホイッスルが林を越えても
子供達の声は遠ざかったが
共鳴したピアノの低音が囁くので
もう一度だけ涙を流した

焼け茶けたプリントが舞っても
その文字が読まれることはなく
もはや読むことすら叶わないのだが
過去と現在とを結ぶ何一つだに無いことを知り
その横顔にサヨナラを呟いて
独りきりで自分の街へと向かった
2012-06-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

小さく涙を流す夜道に

月明かりに照らされて傘は揺れ
降り注ぐ星の光にサラサラと響いて
夜光に仄明るい畦道を行く

傘内で吸う煙草の煙は細く棚引き
夜空を流れる銀河と、軌跡を共にはするが
成層圏に届く遥か前には散ってしまう

やがて湖畔に辿り着いたが波はなく
水面には空に輝るのと同じ月が浮かび
放たれた星々の煌きも輝くが
その暗さは夜空より深く、冷たかった

遠くを走る汽車の音が大きく森を跨ぎ
湖上さえ滑り渡るというのに
私の声は何処へも届かないまま
ただ過去の中に吸い込まれてしまう

貴方に宛てた何通もの手紙は
どれもこれも書き掛けのままに机上を彷徨い
開いたままの封筒も呆けている

薪の爆ぜる音にビクつきながら
私の筆は、いつも宙に浮いたままで
ついぞ紙に触れることすらない

貴方と過ごしたよりも幾倍もになる時間が
そうして、ただ過ぎてゆくだけの夜に
月明かりに抱かれた傘が
私を忘れて揺れ続けているのだった
2012-06-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

水平線に沿って時は流れ

いくつもの船の目指す入江に立つ灯台があり
揺らめく灯は忘れ去られた涙達が空へと還ることを示すが
私達の間に灯る過去は記憶を失ったままに揺らめいて
語られるべき言葉達すら還る先もなくループし続ける

留めようのない時を追うと
振り返られない記憶の欠片達は、ただ過ぎ行き
誰も辿り着けない深海の雪となって
降り積もるままに仄かな光芒を放つ

遠い波間を彷徨う一粒の種子は
砂浜にすら辿り着くことのないままに
風に吹かれ落ちた時を想い
星の光を浴びた夜に、静かに海に沈む

戻る時の手には茫洋としたコンパスしかなく
過去の景色も輪郭だけは鮮やかだが
額の枠内にあった全ては黒く塗り潰され
見ゆるべきものとて何物もない

鏡を過ぎる影を恐れるように
見えないことだけが私達の哀しみの全てで
足音だけは誰のものとも知られぬままに
私達の掌中に残され、永遠に響き続けている
2012-06-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

影が歩みを止めると同時に風が止み
陽の当たるベンチから立ち上がる貴方を
私の靴音の響きだけが追い
私達は、ゆっくりと今日を振り返りながら
語ることのないことに驚き、顔を合わせる

夕陽が貴方の躊躇いを跨ぎ
私の気持ちを夜へと送ってくれるが
休日でもない明日の予定表は白紙のままで
ただ埋まることだけを待っている

昨日、ボードを放置したままだったように
今日もボードを前に私達は何も書くことが出来ず
ただ笑い合うことだけが全てで良かったが
夕陽は明日を運んできながら
明日を知らない私達をも運んで行きそうだ

ただ辛うじて夕暮れに間に合った月が昇り
明日を知らないままの私達を月明かりが包み
ただ安らぐことだけを教えてくれ始めた
2012-06-18 21:26 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

涙を追うと飛行機雲に出遭った

夕陽に向かった飛行機が残した軌跡は
東から西へと細長く棚引かれたが
下弦の月が追う暇も与えずに消え
迫り来る闇夜に、月は辿る道を見失う

哀しみを捨てた夜には霧が泣くので
冷え切った建物達は湿り気を帯びて軋み
やがては貴方の頬も濡れそぼり
私の指は、その唇をなぞって渇きに飢える

二人の歩き出す時はホームに留まったまま
来るはずのない電車を待ち続けるが
途切れがちな灯だけがチカチカと光り
二つの影が重なることはなかった

見えない星を追って貴方の涙は流れ
私の頬には違う涙が伝ったが
ホームを吹く風は霧を運び
二人と全てを覆い隠してしまう

点滅する光には偽りの優しさがあったが
光の中に浮かぶ二人を繋ぐものはないままに
背け合った冷たい背中だけが
あるはずもない互いの温もりを
当所もなく求め続けていた
2012-06-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

後ろ向きに近付く距離の矛盾

明日の夜空を彩る星達が
今宵は光を捨てて哀しみに隠れ
そっと背後に光を放って優しさを探す

点灯しないままのシャンデリアが
反射する光を黙って待ち
長い回廊を埋め尽くす人の列は
静寂の内に歩みを止める

一人の祈りが皆の祈りとなるように
全ての哀しみが共有されたままに
冷たい一筋の光となって全てを貫く

遠い泣声は終に止むことを忘れ
あらゆるものと共にされて
誰のものでもなくなってしまったが
近くですすり泣く声は止まらない

その中にあって私は貴方と逸れ
貴方が流した涙の記憶が
そっと消え往くのを、ただ
じっと独りで見届け続けている
2012-06-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

出遭う孤独の夢に祈る

別れるために出遭う風の吹く岬の夜
水平線は空と海とに分かたれて消え
砂から立ち上る昼の匂いは一層に強く
貴方は私となり、私は貴方となった

一冊の本を手に取ると
必ず何かの終わりが告げられるが
終わるモノゴトは不明なままで
その行く先も、やはり知ることが出来ない

頭上に掲げたキャンドルの灯は
貴方の影を、より強くするばかりで
窓硝子に当たっては砕け散ったままに
フローリングのアチコチで煌いているだけだった

昨日が今日になる境目には誰も立たなかったが
今日が明日になる境目には波音が響き
祈る人のいないチャペルも静かに聞き入るだろう

少しだけ開いた窓の隙間からは
あの岬の風が忍びこんで来て
貴方の髪を揺らす影が壁を砕き
私は独りきりの眠りに夢を託すのだった
2012-06-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雲の眠りに優しさを待つ

月を隠したままに仄光る雲は
静かにざわめく森を照らし
闇に散る生命と共に漂う

彼らの悲鳴は音にすらならぬまま
暗闇に響かずに消え
落ち葉に滴った一滴の血だけが
去り逝く者達の全てだった

森の全てを湿らせながら
薄赤い霧は木々の間をすり抜け
やがて海と混じる浜を覆う

記憶を持たない波音は
絶え間なく朝陽を待ち続けるが
波寄せる砂の間に潜り込み
誰の耳に届くこともない

森から飛び立った一羽の烏が
夜の喧騒の名残を啄み
人気のない街の唯一の住民だった頃
ようやく遠くで車庫の音が響き
雲は眠るように散ったのだった

その時、少しだけ許された月は
街を遠望する山際に微かな名残を見せ
寂しい微笑みを散らせた光が
一葉の雫に吸い込まれていき
いつか出遭うだろう優しさを
静かに待つ、眠りに就くのだった
2012-06-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

別れの涙を吹く風中に

私のいない言葉だけが私を語るのに
貴方は言葉に耳を傾けて
偽りの涙に優しく微笑む

遠ざかる時だけが現在を示し
近付く時を遮り拒むが
その中に、私と貴方はいないのだ

去り往く後姿の影中にだけ
求めた面影を見るように
全ての別れが涙を流す

世界の果てを吹く風は
今日も終わりを探しつつ
罪なき別れを運んでいる
2012-06-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

遠くに駈けて行く後姿を夕陽が追い
影だけが長く道に延べるのを見つめていると
急に振り返った貴方の頬は朱に染まり
細めた唇は一層に鮮やかに浮き上がる

東の空から迫る夕闇は暗くとも
幾つかの星を伴ってはいたのだが
その微笑みを想い出の中に追いやっては
ただ独りの私達を静まった道に放り出す

何も無い道向こうに歩み寄ると
小さく白い花が微かに揺れて光芒を放ち
そこが路端だと教えてくれるが
その花を越えて踏み出した先で私達は出遭う

靄に霞む山並みを遠くに眺めながら
耳を傾ける横顔は既に闇に見えず
ただ微かな息遣いと仄かな熱だけが
貴方の全てとなる夜を迎えた
2012-06-13 12:54 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

猫のいる風景を好きになれない理由

語り尽くされて訪れた別れが
何一つとて語り合いを伴わないように
哀しみに色を失った街があり
その街並みを愛する猫がいた

黒い月が空を渡る夜には
満天に散る星達が顔を顰め泣くが
虹の歌声は、その夜の余韻に蘇り
月の通る道を辿り往く

決して遠くまでは届かない汽笛が響くと
汽笛の聴こえない人達だけが振り返っては
姿の見えない汽車を見遣り
冷めていくレールを想い出すだけだった

そうしていずれ、全ての人が去った街の闇中で
鳴くことを諦めたはずの猫の鳴き声だけが細く長く
ただ、いつまでも誰もいない道を過ぎていた
2012-06-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

孤独の果てに雲を見上げる

絶望を忘れた雲の闇が流れ往きては
深い、哀しみの幽谷を穿ち過ぎ
静かに街を覆って優しい夢に沈める

希望を繋がない言葉に出遭う度
人は、その雲を空に見上げ
孤独という偽りを知り涙する

常に流れ込んでくる誰かの記憶が
私達の時間を奪い去っては
乾いた嘲笑の響きだけを残して去るが
誰も足止めることなく歩き続け
誰も辿らない足跡だけが残される

細い川沿いに谷を遡ると
やがて道に迷い山の斜面に出るが
夕暮れの陽を見ることは叶わず
結局、街の灯の面影を頼った

その情けなさに人々は山中を彷徨い
時折、山道で擦れ違っては
互いに曖昧な微笑みを浮かべ
あの雲に覆われた山の頂きを探し
また別れては、互いの道を往く
2012-06-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

銀狼の瞳は月下に燃え

仄明るく光る木立まばらな雪原が
流れる雲の覆いから放たれた月の光を浴び
怪しい影は点々と姿を現し始める

全てが凍ったままに
光と影だけが月光に玩ばれる中
一匹の銀狼は自らの瞳を頼りに森を出で
誰もいない果て無い雪原を往く
獲物の足跡とて無い雪原を往く

ただ、その歩みだけが
雪原に新たな足跡を刻み続け
吹き抜ける風に乗った雪が覆い続け
それでも尚、新たな足跡は止まない

緩やかな風に乗り運ばれ
微かに響く唸りを耳に聞き流しつつ
自らの月影を雪に描きつ銀狼は往く

やがて月も雲に覆われ、月光も絶え
再び全てに静寂が訪れると
雪原は怪しく光り始め
銀狼は歩みを緩慢にして
雲を透かす月に一吠えし
自らの瞳を頼りに歩み始めるのだった
2012-06-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨に打たれる車の傍らで

軋むタイヤの音が遠退くと
乾いた路面を染める雨が降り
傘を叩く雨粒は一層、大きく
孤独の影を薄らげ始めた

置き去りのまま陽に火照った車は
ただ静かに、ひんやりと冷えゆくが
優しさを忘れた指が車体を這い
持主だった人を想い出す

濡れてゆく車体からは
遠くの土の匂いが立ち上り
懐かしい海さえ想い出すが
もはや、そのキーの在り処すら
全ての人の記憶から去って久しい

全てを共にしたはずの車体の中は今
硝子内の薄汚れで見えず
雨を浴びて車外の汚れが落ちるに連れて
想い出の面影が揺れ動くだけだった

傘を捨てて一頻り雨に打たれると
いつの間にか流れていた虚しい涙は
雨に混じって流れ去り
一瞬、雲の切れ目から差した陽のカーテンに
仄かに浮かんだ笑顔は横向きだったが
その頬にだけ許されたキスをした
2012-06-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

貴方と街の間に

古びた手帳に書き足した文字が
書かれるだに擦れてしまうので
街の景色の一つ一つを見逃さないように
貴方と二人、並び歩くが
全ては想い出されない記憶に消えた

遠退く鳥の行方は知っているのに
私達は近付くだに行方に惑い
ただ円形の公園の中を
言葉なく歩き、回り続けている

出したはずの手紙の返事は届かないが
終に出さなかった手紙の返事が届き
それが配達するということの全てだった

街に一つの建物が建つと
街の全てを変えずにはいられないように
貴方は私の前に微笑んで立つ

黙ったままにベッドの中に潜り込めば
返事の届かないままの手紙も手元に戻り
もう一度だけ、私のものになるだろうか
それとも貴方の寝息だけが全てのままに
独りきりの朝の陽を知るだけなのだろうか

薄く空を染める朝陽の気配を感じて
指の隙間から零れ落ちる砂は何も言わず
ただ独り、私も静かな街を行こう
2012-06-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

虹の溜息の向こう側に空を見た

時の支配を逃れた風が吹くと
誰のものでもない哀しみが舞い
陽の光は陽気なリズムに散った

温もりのない雑踏を過ぎる時
耳に届かぬ囁きだけが道を示すように
貴方の後ろ姿は今日も見えず
夜に向かう夕陽が足早に空を駆ける

過去に渡った全ての橋は廃れ
倒木の作る橋だけが人々を送るが
その先にあるものを誰も知らず
ただ倒木を渡ることだけが全てだった

雨上がりに虹の光が砕ける中を
貴方の息遣いだけが通り過ぎ
水溜まりに映る面影は淡く
明日の頼りとなる事を拒絶する

全てに降り注いだ雨は往き
過去という名の未来を抱えたままに
終わりの地を目指しては又
終わることなく空に戻るのだった
2012-06-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

偽りの吹き抜けた後に

涙が流れる前に吹き抜けた風は
冷たく頬に当たり、通り過ぎ
往く先ないままに旋を巻いていた

表紙に魅かれただけで手にした本が
開かれることもないまま書棚に入れられ
決して読まれることがないように
始まりの理由がある恋も置き忘れられた

降り積もるだに雪の穢れが
哀しみに滲み、哀しみを冒すように
そうして恋は偽りに染まりゆく

忘れられたままに偽りはぼやけるが
景色に映る光が眩く
私達は、その光の前に立ち尽くす

ただ、風が一陣、吹き抜けると
理由のない涙が私達の頬を伝い
互いに無言の時間を迎えただけだった
2012-06-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

貴方の瞳から絶え間なく溢れ出る涙は重さを失い
光が去って、ぼやけた青空に昇り
追い縋る私達を見向きもせずに舞い散るが
やがて誰かの哀しみとなり静かに降り積もるだろう

夕暮れになると貴方の頬には慌ただしい笑顔が戻り
少しだけ夕陽を追う後ろ姿は、直ぐに夕靄に霞んだが
月影が水面に映るのを見届けては街の灯に向かった

乾杯の声が繰り返されては止むことを知らないが
歓談に飛び交う言葉達は明日に届かないまま
ただ一時の中に静かに溶けて消え行くというのに
誰に振り返られることもない優しさだけを運んでいた

店から出ると夜空には星がなく
強いネオン達だけが薄雲を光らせているが
一際、大きく赤い満月だけは雲を抜け
微笑んで、少し細くなった貴方の瞳を
黙ったままに静かに照らしていたので
私達は並んで暖かいベッドを目指すのだった
2012-06-06 19:13 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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