無題

虹を渡る歌が遠く山を越え
積乱雲に埋もれた海に届くとき
その耳にも、この波音が届くだろう

温かに煌めく波と太陽と
どこまでも白い砂浜から伸び
誰にも穢されない波音を

子供達が歓声を上げる磯では
赤や青の蟹が岩間に籠っているが
夕暮れに子供達が飽くと
温かな波音に穢れを運んでもらうのだ

それを知ってか知らでか
いつも波は荒れることを知らず
スコールにも静かなままで
遠い深海にまで陽は透り
全てが一つだった頃の儚い夢と
いつかを祈る眠りとに満ち

二人の流した宝箱も、ただ、じっと
開くことのないように抱き締めて
いつかが来るまでの眠りに就いている
2012-11-30 22:40 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

流れぬ河の流れる時

物語の架空を流れぬ河を
架空が横切り鳥が啼き渡ると
物語は終焉を迎えた

別れという出遭い方に雨は降らず
降らぬ冷たい雨を嘆いて歩く街は
疲弊に沈み消えようと
人影を拒絶して抱擁する

影を失ったまま人々は
出遭いも別れも喪失したままに行き交い
意味を持ちえない涙を交わしては
言葉という呪縛に縋り付く

それでも河は流れ始めることすら知らず
虚構を漂う霧となり
深い森の霧氷に結実し
流れない時の中で時を数え
咲くことを忘れた花を待っていた
2012-11-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

宴を知らぬ手帳

壊れぬものをゴミ箱に放り
壊れるものだけを記した手帳を
穏やかな風が愛で、撫でては過ぎ
時に変えて世界を巡る

幾年も変わらぬ手帳は
閉じられたまま読む人もなく
厚みだけが増してゆき
ほんの少し傾げれば
星も巡らない時の積み重ねが埃として落ち
開かれない手帳のプライドに変わるのだ

優しさを記したくても知らぬまま
独り手帳は寂しさだけを綴り続けていたが
その寂しさが優しさの全てで
風の運ぶ重荷でもあったが
手帳の周囲には花が咲き、鳥が舞っている

美しさを忘れた花鳥の宴は静かで
真ん中に置かれた手帳は宴の喜びを知る由もなく
ただ透き通ることだけに縋る空を仰ぎ
その哀しみに寂しさを重ね
また厚みを増してゆくのだった
2012-11-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

愛しさの渇きは止まず

偽りの優しさを下ると
涸れた泉から湧く絶望を飲み
虚ろに哀しみだけを抱いて
終わりだけで出来た眠りに就いた

愛した人の面影を求めると
波間の光が嘲笑い
乾いた砂が目に入った

抱き締める術を持たないままに
ただ愛しさだけを歩き
燃えない心は冷たさを覚えず
暁の紅い月を見上げるのだ

いつ終わるとも知れない風音は
泣くことだけが許されると告げて去り
立ち尽くす影から嗚咽が漏れ始めると
朝を忘れた夜が覆い被さってきた
2012-11-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

良心が消えて海は蒼く

タールのように黒く雨が降り
大地を染め抜いて固く
やがて晴れた空は素知らぬ振りで
どこまでも透き通り、青く
海はただ、深く暗く蒼くなるだけで
厚みを失った水平線だけが見詰めていた

全てが漆黒の街に人影は映らず
いかがわしい吐息だけが行き交い
背景に紛れて見えぬままに
黒い涙達が流され続け
人々の足取りを奪い続け

不信だけで出来た幻燈が一つ
光を失ったままに点滅を繰り返し
蜃気楼の中に記憶を送り
光だけに満ちた希望を探っている

遠さを失った旅路に迷った旅人は
街の漆黒に染まりながら空を仰ぐが
黄色く大きな月は、いつまで経っても昇らず
星すら失った青空は青い海に委縮し
良心の在り処を微かに示していた
2012-11-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

偽りに浸り

歩き疲れて斃れた男は薄く横たわり
その上を人々が行き交い通り過ぎつつ
気付く者とてないままに雨が降り
その背中を濡らして流れ
やがて街路を運び始める

瞳に映る曇天は動かないままに
その光の鈍さだけが増してゆくばかりだ

時折は捨てられた煙草にも出遭い
手を伸ばそうと想わないでもないが
伸ばす手すら萎びたままに
泥濘を掴むように掻くばかり

偽りにしかない優しさに縋り
偽りだけを求め、愛したままに
雲が厚さを増しながら早駆けし始めると
男は薄いままに壁に凭れ立つ

風のないままに雲の速度が増し
クッキリと浮かんでいた虹すら飲み込んで
山際を越えつつ沈む先を求めながら
次々と現れては去ってゆく

ようやく立っているだけの男は
それだけが動かない雲に映る自分の影を
仰ぐままに厚みのない涙に濡れている
2012-11-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

独りで河原を歩いていると

河原の光る石が透き通り
せせらぎを映して川は流れ
波打ちつつ下る葉が一葉

何処の樹が落としたものだろうか
傾く陽の光を冷たく受けながら
沈む先を知らぬままに酔いどれ
早く夜空を仰ぎたいと願っている

風の入らない窓に硝子はなく
ただ哀しみに似た優しさが訪れるが
振り返る人のない街通りを行くように
全てが通り過ぎるだけだった

坂を下ることのないボールを蹴り
向こうの見えない坂上を見上げると
大きな満月は白く
明日のない夜の訪れが近いことを告げ
小さくなりながら夜空に旅立っていった
2012-11-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

去った月と居並べば

池に落ちた月が小波に壊れ
直ぐ傍の池端に手を伸ばしても
壊れたままに動けず
小波だけが静かに池端を打っている

池に注ぐ泉の音は微かで
星明りにさえ紛れ込んでしまい
柔い葉すら揺れることのない
微風にさえ運ばれ去るのだった

幾度も繰り返す哀しみを
その柔肌に包み込んで
ただ夜空は暗く、闇に沈み
向ける宛のない想いとともに
星が巡ることを許している

やがて来る朝陽は紅く侵し
厚く低い雲を携えた青空からは
幾筋かの光柱を地に落とし
その中には、あの池もあるのだけれど
月は既に去って久しい

池端に座ると時折、顔を掠める陽の光
そこに暖かさを感じる程に
涙が止め処なく流れ
池端に届くことのなかった月と
少しだけ肩を並べた気がしたのだった
2012-11-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

開かれざる詩集に挟まれた栞

記憶の哀しみを栞に詩集を閉じ
光を失って月は昇り
眩い光を放つ星達の間を抜け
たった独りきりで吹き続ける風に会う

甘美な鐘の音は山を越え
遥かな北の水平線に凍り付き
陽の暖かさに溶けることもなく
失われたままに眠り
月は求めても得られぬままだ

空き缶を蹴っていた子供達は
夕暮れを見上げていたが
既に帰路に就いたのだろうか
黙ったままの空き缶だけが残され
鈍い光の闇に沈んでいる

辿る先は壊れ掛けた街燈で
途絶え途絶えにボンヤリと光を灯すが
虫達すら気付くことはなく
やはり、ただ独りで夜空に晒されている

光は星達だけが占有し
持たない者達が孤独に沈んだまま夜は更け
記憶したくない時間として積み重なって
詩集の一頁一頁毎に挟み込まれ
私達の本当の夜は始まらないままなのだ
2012-11-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

星の光を読もうと佇み

一頁一頁、几帳面に捲られながらも
書き記されることなく閉じられた日記を開くと
星の光が零れ落ち、蛍となって飛び散り
雪となって降り注いだ

それらを追い、手に取ると
蛍は光ることを止めて、ただの甲虫に戻り
雪は冷たくあることを止めて、ただの水に戻り
星の光は月明かりに紛れて消えた

追ってはならない時が過ぎたというのに
まだ白紙のままの日記を閉じることが出来ず
茶けた紙面を指でなぞると
遠い優しさと哀しみが綯い交ぜになって
静かに風となって吹き始めた

優しさを求めてはならないし
哀しみにしがみ付いてはならないし
過去を想い出しても詮無いしで
更ける夜は、静かに月を抱いている

もし一言でも記してあったなら
こんな夜を迎えることはなかったのだろうかと
戻っては日記を捲ろうとする風に吹かれ
それでも、そのページを開いたままに
月明かりに消えた星の光を探すのだった
2012-11-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

昨日に繋がらない今日

明日を知らない今日を
ただ独り、つらつら眺めるままに
来ないままの今日として過ごしていると
忘れた昨日の優しさが吹き過ぎた

オーロラが果てしないツンドラを跨いで
波に揺られつつ海面に漂っては
時と空間を光に変えながら
白夜の空のカーテンを閉じ
一日の終わりを曖昧にしているのだ

冷たさに、寒さに身は凍て付き
時を知らない幼子のように震えては
ただ凍り砕けるだけの涙を流し
寂しさだけを足跡に雪原を彷徨った

飼い主を捨て白狼であろうとした犬が一匹
仰ぐ瞳にオーロラは映ることなく
燃え盛る氷雪の焔が揺らめくままに
ここに至る足跡は雪に埋もれ
ただ降る雪と一つになってゆくのだった
2012-11-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

波音の記憶を辿る

波の泣声を聴きながら
遠く水平線に消えてゆく鳥の群れを追い
背後で響く喧騒に懐かしさを覚えては
海を漂う月を眺めていた

失った哀しみを忘れた時が切り裂いた記憶は
砂に混じり、波に洗われ尽くすのを待ち続けるのか
波音は静かに凪いだように聴こえない

海面が陽光を反射するので
海水が陽光を吸収してしまうので
海底には陽光は微かにしか届かず
やがては闇に消えるのか
そっと歩いても煙るはずの海底だのに
それでも変わっては見えないのだ

ただ遠い山鳴りが低く足裏から伝わり
すぐに海水に変わってしまう涙が出るだけで
やはり想い出す何ものも見つけることは出来ず
独りの問いだけが時を刻み続ける

向こうの岸には優しさがあるだろうと
海面を低くスレスレに風は吹き
その風に吹かれたくて海面に出ると
今まで息をしてなかったことを想い出し
もう少し想い出すことがあるのではないかと
欠けてゆく月を見上げるのだった
2012-11-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夕暮れ空を仰ぐ理由を求めて

その哀しみを知らぬままに
月も陽も巡り、星も駆け
風さえもが吹き抜ける

黙ったままの空からは
冷たい雨だけでなく雪すらが降り
全てが去ってゆくのを見守るだけで
だから見上げて仰ぐのだ

海が山に変わるまで続いた哀しみを
再び山が海に戻るまで
ただ見守るだけの哀しみを
空に求めて仰ぐのだ

止むことのない哀しみに染まったまま
夕暮れの茜色に変わりゆく
やがて闇にも包まれようが
今はまだ、少しは暖かいだろうから
2012-11-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それでも電燈は光り続けるのか

掌中の玩具の冷えてゆく時間が
あまりに、ゆっくり過ぎて
つい又、動きだすのではないかと
捨てるに捨てられないままに埃を被り
そして朝陽に鈍く光っているだけだった

夕暮れを過ぎて見上げる夜空は晴れ亘ったまま
月も星もなく、ただの闇で
街の光さえも遠い果てに向けて抜けてゆくだけで
光のないままに光り、晴れ亘る闇だった

歩き続ける街路の足音達は
交錯するだけで砕けては路傍の枯草に混じり
枯葉が、その上を覆ってはなかったものとするので
ただ黙ったままの足音達も消えてゆくのだ

時が全てを覆って過ぎ去ってゆくように
偽りが全てを覆い尽くしては笑い
ただ哀しみに暮れる電燈が一つ
光るアテもない夜に点灯し続けている
2012-11-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

枯葉が崩れ始めると時が終わる

教えてもらったはずの歌を口ずさむ夕暮れ
赤い太陽は水平線に掛かり、白い満月は山に掛かり
過ぎるだけの自分を風に任せた時間は鉛直に沈み
地球の裏を突き抜け夜明け前の星を目指す

傍の花に言葉達を預けたまま
流れることを忘れた時間だけが線路に残り
遠くへ走り去るだけの汽車の音に耳を澄まし
ただ降り重なってゆく哀しみを抱いたまま
どこへも行かずに優しさを待っている

伸び切った影は闇に薄く混じり始め
その吐息を聞き続けたはずの時刻を時計が示すが
二度とは来ない空白だけが部屋を満たし
読み始めた詩篇は白紙のままなので
ただ意味のない言葉を書き綴るのだった

遠ざかる一方の時間を追い想い出しながら
余計に書けなくなることだけが溢れ出し
結局は眠らないままの夢の中に逃げ込んで
想い出せないままの時間を愛し続けるのだ

やがて戻らない時間を受け取った星が昇り始め
時間を失った切なさを光っては散り
流星は水平線と地平線の境を目指したが
失ったはずの時間を微かに残す枯葉が一枚
デスクの上でカサカサと音を立てて崩れ始めた
2012-11-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

振り返らずに何処に消えたのだろうか

全ての冷たさを抱いた月裏の氷穴ならば
地球を照らさない陽の光を見ることがあるだろうか
遠く幾百億光年先で凍て付く陽の光の粒の微かな軌跡を
ガタついた机上の埃と共に、忘れられたまま微笑んで
決して届くことのない手紙とともに

貴方の後を、貴方の跡を追い縋るならば
誰も通ったことのない道を歩くことが出来るだろうか
私だけが通り抜けては消えてゆくだけの足跡で出来た道を
ただ一つの何物も残さずに、消えてゆくままに微笑んで
決して振り返ることのない風に靡く一束の髪と共に

見る人を求めることなく花束を飾りながら
添えるべきメッセージを考え続けても
宛先を失ってしまったことに気付くことが怖くて、哀しくて
何度も白紙のメッセージを破り捨てては花束をも捨てたのに

独りの夕暮れを街中に求めても侘しくて
数え切れぬ程、独りきりの夜を探し求め歩いたけれど
どこへ行っても辿り着いても、仄かな温もりと優しさに出遭い
戻るべき所を忘れてしまいそうになる

何も振り返らずに、どうやって消えたのだろうか
何処とも知られずに、どうやって消えたのだろうか
ただ黙ったままの風に吹かれるだけで
それでも鼻腔奥の微かな残り香は、いつまでも消えず
ただの冷たさだけに身を任せ竦ませて
忘れられない髪を梳いた手を見詰め続けている
2012-11-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ただ、いないだけの朝を

夢から覚めれば消えてしまう影を抱き
終わるためだけに許された夜には
泣くことさえ許されぬ冷たい風が吹く

遠くを見詰めながら呟く声を
別れの数を数えながら耳元で聞き
その優しさを数えながら
目覚めぬことを祈りつつ眠り
それでも朝は巡ってきてしまう

離してしまった手の温もりが
残酷な冷たさに変わって心臓を包み
心音は波音へと変わって
水平線の彼方の凪へと向かう

止まらなかった、あの日を置き去りにして
過去は未来へと疾駆し続け
立ち止まることを許されないままに
背後に流れ落ちる涙すら
振り返ることが出来ないでいる

偽りだけで出来た朝日が昇り
その陽光が透き通った身体を射抜けて
冷たいアスファルトに映る影が消えたなら
もう一度、消えない影を抱けるだろうか

それでも冷たい朝陽が射すと
昨日は遠く、明日が近付いてくるのだ
まだ微かにすら夜の足音も聞こえぬというのに
抱けないままの影が消えて
明日の方が、近付いてくるのだ
2012-11-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

名前を借りて、探します

儚さに名を借りて哀しみは
さやけき月の風に乗り
波音のしない波を探し続け
新月の闇に沈みゆく

星の涙を拾って哀しみとして
泣き方を教えてほしいと懇願しても
黙ったままの優しさだけが返ってくる

月のない夜には風は吹かず
ただ冷たいだけの霧雨が
微かな光を反射しながら降ってくる

灯台は水平線を見詰めたままに
吹かない風を光に変えて待ち続け
月のない夜を照らすのだ

雨を風とし、風を雨とする
激しい嵐に見舞われたことを
そっと想い出しながら灯台は
月のない夜を照らしては
儚い夜を、独りボンヤリ過ごすのだ
2012-11-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

月の酒瓶を川に投げ

月の涙の一粒、一粒が
夜空に描いてゆく模様を追うと
来ない朝よりも早く
過ぎ去った夜達が訪れる

星の間を縫うように流星が走り
哀しみは後を追うけれど
遠ざかる光は、やがて闇に変わり
疲れて立ち止まった掌に
そっと流星は立ち止まった

足裏の感触がないままに
足音だけが響く夜は哀しみに遠く
理由のない涙だけが流れては
戸惑いに変わって足止めするが
それでも夜は過ぎているのだろうか

昼の陽中に過ぎたブランコが
変わらぬ周期を保ったままに揺れ
公園の賑やかさは空気に記憶されたまま
今は黙って明日を待ち続けている

手に提げた酒瓶に月が唇を寄せ
アルコールに酔いたがったが
星達が手を引き夜空に戻って行った

どうせ中身のない酒瓶なので
川に放ると音もなく川面に浮かび
月と並んで遠い海に流れて行くのだった
2012-11-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

明日の来ない夜に抱き

硬く尖った乳首を唇に含むと
長く淫靡な吐息は遠ざかってゆき
あえぐ首筋に汗が滲み始める

呼んでも答えのない名前を
その耳元で囁いても答えは更に遠ざかり
仕方なく耳朶を甘噛みしては
項から首筋に、首筋から脇へと唇を這わせ
柔らかな臀部を鷲掴んで寄せた

自分を包み込む温かさに酔いながら
二つの視線が見ることなく見上げたファンは
部屋中の淫らな空気を掻き乱し
私達は長い時間、汗にまみれ
それぞれの淫楽の中に沈み込んでいた

互いの素直な反応だけを頼りに
違う愉悦に深く沈むだけ近寄る私達は
遠くで聴こえる互いの声に空虚さを覚えながら
それを埋めることには背を向け
より奥深く沈み、迎えることを選ぶのだった

やがて静かな夜が優しく訪れると
語ることのない満足さと空虚さに抱き合い
明日の来ない時間だけを祈りながら
傍らの詩集に手を伸ばすのだ
何も書かれていない、白紙の詩集に
2012-11-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

哀しみを想い出せないままに

淡い風音が耳元を掠め吹くと
遠い記憶が哀しみに変わり損ねたことに気付き
歩みは月の沈む早さで停止に向かい始め
アスファルトを踏み締める足音が遠ざかっていく

砂利を踏む不快な音が気になり
顰め面しているうちには気付かずに
ただ性急さだけで俯き歩き続けていたことを知り
苦笑いしながら顔を上げると
貴方は柔らかな微笑みでベンチに座っていた

空を仰ぐと、そこが虹の終わりで
私達は、そこを虹の始まりにする方法について話し
分厚い書籍を捲りながらアレコレ考えるが
結論が出ないままに貴方の忍び笑いに誤魔化されてしまった

陽の傾きを待って私達は立ち上がり
そのまま挨拶もせずに別れ行くというのに
別れの瞬間だけは暖かな気持ちが全てを包むのだ

哀しみは想い出の中にすら留まらず記憶の底に沈み
そのまま沈殿したままでいてくれたら良いというのに
優しく淡い風が吹くと、記憶は濁り
止め処なく理由のない哀しみだけが満ち
その胸の柔らかさに溺れることだけを祈った
2012-11-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今朝の出来事は不確実で

邪まな波音が去り歩く足跡は白く
点々と紅く染まった浜を行く

空から青さが遠退くと
白い月が森から昇り始め
いやに大きく光り
波は白く、青くも染まった

闇に包まれるのは怖いので
波音だけに耳を澄まして吐息だけを聴き
シーツを掻きむしり続けた

強いアルコール臭が鼻腔を満たし
街の気配を運び始めると
薄目で紫煙の行方を追いながら
冷たい背中に手を回す

朝陽に包まれながら聴いた
穏やかに凪いだ波音には
直ぐに手が届きそうで
それでも手を伸ばせば遠ざかり
二人の間は水平線に向かったのだった
2012-11-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

丘へ続く坂道

丘の上に廃電車が一両、置かれているという
季節が来れば草が伸びて半分は覆われ
その重みで車両自体も相当、地面にのめり込んでいるらしい

丘へ続く坂道は陽の光に照っており
人は皆、押し黙ったまま風景を見ることもなく
一歩一歩、緩く長いだけの坂道を上っている

丘の上には風が吹き続けているが
やはり風景を見ることなく吹き抜け
その一瞬に車両に触れては過去を遡り
直ぐに忘れて吹き去ってしまうのだ

本を遡って読むと想い出すこともあるが
ほとんどは忘れていて想い出すこととてなく
ただ鼻腔に漂う昔だけが彷徨い
出所を探しながら体内を駆け廻るようなものだ

温かさを忘れた太陽の陽を浴びて
ただ凍て付くままに丘の上で風に吹かれ
人は哀しみを忘れる術を手に入れることが出来るのだろうか
今日も又、人は丘へ続く坂道を上り続けている
2012-11-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

吹く風と、留まる風と

次のフレーズと共に吹く風は
しかし、便箋の上に留まったままで
幾百年が過ぎたのだろうか

家屋は、とうに森に還り
森にはビルが立ち並び
ただ慌ただしいだけの足音が行き交っている

夜になれば星月の光が揺れ
自由に吹き抜ける友達を教えてくれ
たまには一緒に吹き始めようと誘ってもくれる

積み重なった落ち葉は重く
それでも春になれば土筆も押し上げてくれるのだが
ただ風は便箋に書かれた文字と共に
待つ甲斐のないことを知りながら待ち続けていた

書き手を失った便箋の欠片は飛ぶことがない
そこに風が留まり次のフレーズを待つからだ

手紙を宛てられるはずの少女が岬に立ち
小舟が戻るのを見ては小躍りしながら
螺旋階段を降りて行く姿を想い出すことが出来るから
その姿を想い出と夢に変えて
風は穏やかで優しい夢の中に留まり続けるのだ
吹く風には決して見ることの出来ない夢を見続けるのだ
2012-11-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

穢れてゆく泪が波を洗うと
遠く山を越えてゆく波音は虹を渡る

乾くことのなかった洗濯物達が丁寧に畳まれ
部屋の中で静かに哀しみを撒くと
独り歌は口ずさまれる

空は青いままなので嵐が来ても気付かれることなく
激しい雨音すらが誰の耳にも届かないまま
ただ雨戸が打ち据えられ引き裂かれ

泣きたい夜に流れる涙は嘘ばかりなのに
拭うハンカチは、もらった時の白いままで
ただクシャクシャに、皺だらけになるだけだった

誰かの視線が穢れを見つめたまま黙って川を遡り
濡れた足跡が渓流の脇を点々と何処までも山深く続き
追うだに唯、迷う夕暮れに立ち尽くすのだった
2012-11-08 14:51 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

独りきりにすらなれぬ夜の月に

さよなら と一言
言う暇も気力もなく去る背中に
またね と繰り返す街は
変わらぬ喧騒に包まれている

そんな別れでの欠落は
去られる側になく
去る側にのみ残される

握り締めてしまった拳には
硝子が残っていて
掌に食い込み切り裂いて
ただ紅く燃えてゆく

曇天を望んで見上げた夜空には
月ばかりか星までが遠くまで煌き
街から遠ざかるにつれ
尚のこと、黙ったままに光り
独りきりになりたい夜を邪魔するのだ

森に入れば星光もまばらになるが
踏み締められる落ち葉の音が響き過ぎ
立ち止まってしゃがみ込んでしまう

瞑目すれば、と想うても
夜を待っていた森は騒がしく
独りきりにすらなれない別れの中
滑稽な溜息だけが吹き掛かったので
想わず顰め面した月に
少しだけ笑みが戻ったのだった
2012-11-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

枝先を見詰めることのない視線

赤蜻蛉が先なのか、秋が先なのか
秋が先なのか、赤蜻蛉が先なのか
ありふれたことを想うでもなく想い浮かべながら
枝先に一匹だけとまった赤蜻蛉を見詰めていた

空は確かに高く青く秋らしいし
肌に触れてゆく空気も冷たさを交え
風に震える想いもする

それでも影に背を向けていれば
伸びるはずの影は見えないままで
ただ明るいだけの地面が光っている

音もなく落ちる枯葉は微風にすら舞い
その翻弄される様が世界の全てを物語り
平凡なだけの日常と非日常との境には
哀しい曖昧さが満ち過ぎているのだ

所詮は虚構だけで構築された世界の中で
紅く染まる空に赤蜻蛉が一匹、飛び出して行き
行先のない視線だけが
いつまでも空の枝先を見詰めていた
2012-11-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

風を忘れてはいないのに

忘れられた風に触れられても
ポカリ、一つだけ浮いた雲は動かず
穏やかな陽を受けて霧散しただけだった

風の吹かない岬に立つと
塵の舞う街角を想い出した

雑踏を行き交う足音は
誰のものとも知れずに響くのみで
ただ置き忘れられていた

岸壁に打ちつけられた波が
飛沫をあげたままに止まったままで
立ち続けた足がむくんで痛む

その痛みだけが辛うじて支え
もう一つだけでも明るい空に雲が浮かび
風になびくのを、ただ待ち続けていた
2012-11-06 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ブリキの独り言

拉げたままに捨てられたブリキの玩具が
生温かい雨に錆付いてゆきながら
転がることの出来ない坂道でもがき
雲の去った空と、遠い波音に晒されている

青く偽る空なんぞ
いっそ真黒に塗り潰しちまえ
雲も陽も、月も星も要りはしない
どうせ手の届かぬ飾り物

青く偽る海なんぞ
いっそ真黒に塗り潰しちまえ
波も浜も、潮風も海砂も要りはしない
どうせ手の届かぬ飾り物

ただ真黒に拉げ錆尽くして土に戻ることが出来るまで
それでも独り、弄ばれた掌の温もりを忘れられず
泣かずに生温かい雨に打たれ
もしかしたら少しは鈍く光るかもしれないけれど

ただ真黒で拉げたことすら分からない闇の中
どうせ玩具のままならば、どうせ飾り物のままならば
全てが一緒に堕ちていってはくれまいか

そんな勝手を想いつつ仰ぐ空にも白雲が浮き
やはり遠くまで青く美しく
波音の囁きも、余りにも優し過ぎるのだ
2012-11-05 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海底を彷徨う波音は

雨音が、ゆっくりと沈み
降り積もり続ける海の底で
静かな波音は雨音の上を歩き
ただ暗いままの海底を彷徨っている

哀しみも絶望も忘れたままに
海面を走る快感をすら忘れ
ただ降り積もり続けた雨音の上を
乱さぬように静かに歩き続けるのだ

満月が海から昇り、海へと沈む
その美しい夜空さえ忘れたままに
降り積もる雨音の感触だけを
うっすらと足裏に感じながら
波音は海底を彷徨い歩くのだ

時折は砂に消えたことを想い出さぬではない
峻険な崖に砕けたことを想い出さぬでもない
想い出すとも言えぬ想い出が
波音の胸を少しだけ波立てるのだから
それを喪失と言うのなら、そうであろう

それでも丁重に雨音を乱さぬように
積み重なった雨音の層を崩さぬように
ただ静かに波音は海底を歩き
見えぬ水平線を目指し続けているのだった
2012-11-04 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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