絆を消したのは、どうでも良いことだった

どうでも良いことだけが二人の間に横たわり
それを絆と呼ぼうと決めた時に
私達は泣くことを覚え、哀しみを知った

そして貴方は、どうでも良くないことを探すし
私には激しく在り処を問い掛けるし
結局のところ、どうでも良くないことがなくなってしまい
私達の間に横たわっていた絆は消えてしまったのだった

呼び名を付けるということは大抵において、そんなもので
名前を付けた途端に名前を呼んでも誰も応えず
やがて名前を付けたことすら忘れてしまうのだ

だから私達は、随分と時間を掛けてコーヒーを飲みながらも
決して名前を呼ばないようにしていたし
そうでなければ待っているだろうことも知っていたし
結局は黙って見つめ合うことだけが許されると知っていたし

だのに駄目になってしまったのには理由があって
貴方が頼んだモンブラン
それが、あまりに美味しいと貴方が感激して
その一口を私に食べさせてくれたこと

ただそんな、本当に、そんなことが理由だったんだ
2012-07-31 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

湖水なき湖面を行き来して

喪失だけが支配する湖畔に立つと湖水が流出する川はなく
ただ流入する川の流れを静かに受け容れ
湖面には決して痕跡を見せない雨を受け容れていた

枯れ切った湖底は剥き出しのままに
乾涸びた魚が点々と向こう岸に、左右の岸に散り
私は喪失の中に湖面を渡り、此岸を目指した

どうしても辿り着くことが出来ない、こちらの岸を
何度も何度も目指し歩いては湖面を渡り
眼下の四方八方に散る乾涸びた魚が笑う声に竦みながら
それでも、やはり此岸を目指して湖面を渡った

時折、遠くで軽やかな小川のせせらぎが聞こえはするが
目指すべきところを知らない水を湛えて小川は流れ
きっと私の知らない哀しみと優しさに出遭い
行き着く所を知らないままに流れ続けるのだろう

涸れ切って始めて姿を現す湖を渡るということはそういうことで
私は水を湛えた湖を、終に想い出すことが出来ないままに
ただ今までと同じように此岸を目指しては虚しい湖面を渡り
久しく空を見上げた記憶がないことを想い出していた
2012-07-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨降る中の恋の行方

伝えられない言葉だけを集めて書いた手紙の
伝わらない全ての言葉を数え、塗り潰し
茜色に染まった夕空を仰いでは
投函される直前の封筒を握り締めて一日の終わりに向かい
ただ手紙を届けたいだけの貴方の面影は想い出すことが出来ず
伝えたい言葉を想い出せないままに夜の闇に向かった

雨に打たれた恋は、いつも実ることがなく
記憶に残るのも、ただひたすらに冷たかった雨粒が背筋を伝い
二人で「冷たいね」とだけ繰り返し言ったことだけで
ただ終わるだけの恋を過ごす二人達のために
今日も雨は、冷たく降り続けている

雨が好きだと言った貴方は私の腕を抱き
柔らかく温かな胸を寄せて、こちらを見上げるが
雨雲と、降り続ける雨だけを映す瞳を見つめる哀しさに
私は強く抱き寄せ返すしかなく
抱き合うことで恋は終わるのだと知った

もしも私達が、もう少し長く生きることが出来るのならば
そして雨の降ることのない世界で生きることが出来るのならば
私達は恋を知り、恋に堕ちることが出来るのだろうかと
熱いキスを交わす向こうで降り続く雨に視野を奪われながら
そろそろポストの前に行かなくては、とぼんやりと考えていた
2012-07-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

風を追い薄れゆく雲の哀しみに
雨という非情が降り注ぎ
行く宛てもない川が流れ始め
波に疲れた湖面が漣立つと
山を越えて、その月は独りやってくる

傾く夕陽は沈むにつれて強く輝いては
月明かりを消し去って空に置こうとせず
まだ来ない夜は水平線の向こうに静かに待ち
その月は独りきりでやってくるのだ

紅く染まっただけの空に
輝きを捨てさせられた星達と
独りきりで空を跨ぐ、その月と
激しい優しさで去るまいとする夕暮れと
それらを見守るしかない私達と

雨に澄んだ空気は胸に心地良く
空も、あんなに遠くまで見通せるというのに
あの月よりも小さな雲が一つ
風を求めずに浮いている

いつかは沈むだろう夕陽より紅く
まだ光り始めたばかりの月より淡く
輝きを捨てた星よりも儚く

風を求めることを捨て、哀しみを捨て
肩を並べる孤独に沈みゆく私達の瞳の中で
小さな雲は中空に浮いたまま
私達の哀しみを漂っている
2012-07-28 03:17 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そして、ただ風は吹いていた

山に向かって流れる川に沿って風は吹き
街の匂いを木々の、草花達の、全ての隙間に吹き込むが
ひたすらに獲物を追い求める獣達は獣道を歩き
その歩みが吹き込んでくる街の匂いを消すので
山は、やはり山のままで街に変わることはなかった

山の営みと獣の営みは、ただ一つであり続けてきたが
それが山の神話となり山裾の民の語るところとなり
獣達は山を離れることなく、また街に下ることなく
山と街との間に、神話として生き続けてきたのだった

海に向かっては流れない川に沿って吹く風も同じく
街の匂いを波間の、砂浜の、全ての隙間に吹き込んだが
街の匂いは波音に消されて海深くに届くことはなく
辛うじて深海に沈んだ街の欠片がマリンスノーの一部となり
静かに永遠の時に消えることを許されるだけだった

そのように山と海は街との関わりで大きく異なり
それはきっと、あの川に沿って吹く風のせいなのだが
誰も、その風がどこから来て、どこに消えてゆくのかを知らないままに
今日も街を跨いだ風が川沿いに吹き続けては
山に、海に向かっているが
風すらも、ただ風として吹き続けているだけで
全てを知らぬままに吹き始め、吹き終わるのだった
2012-07-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

(それでも愛しているから)

蒼い空に貼り付いたままのようであるのに
千切れながらも集約し、集約の中に千切れた雲を
貴方は私を遠ざけてしまうから嫌いだと言い
雨の匂いを含んだ哀しい風を求めて髪をかき上げては
私の指を一本、一本と掌に包み
その感触に私を求め、確認しては頬に寄せた

しかし私を貴方から、世界から遠ざけるものは
寂しさだけで出来た雨を含んだ雲なんかではなく
千切れながらも集約し、集約の中に千切れた言葉達で
私が貴方に向かって発する言葉達だった

宛てなく歩く二人の間で廃線の線路は錆び朽ち続け
名を知られることのないままの色違いの小さな花達が
線路の盛り土の至る限りを埋め尽くして綻びては咲き乱れ
貴方は、その内の一本を雲のない空の一隅に手向けては
哀しげな横顔で私の言葉達を黙って耳にしながら
私の指を捕り、その指先を頬に導いては微笑んでいた

遠過ぎて聞こえない小川のせせらぎは山向こうに去り
貴方のシャツを汗ばめた陽も、その小川の音を追い
息を潜めたままに深い眠りに就いている山と森の動物達は
私達の微かなになりゆく足音に耳を傾けては
月のない星空の下を想い、今しばらくの眠りに入り
私達も、やがて人気のない街に出て
互いの影だけを黙って抱きしめる夜を迎えるのだった
2012-07-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

二人の間に詩集が置かれたために起きたこと

貴方が苛立たしげに言っていたことは
確かに間違いなんかじゃないし、分かることなのだけれど
違うように見えるだけで、たった一つのことしか書かれていない詩集を
私は手離すことが出来ず、ただ幾度も幾度も読み返し続けているし
本当のところ、全く読んでなどいないのだった

でも貴方の言い方は、それはまるで
私が貴方の傍にいたとして
昨日と同じように今日も傍にいて
今日と同じように明日も傍にいたとして
その繰り返しを疎んじているようなものだったので
私は読みたくても読むことすら出来ないのが実際だった

そうして結局、貴方は私の嫌いな歌を口ずさみ
貴方がそうであったように、私も貴方の傍に居ることには耐えられなくて
私達はお互いに、お互いを尊重するという言葉と共に別れ
別れてから過ぎる月日を数えることもないのだ

二人の間で起きたことをまとめると、そういうことと
貴方が誰かに言ったと伝え聞いたが
それは至極、簡単にし過ぎていやしないかと想う

私は今でも詩集を手にして読むともなく視線を走らせると
傍らにいる貴方が、私の好きな歌を歌う合間に
どんなことが書いてあるの?
と問いを繰り返したことを想い出すし
その答え、つまり詩集に繰り返されている同じことが
もう手の届かない所に行ってしまったことを知っているもの

やはり貴方は簡単にし過ぎだと想うし
私は、もっと簡単にするべきなんだと想うし
未だに流れ続ける涙を止めるには
その一つのことをハッキリと伝えなきゃいけないんだろう
2012-07-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今夜、渚の眠りに就こうと想う

ただ消えることだけでしか示されない水平線があるが
夕陽が水平線に曳航してゆく船を追うことは
やはり愚かしいことなのだろうかと自問しつつ
波を消したので、今は砂浜の延長にはない海面を
そこには残っていない貴方の足跡を追って歩いた

否定はしないけれど
と言ったままに凍る貴方の唇が遠く霞むのは
いつも決まって小さくなり続ける船影を背後に見る時で
貴方は私の前に立って少し困ったように微笑むので
風に流れる髪をボンヤリと眺めていたが
そうして風の向きが変わる時までを過ごすのだった

たった一言すら書くことが出来ないままの手紙を
あの小さく消えてゆくだけの船に託したが
その船荷には宛名が必要ないので
もしかしたら封筒だけを預けてしまったかもしれないと想い
二度とは戻らない、その船を待ちながら
あまりに遠くの貴方と二人きりの夜を迎えるのだが
手紙を書くことも託すことも必要がないと知り
私は今日も、明日の夕陽を想い出して渚に眠る
2012-07-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

鏡の中を見つめていた

もう訪れまいと想った街に必ず再び赴いてしまうように
再び訪れようと想った街には決して辿り着くことが出来ず
私達と世界の間には不可思議で強い相関関係があり
そうして私と貴方とが遭うことはなくなったのだった

実際の所、先行しているのは世界であって
私達は先行する世界に逆行することで愛の哀しみを知り
別れによって愛に出遭うことを知り
喪失の中にしか存在しない優しさを知るのだ

その奇妙な構造は貴方の話してくれたことでもあり
頑なに出遭うことを拒絶した理由でもあり
たった一度だけ出遭うことを決意した理由でもあった

そうして愛は選択不可能な別れを運ぶので
人々は常に愛を憎しんで止まぬままに恋をして
愛に至らぬよう細心の注意を払い留まるのだが
その日、貴方は私の映る鏡を叩き割り
私の方に振り向いて、寂しげな微笑みを少し頬に浮かべ
涙の光の中に遠ざかっていってしまったのだった
2012-07-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夢の訪れに眠りは涙する

雲の訪れない街にも人は訪れるが
夢の訪れない眠りに人が訪れることはなく
ただ深い眠りだけが深海に沈み続け
夢を伴わないままに静かに蓄積しては
微かに光る涙の光を仰いでいる

深く氷雪に眠り続ける高山の頂き近くには
戻ることから遠ざけられた骸が永遠の眠りに就いたまま
それでも頂きを目指す人達を見送っているが
拒絶された山頂には、ついに辿り着く人はないので
あの哀しみを捨てるには絶好の場所であるに違いない

しかし結局は、ただそれだけのことで
捨てられることを拒否した哀しみは行く先を見出すまでと
人々の奥深くに、しばしの憩いを求め
人々も哀しみを深く抱くことに、しばしの憩いを求め
遠い高山には、今日も静かに雪が降り積もり続けてている

雲の訪れない街の話を忘れているわ
貴方は、そう言いながら私に凭れかかって来るので
夢の訪れない眠りのことから考え直し
貴方と共有するはずだった哀しみがないことに気付き
夢の訪れない眠りに独り、貴方を置いて向かったのだった
2012-07-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨と無記憶に打たれるままに

それでも淡く届いていた陽光を最後に断ったのは
傘を持たない私を打つ予報された通りの夕暮れ時の驟雨だし
たちまちにしてアスファルトに溢れたのは光の粒達で
微かな想い出に残っていた貴方の涙の像が重なっていった

貴方の夢の中にしか住むことを許されなかったのに
眠りを忘れさせるから夢は嫌いだと貴方は言い
貴方の側にはいないままの私の手をとろうとしては泣き
私は届くことのない夢の中から貴方に手を伸べ
測ることすら許されない届かない距離に吹く風を虚しく掴み
冷たく濡れたままにしていたシャツを想い出す

貴方の記憶は常に雨と共に訪れるが
想い出は雨と共に薄れゆくので私の涙は涸れてゆき
今ではもう貴方の横顔すら想い出すことが出来ないままに
激しく体を打つ雨に貴方と二人の全ての想い出を託し
ただ貴方の求めるままに手を延べて続けている

冷えていく体で手を伸べるのは酷く辛いことで
何故、何処に手を延べているのだろうという疑問だけが
時折は私の全てを満たし、身を縮めようと想わないでもないが
もう、とっくに訪れることがなくなった、あの夕暮れを想い
もう一度だけ、もう一度だけ、と手を延べ続けるのだった
2012-07-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

貴方の足跡が消えた時

淡くクリームがかった壁が
新しい上塗りをされたもので
古びたポール・フォルダーは、しかし
掲げるものも無いままに少し
ペイントが延べてしまってきていて
無い筈の旗を微風になびかせていた

忘れられたフックに巻き付けた紐が
本体のないままに存在感を増し
実は、ついでに巻き付けられただけだのに
本体以上のナニカになってしまう
そういうことなのだろう

貴方を追うために足跡を辿って
遠くまで来てしまったけれど
結局、足跡はどこまで行っても消えることがなく
ただ私は貴方の足跡だけしか追うことが出来ない

あまりに当たり前のことに気付いた時に
少し冷たい雨が進もうとしいていた先から降り寄り
これから追うはずだった貴方の足跡を消し
私は会えないままの貴方に会う予感と共に
雨の冷たさに酔い続けていた
2012-07-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

空駆ける天馬は星を渡り月に休み
茜を過ぎた夕暮れ空に陽の名残を求め
冷たい旅風に涙の汗は紅く乾き
いくつかの欠片は星に紛れていった

飾られ描かれた夜空には月も星も等間隔に並び
必死に駆ける天馬だけが歪なままに
優しさを求めて止まることがない

あらゆる意図をないまぜにするだろう
激しい哀しみを夜空に点々と描きながら
夢に沈む暇すら捨てて
遠ざかる程に優しい背中を追って
西に東に、北に南に駆け続けるのだ

それでも、やはり知ってはいたのだ
すぐ、そこにあった笑顔の優しさは遠く
忘れそうな夜空に描かれたけれど
全ての夜空に哀しみを撒き散らし続けてしまったので
もう忘れる夜空すらないであろうことを

それでもやはり、駆けずにはいられないのだ
その身で感じた空を包む陽の温かさに
その身を安らげた微笑みの優しさに
ともに見詰めた夕暮れの向こうに
始めからあるはずのない希望の気配に
2012-07-20 16:40 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ベッドの中で、ベッドの外で

忘れてしまった眠りの中に沈むと
音を失ってしまった夢が
不規則なリズムで等間隔の涙を流し
小刻みに震える貴方の肩が遠くに見える

夕陽と朝陽とが一つになる点には
海が収束し、空が収束し、街が収束し
全てが交わる交点となりながら
しかし一つ所に留まることなく移り
私の眠りと夢とを遠くから遠くへと運ぶので
眠りと夢とは、いつも変わらないままだ

覚えることの出来ない記憶の中に
私は何を仕舞い込み、何を求めているのだろうと
常に眠りに就く前にはボンヤリと問うのだが
すぐに夢の中に落ちては涙に濡れて
乾いた朝陽の中で目覚めることを繰り返し
独りの部屋でベッドに入ったり
ベッドから出たりしているのだけれど

待つべき何物も持たない哀しみを胸に
談笑が響く公園で置き忘れられたベンチに座ると
本当に、ほんの少しだけなのだけれど
貴方の横顔を想い出す気がするので
私は、いつもベンチに座ることが出来ないままに
近くの樹にもたれては木漏れ陽を探した

それでも、やはり夕陽と朝陽が止まることはなく
私と、私の全てとは無関係に通り過ぎつつ
想い出すべきだった全てを私から奪い去っては
音を失い、色を失った夢だけを置いて行くのだった
2012-07-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遠ざかる背中合わせ

瞬く一瞬すらない光を求めて
君は瞬き続ける星と星の間を揺らめきながら歩き去り

揺らめく一瞬すらない波間に隠れる君を求めて
僕は暗闇に残っているだろう足跡を辿った

薄れゆく君の背中を黙って見詰めるばかりでも
その背に伸ばした僕の手こそは
数え切れない星達に照らされて光り続けているのだけれど
振り返ることのない君の瞳には映ることがなくて
ただ掌の中でも光り続ける星がサラサラと落ち続けるだけだ

僕達を両端に釣り下げた三日月はバランスが取れなくて
北に南にと揺れながらも星の川を渡り続けているというのに
肝心の僕達は襟首を吊り下げられたままの背中合わせで
お互いが、そんなに近くにいるなんて知ることも出来やしない

それでも三日月は、僕達を寂しい夜に放ることなど決してせずに
星の囁きに合わせた優しい歌を口ずさんでは
背中合わせのままの厄介な僕達を吊り下げていることなんて
別に大したことじゃあないさ、とウィンクしながら
静かに北でも南でもない空を目指して歩き続けた

僕が伸ばした手が、始めから君の方に向かっていれば
君は瞬かない光を求めることなんてなかったのかな

君を抱き締めた記憶に満ちている、この手だけが哀しくて
それでも僕は、遠ざかる君の背中に手を伸ばす
2012-07-19 16:23 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

だから世界は狭いままなんだ

ドアの開かれる軌跡は何も決めはしないのに
開かれたドアを前にした貴方が入って来ることはなく
行く先を失った風が貴方の横をすり抜けて
開いたままに残された本のページを一枚だけ捲った

足音を引き摺ったままの足跡が点々と刻まれ
しかし始点も終点もないままに、ただ転々とし
私と貴方は反対方向から足跡に近付くが
足跡に近付いた分、どうしても二人は遠退いてしまう

そんな繰り返しを季節は嫌うので
構うことなく私達を置き去りにして
次の季節に全てを譲り渡しては眠りに就き
ただ飽いたまま、気だるく巡る季節が過ぎる中で
ドアだけは黙ったままに貴方の前で開き続け
私の背中にはヒンヤリとした風すら吹いてくる

眠りを忘れたままに歩いた街中には月明かりが泣き
その泣き声が地上に張り付くように低く広がり
足下から這い上がっては私達を覆い包んでしまうので
私達の哀しみすら月明かりの泣き声に変わってしまう

貴方が実は、ドアとは無関係にそこに立っていることに
どうして私は気付くことがなかったのだろうと想い
その感想を耳にした貴方は冷たく微笑んで
私が全てと無関係にココにいるとは気付いてなかったわと呟き
やはり私も冷たく微笑むことしか出来ないことに気付いたが
貴方の方が先に冷たく微笑むことに気付いたのだろうか

私と貴方の間に愛というものがあったと語り
それは事実ではあったのだろうけれどと語り
私達が気付かなかった重大なことは
その愛が、ただソコにあっただけだったということで
今も尚、二人は気付いただけでしかないので
ただソコにあったはずの愛の在り処を茫然と見つめ
足跡から響いてくる足音を聞きながら
酷く冷たく微笑み合うことを覚え始めたのだったね
2012-07-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

約束は想い出されることがない

世界の全てから全ての愛を剥奪した
全ての言葉を憎むとだけ言い残されて
私は独り、言葉のない唱を歌っている

私には貴方の去った記憶しかないが
残されなかった足跡の全てを追いつつ
愛し合う人達の間に終に言葉を見出せず
やはり独りで言葉のない唱を歌った

乾涸びた河だけが本当の河で
波音の聞こえない海だけが本当の海で
星のない夜空が本当の夜空だが
私は新月の影の下で歌わずにいられない

交さなかった全ての約束だけが
貴方と私を繋ぐ全てであり
貴方と私の哀しみの全てであり
貴方と私の孤独の全てとなったので
私は新月の影を仰いで歌っている

キラリと過る彗星を見て
あれは星ではなかったのかしら?
そう貴方は呟いたに違いないのだが
私は応えることなく答えを求め
独りで言葉のない唱を歌うのだった
2012-07-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

部屋の中と外と

全てを拒絶する激しさで愛し合った夜には
全てを貪った後に訪れる虚しさの澱む汗が流れ
身体中を駆けた残熱だけが部屋に残り
2時を待たずに誰もいないベッドのシーツは
しずかに皺が伸びるのを待ち続けている

私達は哀しみを分かち合う前に愛し合い
寂しさを求めて互いの身体を放し、離れて
互いに独りの悦楽の余韻の中に沈み込んだまま
沈黙という快感を共にする夜が更けるのを待ち
訪れることのない朝を求めていた

時折、遠くから響いてくるエンジン音に耳を澄まし
その瞬間だけ、二人は再び一つになったが
もはや別の涙を追い掛け始めていたので
きっと気のせいだよね、と貴方は啜り泣き
熱い下半身を押し付けながら背をうならせ
相手がないままの快感に哀しみを託したのだった

私は昨日の昼に貴方と食べたサンドウィッチを想い出し
ハムよりも卵が美味しかった理由を考えつつ
曖昧な返事をしながら貴方の項に舌を這わせては
何処に向かう宛てもない貴方の吐息を耳にして
遠ざかった二人の距離を測ることも出来ないままに
明日の夜に二人が話すことはないことを知った
2012-07-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

抽象画を描く理由について

真実の中に留まる貴方を捨て
偽りの中に消えてゆく貴方を追った時に
愛という言葉が生れ
私達の世界は始まり、光速で膨張し
果ての無い果てを追うことは留まることと知り
離別し遠退くことだけが愛し合うことだと知った

そうして言葉達が世界を捨てたように
写された全ては存在を剥奪され
二人はメビウスの輪の正確な反対位置を保ちながら
星を仰ぎつつお互いを追い続けた

私達は常に消えるモノが嫌いで
消えてゆくコトは好きだと語り合ったが
消えるコトなく消えるモノであり
ただ待ち続ける者達の一人でもあり
月明かりに曳航される一艘の舟でもあった
2012-07-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雲を仰いで見えるもの

雨の匂いを忘れて久しい晴れた空を14時半に見上げると
いくつかの真白な雲の断片が貼り付き
それらの雲の群れの一つでしかなくなった淡く白い三日月が浮かんでいる

やがて三日月は消え、群雲が東からやってきては
空に貼り付いたままだった断片達を飲み込み
薄水色の空は、切れ間を必死に探しながら彷徨うが
16時になると探すことすら諦めて眠りに就く準備に入るのだ

時折は空を横切る鳥達が目に入らないではないのだが
やはり黙ったままに空は雲を抱え、雲に抱えられ
そして今は何処に行ったやも知れぬ細い三日月を、きっと抱いている

目的地を告げないままに響き抜ける車達が黙って道路を過ぎ
目的地を失ったままに黙り込むしかなかった草花達が車の風に揺れ
その両者の間に立って私は、目的地を探すべきかを考え込む

もう少し進めば、きっと貴方と別れた場所だろうし
もう少し進むと、きっと貴方と出遭った場所だろうし
どちらも私の目的地ではないのだけれど
通過しなくては何処にもいけない場所だとは知っているので
やはり私は、目的地を探すべきかを考え込む

その頃には、あの雲と見紛った三日月のことは忘れていたが
空を仰げばきっと、いくつかの星を見ることなら出来るだろうし
そうでなかったら私は雨に打たれながら
群雲の中に消えていった小さな、小さな三日月を想い出すだろう
2012-07-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

捨てられた北を目指すということ

誰かが極北に残したはずの歌を探して
今は北点を指さないコンパスを手に北を目指して歩くと
反対方向に向かう渡り鳥の群れが空を駆け
遠い地平線と水平線の交点に飛び去っていった

地球の自転軸は一定ではないので
きっと私には、今のまま歩くことが最善だし
コンパスが極北点を捨てた気持ちも分かるから
やはり私は、渡り鳥を見送った

幾度も繰り返す昼と夜とを跨ぎ
朝には右から、あるいは左から
そして前から、あるいは後ろから陽が昇り
夕には右に、あるいは左に
そして前に、あるいは後ろに陽が沈むのを見た

きっと一人で歩いていたのだったら
私は酷く寂しく、哀しみに暮れていただろうけれど
決して同じでない顔の人と幾度もすれ違い
お互いに間違っていないことを交わす視線で理解し
間違いを共有していたので
特段、問題になることとてないままに歩くのだ

時折、立ち尽くしたまま空に星を見上げ
佇んでいるだけの人を見掛けるので
どうして北を目指すのに空を見るのかと問い
星の示す不確かさについて語り合っては
また再会することを約束することなく別れ
やはり再び遭うことはないままで
違う人と空と星と北との関係について語り合った

しかし、私達の誰もが忘れていたことに
互いの手にするコンパスを見せ合うことがあり
それに気付いた人は暖かな家路を見出し
やはり北を捨ててでも進むべき道があると知った挙句
結局は、本当の極北に辿り着いては
残された歌を唯独り、呟くことが出来るのだった
2012-07-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

花が揺れると、風が吹いた

貴方がいなくなった部屋の空白が
より一層、重なったはずの二人の影を強くし
開け放たれたままのドアは
緩い風にすら行き場を見出せず
時折は、閉まりそうになりながらも
やはり大きく開いたままだ

約束した二人は必ず別れるから
二人は決して約束を交そうとはせず
交さなかった約束通りに貴方は部屋を出て
交さなかった約束は残ったままに
貴方の開け放ったドアとなった

涙が記憶を持たない理由を語り合い
私は貴方の涙について語り
貴方は私の涙について語ったが
結局、二人は共有する涙を持たず
共有されない涙に泣き暮れただけだった

想い出される過去のないままに時は過ぎ
私は一人、部屋を出ては川の畔に降り
色々な季節の川辺を南に向かって下り
色々な季節の川辺の花の横を通り過ぎ
風が吹くのは、花が揺れるからだと知った
2012-07-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨の気配の物語

地面から雨の気配が訪れると
いつものことだが植物達は根を幹を葉を
やがては持てる全てを降雨の備えに捧げ
動物達は、ただ静かに息を潜めた

しかし川には雨が降ることはなく
流れ込んでくる一粒一粒を受け容れて
共に流れて雨の一部とはなるのだが
ついに川が雨となることは叶わぬままに
ただ雨が川となるだけだった

そして海は雨を知ることがなく
川とだけは交わり続けているのだが
常に雨と共にある山は川を下り
海と山とが一つになり
海と雨とが一つにるのだ

やがて本当の雨が降ると山は崩れ
川面は激しく雨粒に打たれ
海は流れ込む濁流に穢され
動物達は棲家を追われて翻弄された

その時、誰にも知られず育った樹の一枚の葉が
本当の雨の風に吹かれた僅かな時に空を舞い
誰も知らぬ地に落ちて尚、少しだけ蠢いては
先に落ちた葉達と後から落ちてくる葉達に挟まれ
いつものように、静かに雨に打たれるのだった
何も変わらなかったように
静かに、静かに雨に打たれ続けるのだった
2012-07-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

強く降り注ぐ光を雨は横切り
貴方はずぶ濡れたままに独り震え
ただ黙って歩き続けていたし
明るい陽射しには雨すら煙り
優しさを足跡に託す貴方の元には届かず
貴方も陽射しを拒絶していた

そうして貴方は、足跡に託した優しさを
誰のものでもない優しさとしたが
誰にでも手が伸ばせる優しさには
誰一人、手を伸ばすことがなく雨に打たれ
やがて解けるように陽の元に上っていくのだった

貴方の足跡を辿る夕陽を見つけたので
私は想わずひび割れた指先で足跡をなぞり
その、あまりの冷たさに凍りついたが
冷たさこそが、貴方の残した優しさの
他ならぬ、ただ一つの残滓であって
私は足跡に触れることで始めて貴方を想い出すのだった

確かに二人が並んだのは夕暮れだったが
二人で見たのは凍てついたままに雲に隠れる高い山で
貴方は独り、私を振り向くことなく、しかし微笑みを浮かべ
私の少し横を通り過ぎる視線を残して
足跡だけを残す旅に出たことを想い出すのだった
2012-07-11 16:39 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

0時の高速道を走る時

スモークで見えない車外を過ぎる景色があり
私達は、その景色に視線を投じながら
しかし決して見ることも、語ることもなかった

夜の高速道を行く車は少なく
時折、対向車のヘッドライトが空を照らし
まだ先のあることに気付かされる

人気のないパーキングエリアは
ただ車を止めて休憩するだけでしかなく
何を売る店もなく、止まる車すらなかった

狭い車中で二人はすることもなく
シートを倒し、凭れ、ただ黙ったままで
どちらからともなく手を重ねた

少しして昨日と今日とが重なった影を追うと
貴方の汗ばんだ背筋は静かにうねり
夜の闇に消えてゆく吐息だけが響いた
2012-07-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

小雨が降り、太陽に手が届く気がした

誰にも見つからない細心の注意を払われ
実際、誰にも見つかることのない痕跡こそが
何よりも深い傷を世界に刻み
その所有者の存在を強くする

一方で誰にでも見つけられるよう
明確な輪郭を保った痕跡があり
実際、誰もがそれを目にするのだが所有者は忘れられ
希薄化されゆく存在が断末魔の叫びを上げ
しかし何処にも響くことなく消音する

ところで貴方の歩くアスファルトには
前を行っただろう犬や猫、鳥達がそうであったように
誰のものでもない足跡だけが残るので
辿る私は一体、何を辿り
何処に辿り着こうというのだろう

昨日の夜中に降った小雨は
屋根打つ音を鳴らすこともないままで
あまりに小降りに過ぎたのだが
私の頬を確かに濡らしたはずだのに
今朝にはもう、道も何も乾いていた

ただ酷く濃い霧がたち込めていて
薄い虹の傘を纏った霧向こうの太陽は
あたかも手が届きそうに淡く
しかし、手が届くことは決してなかった
2012-07-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

世界中の祈りが絶える理由

必ず叶う願いごとを一つと言われ
叶う願いごとを無限にして
と、その願いが叶った途端に
あらゆる願いがなくなり忘れられてしまった

叶えられた願いは忘却に姿を隠し
叶えられなかった願いは祈りに託され
忘却と祈りは同じ過去に戻る

落ちる葉と落ちない葉が振り分けられ
中途半端な季節の中で
一本の樹は時の広がりに立つ

受話器の向こうから聞こえる声には
抑揚がなく、ただ同じ内容を繰り返していたのは
きっと真実を伝えたかったからに違いない

私は、そんなことを想い
二度と電話が鳴らぬように願っては
繋がってもいなかったプラグを引き抜き
誰に電話すべきか考えていたのだった
2012-07-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

再び私達が逢うとしたら

語られることのない遠い過去があり
始まることを忘れた朝にも陽は差したが
一日の終わりには必ず風が吹き
風が吹くと貴方は部屋を出て行った

ブロック壁の穴をすり抜けて行った猫は
戻る時には同じ穴を通ることがなく
いつもと同じように違う道を歩いて来る

走る車を追うと赤信号で追い付くが
全ての信号が青だけしかない道があり
全ての道に信号のない街があり
追い付くことを拒絶して走る車がある

どれだけ離れているかを
距離という尺度では示すことが出来ず
離れていくことを知ることを許されないままに
私達は街中を走り抜ける車を見送り
過ぎ去る言葉を交わして再会した
2012-07-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ラブ・レターは恋を始めさせない

歩き続けたことの最後の選択肢は
必ず「歩かない」という
選択ですらない選択で終わる

始まらなかった全てを託されて
六月の雨が誰の許にも降り注ぐが
とりわけ二人の間には強く振り
遮る傘を探す気にもならない

降り止むことを捨てた雨に打たれ
全ての二人はびしょ濡れになり
それでも歩き始めるかどうか戸惑い
手紙を交わすことを想い付いてしまう

手紙を書き始めると一つの恋が終わり
始まってすらいなかったことに気付くが
始まらないままに書き継がれたので
やはり六月の雨は降り止まないのだった
2012-07-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

昼には見えぬ夜という夜を渡る月を追い
貴方の背中が遠ざかっていくのを背後に感じながら
人気のない街から街へと旅をすると
誰にも遭わないままに感じる人の気配だけを、そっと抱きつつ
涙を流しながらでないと眠れない時が来る

サラサラと空から降る星の光をボンヤリと見詰めていると
光りが失せた光は、ただの砂となって足許を埋めていき
そのままに埋もれてしまえばいいのに
そう想いながらも、砂は中々に積ることがない

ふと手に取った砂の温もりの中に貴方の面影を見つけては
どこまで遠くへ行こうとしているのかと自分へ問うが
答えを見いだせないままに、ポツポツと降り始める雨を受け
再び三度と、やはり疲れ切ったままに歩くだけなのだ

そうして、どこまでもどこまでも遠くへと行っては
人気のない街の中にある寂れたホームを頼りにし
貴方の足跡が微かに残っているのを見出しては
その足跡に触れて、もう一度だけ、貴方を想う

どこまでも共有されることのない記憶の中に残された二人は
お互いに見つめ合いながらも、視線は遠くに摺り抜け続け
そのことに気付いて流す涙だけが交わり
二人の重ならない時間を優しさに変えて
涙に暮れる二人を一つに包み込んでは光に戻り
夜を渡る月になって、再び夜を歩き始めるのだった
2012-07-06 02:29 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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拝啓




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大海にも降る一滴
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