鳴らない呼鈴

薄靄だが明るさに満ちた昼日中を
一瞬間だけ横切る夜の名残としての闇
それが昨夜なのかは分からない
そんな夜自体、訪れたことなどないのかもしれない
ただ音のない雷鳴が、細く音を引いている

もう雨からは相当、遠くに離れただろう
窓硝子に触れると滴が指に移り
てんとう虫の後を追って幾度も硝子を叩く

記憶の中でだけ流れ続ける小川の音
その辺は、あまりに殺伐としていて
わずかな草が疎らに生えているだけなのだが
記憶の中ですら見えないままの影が行き来している

本当は力強いのだろうけれど
春になろうとする梢は寂しく
季節を無視して青い空のせいだろうか
軽く触れただけでも、きっと折れてしまう
その音が耳朶を打ち響いて止まない

ピアノの音は少しは乾きから解放されたようで
数戸の屋根を越え、ここにも聴こえてくるが
いつもと変わることはなく
やはり聴いたことのないメロディーだ

呼鈴が鳴る前に手にした受話器と
相手もいないのに話そうとしていたことと
その間で立ち尽くしたまま
涙が流れ、全てを洗い流してくれるのを待っていた
2013-04-30 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

私達の出遭い

絶対的な生が絶対的な死を示し
あるいは、その逆でもあって
共に矛盾なく完全に共存するように
絶対的喪失によってのみ私は生まれる

存在の哀しみこそが存在理由で
存在する理由の全ては哀しみと同一で
哀しみは涙を伴うことはなくて
ただ幻影としての哀しみしか見えなくて

だから結局、分かり合うことも出来ず
分かり合う必要すら実はない
この事実あたりまでなら分かる気がする

詩、あるいは詩的なるもの
それらに美しさが求められるのも
実に哀しみの体現者ならんが故なのだ

美しさに哀しみを、哀しみに美しさを
それぞれ与えなくてはならない
そうしてこそ私達は、もう一度だけ
おそらくは、もう一度だけ生まれ変わることを知る

全ての矛盾する絶対域で
そうでなくては生きてゆくことが難しい
そういう全ての矛盾する絶対域で
私達は、もう一度、生まれ変わり
そこでだけ出遭うことが出来るだろう
2013-04-29 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

花弁と雪片と

公園の花園を下る麗人の横顔
その左頬を諦めて花弁が水平線を描くと
右頬を諦めた雪片は地平線を描いた

幾度も繰り返し押すペンの尻は固く
拇指を突き抜けて空に跳ね
三つほどの星に打つかり弾け流星となった

点けた直後に消える電灯の残光を頼りに
蝋燭の炎は揺れる中に時を呼び込み
一匹の蛾とともに灰に戻す

手にしたペン先の細さに慄くと
静かに、かつ二つに割られた夜は
それぞれに想うまま開いて
いくつかの夜は星に似た瞳を抱いた

夢の限りにテーブルを配置して
その上に並べた金魚鉢に注水し
黙ったままの影となる男と
饒舌を尽くして消える女と
車輪を外されたまま窓外を走る車と

胸の痛みの中に住まう時空を捨てながら
歪む四角形に類似した枠を追い
硬直してゆく指先は透き通って
昨日だか一昨日だかから動かないまま
山頂に引っ掛かっていた月が一齧りして
それきり見向きもしなかった
2013-04-28 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

校舎の夕景

物理学的な正しさで花は美しく咲く
そう呟く貴方の唇は幾何学的に美しく
直線と曲線との拒絶を描いている

化学実験室の匂いと装って揺れる
掌の上で止まる陽の光と
音楽室を記憶に留めたまま鳴り続ける
解体されたピアノの鍵盤と
それらを並べて植えただけの花壇と

禍々しさに彩られた硝子戸の向こうで
放置されたままの骨格標本は
覚えたての踊りについて検討していたが
そのままの姿勢で止まったままだ

校舎を二時半の方向に見ながら抜けると
夕暮だけで出来たグラウンドに出る

声を失った感情と感情を奪われた声とは交錯し
私達の心と心の間が揺さぶられるが
それだけが、ただ一つの夕景の要素となるのだ
2013-04-27 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨の宴が終わる時

雨の轍に縛られたまま
あの人の髪よりも細い航路を
月光に帆を張る帆船は回顧し
波は啼きながら岬を囲む

滝を越えられない鮭の死骸の背が
水平線の投影となった満月に照り光り
哀しみだけは先行して遡上し続ける

取り残された枯葉が川を下り
爪の一片となって海を引っ掻くと
海面は引き剥がされた過去となり
行方知れずだった少女を保護するだろう

あらゆる視界を遮る硝子窓の枠を越し
雨は、もう一度だけ光を取り戻すけれど
夜を越えて降り続けることはなく
一夜の宴だけを乞い続けていた
2013-04-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一つ星が分かつ時間

常に過ぎ去った偽りとして
あるいは、ただ壊れゆくだけのものとして
約束される愛の欠落に滑り込んで
夜は、訪れる

カーテンを閉じない部屋に蝶が舞うように
土と石との間を歩き続けてみたが
やはり、アンモナイトどころか
化石の一片すら見つからなかったけれど

汽船の煙突と記者の煙突とについて話すと
あの星と、あの星のようね
同じ光にしか見えない星を指差しながら
貴方の唇は閉じたまま呟く

昼には霞んでしまう向こう岸の辺りで
一つのヘッドライトが停止すると
本当は、それだけで良かったのにね
知らぬ人が肩を寄せて囁き、去っていった
2013-04-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

明日の夢

昨日、終わる夢を見た明日を
何処に届ければ良いのだろう

激しくフレアを回転させながら
日輪が空を燃やし尽くし渡るように
時を渡れば、届け先は見つかるだろうか

睫毛を凍らせる冬のように
凍て付いた涙を指で弾き砕けば
誰かしらには届くのだろう

目隠しされて重荷を背負う馬は
荷主を知らないものだから
何処に届けるかも知らないものだから

坂道を転げるだけ転がれば
皆、一緒に海に出ようか
それとも陸封された湖に沈んで底泥に混じり
閉じない瞳の人形となろうか

椅子に座らせた人形の瞳は閉じたままで
睫毛だけが微かに揺れている
明日の夢に、まだ微かに揺れ続けている
2013-04-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

流浪する坂道を下りながら

翼をもがれた哀しみが
星よりも速く坂道を転げ落ちてゆくと
忘れ去られるばかりの夜は
黙ったままの時計を優しく叩き
ほんの少しだけの時を進める

去年の桜を知らない雪が降り
積もる前に新しい桜が咲くけれど
出遭えなかった雪の名残を幹に感じ
冬の中に花弁は閉じ込められる

永い間、草の葉上に佇んでいた滴が
花弁の散るはずだった蒼穹を舞い
潤う喉は白く伸びるけれど
止まらない風車が影を伸ばす

風月を跨ぐまでもなく陽は昇り
月を追い掛けながら急ぎ足で沈んでゆくけれど
やはり止まらない月の光を遮るように
ビルの影が哀しみを踏みながら
都会の雑踏の中に消えて行ってしまった
2013-04-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

二つの水平線の間の星と

テーブルに貼り付いたまま
離れようとしない光たちよ
その星型を以て鋳型とし
編まれるままに羽織られる詩編は
どれ程の冷たさで哀しむのか

回転木馬は白く街を駆け抜け
チョコレート色の足音を踏み付けながら
曲がることの出来ない街角で
川面を滑ってきた包装紙と出遭う
誰彼問わず追い出した夜の始まりだ

見られるよりも早く描かれ
破り捨てられるキャンバスは
流す涙を筆に託すが
もう次の色に染まって忘れているのだ

キャンバスの破片からは
もう別の回転木馬が立ち上がり
雄々しくいななき、激しく足踏みし
ぐずぐずとどまっている光を蹴散らす

そうして私達の星空は取り戻され
一つの物語として星座に鎮座し
テーブルの上のプラネタリウムとして撫でられながら
語られるべき水平線を待っている
2013-04-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

四十八億光年くらい先の星達

あらゆる昆虫を集めたよりも多く
その透き通った複眼の全てに異なる星を映し
日光を浴び終えた爬虫類の傍らで
月は、川の流れを横たわっている

泳ぎ損ねた魚が溺死したまま
金色の糸に幾重にも巻き取られながらも
撥ね飛ばす水滴の中での静かな暮らしと
アスファルトに積まれ損ねたままの
小石が見る夢が雲上の頂点で一つになり
川の源流を成しているのだ

山を幾重にも重ねた波音が響く街で
風が歩きながら拾っては捨てる物語がそれで
時計が激しく逆回りするエネルギーとなるものだ

羽毛の柔らかさで小石は雨に降り
哀願する私達の右の手を並べ
塀の上で夕陽に晒しては哭いて哄笑し
雲の記憶を辿りながら眠ろうとしている

疲弊した細い針金だけを頼り
辛うじて動いているゼンマイ仕掛けのカラクリ箱と
その中に忍び込ませておいた欠片になった自転車
自転車を照らすはずのまま空回りする夏と
出遭うはずもない隣人に預けた大切なもの

忘れられたままに永遠に月の中で複製され
死する赦しを絶たれた無数の星達だ
2013-04-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

月の小径を往く

緑色に輝く月の小径に草原は分かたれる
瞳から降り止まない氷雪を頂く山頂に至る前の話で
君の肘が机に触れてから離れるまでのことだ

机を離れた肘は伸びることを知らないから
そのまま私の横腹に押し付けられて
余りに華奢な骨組みに圧倒されて淡く
丁度、噴水の水が空中で更に細かいミストになり
やがては宙に消えてゆくようなものだろうか

別れ際と言うのは、そういうものらしい
凍えているだろう山の頂に吹く風を知らないまま
山向こうで熱砂に晒される砂漠を彷徨い
私達の間は干乾びてゆくわけだ

機械的な動きで飛び交う蝶の群れの中で
私達の別れも舞い飛び紛れ消えてゆく
ただ美しくあろうとする蝶達と共に消えてゆく

最後に響いた微かな音には気付かないまま
それでも足裏の冷たさに気付く時に想い出され
いつの間にか膝までが波に洗われている

手にしたまま消えてゆく写真の中で
別れた夜の月は昇り、沈みを繰り返しながら
草原を靡かせる風の中に薄れてゆくのだね
2013-04-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

思案しながらブランコは揺れる

紙面を滑る音だけは、あるいは真実かもしれない
いつでも男は、そう言い残すのだったが
最後の別れでは、やはり、それすら嘘だったと書き残した

既知の草原を吹くまでは、風は風にならず
未踏のジャングルに生えることで樹は密林を生み出し
その間で佇むことで時の刻まれる音を聴くことが出来るが
海と水平線の間で私達は出遭ってしまうものだ

時の反射する瞳を外しながら視線だけは
視線の先だけは動かない様に細心の注意を払っているというのに
交錯する視野と視野とを外そうとしているというのに
重なることが別れを決定付けると知っているから
私達の視野は重なってしまうのだろう

何が動いても揺れてしまう
止まることの出来ないブランコだけを置く公園で
その、揺れるリズムが共有されないままに
私達は背合わせに腰を委ね
交互に違ってゆく空に足を跳ね上げる

そうして揺れるペン先の音は静かに止まり
書くことの意味を問うことが止まることを知り
私達は揺れるまま眠ることを許される

等身大の彫刻を想い描きながら
直径にして1メートルほどの穴を開けた壁に凭れ
その穴の闇の中に入ろうかどうか思案しては夕暮れを苦笑し
笑うことを忘れて久しいことを想い出すと
微かな虫の音が穴向こうから囁くように響いてきた
2013-04-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨音を遠ざけて

夜の通り過ぎない窓を
雨を呼ぶ雨音が激しく叩くと
憂鬱に残り陽は立ち退くが
フロアの熱は上がり続ける

星を跨いで時が過ぎ
置き去りにされた季節と共に
細い月が独り、昇り
沈む先に向かって歌い始めていた

九十九折の軌道を周回しながら
消えることのない流星は地に堕ち
破裂した地表の熱の中で光は生まれ
もう一度だけ降り始める雨を口にする

電話を壊したまま鈴を待ち
凭れれば歪む壁に寄り添って
昔、吹かれた風に吹かれながら
捨て忘れたままの詩集に手を伸ばすと
少しは雨音も遠ざかる
2013-04-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

鳴ることのないリズムで

太古の太鼓、そのリズムを通り抜けて
清冽な時の表面は波打ちながら夜を舞い
ハーブの香りの中、眠り際を流離うけれど

古紙に記された私達のいない地図を
カメラの露光を高めて真白に写し
その上をなぞっているけれど

シャッター音が消えるまでの間だけ
美しくあることが出来る少女に伝えて下さい
何ものも写すことのない鏡を見つけておきました、と

覚醒に至る途上で見た朝霧の光は
静かに死にゆくだけのノートを照らし
丘を駆ける風と混じり吹いて
遂に光を失った星に辿り着くけれど
いつまでも地図は古いままで改訂されず

哀嘆を奪われた足跡の窪みに雨は降りながら
私達の、私だけの朝は鬱陶しく明け始めます
2013-04-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

フレームの、中から中へ

青い月光に照らされた白い冷蔵庫を
私は信じることが出来ない
髪を編み込んだまま爪を噛んで血を流す
金色の瞳の少女が、そこに立つからだ

白く濁った重い泡が
やはり青く渦巻く激流で跳ね
無機質な円筒の下水道を進み暗闇に消える
その光景を忘れられないのと同じに

微かに見え隠れする桐ダンスは
角の金具だけが鮮明に黒く光り
釘頭の網目すらが浮かび上がる
だのに、やはり微かに見えるだけで

時のない予兆としての柔らかな葉先
葉毛の中に閉じ込められたままの永遠の光
別れを引き摺り続ける遠い季節
その傍らで音なく流れる小川
幹のない葉が茂る森

それら全てを置き去りにする、私
ここに至る全てを忘れたままの、私
水平線の中に埋もれてゆく、私
2013-04-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

航空便の深夜

そこだけが欠けた月の瞳を川に流し
そこだけが満ちた湖の涙を掬い
帰航しない舟は遡上し

柔らかな滴が弾けると雨音が去りながら嗤い
遠くから近くに沈む木々の歌が聴こえ始める

捲るページのないノートを抱え上げると
月の欠片が飛び出して街を捨て
透明な指先に宿った景色は
平皿の中で軽やかに踊る

置き去りにされた赤い土塊は
コンクリの中に閉じ込められたまま
どこまで冷えてゆくのか

鳥の足跡が宙に点々と彷徨うように
私達の足跡は深海を渡りながら
夜のジェット気流の中で
知ることの出来なかった眠りに出遭う
2013-04-15 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

春炎

蒼い月の破片が散る中を
白い石が掻い潜っているので
立ち尽くすだけしか出来ず
吐く息と吸う息とが混じってゆくのを見つめていた

欠けたまま口を開けるトンネルの
出れば明るい光を遮る闇に
眠り続ける星達は揺れている

背中にシャツを押し付けながら
春風はトンネルを抜け
あの丘よりもさらに高く
何もない高さに吹いてゆく

冬を跨げなかった秋を拾い上げると
落ち葉に埋もれた波音が辺りに響き
過ぎた季節は初めて想い出される

そして、もう一度、蒼い月に包まれて
身動き出来ないことに気付く時
春の炎が静かに照らし始めるのだ
2013-04-14 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

高架下に向かう

冷たい風に砕ける光の中
吐き出される紫煙は正体を失ってゆく

抽象化された実体と実体と
全てが虚構と知ってはいるのに
遠過ぎる近さが狂おしさに埋もれゆく午後

木立の中、木漏れ陽は淡く
曖昧な輪郭でだけ世界は真実へと変わる
そう、あって欲しい

高架を過ぎる車窓には同じ顔が並び
こちらに向けられた瞳は色を失っている
映る、何ものもなく失っているのだ

辛うじて見える向こうの空は、やはり
ただ青いばかりにひかるだけで
雲の白さが痛ましい傷となっている

どこに行ってしまったのか
朝には想い出したはずの少年時代と
捨ててしまった川遊びの写真

そんなことらを置き忘れてゆきながら
ただ高架下の温かさに頼ろうとしていた
2013-04-13 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

哀しみの戻る場所

遠くにある涙が乾かないままに
波音と共に汀に佇んでいる

月は常に独りきり
星のある空も、星のない空も
ただ黙って渡ってゆくばかり

独りに戻れない哀しみは
独りきりの場所を求め
彼方此方を彷徨うが
終に逃れることも出来ず
涙の中に封印されてしまう

歩くことを外れない速さで
夜から逃げてゆく夕暮の中に留まれば
それほどに明るく光らなくても良いだろうに

月の足取りを追い掛ける哀しみの足は縺れ
擦り剥けた膝小僧の血にも涙し
暫しの冷たさに身を任せたまま
当て所ない街に戻るしかないのだった
2013-04-12 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

鳴り続ける踏切の前で

別れに臨界する愛しさと
別れを愛し続ける哀しさと
二つを並べて月明かりに透かすと
影は、ぼやけたまま夜道を舐め
正体を失ってゆく

ただ遠ざかるだけの世界の中で
肩を並べて見上げる星空は遥遠で
遥かなままに光が砕ける音
それだけを頼りに足音を揃えていた

二つ響く足音は哀し過ぎて耐えられない
一つ響く足音は愛し過ぎて絶え難い

少しづつずれてゆく足音の響きを
気付かぬように合わせながら
湿った夜を通り抜けてゆくけれど

それは仕方ないことで
丁度、踏切の警報音が一つから二つに
二つから一つに変るのと同じこと
そう、言い聞かせて過ごすしかない

足音を合わせていたのは誰だろう
合わせる必要など、ないというのに
合わせようとすればするほどに
足音は遠のいてゆくというのに
2013-04-11 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

哀しみは水平線の彼方に

淵源を訪れることが出来たなら
絶つことも出来るのだろうか

哀しいと装うほどにも
哀しくないと装うことは罪なことだ
少なくとも傍目には

涙が語るものならば、とも想う
涙を伴わずに時は過ぎてゆくから
涙のないままに哀しみは過ぎるから

遠い汽笛に少し大きめの船を想い浮かべ
甲板に人を置こうとしても置くことが出来ず
誰もいない船の出航時間が近付いてくる

旅立つ船は、いつも独りきり
航路の嵐を知るものもいないし
次に接岸する先を知るものもいないし
途中、照ることもある星を知るものもいない

ただ全てを背負って独り
船は出航し、探し求め
どこまでも水平線を辿り続けるのだろう
2013-04-10 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

睫毛に宿る眠りに沈む

車輪の影が雲に飲み込まれてゆく
睫毛が重くて仕方ない午後
切られた髪が泥濘や残雪
ただの土塊の上に落ちるのを眺めていた

挟みを持つ手の温もりが恋しげで
そっと頬を寄せてみたけれど
正確な冷たさだけに変っていた

点々と流した血の痕が
落ちる場所によって色が違う
それが不思議だったけれど
やはり雲に飲み込まれてしまう

蹴飛ばしたい気持ちを抑えながら
これと言う形も無いままに縁だけが光る雲を見上げると
昨日、届いた手紙のことを想い出す

開封しないままでも分かるから
そのまま生ゴミと一緒に捨ててしまったはずで
それでも開封していたら違っていたのかしら
髪の色は、そんなには変わらないものだけれど

椅子の軋む音に凭れながら
変ることのない、これからに想いを馳せ
輪郭も色彩も限りなく曖昧な虹を見ると
睫毛に宿っていることに気付きながらも
知らぬ振りをするだけで眠りに就けた
2013-04-09 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

日曜の銃弾

日曜に放たれた銃弾は月曜の雨に打たれる
火曜には風に吹かれて少しは雨を振り払う
水曜には陽に乾いて干乾びもする
木曜には潮風に吹かれて赤く変色し
金曜には来た道も行く道も忘れてしまう
仕方ないので土曜には銀色の粘土を練って
また銃弾を作り直す

せめて一周で良いから地球を巡り、この心臓に届いたのなら
きっと、それは素晴らしい
その時の銃弾は、きっと正面から心臓を打ち抜くだろう
振り返りもしないままの心臓の正面から打ち抜くのだ

ジャングルを掻い潜って荒野を抜け
砂漠の砂嵐を打ち破って七つの海を渡り歩き
空に触れる山の頂で凍て付きながら
星の美しさについて語り尽くし
月の罪について語り尽くし
それから私の、この心臓を打ち抜いて
きっとどこまでも全てを打ち抜いてゆく
2013-04-08 12:14 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

湖と海との間に置くもの

置き去りにされたままの願いは
虹の上に載せられて空に散る
小さく真白な雲が一つだけ浮かぶ
美しい青空が湖面を覆う日に

明るい陽光に包まれた祈りは
遠くまで響く鐘の音へと変わり
虹をくぐることもある

二つは決して、互いに触れはしないけれど
いつでも二つのものが触れることはないように
時と空間が触れることはないように

蕾の先に射抜かれた昔日たちが
花弁の開く力で砕け
想い出に変る前に消えてしまうなら
何も望みはしないのだけれど

車輪は回らないまま軸に凭れ
走らない車に乗せられた時計の音が
こんなにも大きく響いていると
車窓の外で色鮮やかに咲き誇る花は
なんとも恨めしい

やはり、もう一度、あの丘を越え
くすんだ海の波音を想い出しながら
凪いだままの潮風に
もう少しだけ涙していよう
2013-04-08 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

バラと散る君へ

狂ったバラの散るように
君は宙に身を投げる
信じ切った腕の中に
空っぽの腕と気付かぬままに

テールランプが遠ざかる
夜の風に身を返す
想い出した夕暮れの
最期の光を瞼に刻み

遠い日の愛が生きる部屋
温もりだけが生きる部屋に
愛されただけの時間を残し
君は宙に身を投げた

踏切を過ぎる影を見て
電車の前を駆け抜ける
知らない背中を追うために
知らない背中と知るために

止まったままの腕時計
何度も確かめ立ち止まる
知らない時間を何度でも
繰り返し確かめ急ぎ出す

遠い日の夢が生きる部屋
愛しさだけが生きる部屋に
ただ独りだけの時間を残し
君は宙に身を投げた
2013-04-07 23:51 : 実験中&備忘録 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

晩冬を跨ぐもの

春は硝子窓越しに訪れるものらしい

記憶にある昨日の硝子向こうは
やはり明るく陽が差し、暖かそうで
それでいて外気に触れると身が切られ
まだ遠くまでは歩いて行けなかった

今日も決して寒くないことはないのだけれど
少し厚着をすればと知らない川縁に座っている

土手から見える川は凍っているように
暗い顰め面に薄く雲が映るだけで
まだまだ水は冷たそうで身が竦む

土手を降りた時も、まだ
枯れた背の高い草叢は川音すら遮って
どこをどう歩いたか
気付くと人気のない野球場に出た

乾いた土が冷たく、力なく舞い
ベンチに積もる埃となって
座るものを拒んでいる

それでも微かな川音が嬉しくて川の辺に立てば
向こう岸にも知らない人が立ち
お互いに曖昧な笑顔を浮かべながら腰を下ろす

こちらからなら見える鮮やかさを増している背後の緑
それを見ないのかしら
と、少し不思議にも想うけれど私も同じことで
まだまだ触れれば冷たいだろう川の流れに向かい合い
いつ冬が終わったのだろうかと考えていた

気付くと土手からは野球少年達だろうか
賑やかな声を上げながら球場に向かう様子で
背を照らす陽を景気づけて暖かい
とても、暖かい
2013-04-07 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

- 肖像 - 祖父(母方)

1.
健脚だけど耳が遠いおじいちゃん

帰路は、とっても長い下り坂で
底の家は小さな掌にも隠れてしまう

テクテク、スタスタ
小さくなってく背中を追って
大きな声で呼び掛ける
「おじいちゃん、おじいちゃん!」
テクテク、スタスタ

変わらない足取りで坂下に向かう
追い縋りかねない小さな手を
強く、優しく引き止めるお母さんの手
「聴こえないだけよ
 また、すぐに来るから大丈夫」

2.
すっかりツルツルだったおじいちゃん

私の目の前でピカピカ光る
ペタペタすると気持ち良い
「こらこら!
 おじいちゃんの頭をはたかない!」
それでもおじいちゃんは、きっとニコニコ顔

皆がいても特等席は変わらない
安手の半纏、カーキと深緑の格子柄
膝上に収まってしまう私の上で
もくもくと立ち上る煙草の煙
安い、安い、煙草の煙

ボクシングやキックボクシングが大好きで
私の目の前、中継に合わせてパンチの真似
贔屓の選手が勝っても負けても
「よく頑張った、大したもんだ」

3.
ペンキ屋だったおじいちゃん

筆を持つと大真面目
散歩がてらのスケッチを前に色を練り
器用な水彩画をサラサラサラ

教えてもらった龍の描き方、簡単だった
半円二つを鼻にして
そこから段々の伸びる鼻梁
ギョロリと描く大きな目
角を生やせば龍になる

GHQのお風呂の仕事は少し自慢げ
「おっきな富士山を描いてきた」
大きな洋館に富士山は似合わないんじゃないかなあ
出されたお菓子は美味しかったんだって

4.
小さかったおじいちゃん

徴兵検査でも小さ過ぎ
戦争に行けずに悔しかったんだって
戦争に行けずに恥ずかしかったんだって

私の知らない伯父さんの遺影
南洋で戦没して戻らないまま

おじいちゃんも話したがらない戦争の話
大空襲の真っ赤な空に、一杯のB-29
川に飛び込んだ話を聞いた

5.
明治生まれのおじいちゃん

「関東大震災は凄かった」
確か上野から赤羽まで
道は死んだ人で一杯で
帰るのに精一杯だったおじいちゃん

色々な悲しいことを知っていて
色々な悔しいことも知っていて
それでも黙ってニコニコしてた

5.
動物が大好きなおじいちゃん

公団団地で犬は飼えない
小さなベランダを緑地に変えて
大切に飼っていた数匹のヒメダカ
「大きなヒメダカは三年目かな
 そろそろ卵を拾ってあげなくちゃ」

ガタンゴトン、ガタンゴトン
大きな音を立てながら
新しい地下鉄が通り過ぎる音

ピューン、ビュンビュン
大きな音を立てながら
大通りを車が通り過ぎる音

6.
脳梗塞のおじいちゃん

家に戻ったら蒲団の中で動けない
家族は周りで大慌て
何も言えないおじいちゃん

小さくなった手を握り
「分かったら握り返してね」
ギューッ!っと握り返してくれた

声を掛けて音楽を鳴らしながら
小さな胸に飛び込んだ

救急車が到着して
抱えたおじいちゃんは軽かった

7.
管だらけのおじいちゃん

もう握り返してはくれなくなった
口の中は綿だらけ
お骨を拾えばポロポロ零れた
さようならも言えなかった

8.
始めて覚えているおじいちゃん

幼い私は海に入るのが恐ろしくて
おじいちゃんと海岸沿いを散歩する

不思議な石や貝殻の間
あったかい太陽の中を散歩する

クジラ石を見つけて大喜び
二人で見つけたクジラ石
クジラが海から頭を出してるみたい

二人で大事に持ち帰り
今は私が頭を撫でて
おじいちゃんのことを想い出す

いつも一緒のクジラ石
もう会えない、おじいちゃん
大好きだった、おじいちゃん
まだまだ一杯の、おじいちゃん
2013-04-06 15:21 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

栞と理由

壊れたスイッチを幾度も押しながら
理由について考え続けていた

摘んだ一葉を栞として挟み
愛したまま初秋の暖炉にくべた
詩集の書かれた理由を、だった

寒気に思考も鈍ったまま
不快な音も忘れたまま
繰り返しスイッチを押した指が痛かった
今でも、痛みが疼く

静かな浜は波を吸う砂の声しか聴こえず
その、小さく白い花を除けながら
出来るだけ綺麗な葉を摘んだはずだ

夕立を連れ来る雲が背後に立ち上るのを感じ
それでも、その葉が欲しくて
中々、戻ることが出来なかった

結局、スイッチは壊れたままのようで
ベッドが軋む音だけが部屋を満たしたけれど
理由については、分からないままが良い
そう気付いて眠りに就いた
あの栞は、もう燃えてしまったのだ
2013-04-06 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

衣擦れの音

障子に貼られた紙と紙の間に
老夫婦の会話は仕舞い込まれる

雨の音がしますね、と
明日は畑は休もうか、と

明日の雨音が響く中
艶やかさは変わらぬままの衣擦れの音
昔日と変わらぬ静けさと

愛しさだけが満ちる宙に
豆電球は点滅を止めて光り続け
そっと何ともなく見守っている

ただ、それだけの未来を夢見て
恋人たちの日は暮れる

黙ったままの二人の灯が
静かに灯り始めるまで
2013-04-05 14:10 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨の預言に打たれよ

コンクリートの気泡の中に
石化した林檎を置いた

不服そうに猫が鳴くので
その眼をくり抜いて隣に並べると
足を失って倒れる椅子に掛けた女が初めて微笑んだので
林檎の向こうに据えた

どこかで土の音がする、緑に湿った土の音
探せば近く、頭蓋の右後ろ
ブラインドに閉ざされた夕陽を見るところ
遠くに置き忘れた土手を想い出すところ

空薬莢に模られた雨が降り始め
コンクリートを砕きながら溶けてゆく

石化した林檎は柔らかな土に着地し
猫の眼は硝子になって元の位置に戻った
女は石膏の中に収まっていた
2013-04-05 14:09 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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