灯火

ただ忘れられるためだけに時は過ぎてゆくというのは正しく
どこにも行けないことを希望と呼ぶのに似ていて
点滅する街灯が不均等な距離で並ぶ夜路を歩くのと同じだろう

街灯は夜路を照らすことはないくせに殺虫灯よりも残酷で
ただ吸い寄せられた虫達をコウモリやヤモリに提供し
自らは、ただ壊れたままに点滅させられている風を装っている

それは優しさを捨てた恋の手練こそが
まるで本当の甘さを伴った優しさで恋を語るようなもので
優しさには終に優しさが宿らないことと相似している

月のない夜、工業地帯に誘蛾灯が黄色く灯ると
バチバチと音がする度に虫が死んでゆくのだろうが
ただの夜歩きを止めるまでもなくて
翌朝には、ただのゴミとなった死骸が散っているだけだ
何も変わることのない朝陽が静かに照らす中で

書斎を灯すのなら、やはり灯火が良い
引き寄せられた虫は燃えてしまうが
本当の温かさの中に消えてゆくことが出来るのだから

やはり今夜は、どこにも行かず
灯火の淡い光に読めない文字を追いつつ
ただ忘れゆく時間の中で夢を求めず眠りに就こう

眠りの中では、もう一度、幻灯を灯し
ただ忘れゆく時間の中で夢のない眠りに就くのだ
2012-08-31 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

待つ人が釣りを捨てる

アテないままの希望に釣り糸を垂れ
引っ掛かったゴミは丁寧に針から外して
黙って下流に向かって放る釣り人のように
過ぎる季節に視線を垂れて下さい

いつも歩く街路樹は人混みに満ちていても
走り過ぎる間にすら一言も交わすことはなく
人混みの一つとして変わらずに過ぎることが出来ます

だから、過ぎる季節に視線を垂れて下さい

過ぎ去った今日を想い出しながら
これから訪れる今日を想い浮かべながら
ただ時計の秒針が回るのを見続けることが出来ます

だから、過ぎる季節に視線を垂れて下さい

その視線が熱心に向けられていた
辞書のように厚い本の何ページだったでしょうか
それを想い出すまでは、過ぎる季節に視線を垂れて下さい

その視線が熱心に向けられていた景色には
遠い過去から遠い未来まで
遠い高山から遠い深海までの
全てのものが描かれていて
その一点に、きっと私はいるでしょう

だから、過ぎる季節に視線を垂れて下さい
2012-08-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

深い夕暮れの橋を渡る

忘れることだけが歩みとなる橋の真ん中で
欄干に凭れながら忘れ得る全てを数え
注意深く丁寧に、一つ一つを忘れていった

それでも残ったものを集めると
とうに別れてしまった貴方の輪郭となり
川面に落ちた山影が模り嘲笑っては
小波に紛れ消して流れて行った

ただ、それだけのことだのに
川の流れを見ることに耐えられなくなった私は
橋を行き交う人達の談笑に向き直り
曖昧に微笑んで精一杯の復讐をした気になった

それでも尚、残る悔しさを忘れるために
忘れることだけが歩みとなる橋に正確な垂直線を描き
空を映しながら流れ続ける橋下の川を感じ
その感覚を頼り辿って下流側の欄干を目指した

橋を行き交う人達は皆、至極、忙しかったが
頼りない私の足取りは流されそうで流されず
遠い海が闇に染まるのに沿って見上げると
空に打ち込まれた星が散っていた

辿り着けない反対側の欄干に涙し続けていると
星達は丁寧に一粒一粒を拾い上げて自らの光とし
いつの間にか私は橋を渡り終えていて
橋を渡ろうとした理由を置いて家路に急いだ
2012-08-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ソレを哀しみと呼ぶコトなく哀しみを抱き


決して哀しまないコトでしか存在出来ない哀しみを
哀しみと呼び続けられるのだろうか
ソレを哀しみとして抱き続けられるのだろうか

いつも哀しみは、哀しみと呼ぶと消えてしまうし
哀しむコトなく黙って寄り添うしかないけれど
哀しみと呼ばないコトでしか保てない哀しさに
私達は黙って涙するコトすら出来ないのだろうか

実際、ソウシテ哀しみに見捨てられた私達は
微風にすら舞うだけの襤褸切れのように彷徨い
告げるべきナニモノもない嗚咽を漏らし続けるだけで
スベテ失うモノすら手放しにしてしまう

ただ無色となった街に散り散りになって
互いに共有するナニモノもない擦れ違いに
微かな風が起こるコトにすら驚いては
交わすべきナニモノモないことに、更に驚く

決してソレを哀しんではならないし
決してソレを哀しみとよんではならないし
それでも抱き続けてるソレコソが私達の共有するスベテで
ソレ以外にナニも必要なかったんだと
私達はイツ、気付くコトが出来るのだろうか
2012-08-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ドアに変えられた哀しみを

昼を夕暮れに変えるドアが閉められる
もう戻ることの出来ないことを告げる音は重いままに
戻ることを捨てた人達の背だけを優しくそっと押し
私達は一度だけ開くドアを挟んで二手に分かれた

発情期でもないのに低く唸り続ける猫に囲まれ
運転手だけが座り、停車するだけだった車達が駐車場を満たすと
身動きする隙間のないことだけを理由に
ほんの一瞬の停車すらもが駐車となった

駐車場は夕暮れと猫とを結んだ直線上の一点となって
その延長線上に違う哀しみを理由に停車した車達が置かれ
外を歩く誰一人いないままにドアも開けられず
携帯電話のアンテナは不通を示したままで
ウィンドウすら開かぬままにエンジン音も静かに死を迎えた

つまりは車としての要素は全て壊れた車だけが
居残った運転手と共に夕暮れと猫との延長線上に配置され
強制的に向い合せにさせられた夕陽に晒されている

所在ない運転手はシートを倒し
それぞれに独り、眠った振りを続けるしかなかったが
最高潮に達しようとする夕暮れを背に受けて
唸り続ける猫がボンネットを渡りながら
運転手の漏らす哀しみを踏みしめて行くのだった
2012-08-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

語られる月が水平線を目指し


光ることを捨てた星は
かつて放った光の届く先に願いを託し
見られることのない光として闇に混じり
忘れられることを夢とする眠りに就く

物語る星座と星座の間で
物語られない星達は、そうして黙り
一部は流星として自ら赴き塵となった

常に語られる月は天空に昇り
聞く人のある物語と聞く人のない物語と
それらの間隙に深まりゆく闇とを過ぎ
流星の一つだけを拾って一夜の友とした

眠れない眠りに深く、夢は消え
託された願いは哀しみだけを運び
語られる月だけが淡々と空を行き
叶わぬ願いと叶わぬ夢とを拾い集め
星が沈むだけの水平線を目指した
2012-08-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

捨てられたポストに投函する手紙

雲に反射した波音の響くコテージが
激しいスコールに見舞われると
シャツはびしょ濡れになり
夏の熱は気化熱となって奪われ
それと共に、夏の恋の一部も奪われた

湿った砂が、うっすらとフローリングを覆い
裸足の足裏に夏の痛みを残すが
冷えてゆく部屋の中では所在も行く先もなく
集積する宛先のない手紙達のように
ひたすらに待ち続けるだけの存在となってゆく

ペンキが剥げて横倒れに捨てられたポストが
窓の外で、まだ止まぬ驟雨に打たれ続けていて
裸の貴方はベッドに横たわりながら
手紙を投函されないなら撤去すればいいのに
と呟いて独り、気だるい眠りに落ちてゆく

冷たいシャワーが身体を伝う感覚に混じり
貴方の気配は希薄になってゆくのを感じながら
私は、捨てられたポストに投函するならと
手紙の文面を考えていた

投函する手紙の内容は決まっていて
別れるための言葉を並べるしかないのだが
実際には別れの代わりに愛が謳われ
ポストの中は宛先のない別れで満ちていた

しばらくすると夏の熱はシャワーに流され
私の身体は、すっかり冷えきってしまい
別れを知らないままの貴方を抱きに行くのだった
2012-08-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

愛さずに、いられない

失われた全てを寄せ集めると貴方に似ていたので
私は、それを愛さずにはいられなかった

そのために貴方が失われたものであると知り
永遠に戻ることのない貴方を愛していたと知り
失った全てを、もう一度、失っていった

私達が常に残影だけを愛していることは確かで
残影を寄せ集めて愛を築き
透き通る向こうの景色には意識を向けず
視野の端でだけ涙を流し続けていた

存在が残影でしかないというリアルに
私達は耐えられず、愛し合う営みを創造し
愛し合う中に存在を置くが
そうして規定された存在と愛とに自らを溺れさせ
全てに涙するしかなくなってしまう

人形しか愛さない少女だけが
失うものを持たないように
いつか貴方のいない貴方を愛することが
私にも出来るのだろうか
2012-08-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

梟の低い鳴声に誘われて夜が訪れると
森に満ちていた静かな哀しみが風となって溢れ
魚達の眠る小川を伝い流れ始める

星光りを乗せた無数の小波は
渡ろうとする者達を拒絶したまま
辿り着けない海を目指して駆けようとするが
その場に留まったままに煌き
絶えては生れる無限の中に吸い込まれてゆく

あるいは湖面に立つならば
小波も岸に辿り着くことが出来ただろうか
海と湖の違いを、私は知らない
星と月と太陽の違いを知らないように、私は知らない

哀しみを駆ける光りを受けた背が遠ざかると
眼前に広がる穏やかな風は夜を運び
時から解放された夜が漂う中で
誰にも聞こえない問いだけが繰り返される

夜になり切れない空が窓の風景を占め
世界を永遠に遮断し続けているが
それでも尚、窓の外で梟は低く鳴き
始まらない時の中で戸惑う私達は
来ることのない夜を待ち続けるのだった
2012-08-23 18:35 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

剥奪されることで愛が生れ

飲み干されたコーヒーはカップを残すが
喫い尽くされた煙草は喫うことを奪い
手紙は、読まれることで読むことを奪った

愛することで奪われた愛は記憶に変わるのだろうか
流れ尽くした川の底には水草が無残に枯れ散り
乾いた川石は、ただの石に戻っていった

矩形に切り取られた空の欠如を雲が埋め
切り取られた空は見上げられることの剥奪から逃れ
しかし空であり続けることは許されず
空ではない空としてのみ怯えていた

愛されることを恐れて街に身を投じ
街の風景の一つとして自らを切り取ると
その一欠片が全てであったことに気付くが
街の風景を愛する人はいても
街路樹にだけ留まる人は、ついにいなかった

そうして街に消えて行ってしまった貴方を
それでも私は探そうと想う
まだ愛することもなく、愛されることもなく
ただ街に消えて行ってしまった貴方を
私は街路樹を抜けて、もう一度、探そう
2012-08-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そして谷で夜が終わり

もう二度と涙を流さずに済む距離を探して
手を取り合う二人は向かい合い
互いに自分を映す瞳に出遭って涙を流し
偽りでない涙を指の腹で拭い
その指を子供のように舐めては
少ししょっぱいね、と恥ずかしげに伝え合った

夕暮れ空が向こうに見える橋の下で
流れを失って蛇行する川に足を洗われながら
肩を並べて夕陽を眺め、それぞれに涙を流し
少し苦いなと想いつつ黙ったままでいた

二人を追い、追い越して尚、山影は遠くへ
しすて夜が背後の空を染めゆき
見渡す限りの空を覆い尽くして谷に降る
頬を濡らしてゆく霧に連れられて夜は降る

頬を濡らして尚、気付かれない霧のように、夜は
読み方を忘れた辞書を詮無くめくるように、降り
見渡す周囲を隠して尚、気付かれないままに
頬という頬を濡らして、いつのまにか夜は降り注ぐ

もう互いを見失わずに済む二人には夜に気付く必要はなく
やがて夜も闇であることを止めて二人と並び
頬伝うしょっぱさに懐かしい気恥ずかしさを想い出しつつ
谷の静けさに優しさを託し、黙って夜のままに夜を終えた
2012-08-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

造花の消えた出窓の中で

ナイフの切り刻む鼓動が
相対の等間隔を保つようにテーブルに置かれ
テーブルを挟んで座る二人の沈黙は
絶対的な距離、つまり愛を無意味にし続け
断続する硝子カップの砕ける音が
泣きたくなるような響きで鼓膜に滑り込んで来る

私と明日を交互に想い出しながら
過去から遠ざかる記憶を未来に振り向けて
貴方は何処へも行かない選択の中にだけ留まり
揺らぎを止められない私だけが漂って
二人の距離は偽りに変わってゆく

残された問題が飼い犬のことだけになると
ようやく二人は別れ話をしていることに気付き
二人の間を行き来していた犬が別れを決めて
帰属することに意味を与えた

出窓に飾られた造花が穏やかな微風に吹かれると
そこに置き去りにされることが出来ないことに気付かれ
飾り主の行方に関わらず廃棄される

犬を抱くと出窓に足を掛け
しばらくは見慣れない風景に戸惑いつつ
始めて出遭う小川を黙って見ていたが
やがて軽くもがいて腕から飛び降り
振り返ることもなく去って行った

テーブルと、テーブルの上の錆びたナイフだけが
私と貴方とを隔てる全てとなった頃
薄れゆく鼓動を切り刻み損ねたナイフは
やはり危険物として廃棄すべきだったと気付いたが
ナイフは自ら錆びた刃を折っては捨て
ただのグリップとなってでも居残ろうとあがいていた
2012-08-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

つぶやく過去(2012/04/15~06/30)

つぶやく過去(2012/04/15~06/30)

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2012-08-20 13:29 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

暁の街灯が消えゆく時に

泣いたままに眠る街灯が並び
灯りは光の涙となって零れ
冷たさだけとなった路面に降り注ぎ
乾いた靴音を湿らせ、歩き疲れた脚を痺れさせ
見慣れぬ夜空を想わず仰がせさせている

街の終わりで途切れた電線が呼ぶと
いつまでも転寝し続ける硝子を叩き疲れた風が吹き
寂しさだけの風音となって
共鳴する音達は嗚咽に身を寄せた

訪れたことのない公園の傍を往くと
哀しみと化した夜の歩みに寄り添って
尚も絡み付こうとする池の水音が
優しさの欠片となり、零れては足跡となった

そう遠くはない明日が山向こうで足踏みし
今日を掻き抱いて放そうとしない街は
陰気な呟きを昨日に向けて無駄に放ちながら
街自体が、その記憶の一つだというのに
手離せない記憶と入れ替ろうとあがいている

もう少しすれば朝刊を運ぶバイクは休み
新しい人いきれが満ちる街の日付は変わっているが
本当に明日に変わるには、まだ少し
ほんの少しの猶予が街には必要なのだ
2012-08-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

水音は常に、どこか遠くで響く

過去に流された全ての涙に花を贈り
過ぎ去った哀しみだけのために並ぶ墓標と
これから流れる涙と、訪れる哀しみと
それらの狭間にのみ蠢く愛という偽りの中に立ち
愛にのみ産声を向ける優しさを愛した

遠い水の音が、いつも優しい囁きであるように
偽りは常に遠くを過ぎ去りながら風を求め
しかし風は哀しみのためにだけ哀しみの横を吹き抜け
風に置き忘れられた存在としてのみ私達は
花を手向けることを許される

水の愛した風の音は風化した石に封じられたまま
月の光る夜だけに流れ星として空を駆け
音を遠ざけた水の一滴が夜空を覆い尽くしては
流れ星を隠し、眠りの傍らでそっと囁くのだ

過ぎる時は留まりを音に与え
過ぎることのない時は音を自らとし
その三分の一を水に、その三分の一を風に与え
残りを抱いたまま眠り続けている

水が風を求め、風が水に応えようとするのは
共に過ぎることのない時に音を奪われたからで
二つは音を伴わない囁きを眠りに与え
囁きに包まれた眠りは流れ星とともに夢を駆けている
2012-08-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬の川辺に咲く花を愛した

捨てられた後に忘れられた橋を渡り
水のない川の畔に回り込んで岸辺の花を摘んでから
小波の音だけが響く虚しい流れに立ち入って
ごつごつとした岩に足を取られては
想わず苦笑する相手を求め、見上げた崖上には
捨てられた後に忘れられた廃墟だけが建っていた

忘れられるために廃棄を待つ記憶達は
私を捨てることのないままに忘れ去って
つまり廃棄権を放棄して、しかし振り返ることはなく
ただ私からしか見えない記憶達として在り続け
永遠に捨てられなかったことに復讐し続ける

もはや眠りしか残されていない川辺には
忘れられた名前の付いた花が無残に踏み荒らされていて
しかし男は踏み荒らしながら花の名前を呼び続け
応える術のないままの花は黙って散りながら
名前を痛みに変えて記憶し、痛みを名前としていた

初春以上初冬未満以外の季節
つまりは冬に咲く花は常にそのように踏み荒らされて
痛みだけを名前として記憶しながら
目の前に入り乱れる忘却と廃棄を見送っている

季節の最上位に位置するということは、そういうことで
冬、水の流れない川辺に咲く花を愛しても
その名前を記憶することは出来ないが
踏み荒らされた痛みを知ることだけは出来るし
あの記憶達すら、少しは振り返る素振りを見せるのだ
2012-08-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

水の哀しみを満たすモノ

風を知らない涙が降り注ぎ続けている
風に吹かれて激しく音を立てる傘を叩きながら
風を知らないままの涙が降り注ぎ続けている

水の哀しさに溺れて浮かんだ魚達の無数の白い腹が
隙間ない完全な等間隔に並んだ池端に立つと
風を知らない小波が木立の間から流れ出して池を覆い尽くし
ようやく息を戻した魚達は、再び水の哀しみを泳ぎ出す

吹くことを知らないままに風は吹き
哀しみを知らない涙を含みつつ吹く風に向かい
全てが、対象のない怒りと共に聳え立つ

向けるべきところのない怒りは涙となって
吹くことから遠ざかる程に激しさを増す風に身を晒し
どこまでも高く聳え立って風に向かい
どこまでも細かい粒子となって風に忍び込む

そして零の涙となって水の哀しみを満たすのだ
決して何物にも満たされることのない水の哀しみを
向けるべき何物もない怒りだけが
絶対の零の涙となって吹くことを知らない風に紛れ
地表全てを流れ流れて満たすのだ
2012-08-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

通り過ぎられるだけの土曜の憂鬱

日曜を忘れた土曜の夜が疲れて時を数え始め
ただ土曜として過ぎることに、ささやかな抵抗を始めると
点灯することに飽いた蛍光灯は灯りを捨て
一秒一秒を報せることに飽いた時計は刻針を捨てた

ポケットには、まだ金曜が残っていて騒がしく
土曜と、土曜の蛍光灯と土曜の時計と
土曜の色々なもの達に聞こえそうで
そっと掌を膨らませて覆いながらコーヒーを飲む音に紛らせると
熱さに溶けそうな口中は、何が問題なのかと抗議する

月曜の疲れ切った背広を想い出し開けたクローゼットでは
眠っていたシャツが寝ぼけたまま怒り
寝ぼけることも出来ない背広を指差したので
コーヒーを含んだままの口中も少しは納得して静まり
もう一口なら付き合っても良いと言う

受付のお姉さんが綺麗だったのが確か火曜で
地図を調べに調べたのは水曜で
約束を交わしたのが木曜だったはずだけれど
約束を果たす予定だった金曜は来なかったはずで
そのまま迎えた土曜は、なんとも厄介だね

そう、ぼやくと時を数え始めていた土曜が振り返り
日曜なら全てを忘れさせてくれるんじゃないか、と言い
土曜の全てが、その意見に同意して、そうだそうだと続き
そんなものかと想い始めた頃にまどろみが訪れると
ちょいと忘れた振りをしていただけさと
土曜が悪戯な微笑みで言い残して去って行った
2012-08-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そして飼い主を忘れた犬だけが守る

雲間に涙の終わる季節に虹が掛かると
三日月の薄光を浴びながら静かな霧雨が訪れ
哀しみの降り注ぐ峠を越えて景色が開けた

苗のないままの水田には既に水が引かれ
それとも感じぬ程の風にすら煌いて
旅人は疲れたままに人の匂いを求めて山を下る

幾度も足を取られた悪路の果ての村には
飼い主を忘れた犬が入口に居座り
妖気漂う、低く長い唸り声を辺りに響かせており
あちこちより仄かに漏れる燭光は淡く
人の気配のない夕餉が微かに匂った

哀しみの果てに村人達は涙を捨て
涙を捨てた果てに村を捨て
たった一匹だけになった犬は飼い主を忘れたままに
哀しも涙も捨てられた村を守るのだった

既に旅人が求めたはずの温もりは村になく
犬の堅固な意志だけが哀しみを抱き続け
流せない涙の代わりに唸りを響かせ村を守るのだった

涙の始まる季節を追って、旅人は
幾度も幾匹も、そうして飼い主を忘れた犬に遭い
暫しの憩いに少しは懐く犬を抱き
涙の名残に包まれて、ほんの少しの眠りに就く
2012-08-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

優しさの一つが哀しみとなって降り
打たれた湖面に円心状の波が放射すると
真円の湖岸を巡る足元には
止まったままだった秋風が吹き
辿っていた足跡が薄れてゆく

寄せる波は一点に
再び三度、哀しみとなる優しさに
慕情を連れ戻っては泡沫に消え
止まっていた歩みも
二歩、三歩は進むのだけれど

ようやく想い出す明日が夕暮れを呼ぶと
優しさだけとなった面影は夕雲に潜り込み
温かな驟雨となって
優しさの全てを奏でる雨音を響かせる

だのに傘もなく雨に打たれては
捨てられた哀しみを拾い集め
もう来るはずのない昨日に注いで
幾度も通り過ぎたはずの
湖岸からの上がり口を過ぎてしまう

壊れた懐中時計だけは正確に時を刻み
得る前に失った全てを数えては
忍び込んだ雨水に静かに錆付きながら
永遠の終わりに向かう微かな秒針音を
心音に忍び込ませる

いつか斃れて仰ぎ見た空は暮れていて
想い出す何もないままに、いやに山際が紅く
暗い紺色の闇を厚い雲が通り過ぎ
その合間、合間に浮かぶ名も知らぬ星は
優し過ぎる淡さで光り、消えてゆくのだった
2012-08-14 17:09 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜は夕暮れを待たずに訪れる

夕暮れを越さない夜がブラインドの向こうに降り立ち
真摯過ぎて滑稽なだけの全てに出遭い
どうしたものかと悩んだ振りをながらも取り敢えずは闇に包み
実のところ、どうする積りもないままに闇に包んでみた

夕暮れは跨がれるためにだけであることに飽いて
とうの昔に夜を捨て、暁と名前を変えて空から去って久しく
私達は夕暮れ時の喧騒や寂しさから遠ざけられて
生温かい朱に光る雲を眺めることだけを夕暮れとした

あらゆる虚構が街の全てである街路樹を歩くと
嘘を枯れる広葉樹の落ち葉が肩に降り
嘘を涸れる噴水の飛沫が頬に掛かり
嘘をまとった涙に暮れる私が独り、そこに立っていた

それでも、この街には夕暮れが来ないし
それでも、この街には夕暮れがないし
それでも私は独り、嘘をまとった涙に暮れたのだ
2012-08-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

全てと零とは似ているか、同じだ

嘘だけが風として吹き続ける街に
明日の朝刊が誰にも振り返られることなく舞い
今日という全てが昨日となって繰り返され
昨日という零が宇宙史を遡り続けた

失うということが共に居続けることの出来ないことなのか
あるいは信じることが出来ないだけのことなのか
あるいはただ裏切られただけのことなのか

いずれであろうとも、いずれでもなかろうとも
失うに値するものが果たしてあったのだろうかと問いながら
飽くことなく、鬱陶しく目前を舞い続けている
文字の書かれていない新聞を見詰めながら街を歩いた

朝刊を手に取る人にだけ今日は訪れ
昨日は去って、明日は来るのだけれど
振り返られることすらない朝刊は街を舞うばかりで
全て、街中の街角に吹き溜っては
草臥れたままに立てたコートに吹き込んでくる

それでも尚、風はコートの脇下を吹き抜けて
曲がることの出来ない街角で、横目に新聞をチラリと見ては
告げる必要のない明日を抱えたままに過ぎ去り
置いて行きたい昨日を置き忘れたままに過ぎ去り
何処にも行けない今日だけを街と共にして吹いている
2012-08-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

唇の形だけを信じたかった

偽りだけで出来た祈りを照らし
雷鳴を伴わない激しい閃光の反射した雲は
ひたすらに、どこまでも深い暗闇で
私の愛した貴方の瞳に、どこか似ていた

時に拒絶された一瞬に永遠を求めて
真夏の寒さの中で花弁が震え
真冬の暑さの中で種子が芽吹き
春と夏と、それぞれの中では全ての生育が止まり
つまりは愛の育つ時は永遠に失われ
永遠が幻の一瞬に凝縮されたのだった

偽りだけが流れる川を縦断すると
上流から零れ流れくる偽りだけが足に絡みつき
やがては川に代わって遡上を拒否し
その偽りを裏切りと名付け、足から取り除いたが
そのまま下流へと流れ去っていくことはなく
岸辺に生える水草に絡まって、なお留まっていた

流れが激しくなるに連れて閃光は一層、激しく
飽かずに雲を照らし散ることを繰り返し
それでも雷鳴は、なお遠ざかって行くばかりで
貴方の瞳と、唇から漏れた言葉に似ている

もう水に浸った足の感覚はなく
歩いていない歩行だけが川の上流を目指しているが
いよいよ叢雲も千切られて切れ切れになり
それでも尚、激しさを増し続ける閃光は
開けた夜空の闇を満たす無限の粒子を照らし
ほんの微かな信仰に似た祈りに変わって闇に去った
2012-08-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

背景を捨てた犬を見つけたら

背景を捨てて歩く犬は呼ばれることなく
見られることのない虚空の中で
生きることを喪失したままの命を生き

背景も色もない景色の中で独り
決して進むことは出来ないというのに
決して歩みを止めることも出来ない

乾いた涙も乾かないままの涙も等しいように
犬の瞳は白濁することすら許されず
涙の色を想い浮かべることすら、とうに忘れ
ただ呼ばれ、ただ駈けった記憶の熱さえもが
微かにすら吹かないままの風に奪われ続けるのだ

捨てられた背景は知らぬ誰ぞのものでしかなく
あの背景を捨てるという選択は
正しく犬が犬であるために必要だったが
名が描かれ、涙が描かれ、全てが描かれていたのは
結局は背景だけでしかなかったのだった

不要な硝子カップが割れると
必ず、その硝子カップを必要とするものが見つかり
始めて割れたことに気付くように
背景を捨てた犬は必要なものを見出したが
それら全てを喪失することでしか
犬は、正しく犬であることが出来なかったのだ
2012-08-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

絶えない小川の涸れる時

そこだけが優しい記憶に包まれた森の一隅に
遠く来たから降りてきた風が一陣の旋風を最後に
風であることを捨て留まったが
直ぐに森の誰もが彼が風であることも
風であったことすらも忘れてしまい
やがては彼自身も風であることも、あったことも忘れ
優しい記憶の曖昧な一つ、つまりは森の一隅になった

森には冷徹な四季に従い巡りつつ冷徹に連鎖する一隅があり
激しく互いを喰らい合う猛獣の住まう一隅があり
全てを忘れて風に吹かれることだけを待つ一隅もあったが
風であることを捨てた風が訪れることなどなく
ただ風に吹かれることを待つことだけが全ての一隅となっていた

それら全ての一隅一隅を巡る小川は黙ったままで
風が降り、風が風であることを捨てることを見守りながらも
やはり黙った小川のままに下り続け
経巡った全ての一隅の記憶を流れに乗せて海と遭い
何も告げぬままに、いつものように森の奥深くに静かに戻り
いつものように森の一隅一隅を経巡るのだった

やがて全ての風が、風であることを捨てると
海にも風が吹かずに小波すら消え失せて
ただ風の名残に揺蕩う微かな波とも言えぬ波だけの海となり
それでも小川は黙ったままに森の中を経巡って海と遭い
森へと戻っては優しい記憶の横を黙って通り過ぎ
冷たい水音だけを残し、二度と帰らないままに涸れるのだった
2012-08-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

壊れた街の中を不正確に歩く

壊れた街の壊れた街角を曲がり続け
正確に90度の角度で曲がる街角を迎えたが
壊れた街中では正確さすら壊されていることを示し
正確に90度の角度で曲がる街角を曲がる者も皆
その正確さで曲がることなどは出来ずに
壊れた90度の正確さは保ちながらも
想い想いの方向に曲がっては消えてゆくだけだった

互いに120度で交わる道の交わる三叉路の真ん中に立つと
私達は三方に引き裂かれて行く先を見失ってしまうので
常に三叉路は正確な120度で交わらないように壊されたままに作られ
私達は壊されたままの三叉路に立って始めて行く先を認め
あるいは凡そ10時の方向に、あるいは凡そ2時の方向に
そして、あるいは凡そ6時の方向に向かうことが出来るのだ

それでも壊れた直線道路を真っ直ぐに歩いた積りになっては
こんなに曲がりくねった直線などないと文句を言い
実際の所、確かに正確に真っ直ぐに歩いているかもしれないが
不正確さの基準にすらされることなく
誰も本当には求めていない正確な足跡は見捨てられ
見出す意味も見出されないままに
四方八方から慌ただしく過ぎ行く足跡に蹂躙されて
やがては壊れた街の壊れた残影として息絶えてゆく

その中で、やはり壊れた関係を保って恋人達は
壊れない愛を知ってでもいるかのように語り合い
壊れない愛を経験してきたかのように抱き合い
壊れない愛を保ち続けられるかのように誓い合い
結局は壊れたネオンの壊れたベッドの上で
夜が壊れては冷めてゆくだけの恋を確かめては
壊れ始めた朝の街角を肩寄せ合って曲がり
それだけは正確だった互いに組んだ指を解いて
不正確な三叉路を過ぎて独りの道を互いに進むのだった
2012-08-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

だから熱帯夜を愛した

幾度、冷たいシャワーを浴びても
変わらずシャツが汗ばんで肌に張り付く夜
熱せられた空気に包まれたままに
数キロも離れているだろう線路の音や
遠い幹線をけたたましく走り抜ける車やバイク
どこからともなく届く得体の知れぬ音達は
部屋に届いて響いて消えるが
微かな騒がしさが残響し続けては夜の空を満たす

だらしなく抱き合っては冷めゆくばかりだというのに
互いの体温を確かめ合うことすらしないままに
少し開いた窓から温い風が吹き込むホテルの一室で
幾度も飽くことなく繰り返し抱き合っては
耳に残る微かな残響だけを夏の想い出に変えていた

半日も前には波に反射する陽にはしゃぎ
季節を共にする人達の中に混じったままに
熱した砂に焼かれた足裏を合わせては笑い合い
それでも冷たく感じる海に潜っては
透き通った海中ですら互いを見失うことに怯え
手を取り確かめ合っては光に包まれた

そして海側から吹き始めた風に吹かれるままに
肌から海が去ってゆくのを感じつつ肩寄せ合い
夕陽に染まる同じ海を見詰め続けては
互いの熱が夏を凌ぐ時を共にして
夏だけが冷める時を待ったのだった

二人が待ったように夏は冷め
しかし知らなかった速さで互いの体温も冷め
ただ夏の夜の空気だけが、やけに暑く熱を持ち
哀しい残響の中で腕枕を絆に寄りそう二人は
出遭うはずだった穏やかな日を想い出そうとしながらも
その記憶のないことに涙し
やり直しの効かない夜の記憶の中に眠ることにして
明日は早い時間に旅立とうと黙って約束を交わしたのだった
2012-08-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遥かなる零距離で(AUG.08.)

ただ止まぬ哀しみだけを理由に
寄せ返し続ける波の音は海風に運ばれ
ただ始まらぬ出遭いだけを理由に
世界中を吹き続ける風の音は空を駈け
ただ立ち止まったままの寂しさを理由に
ここに立ち尽くす私達は光を求め
互いの瞳を見つめ合える距離を測り続けている

遠い夜の闇は激しい哀しみに満ちたままに
優しさに出遭うことのない寂しさに暮れ
今日もまた、やはり遠くから訪れるが
記憶にない瞳を追う夜を跨いでいるだけでは
漆黒に包まれた夜を越え続けるには難しく
出遭ったことのないという温もりだけを頼りに
別れのない別れが眠りを招く

距離という離別に光る宝石は夜を走るだろうか
それとも月のない夜の満天の星に混じり
誰にも気付かれない微かな一つとして
あるいは砕け散った彗星として空に戻るのだろうか

優しい夜を包む星達の囁きには耳を傾けられても
心音すら聞こえてくる距離は、あまりに遠過ぎ
私達は隣り合うという遠ざかり方の中で
越えようのない遥かな零距離で互いに向き合い
見たことのない瞳を想い出しながら
遠い昔に出遭ったはずだという想いに捕らわれつつ
流れることのない涙を湛えた瞳を想う

そうして私達を置き去りにしたままに
残酷な正確さで刻まれ続ける時に追われては
優しさとは何なのだろうかと、それぞれに問い
答えを見出せないと知る夢に沈み遭うために
哀しみを忘れた哀しみの眠りに身を託すのだった
2012-08-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空に手紙が描かれると星が散る

数え切れぬ程の日々を尽くして書いた紙切れは
風とも感じられぬ風にすら居場所を失い
二度と想い出すことすら許されぬままに消えたが
あまりに当たり前の虚しさに振り返ることすら出来ず
新しい紙切れをポケットに詰め込んで歩き始めた

そうして常に失われ続ける紙切れを手紙と呼び
手紙を届けるべき人を失った恋は終わることがなく
失った恋を互いに探し求めることを愛として
語ることを失った愛は夜空に物語として託され
星と星との間に生れる闇の中で、ひっそりと
静かに語られることを待っている

始まりの夜空に月はなく、ただ光にだけ満ち
光と光との間に星々が生れ、星と星との間に闇が生れ
闇と闇との間に物語が産声を上げた時に
遥かな水平線よりも更に薄い三日月が生れようとし
太陽が眠りから覚めて物語を拒否したけれど
空に君臨し続けることは出来なかった

物語に押し潰された闇に、更に引き裂かれた星と星とは
誰にも聞かれることのないように、ひっそりと物語を闇間に隠し
あの薄い月が徐々に厚みを増して終には宙を模り
物語と物語の間を渡り歩く時を待ちながら
ただ静かな夜空で、互いが光速で離れゆくままに任せつつ
絶対的な別れには哀しみがないことを闇に隠し続けていた

やがてまるで無関係な想いを託された満月は
東の水平線を境に、もう一つを穏やかに揺蕩う海面に浮かべつつ
闇間に隠されただろう物語の欠片を拾い集めながら
繋がることのない言葉を紙片に書き留め続けては
誰に手渡すでもない詮無い手紙に変えては
静まり返った街という全ての街の上に月明りとして注ぎ
その様を見届けた星という星の全ては
少しだけの満足と共に安堵して、直ぐに訪れる暁に眠るのだった
2012-08-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

七月のカクテル

夕暮れ時とも、まだ言えぬ七月の17時に
隣家との僅かな隙間から一瞬、射し込む陽光があり
その陽光だけに照る部屋がある

ようやく見える空には積乱雲の端が伸び
既に赤みがかり始めた光の中に吸い込まれながら
消える時を失って立ち止まり
そして再び陽光が抱えた部屋には
七月特有の、あの風が吹く

並び歩いた記憶のない人々が商店街に満ち
威勢の良い呼び込みを交わし渡ると
18時に開くバーの前には
電飾が灯らぬままに、ぼんやりと看板が立ち
重いドアは、それでも古い響きの鈴を叩き
客の訪れを店の内外に、それとなく報せる

いつものカウンター席に座ると
黙ったままのバーテンがいつもの古いカクテルを置き
また黙々とグラスを磨き始め
私も黙ったままに七月のカクテルを飲み始めるのだった
2012-08-06 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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