別れだけを吹く風は

造花を撫でる冷たい風が吹く
街は冷めた賑やかさに満ち
偽りと戯れだけが行き交っている

降る雨は何も濡らすことはないし
積もる雪も冷たくはないし
空に輝く星が、月が

男の歩くとき、足音がしないのだ
街路をカツンカツンと叩いているはずなのに
何一つ、足音がしないのだ

歩いたはずの道には足跡は残らず
経たはずの年の記憶もなく
出遭った全ての記憶もないように

ただ別れだけを吹く風が造花を撫で
その冷たさの分だけ
男は生きていることを感じるのだった
2012-12-31 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

二つ

しかし二つの駅舎を繋ぐ線路はなく
両の駅舎から伸びる線路の終点を
もちろん、それすら定かではないのだが
その終点を定めるらしい大河だけを
共有していると言えば共有しているのだった

もちろん、列車は終点まで走る
走れるところまで列車は走るものなのだ
そして大河を前に立ち止まり
淡い小波に不確かなお互いの姿を映し
その姿を頼りに終点であることを知るのだ

そんなことは誰も知りはしないのだが
とある人から聞いた範囲では、そういうことだ

黙ったまま止まるしかない列車は
異なる夕暮れを見ながら夕暮れを語り合い
異なる星空を見ながら星空を語り合い
それは、もう独り言のようでしかない

誰か、どうにかしてやらぬものかとも想うが
そうして朝陽が差す頃になれば
反対方向に延びる線路に後ろ向きに走り始め
何事もなかったかのように私達の街を抜け
また、夕暮れ時には向かい合うらしい
そんなことを、いつまでも
いつまでも繰り返しているらしい
2012-12-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

太古を生きなかった化石になりたい

雨音の消えた雨が降る中を歩くと
バスに押し詰められた空気が重く
乗客の口を塞いで雨音を待つのに出遭う

言葉にされてしまったこと達と
終に言葉にされずに終わってしまったこと達と
2つの間隙に伸びる路線をバスは走り
その逆方向に足が向かったのだった

鳥が啼くことを忘れると木枯らしが吹くように
黙ったまま肩を並べると夕暮は早く過ぎ
生温い空気を伴った夜が足早に訪れる

忘れられた孤独が留まれないのは、そういう時で
やはり降る雨の雨音は消えたままだ

それでも遠くには雲間からの光も降り注ぎ
何故かは知らぬ風だけが吹き抜け
古いままに新しい季節が訪れることになる
2012-12-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

悔恨は繰り返す

太陽の見えないまま
強い陽を浴びた雲が眩しくて
空を見上げることが出来ない

寒さを歩くと蘇る想い出がある
遠く、遥かに遠く忘れ置いた想い出と
それに伴う、いくつかのことと

波打際に遊ぶ素足が光り
ただ明るいだけの明日だけが見え
何も分からなかった頃だろう
今はと言えば、幻にさえ見える頃

それでも空は変わらないままだろうか
いや、どこか違って見える
その空も、きっと違って見えるだろう

せめて夕暮れ時の一時だけでも
同じ空を見上げることが出来たなら
その頃を一緒に過ごすことも
もしかしたら出来るのかもしれない
2012-12-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

その饒舌さを凍らせて

月だけが降り注ぐ雪原に
すぐに消える足跡だけが現れては
水平線を目指している

止まったままの波打ち際には
蒼い波が押し寄せたままで
赤い月が降るには丁度、良い

切り裂かれた海は遠く
潮風だけが顔色を失ったまま
寄せては返す繰り返しの季節を抜けて
少しだけでも、と温もりを求めている

雲間から光の柱が立つ岬を巡り
海鳥達は回遊し、休むことがない

私達は暖炉を囲みながら
それら、全てを知っているはずなのに
ただチラチラと消え続ける炎を見つめ
一様に饒舌だった

一人の男が浴びるように酒を飲み続け
止める人なく重い扉を開け
ふらふらと、危ない足取りで表に消えてゆき
残った者達は皆、そんなことには気付きもせずに
一様に饒舌さを祝い続けるのだった
2012-12-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

月の光跡と海流と

速過ぎる哀しみに置いて行かれ
涙はカラカラと乾いた音で零れながら
薄く淡く光る川面を撫でて山を離れた

叫べない声が胸を押し潰すままに
片手では余ってしまうほどの数の星だのに
夜空に数えることが出来ないままで
ただ乾いた月の光跡だけを見上げている

取り戻すことが出来ない哀しみを
取り戻すもののいない哀しみを
深い海は箱に詰めて冷たく抱き締め
解かれぬように、さらに温かさを捨てたのだ

海流が生まれるのは、そのためだ
風が生まれるのも、そのためだ

行方を深い海に求めた哀しみが抱かれたまま
深く凍り付いてゆく深海で眠りに就き
永久に積み重なってゆく
それが全ての始まりとなったのだ
2012-12-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

氷結点

ある意味では、そのアドバイスは正し過ぎて
だから遠ざかる波音を愛すように
路面に耳を付けて、その足音を探したのだ
賑やかな街の騒動が終わるまでは

狂おしさが、そのまま孤独な哀しみとなり
岬上の空が青く澄むのを待ち続けるように
どうして、そんな時が作られたのか
そのことだけに、じっと想い耽り

息が止まる直前には、美しく淡い白光が見え
そのまま闇に消えてゆくように
遠のく意識を手放してしまえば良いのだ

窓を開けて寒気を入れよう
寒さに凍え縮こまった体からは哀しみも遠ざかる
まだまだ、冷たさが足りないのだ

冷たさを感じないほどに冷え切って
そのまま砕けない、あるいは砕ける氷となり
全ての氷結が始まる一つの点になれば良いのだ
2012-12-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無表情な呟きを

無表情な雲が波を遮った後
水平線の向こうから訪れ汀を跨ぎ
山に吸い込まれたまま戻らない

時折、あることだが
雲の訪れないままに降る雨が止まず
立ち止まった人々が空を仰ぐ
哀しみの響く音は、それに似ている

しんとした夜中に響く足音や
星の見えない都会の空の小さな月や
雑踏の中に置き忘れられた小さなブランコや
夕暮れの向こうに小さくなってゆく貴方や

それでも時計の音は響き続け
哀しみに時を刻み、刷り込みながら
同じ周回を何度も繰り返すのだ

私はといえば雲の通り過ぎるのを知らず
雲のない雨にも降られることがないままに
ただ空席となった目の前の椅子を見詰め
閉じたままの詩集を掌の中で暖め
きっと良いこともあるに違いない
と、呟くばかりなのだ
2012-12-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

レターオープナー

月明かりを薄く切り、川に流そう
哀しみが薄く切り剥がされて
涙に変わって頬を伝うように
月明かりを薄く切り、川に流すのだ

ついでに月も薄く切ろう
ついでに星も薄く切ろう

夢が薄く切り剥がされて
眠れない夜をヒラヒラ舞うように
月も星も薄く切り、夜空に撒くのだ

机には一つ、切れないままの孤独を置き
そっと傍にいてもらおう
切り裂かれた心の隙間に少し当てれば
傷も癒える、孤独を置くのだ

独りきりの夜は賑やか過ぎる
あまりに色んな音が聴こえ過ぎるのだ
それらの音も薄く切り
独りきりの夜空に撒いて
ヒラヒラヒラ
と、いつまでも舞うように

使ったことのないレターオープナーが
机の上で黙ったままだ
2012-12-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

疲れ切り、帰路を見失い

翅を失った蝶が分水嶺に辿り着き
静かに時を失ってゆくように愛した汀

どこにも行かない哀しみだけが降り注ぎ続け
涙を失った私には降ることがないからだ

別れだけが全てを分かち
分かち合いの中に愛は失われ
涙は行方なく惑い、ただ抱かれるものだし
遠くを見つめる瞳には
何も映ることがないものだからだ

ただ流れる季節を待ち続ける街路に
季節を失った足跡だけが刻まれ
やがて詩となって忘れ去られるように
全てを刻む丘の上を目指そう

行方のない泉からも湧水の音が微かに響く
何処に行くとも知れない湧水の音が
ただ静かに、それだけに確かに響き
いつか、その汀を訪れることもあるだろう

夕空と夜空の境目の下で
もう少しだけの時間を過ごすことも
決して悪くないものだと想いながら
ただ動くだけの足に任せれば
それが帰路となるのだろう
2012-12-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

時を捨てた街端にて

誰も知らない雨が貴方の不在を降り
濡れることのない路面を濡らす孤独が
波を失った湖面を滑り続けている

くすみ霞んだ過去を蒼天に蹴り上げ
夕暮れの空は未来に虹を描くが
迫る宵闇のスピードには勝てないまま
小さな満月の周囲に虹は巡る

ただ駆けるだけの雲に時は訪れず
響く鐘の音を飲み込んだまま
暁と同じように宵闇を鈍く光り
空き地に放られた鉛の錆びに混じり込む

開くことのない窓の鍵を閉め忘れ
要らぬままに記憶は時を越え
開かれた全ての書籍のページに潜み
開く人の窓を閉め切ってゆく

隣に座る人の微笑みも見ず、知らず
誰のものとも知らぬ詩を遠くに聞きながら
消えた秋を忘れた春に花は咲き
もう直ぐ訪れる雨音に向かって花弁を開いていた
2012-12-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

風の祈りは、叶わず

寂しさと哀しみと
二つとは無関係の孤独とを川に
風は流し吹き
凍るのを待っている

波間に流れ沈む、それらを撫でながら
止まったままに終わる時を
風は空を見上げつつ、待っているのだ

朝焼けの空を祈りながら
夕暮れを待たずに済むことを祈りながら
明るい陽射しの中のまどろみをも
川に吹き流しながら待っているのだ

川表を転がる季節たちは遠く
手の届くところには留まりはせず
どうせ、置いてきぼりのままに去って行く

また新しい風が吹き
古い風が忘れられるのだ
季節が変わるということは、そういうことで
だのに、吹かねばならぬのか

それなら一層、やはり夕暮れを忘れ
このまま凍って留まろう
全ての記憶とともに、留まらせておくれ
2012-12-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

星達の安住する交点にて

記憶の孤独を捨て去るために
絶対的な儚さだけで成る蜃気楼を求め
水平線を彷徨う星が燃えた

薄い灰皿に張り付く、その灰を
燃え尽きた煙草の先で磨り潰していると
熱を失った光が生まれ
哀しみを光って波と波音とを忘れた

南の水平線には、未だに波音を忘れた波が漂う
北の水平線には、未だに波を忘れた波音が響く

何処にもない水平線だけには星が迷い込み
哀しみを失った記憶を抱え
地平線と呼ばれるようになった

水平線と地平線の交点には
光を失った星が記憶されているのだ

夜空に昇ることもなく
月を楽しむこともなく
ただ光を失ったままに星である星が
いつまでも記憶されているのだ
2012-12-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬陽だまりの中に忘れ、眠り

一つだけ残った水溜りの薄氷が融けないまま
陽だまりの中に光り続けている
乱反射する空は青く、白く
閉じ込められた枯葉の色は、分からない
土の色も、分からない

側を通り抜けないまま立ち止まった猫が
微かに融けた氷の表面を舐めていたが
冬に疲れた毛並みは乱れていて餌を探すアテもない
温かな車のボンネットに丸まっている

置き忘れられた渡り鳥が一羽
やはり餌のない小川の中に片足で立ち尽くし
陽に向けた瞳を閉じがちに伏せたまま
忘れた仲間達との記憶を流れに乗せて送り
その流れの上流に独り、残り続けるのだ

山から下ってきた大岩は
もう少し先の幅広の大川の中に深く沈んでいて
山から奪われた時を越えて微粒だった頃を想い出し
もう少し流れに打たれ、散ることを祈っている

種子たちは、まだ遠い眠りの中にいるのだろうか
その息吹を背に感じながら寝転ぶ土は不思議に温かく
誰も来ない、そこだけを居場所として
短いだけの冬を、それぞれがしのいでいた
2012-12-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

赦されぬ許しだけを与えよ

屹立する堅牢さで崩壊する既約を踏み外し
見返る暇もなく濡れることのない雨の降る中を歩き
消えない傷の不確かさを痛みで錯覚しながら
偽ることの出来ない瞳を避け
隠れても消えることの出来ない天体達のように隠れた

忘れているのは誰しも同じことで
帰る所など持ち得ず、消えることも許されずに
ただ壊れ、実は変わるというだけで
蒼いウサギの瞳が赤いと言われるようになった所以だ

てめえの顔が見えないのも誰しもが同じことで
そんなものを毎日、刻々と眺めさせられた日には
どうにも過ごしようがない恥ずかしさを愧じ
乙女のようにしおらしくするしかないじゃあないか
そういう間にも、お茶は冷えてゆくのだよ

そう、とりとめのないことを考えながら歩いていると
誰それ、かれこれの石碑と言うのに出遭うのだ
刻まれた言葉は風化しているが
誰かが記憶に残しているのだろう
誰もが分かった振りをするのが礼儀と
黙って頷きながら去ってゆく

帰り道には広く長い下り坂が駅まで伸び
その先には穏やかな頂きを持つ山が秋色に染まり
必ず夕陽が美しく空を彩って
四方八方に放射する光柱が山並みの端から端まで降り
降らなかったはずの雨に濡れて、黙って帰路に就くのだ
少しだけ温かい雨に偽る必要もない嫌な顔を向け
困ったねぇ、と小さく呟き合いながら帰路に就くのだ
2012-12-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

川は流れ始めた

流れるままに凍った川から
ようよう抜け出た瀬音達が
風を受けて海へと転がってゆく

汽水域では凍ることを忘れた波が
揺蕩うままに波音も忘れられたままで
瀬音は微かな記憶を頼りに代わるのだ

サラサラサラと変わった音に
橋上の夕暮れは首を傾げながらも
あまりの寒さに考えまでも凍らせて
身まで凍らぬうちにとばかりに
山向こうへと去って行った

泣くじゃないよと三日月は言うが
鼻まで雲のマフラーを被ったままで
モゴモゴ、フガフガと要領を得ない
やはりその内、山向こうへと去って行った

やがて馬追う勢子の声だ
田の上、田の下、どじょっこ探しつ
ひゃっこさあ、街に追えば
そろそろ瀬音もしそうなもんだ
そう呟いて、山向こうへと去って行った

流れるままに融け出した川からは
もう瀬音がすることはなく
風とも波音とも聞こえる音が
ヒューヒューと吹き抜けては
山向こうへと去り続けるのだった

瀬音達も少し考えて川を遡る鮭を見倣い
山向こうへと去って行った
独り残された川だけは
音もなく、せいせいとして
サラサラサラと、流れ始めたのだった
2012-12-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雲色の空の下で

雲色の空が見せる風で
渇くことを忘れた街には
歩道脇に身を寄せて寝転ぶ男達を他所に
イルミネーションが色付き始め
偽りの囁きが溢れ出す

雨雪に、行き交う車両に
引き千切られた新聞紙の欠片達が
紙吹雪のように微かな風に吹かれ転がり
二人達の間を冷え切って通り過ぎるのだ

硬い足音が冷たさを物語っていても
温かさの幻想が覆い隠してしまう
要らぬ酒を飲み過ぎるのだ
要らぬ音楽が流れ過ぎるのだ

ビルの屋上端には少女が独りフェンスを越え
今は見えない雲色の空を仰ぎ、諦め
覚えているよりも雲色のアスファルトを見詰めている

それら全てに気付かぬままに
降り始めた雪が一片、その頬を撫ぜ
少女は雪に濡れながら温かな家路を想い出し
要らぬ音楽にスキップを乗せて帰るのだった
2012-12-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

春、零番

秋を流れた川が冬を渡ることが出来ない
寒すぎるのだ
南の海に流されて
暖かな南風に吹かれたいのだ

涸れた川底には乾いたあれこれが転がっている
そこら中の石ころがそうだ
そこら中の枯葉だってそうだ
虫の死骸やら動物の毛やら糞やらもそうだ
中に放られて錆びた剃刀の刃もそうだ
みんな転がったまま凍ってゆく

河口仲間の岬も迫り出したままに凍り
カモメ達は飛んだままに凍り
月だって歪な三日月のままに凍っている

仕方ないさ、と寒さを運ぶ張本人
北風が呟いて去ろうとすると
何を想ったか剃刀の刃がヒラリ飛び立った

やおら石ころに切り付け、枯葉を切り裂き
虫の死骸は散り散りに切り裂いて
動物の毛も糞も岬もカモメも
三日月までもが切り付けられた

切り付けられたまま凍っているので
誰も何も言いやしない
最後には雪を頂いた山まで切り裂き
頂上が二つに割れて新しい空まで飛び出した

その新しい空に砕かれて
ようやく錆びた剃刀は満足して砕け、星に変わり
やがて花が咲き始め、蝶も舞い始めるのだ
剃刀の知らぬ星空の下
風は恨めしそうな微風に変わり
花が咲き、蝶が舞い始めたのだ
2012-12-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

風に吹かれたことは覚えているか

忘れるためだけに覚えた言葉を
刻んだ紙片を引き千切っては
許されなかった記憶に撒き散らし
哀しみを通過しなかった涙に溶かした

割れることを覚悟した石に
大きめのハンマーがめり込もうとする瞬間
弾き飛ばされて呆気にとられるように
返ってきた言葉は、そのままに戻り
追う視線の速さすら簡単に超えてしまう

頂点と言う頂点を失った稜線が続く
両脇には谷が深く刻まれ
今までに飲み込んできた命の音が今でも響き
言葉を忘れたままに静けさを求めているが
空に映る私達は変わらぬ顔をしている

恍けるのが上手いねと言われたが
恍けられるほどならば、どんなに素晴らしいだろう
恍ける程の何ものも残ってはいないのだ、私達は

だから、いつまで経っても同じ顔をしている
覚えた言葉は忘れるためだけのものでしかないし
届かない言葉だけが風となり
私達の間を吹き抜けるのを感じられれば上々だ
私なぞは風に吹かれたことすら、ないと想う
2012-12-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

窓枠の内と外と

昨日は早く帰れるの?
と訊かれたら、どう答えればいいのか
そのことが頭から離れないまま
変わることのない風景だけしか通過しない
窓に嵌められた窓枠をなぞっていた

月明かりが照らす指先には光る埃が付着し
少し舌を伸ばすと金平糖の淡い甘みに似た苦みと
寂しさを忘れた哀しみの味がした

この枠を通り抜けたのは、いつのことだったろうか
今は普通に玄関のドアを開けて外に出るし
普通に玄関のドアを開けて中に入る
もちろん、開けたドアは閉めなくてはならないが
窓枠は、あの時から開いたままなのだ

キッチンから聞こえる俎板を叩く音は
門扉までも響く私の気持ちで
きっと、そこを通る誰もが耳にし
私の心は誰にでも開かれているのに
その音を愛してくれたのは誰だったのだろう

包丁を握る指の腱が
包丁と指の骨とに強く挟まれ続けて痛む
少し休もうと、また窓枠に近寄り指でなぞると
別の痛みを想い出して作ろうとした料理を忘れてしまう

もう少しだけでも人参を刻んでから
休んだ方が良かったのかもしれない
忘れた料理はビーフシチューだったのだろう
開かれた料理本には、そう書いてある
しばらく見なかった懐かしい落書きには
もう、痛みを想い出すことがない
2012-12-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

生まれない愛を巡るもの達よ

季節を疾駆する空に振り落とされたものが風となるように
時に振り落とされたものが過去となり
記憶に振り落とされたものが滂沱の涙となり
哀しみに振り落とされたものが愛となるのだろうか

仰ぐ空は常に風を生みながら季節を走るが
時は動かないままだし、記憶は曖昧なままだし
哀しみは過ぎ去るところを忘れて留まったままで
それらを全て踏み歩いた足跡だけが残されるようだ

川を渡る時に舟を使い、川下に向かって横切り
着く桟橋は海の波に洗われていて潮風が吹いている
ただ峻険な高い岬上は静かなままに花が咲き
蝶すら舞い飛んでいるのだ

振り落とされる全てのもの達として
過ぎることのない時の中に
忘れられようのない記憶の中に
哀しみは留まり、愛は生まれることがないままに
ただ暖かな陽射しの中で微睡み
私達は、その周囲を巡り歩き続けている
2012-12-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

光の遠のく速さで意識は消えるのか

微光すら感じないというのに
蛍光塗料だけが光る廊下は長く
遠のく意識だけが短く点滅し
言葉を失った記憶だけが蘇る

終点のない廊下に漂う始点への追憶
その中を歩くと窓外に見える闇
仄かに想い出してしまう貴方との夢

終わりを失った言葉だけが木霊し
私を失った言葉だけが溶出し
憧れた詩集はページ毎に片隅から引き裂かれ
想い出す全てに冷たい体温が宿ると
ようやく歩き出す気になるのだ

何故、遠ざかる星だけが光り
行方を失った夢だけが光り
貴方を失った過去だけが光るのか

終点には、まだまだ遠い駅舎の中は暗く
踏切を告げる音が鳴り止まず
通ることのない列車を待ち続けている
全ての答えを乗せている
その期待だけで幻想を走る列車を
2012-12-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空壊、壊空

壊れそうな空を繋ぎ、留めていた残照も
書いたことすら忘れていた落書きを見つけ
よく見もせずに丸めて屑箱に放ったように消えた

襟元から襲ってきた急な寒気は
それよりも早く冷えてゆく掌の中の掌を想い出させ
無言のままの私達を見もせずに
1メートル高の塀上に座る黒猫が
歩く側でニャーとだけ鳴いた

指す指の先にほうき星は長尾を靡かせ
語られる前から宇宙の極大と極小とを抱きつつ
極遠から極近の間に居場所を見出せもせず
失った軌跡を彷徨い飛んでいる

仕方ないので、ほうき星を摘み捕り
笹舟に入れて流したのは
とうに去年の七夕も終わった冬の川だったが
湯船に浮かぶ笹舟は湯気に揺られている

二つの笹舟を重ねて私達の夢を造り
夢中から大切にし続けていた哀しみを挟めば
誰かが拾ってくれることもあるだろうと
擦れ違うことすら許されぬ視線は語り合い
それぞれ別に壊れた空を見上げ続けるのだった
2012-12-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

季節変わりの祈り

透き通った水が田に引かれた田植え前
静かな狂気を帯びる程に清冽で
空さえもが映ることを躊躇うように
すっかり葉を落としたはずの落葉樹には
虫に食い尽くされ葉脈だけの葉が残る

細く枯れたような枝向こうには
青い空が広がるのだろうか
スカスカになった木が独り畑に立ち
寒さに震えるのを待つ間もなく
大粒の雪を伴う強い風が吹き始める

霜に彩られた一枚だけの葉脈が
徐々に雪中に消えてゆきながらも
通う木の命はあるのだろうか
大地に戻った仲間達は深く雪中に沈み
ただ独り、雪上に舞うことすら
許されはしないのだろうか

火種の絶えた暖炉を抱えながら
曇ったガラス窓の向こうには
春を含まない冬が優しい拒絶を振り撒き
私は独り、言葉に出来ない言葉を探し
少しだけ深く眠りに就く

季節の変わり目は、いつもそうで
私達は、それぞれの孤独を抱えたままに
言葉に出来ない言葉を探し
共有出来ない、少しだけ深い眠りの中で
いつか見た同じ夢の中で出遭うことを祈るのだ
2012-12-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そこだけが白いだけ

そこだけが白いだけの空を仰ぐと
愛が冷める速度と強度で涙は降り注ぎ
夕暮れを待つ寂しさで影は消え
記憶を運ぶ波音だけで偽りは響いた

夜を歩く月の紳士と出遭い涙の記憶を訪ねると
そんなものは知らぬ
と言いながら紫煙を吹き掛けて
その向こうで微笑んで泣き啜った

重過ぎる重厚なドアを開け
真紅のカーペットの長毛に足を取られ
奥間から響く嬌声に恥じて戻りたくても戻れず
紳士と二人、煙草の煙を交わしていたが
火種も尽いて無言になった

やがて、どちらからともなく
あの、そこだけが白いだけの空の話をし始め
その意味について熱心に語るだけで座り込み
いかつい用心棒風の男に蹴り出され
カチリと空を見上げると
やはり、そこだけが白いままだったのだ
2012-12-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

最後のページだけを

最後のページをめくると山形に薄光が訪れ始め
そのまま閉じられない本と
明けることのない空を見比べては
終わらなかった眠りを想い出し
書き記されなかった言葉を想い出した

アスファルトを叩く星の音が煩くて
耳を塞げば音が耳孔にこだまし続けるし
塞がなければ変わらないしで
結局は聞き続けることになった

跳ねることのない水音がエコーに混じり
光と水の仲睦まじさを想い出しては
怒りに似た嫉妬に眠ることが出来ないまま
閉じることの出来ない本を手に取り
最後のページだけを読み続けた

最後のページだけが本の全てだのに
いつも最後のページは白紙のままでしかなく
私は全てを白紙として想おう
白紙の全てを想おう

やがて山形の薄光がエコーを追い払い
下らない哀しみも生まれることはなくなるだろうし
書き始めのページを読むこともあるかもしれないから
2012-12-06 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

もう抱かないでと願う朝に

旅立ちを失った朝
風景にない山に迷いながら
貴方の温もりの死を待ち
貴方の言葉の絶えるのを待ち
哀しみが絶えるのを待った

ところで、と語り続けるので
読み始めた物語は始まらず
ただ開かれただけのページを
そっと抑えた手が震えていた

もう、とっくに冷えたシートに
伸ばした手と重ねられた貴方の手
白さを覚えたのは、その手
白さが透明に変わるのを覚えたのも
その手

逃れることを放擲し
ただしがみつくように抱かれ
それでも温まらない頭の芯を
私は何処で拾い上げたのだろう

その冷たさが足を竦ませ
私から旅立ちを奪い続けるのに任せ
温か過ぎる残酷さに溺れたまま
そっと又、瞼を閉じよう
2012-12-05 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

静謐の半月

一時だけ光り輝いて消える
白雲の一欠けらのように
15時過ぎの半月が冬空に浮かんでいる

遠い西の空からは夕空を演出しようと
弱々しくも地上を照らす陽が傾きつつ
半月をも照らしているのだろうか

雲一つない青い冬空に
あるはずの半分を空の青さに変え
白い半月が小さく、小さく浮かんでいるのだ

樹林に入ると月は隠れ
樹林から出ると月は見失われ
そんな小ささで浮かんでいるのだ

いつ昇ったのかも気付かれず
たれもいない穏やかに青い空を
小さな半月は足跡も残さず低く昇り
考えることもないさ
そう呟く風で独りの空を浮かんでいるのだ

西陽すら忘れた独りの空を
もう少しだけとボンヤリと私は想い
そんな想いも知らないままに
独りの空を浮かび、風すら吹かないのだ
2012-12-04 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

重ならない時を重ね

曖昧な夕べを歩く記憶は
季節を運びながら漂い
消えないままの痛みを失って
ただ切り裂かれ、散り散りになる

朝を知らぬままに鳥は啼き
矛盾しない矛盾が愛の真実を語り
言葉を失った言葉達が語り継がれる夜
貴方の影だけが消えた痕を
私は踏み歩こう

どこまでも遠く風が吹くと
巡る先は薄く、消える雲に遮られ
何もないところで果てるのだ

重ねられた時が
パズル・ピースのように散乱する中を
暗闇に沈んだ光が射抜き
一つとなる全てを始めようとし
繋がらない隙間だけが生まれるのだった
2012-12-03 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

密やかに夢に眠る

断絶された夜に波間は訪れず
想い出されてしまう童歌が
忘れ去られた孤独に出遭う不協和音を波に届ける

旅を捨てた旅人のように
エピソードは常に続かない回廊を巡っては
堰堤から醜い塊として落ち
沈み切れない靄として川底辺りに浮き
想い出されることを恥じている

水平線ぎりぎりを飛ぶ船の舳先が
常に北を目指そうとしながら南に向けられ
西に東に振られながら
朝焼けと夕焼けの間に漂い続けるようなものだ

啼くことのない一匹の犬の慟哭が
遠くの犬達の鳴声となり
街を恐怖として覆い尽くしては
何事もなく過ぎやられるようなものだ

それでも私だけの波が静かに夜を掻い潜り
床に積もった埃の上に、希望という言葉だけを
魔法の呪文のように刻み続けては消え
幾千万年も繰り返されてきた夢に眠るのだ
2012-12-02 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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