水光の砕けるまでを語るのか

砕けた別離の欠片を燃える風が駆け
化石と一体化した記憶を砂に変え
異国への想いに誘いながら舞い上がった

通りに出ると猫の行列が道を遮り
どの猫もチラと見返ることもないのだが
踏み付け越えてゆく人並みに重なり
影だけが知らない行先に向かう

塀をよじ登る影が
壁を下り終えた影に押され
塀に空いている穴から向こう側に出たまま
ぼやきながら消えてゆくらしいのだが
その声は聴こえない

昼の狂おしさをブランコは揺れ
誘われる人たちの目は怪しく光りながら
瞳だけが淀んで噴水の撒く水光の中にぼやけ
クリスタルの時が刻まれてゆく

足音を驚いた時間に空は消え
首から上がない人と首から上だけの人が
街路樹のあちこちで互いを伺いながら
別離の意味を問い続けていた
2013-02-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一日の芽吹き

帰納する夕暮れに連れられて
赤い三日月は引き降ろされ
星だけが瞬く夜空は

疎らに光るビルの警告灯が
街の伸びゆく輪郭と縮みゆく輪郭とを示しながら
遠い過去の記憶に消えてゆくが
街を漂う空気に籠められた無数の記憶は
行く先を失い続けている

明るい夜空に妙な明るさで
飛行機雲が北に向かって伸び
二つに分かたれた夜を慰めながら
異国のジェット音は

人影を照らす街燈の重なりが
私達の疲弊した一日を追憶するように
何もなかった日々の重なりは
私達の疲弊した魂を追憶している

疲れが、丁度、良い具合に部屋を満たす中
夕餉を静かに終えて箸を置き
少し熱い風呂に浸かった後
冷たい枕に涙を埋めながら
私達の新しい一日が芽吹いてゆくのだ
2013-02-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今日、悲しかったのは

夕暮時、そっと背中を撫でていると
妙に顎のしゃくれた月が
家の前の道端を引っ掛けて空に吊り上げて
ペガサスが静かに手を離れて歩き始めた

少し立ち止まりはしたけれど
誇り高くクイッと首を高く掲げ
カツカツと蹄の音も雄々しく
振り返ることもなく

そういえば陽の昇る時、飛び疲れたように
そっと庭に降り立ったけれど
その時も項垂れはしていなかったと
涙を堪えながら想い出していた

穏やか過ぎる一日をくれたので
何か素敵なものをと
ポケットを探っていた時だけは
凄く悲しげな目で見つめていたけれど

ああ、もう、あんなに遠く
輪郭の線も薄くなってしまって
ああ、星が輝き始めている
こんなにも悲しく星が輝いて見えるんだね
黙ったまま、輝いている星は
2013-02-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一羽だけの鳥が巣に戻る

冷たい涙が通り過ぎる午後
川を飛び渡る鳥の足跡が空に点々と消え
斑に生えた草が萎れながら
赤子の掌大の花を落とし、忘れ
大地が、どこまでも深く飲み込んでゆく

醒めた陽の光に照らされて
群れから逸れた一羽の鳥だけが影となり
動くことを捨てたまま飛ぶ意志を捨てず
翼を広げたまま空に貼り付いている

偽りの影達が通り過ぎる空の下
足音だけが妙に響き、渇き、飢え
あちこちに響きながらうろついているが
何ものも満たすものを見出すことは出来ず
安息する暇も見出すことも出来ず

ビルと影との隙間を吹き抜ける優しさに群がる
捨て去られた愛情を
夕暮の中に埋めゆく時間を待って
鳥は一羽だけ、戻る巣を見出すのだ
2013-02-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

忘れられた水平線に月が欠ける

月の欠片が心臓を掠め過ぎ
凍り始めた路面に弾け
そのまま北の空に消えた夜

透明な影達が街を行き交い
月光に照らされた輪郭は輝いて
冷たさを頼って呼吸をし
消えるためだけの存在を知った

飛び損ねたまま葉の上に残った欠片は
いつ飛び立とうかと時を伺い
腕時計を見せてくれと訴えるが
どの影にも訴えは透き通り
聴こえない木霊になって川を下っていった

そうして独り、土を食む悔しさに
涸れる涙を探していると
海が近いのだろうか
半分だけを月が昇ったまま
じっと眼前に広がる水平線を見詰めていた

水平線は波を伴わずに丸みも捨て
月の半分を知る手掛かりとなりながら
欠片を削る音を遠くまで響かせていた
2013-02-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雪の降った翌朝には

夕暮時、グレーの絵の具を均等に伸ばしたように
のっぺりとした雲が空を一面、多い尽くし
冷たさだけが広がる大地に動くものはなかった
ただ、凍ったままの風が走り抜けるだけだ

そのまま眠りに就くと除雪車が通る夢を見た
音も無く路傍に黒ずんで捨てられた雪が重なり
美しく輝いている樹上の雪を恨めし気に見上げている

どれだけの寒さを堪えているか、知りもせずに
樹上の雪達は路上に落ちることを怖れ慄きながら
雪原に、ただ白く広がる雪を恨めし気に遠望した

この寂しさを知ることもないくせに
雪原の雪達は互いが圧し合う孤独の中で
黙ったままでいるしかないままに

延々と繰り返される羨望と反論は
言葉にすらなっていなかったはずなのに
妙に冴えた記憶に残る夢として覚えている

朝方、全ての雪を越えて開く窓の音がし
雨戸を開いてみると雲一つない晴天で
あまりに暖か過ぎる陽の光に晒されて
全ての雪が雪でなくなるチリチリという音とともに
誰も彼もなくなってゆくところだった
2013-02-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ただの街に戻る手紙

少しづつ壊れ、少しづつ欠けてゆく日常を纏って
引いてゆく波に乾く砂浜の、光る砂の中に横たわり
遠くなる波音を聴いていると塩と哀しみが噴き出し
身体を動かすことが出来なくなった

防波堤の上を犬を追い掛けながら散歩する人の影が伸び
陽を隠して私は消え、そのままでいられたら
そう想う間もなく、また強い陽射しに焼かれるのだけれど

幾度も岬を周回し続ける一羽、二羽かもしれない鳶は
獲物を見つけることも戻る巣もないのだろうか
もう忘れる程の永い時間を共にしている

小魚の魚影を追いながら黒い川沿いを歩き続け
擦れ違う人は、その時、その時で違ってはいたけれど
同じ話しかしないままに、海にまで出てしまった

記憶では、常に雨雲が漂っていたからだろう
戻るはずの街を想い出すと空が雲だらけに見える
もっとも、そんな記憶があるほどいたわけでもないが
いつも雲を見ていただけなのかも知れない

書き残した一行を想い付かない時は
机の前に座っていても仕方ないだろう
だから街を抜けて、街でないどこかに行くしか

それだのに、皮肉なもので
街に戻らないと書く気にすらならないのだ
忘れなければいけない、あの人への手紙を

そろそろ雲から降るはずの雨が止んだままだ
海風の音だけが激しく木霊し始めているが
もう、あの人への手紙のことは忘れよう
書き終えたとしても届く宛も知らないのだから

もう書き終えたものとして海を外れ
ただの街に戻って温かいスープを啜ろう
2013-02-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雪は海を目指す

冬が恐ろしいのはね
寒さが厳しいからじゃないんだよ
今なら油、昔なら薪がね
それが減ってゆくのを見るのがね
たまらなく恐ろしいんだよ

雲の陰に隠れたままの老人が
呟き教えてくれたことだ

「一面の雪景色」
というのを見たことがある
文字通り、本当に雪しかなかった
終いには幻惑なのか自分も雪になる

雪の一つになって
はじめて雪が雪でなくなった
私は雪のままだったけれど
雪景色と雪でない景色
それらも消えた

老人とは隣り合っていたが
やけに暖かかったのを覚えている
そのうちに氷が激しくぶつかり合う音が聴こえ
海に堕ちるのだと、その時に知った
2013-02-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ペンの終焉を抱き寄せて

モノクローム写真の唇に紅を引き
そっとキスをすると
部屋の隅にあった観葉植物が嗤い
落ちないはずの葉を落とす

新聞の一面に載っていた景色は
昨日も通り過ぎるはずだった街並みなのに
記憶から消されたのか覚えていない

天動説をなぞる詩の書かれた壁と
地動説をなぞる詩の書かれた壁とが交る

交差点は一点に集約するのか
黙って通り過ぎよう

開かないドアをすり抜けて時を止め
誰とも共有しない時だけを抱き
独り、語り続ける物語が燃え尽きるのを待ち

静かに夜と昼の入替りを
眠ったままの夢に見よう
2013-02-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

月の昇り口まで伸びる波打際を歩き
消えてしまった水平線を想い出しながら
遠ざかる白波をなぞっていた

身動き出来ない深海に沈めた時を開け
夜を閉じ込めてきたけれど
海を覆う夜空は星に満ちていて
零れる光は、波が抱き締めながら揺れている

海の息遣いを間近に感じながら
白紙に引いた海岸線を歩くと
知らない波音が幾度も繰り返し
静かに流れる涙の音に変ってゆく

気付かれないまま佇んでいる岬の舳先に
寄港した帆船は出航の時を忘れ
ただ誰も知らない風に吹かれながら
いつか見るだろう星の光を想い出そうとしている
2013-02-19 09:43 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

その、微かな足音を響かせて

街角を通り抜ける冬に
淡く青い風は置き去りにされ
光の中を彷徨い疲れてベンチに凭れ
柔らかな陽の下で凍えている

寂しさをポットから注ぎ
飲み干したカップに残った面影と
永い沈黙で話した

偽りのままに咲き誇る
造花の匂いが鼻腔を満たすと
いくつかの希望が萎れ始め
それでも立ち上がる術は見つからず

流れようのない涙を探し
電話の前から立ち去らない記憶を
すぐ傍にあった鏡は忘れてはいないようで
その中を見ることが出来ない

遠くで響く懐かしい音楽に
少しの想い出は蘇るかもしれないが
ただ、それだけで陽は傾き
早過ぎる夕暮れが早過ぎる夜を呼び
既に遠い冬の中へ消えて行った
2013-02-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

水の起原を訪ねて雲を歩いた

朝露に光を与えて陽が翳り
私達を立ち止まらせる

遠くに去ろうとしている孤独と
近寄ろうとしている孤独とが擦れ違い
私達の横でたむろっている

その起点を終点として
書かれ続けた詩が消えゆき
なかったものとなり
その一点を、どこに失ってしまったのか

夜を尋ねると会えない時が
泉を満たす水源となり
涸れた川底に雲が広がる音は
私達が手を繋げば聴こえたが

どうかしら、噴水のミスト
その匂いはするかしら

閉じた睫毛の先に集った一粒を
指先に、そっと移しながら
貴方は雲の方に向いて呟いた
2013-02-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無月夜話

厚みのない夜を
光を失った月が切り裂いてゆくと
全てのモノが共有する夢の中で
全てのモノが忘れた哀しみに出遭う

賑やかな酒宴を静けさが演出し
あまりの虚しさに息を飲む
あの一瞬の内にいるように

孤独が支配する街には
ついぞ夕暮れが訪れることはなく
紫煙だけが棚引いているように
愛する者に宛てた手紙は
届くことを忘れて廃棄されるのだ

紙面を擦る、ペンの音だけが愛に変わると
はじめて希望の影が漂い始めるが
それは真冬の陽炎に似ている

全てを支配するものを創ったように
全ての終焉を支配するものを創ろう

ボリュームの変わらないままに
遠近を行き来する鐘の音が
全てのモノに降り注ぎ、囁き続けている
2013-02-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空を語れないままに雲が降る

空から一直線に降りる、その雲が
急でもない坂道を転がりながら
往くアテもなく街中を吹き

私達の別離の孤独をすり抜け
森へと還ろうと
見つからない、それを求め喘ぐ

辛うじて見つけた公園は
コンクリート・ブロックの塊が溢れ
森の匂いだけを記憶として
その上を薄い水が這っている

鬱蒼とした風を装って
公園の中を細い水路が巡り
雲を誘って慰め合おうと
捨てられない別れを抱き合おうと

二人の間で木霊した汽笛が
夕暮の中に静かに伸び始めると
雲を迎えに、小さな月がビルを越え
小さく中天に座して
見えない星達と語らい始める
2013-02-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

私達のいなかった季節を

空を駆ける風を孤独として独り
ビルの屋上で吹かれる
雨が降る晴れた空の下で

見えないままの別れを
それでも愛し続けることが出来ようかと
問い続ける永過ぎる一瞬に
眩惑の忍び込む冬の明けた秋の

落ち葉は既に粉々になり今では、もう
それが葉であったことすら分からない
それでも私達の足は
それらを踏んで進んでいるのだ

跨ぎ忘れた季節を覚えているか
私達のいない季節を

踏み忘れてしまったのであろう
数多の、それらを

そこに住んでいたはずの季節を
2013-02-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬の中の手紙

哀しみを隠したはずの川は
降り積もり続ける雪に屈して消え
雪原の中で浅い眠りに就いたが
残った寂しさを暖炉で暖めながら何を待つ

吹雪く極彩色の雪嵐の中を
静かに、ゆっくりと鐘の音は歩き
誰も越えることのない山を跨ぎ
蜃気楼として耳中で響き続けている

火にくべればくべる程に
増えてゆく書き掛けの手紙達が
伝わらない言葉を嘲笑い
埃だけを詰められた封筒が顰め面している

たった一言を書き掛け
いや、書こうとして開く便箋達が
ペンを落とした点だけを記されては
くべられても燃え切れない炎の中で
恨めし気にけぶっている
2013-02-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

厚みのない、その境界を

背凭れを抱いた背中が、熱い

眩い陽の光がフロアーを舐め
その終線の果てに色を失った影
それが私のものであると気付くのは
少し時間が掛かる

何が可笑しいのか、貴方は
俯いたまま忍び笑いをし続け
光と影の間に忍び込ませ
白く細い指を光らせたり翳らせたり

くっきりと区画された、その線を
柔らかになぞりながら
忘れましょうか
怪しく、ゆっくりと囁く

絶対に忘れない
そう言って、あの日、外した指輪を転がし
輪の中で映える光を見詰めた瞳

真っ白で何も見えないのよ
俯いたまま呟く貴方の小さな光の粒が
その輪の中に飲み込まれ
静かな影に消えてゆくのを見詰めていた
2013-02-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

私達の別れを呼ぶ眠り

薄いだけの模様もない
白いレースのカーテンの向こう側と
青いレースのカーテンの向こう側とでは
同じ景色が広がっていた

ただ「ある」ことにすら気付かない
無いほどに透明な硝子窓の向こう側を
二種類のカーテンを開いてみれば
違う景色が広がっている

空が消え、海も無く地平も無く
光りも無く、暗闇も無く
辛うじて存在だけが蠢いていて
苦しげな無数の吐息の気配だ

一つでも良いから、星を
見えもしない手にだけれど
手渡すことが出来たなら、と

微かに水の流れる音が聴こえてくる
誰かがソッと掬う、小さな音も
喉に流し込むだけの音も
(飲みは、しないようなのだ)

眠りは大抵、そんなもので
貴方が貴方ですらなくなるし
私も私ではなくなるのだろう
目が覚めてみると、そこの記憶だけ
決して想い出すことは出来ないようだけれど
2013-02-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

再生する舗装道路に夜の雲が光り

夜の雲が光っている
空に向かっている側は暗いままだ

白銀に光る骨格標本を前に
どこまで削れば私でなくなるかしら
そう言いながら再生を語っていた

工事に晒された道路は
舗装と言う表皮だけを剥がされ
夜が明ければ新しい
しかし、また同じ道して行き交われ
捨てられた道のことなど
誰も想い出さないだろう

それでも今は、道は死んでいる
昼かと見紛うほど明る過ぎる照明は
剥がれゆく道の表皮の奥だけでなく
雲にまで届いて全てを晒し

欄間のガラスを見上げながら
流れる涙を瞳に湛え
永い溜息を、流れゆく白い雲に吐き掛け
貴方は小さく呟いた

少し、煩いわね
2013-02-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

寂しげな雨の予兆を

眩く光る小さな雲が
天窓向こうを駆けるが
照らす太陽の方向が分からない

時間が消えたかのような午後は
誰もが戸惑うように
宛てなく歩くばかりで

雲の哀しみが小窓を満たし
寂しげな雨が静かに降り始める

温かで穏やかな祝福に似て
祈る両の手を包むように
寂しげな雨が
そっと降り続け始めるのだ
2013-02-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

その青い哀しみを

寒いねと言おうとした唇が凍り付き
何も生まれない時を過ごすための代わりに
私達は哀しみを共にしようとした

しかし哀しみは、決して一つにはなれず
私達は別々の哀しみを抱き締め
それが同じであることを祈るしかない

遠くで樹氷を風が打ち続け
その冷たい音が響く永い時間を
耳を覆いながら蹲り過ごし
姿を見せない青空を想い出していた

時が凍る時が来たならば
もしかしたら哀しみも一つになるのでは
そう想い付いたまま耐え続けている
胸に抱いた青い哀しみは
少しづつ色褪せて見えてきた気がする
2013-02-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空に触れると、シルクのような手触りで

鉄塔の先端が引っ掛かると時の不快が増し
ただ青いだけだった空のカーテンが歪み
空の波紋が淡い雲となり広がり始めた

丁度、車が峠に差し掛かったところで
狭い海が、これから見えようかという
その期待に似た哀しみが車中には立ち込めていて

トランクの中の詩集は
いつまでも読まれることを拒絶するばかりで
嫌気と苛立ちから降車について話していたのだが
どこまで行けば車から降りれるのか
好い加減、疲れ切りながらも私達は黙って
地上を見ることのない空の下を駆けていた

鴎の鳴声が嫌いと彼女は言った
波だけの海が見てみたいとも

私は波音の記憶しか探し出すことが出来ず
峠を見捨てる方法だけを
裂かれゆく空を見ながら、ぼんやりと探していた
2013-02-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夢見る程にも夢というのは

それから、その水晶玉は硬く、硬く
それは金剛石よりも硬くなり

激しいスクォールが通り過ぎた
その直後の空気よりも透き通って
それは幾億光年も見通せるほど透き通り

たれも気付かない微風にすら
はらはらと飛び立ってしまう羽毛よりも軽く
それは、そのまま空高く消えてしまうほど軽く

そうこうしている内に
嗚呼、ほうき星のようになってみたいものだ
そう想うようになったのです

たった独りきり
宇宙の果ての何処までも飛んでゆく
あの、ほうき星に
このまま、なってしまおう

そして、そのまま旅立ったというのに
何故かしら重くて重くて仕方ないのです
自分が、こんなにも重いなんて
こんな宇宙の果てまで来なければ気付かなかったでしょう

そうこうしている内に
はたと目が覚めると
やはり水晶玉は、陽の中にあって
ただ見詰められたまま
何も変わることがなかったのでした
2013-02-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

灌木の間を蛇行し縫いつつ
微かに流れる小川を堰き止めながら
哀しみは雪と降っている

陽を求めながら雫は岩に沁み
やがては山腹から清水となって湧き出すが
哀しみを忘れた昨日を覚えてはいない

忘却を許さない残酷さで
時は永遠の星として輝くのか

刻まれた言葉の一つ一つを想い出せず
ただ広い雪原を彷徨う持ち主のない足跡を
懐かしさだけが追い縋り、月が照らす

通り過ぎる彗星の大きさに驚きながら
消えてゆく周囲の星の在り処を記した星図は
暖炉の中で静かに燃えている
2013-02-06 00:15 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜のない朝と、朝のない夜と

立ち止まる風と
立ち止まった影の間で
それでも石碑は刻まれ続け
知らない時を駆ける

涙を流さずに空を駆ける
たった一つ流星のように

誰にも知られずに空を駆ける
たった一つの流星のように

夜を知らぬままに朝を迎え
その眩しさに幻惑されたのだ

葉の上に儚く降りた露が
キラキラと輝いているから
あまりに眩しく輝いているから

それでも風は止まったままだし
影が動くこともなく
涙は流されることがなかった
2013-02-06 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

新しい季節を、知らない

一つの季節が過ぎると時計は壊れ
立ち止まる理由と共に
歩き始める理由は失われてしまうが

五つの季節の間、その男は
立ち止まることも歩き始めることもなく
ただ消えては現れる水平線を見詰め
許されない理由に身を委ねていた

九つの季節を越えると
水平線は地平線との交わりを捨て
空と海とに挟まれていることを捨て
ただ男に見詰められるだけの存在となった

その後のことは知らない
実際は、その間のことも分からない

それでも今、新しい季節の訪れだと想うのだが
記憶にない風の香りが漂い始め
知らない星を見つけることが多くなった

でもそれは、やはり知らない
全くに新しい季節でしかないのだ
2013-02-05 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無題

刻まれた冷たい足跡を辿り
波打際のない砂浜に埋もれた過去を
過ぎた時間で慰めながら
そっと指先は夕暮れに震え

いつか見るはずだった
ベンチに座っている横顔を
もう一度、想い出しながら
風の冷たさに時間は凍り付き
追い抜いてゆく足音だけが夕暮れを響く

秒針の響きが骨を砕きながら
戻らない哀しみを奪い去り
時を経ずに風化する哀しみを嘆き
ただ広がってゆく景色の中に
私達の居場所だけが希薄化する

終わり続ける終わりの中から抜け出せず
ただ終わらないだけの詩が書き綴られ
燃える紙片の前に立ち尽くすペンが
乾きゆくままに割れた欠片に
託すはずだった言葉は砕けてゆくのだった
2013-02-04 17:52 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

私達の赦しを

もし赦しに恵まれるとしたのなら
その、波を失った海に
その、風を失った空に
少しづつで良いから分けてはくれまいか

海と空とで分かち合った
その哀しみで失われた波と風と
微かな記憶に残る孤独と

波打際に描かれた寂しさが
希薄さを増す、暗い宙に飲み込まれる前に
濃密さを増す、深い深海に飲み込まれる前に

全てが無かったこととなる
その最期の時を私達は知ることはなく
ただ畏れの記憶としてのみ知り得るが

十分に過ぎる赦しを得た
その記憶こそが私達の
2013-02-04 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

白夜の花火

最後に一際、大きな大玉が高く打ち上げられ
それは音が消える程に高い空にまで昇り
小さいけれど美しく

そして種々に色鮮やかな炎たちが
空一面の流星群のように
ゆっくりと四方に散り、夜空に覆い広がり

薄れゆく光と光の合間からは
白夜漂う不思議な光のカーテン
オーロラが、するりと下り始める

夜の半分と朝の半分と、夜の半分と
夜でもなく、朝でもない広く冷たい空で
散り散りになった小さな炎達は凍り、集い

静かに夜でも朝でもない空を降り始めると
両の手を大きく広げ待つ子供達を見下ろしながら
困ったように少しづつ背負った哀しみを隠し

それでも降ることを止めることなど出来ず
硬い永遠の中に閉じ込めるように隠そうとするけれど
永遠など見当たらないままに涙ぐみ

せめて、ほんの少しの優しさでもと
どこまでも終わらない白夜の空を
ただただ、降りながら見渡し続けていた
2013-02-03 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

杭を巡りて

ただ一本の杭だけが
時代と共に遠ざかる海を待つか
潮風に晒されながら見送った時を
語ることもない史跡として

待ち草臥れた潮騒は、しかし
夜ともなれば風に乗り
届くこともないではなかろう

海は時を、語るだろうか
哀しみだけを飲み込みながら
ただ引潮だけは強く

地図に引かれた海岸線をなぞり
時を跨ぐ哀しみの系譜を追いながら

星よりも多いか、されこうべ
草葉の翳に待つだには
人の時は短過ぎ
遠くを巡るほうき星も
嘲笑う暇すらなかろうに
2013-02-02 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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