月と頂の間から

その街角に君の気配が漂う頃には、ドアを開け放ったままの僕はいない。
窓を開けて目一杯に伸ばした左手の指先を狡猾な臭いを放つ月に掛け、中天に昇っているのだ。
そこから右手を目一杯に伸ばして君のいない世界を抱き寄せようとする。
それは青いといわれた土気色した地球に似た球体で、少しポウッとしている。

数千億光年先から届く叫びに身をさらし、海面に漂う魚の死体のように星を見つめているのだ。
壊されたまま置き去りにされている花壇の土を手に取り、静かに散ろうとする君を見つめているのだ
祈ることも嘆くことも許されずに幸いを祈り散る、一つの終わりを見つめているのだ。

僕は歌わないだろう、月の歌を。
君は歌わないだろう、月の歌を。
誰も歌わないだろう、月の歌を。

微かで誤ったままの予兆の元に平伏す多くの神官たちを従えた、その街角に僕たちは立つ。
信号機の色を青だ、黄色だ、赤だ、と笑いあいながら。
いくつもの方向に拡がる街角に、様々な人の様々な向かいように囲まれながら。

その想い出に浸れたら僕は指を滑らせる。
目指すべき山の頂に向かって真っすぐに。
あるいは波の頂に。
風の吹くことのない、誰も気付かない丘の頂に。
2014-05-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

週明けの双子

日曜日の顔を失った月曜日
無関係な双子は、並んで無邪気に洞窟の仮面を剥ぐ
内面という外部を覗き込もうとしているのだ

望遠レンズに遠く浮かぶ二つの月
拙い哀しみのいくつかの翳り
陸奔る海魚の群れ
アスファルトの上で蠢く毛虫たち

若者の傍らの全ての葉は獣が駆け抜けた時のように揺れ
恋人の傍らの全ての波の表面は滑降する孤独に泡立ち
無関係なままの双子が黙ったまま瞳を失う

-銀河の表面はどこにあるのかな?
双子の一人が問う
-銀河の表面はどうなっているのかな?
双子の一人が問う

星と星との間で光は永遠に届くほどに遅く
地上を照らすには、あまりに短い時間しか生きられず
陽の光の中に溶けこんだまま灼熱の微睡を知ったか?

月曜日の顔を持ったままの火曜日
双子は双子を失い二人の子供達となった
仮面の洞窟の奥深くに、そうっと自分達の秘密を置いて
月曜日の雨は夜を跨がずに止んでいた
2014-05-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夕暮に、憂いは解けて

夕暮の近くを歩くと、また夕暮と出会った
雪花の憂いに蕾は言祝ぎ遠雷の祝宴は山を訪れるか
雨が降り終ると水の底を川は走る
約束の寿命を与えられた季節は雪より淡く
記憶の拡大鏡に移り住んで永らえようとしていた

昼暮れの訪れる港を出港する曳船の嘆きは
太くギリギリと私たちを締め付けていて
遠ざけられるものが手放すまいと身にする強力を発揮し
その力さえ綻びの前には消えてしまうのだと知らしめている

ボールの一回転だけで終わる坂を永く下り
その両脇に拡がる景色を、やはり拡大鏡に写し取ろうとしたが
そのまま通り過ぎてしまい、振り返れば坂は平坦な道に戻っている
転がったはずのボールは止まったままで子供に蹴り飛ばされていた

人の背を越える大岩の陰に隠れて古代を宿す土塊の中
私たちは時の進む穴を掘りながら時計を止め
星の光を拾い隠して闇を求めている
カランカツンと乾いた微かに響くのは、星が岩にぶつかる音だった

その昔、大水が攫った村は下流の文明として開化したらしい
山の頂には乾いたままの動物の骨皮が散乱していると聞く
本に収められた世界は、あまりに小さく脆い
天球儀の中に収められた地球は、もっと小さく脆い

その地球に夕暮を描こうとしたら天球儀は転げ
あちこち壊れながら、あるはずもないドアの外
夕暮の中に飛び出していった
2014-05-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

始めに言葉達が壊れた

三つか五つかの季節を過ぎやって開く二ページ目の片隅には小さく一ページ目が記されていて、一ページ目の片隅には小さく本の表紙が記されている。いくつかの季節を過ぎやれば本は消え、作者のいなかったことに気付くだろう。

抱きしめたままの愛が壊れたままであったように、抱えたままの言葉達は壊れたままであった。
-下痢のようだな
吐き出す言葉に飽いて沈黙を求めると初夏の鼻水が流れ出した。
左右に違う大きさのティッシュを詰めると、勝手に言葉達は溢れ出すが、鼻水の方が多くて見失う。

夜の雲を愛しみながら月を求めていた。時計の針は音量を心得ていたので、それだけで心地良い夜だと満足しなくてはならなかった。
昼の雲は好きになれないまま雨を求めていた。時計の針は速さを心得ておらず、それだけで不機嫌な昼だと不満足にならなくてはならなかった。
リフレインを繰り返す日々をハイウェイを駆ける車で誤魔化しながら、昼も夜も失ってしまった街を遠く眺め、山に残された灯台に小さく灯を点す。

川面を走る泡のように想い出す人を記憶の底に追いながら、禁じられるべき言葉を数えた。失うべき言葉は多過ぎて、それだけで気を失いそうになるので念入りに。
想い出すことを遠くにおいやるためだけならば、残された数少ない言葉を手元に残しても良いだろうか。語らずにしまっておくだけならば。

物語を簡単に記した碑の傍で静まったままの湖畔に立ち、全てがあることを確かめた。山も海も川も空も大地も、それらに付随する色々も。
物語は湖に投げ込まれ、その深い底を溺れながら泳ぎ渡って対岸に立ち、こちらを見つめている。視線を落とすと星の明かりがチラチラと湖面を走り、無限に小さくなりながら、彼岸と此岸の渡し舟となって消えている。
手にしたはずの本は奪われることなく開くことが出来なくなっていて、二ページ目のことも、すっかり忘れていた。デリート・キーとバックスペース・キーとが違うことは、改めて覚えた。
2014-05-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

試詩的終宴について

詩的なモノは常に冒険的(それは往々にして日常的なるものである)で、その拓かれた世界(それは往々にして壊れた世界である)に瞳は奪われる。瞳を奪うモノに宿るモノの態様のことを”美しい”のだと言ってみよう。それは一般的に「美しい」とされるものばかりではない。目を背ける時にも又、瞳は奪われる。詩はコトバという道具を通して世界を拓こうとする試みと言えるかもしれない。詩的なモノは、また”遭遇”の契機でもある。それは世界を拓くことを言い換えたにすぎないと同時に、未知だった自分との遭遇であり、訣別でもあるということだ。その意味でも、やはり冒険的、つまり”美しい”のだと言わざるを得ないかもしれない。

娘に薦められたバンドの曲を聴いていて、ふと詩を書きたいと想った。私は詩というものを書いたことがない。単なる落書として書き始めた頃から、それなりに継続して書き続けたこともあるけれど、詩というものを書いてみたいもんだなと想うようになるばかりで、やはり、それらは詩ではなかった。なによりも、詩を書くという行為に必要なのは自覚なのだろう。まず初めに、私には自覚がないままだったのだ(自覚を持つことを怖れていたのだろう)。それが、詩を書きたいと想うようにまではなってきた。詩的なモノ、更には詩というものが何なのか?や、詩というものに必要な技法や知識・・・それらは未だにないままであることに変りはないのだが、ナニカが変わったのだ(また、変わっていないのだ)。

従来、全く書かない期間が数か月(年?)もあったり、気が向いても予約投稿システムを用いて溜め込んでアップしたものも多く、それすら気が向いた時に、いつ書いたかも分からないメモ書きを拾い集め、書き改めてアップするという具合だった。そういった好い加減さだって変わることはないと想うのだが、それでも今後は、せめて試作詩としてでも詩を書いてゆこうと想うようにはなったのだ。もっとも、それはナニカの終わりでもあることなので、「試詩的終宴」というカテゴリを新規作成することにした。このブログは設定の関係もあるし、本当に限られた人しか見ないし辿り着かない。読まれないまま終わる、それは私にとって幸いなことであった。



本稿にあたって改めてでは御座いますが、別ブログ・サービスでの邂逅から数えれば十年近くのお付き合いになるのではないかと言うKさん、このブログ・サービスへのお誘いというか、御紹介まで頂いて感謝しています。
B、ことJさん、いつも明るく温かく接して下さるとともに、過大な評価を下さり、それは書くことを飽きずに続ける強い動機の一つにもなりました、有難う御座います。
Mさん、詩は勿論、種々の文学や思想、広範な分野に亘る刺激を与えて下さって、それは私が詩を書こうと想うことに時間が掛かった要因かも知れないのですが、遠回りして良かったんだろうとも想っています、有難う御座います。
限られているとはいえ、他にも黙って見守って下さっている方々、伝わることのないだろう謝意ですが、ここに書き記させて頂きます。



なんて言っても、何が変わるわけではありませんが。
こうして変わらないことが終焉なのでしょうか(それともナニカでも変わることは終焉なのでしょうか)。
以上、終宴特報みたいなものなのでした(ほんでもって、いきなり筆が止まったりしてネ・・・w)。
2014-05-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

愛していると伝えないでくれ

与えられるより前に自ら孤独を掴み取った君を誇りに想う
だから少し遅くまで私のベッドに潜り込んでいても構わないよ
君が教えてくれた歌、真っ直ぐに世界を射抜こうとする曲を
少し疲れた椅子に凭れて聴いているから

-世界は疲れたって・・・
歌が響く、その頬に触れることが出来るほど遠い枕元で
私は継げる言葉が見つからないまま壊れてしまった世界を見ている
君が孤独を掴み取ったように見えたのは
私が置き去りにされただけなのかとも想う
世界が壊れたのは継げる言葉が消える時でもあった

君が青空の下に駆け出してゆく時
私は世界の破片に打たれながら雨の音を想い出している
あまりに近過ぎる雨音は遠ざかることを許されず
やがては私の中に入り込んでくるのだろう
それでも君の頭上には、青空が広がっている
広がっていなくてはならないのだと
星の瞬きより小さく叫び続けよう
2014-05-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

つるんとした月の明かり

その人がいなくなると哀しみさえもが去ってしまいます
月の明かりの下の語らいも海辺での戯れも、笑い声も泣き声も
想い出せるはずの数々のことは想い出せない空虚さに
想い出せない数々のことは想い出せないままの空虚に戻りゆくのです
そして私は空虚ではない空器としてカランと風に吹かれるのです
出立の地をも想い出せない旅路の下で旋風を巻く風にもカランと吹かれます
夕暮時を何か知らない愁いに満ちて迎えることもなく、送ることもなく
たれもいない星空の下では爽やかな空気を一杯に吸いながら
哀しくないのに涙を零す気持ちを演じます
ここで私は呟くべきなのだと想いながらも空っぽの言葉が過ぎるので
その一つ一つを拾い上げながら私の記憶としようと努めます
想い出せない一つ一つを読み上げては、一つ一つを忘れてゆきます
蛍の光がぽうっ、ぽうっと、それぞれに違う点滅を繰り返し
星の光がちらん、ちらんと、それぞれに違う点滅を繰り返し
私の記憶はつるん、つるんと、それぞれに違う滑走を繰り返しているのです
そして夢の中でだけ私は眠り、その眠りの中でだけ夢を見ます
それは記憶されてはならない夢なのでした
深く深く、波音の繰り返しの果ての果てでだけ点滅する夢なのでした
2014-05-26 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

傘は、ある

濡れないように買った大きめの傘を通り抜ける雨音に打たれながら
急ぐ用もないのに急ぎ足になってコンビニに向かうと
階段の下に不必要な壮大さの邸宅を築いた住民は
見えないまま降る雨と遠くへ去り過ぎた人影を恨んでいる

薄く濡れた路面を、いくつかの小さな雨の波が覆い
想ったほどには濡れないまま到着する駐輪場では
いつもと同じ場所に、いつもと同じ自転車が壊れている
車と出遭わないのは雨音が降り続いているからであった

自動ドアを出ると買うものがなかったことに気付く
煙草は右ポケットの中に20本、1箱がまるまる残っていて
ライターも携帯タイプの灰皿もあり
左ポケットには缶コーヒーも入っていて不足はない
忘却は、いつも過去から訪れるのだった

目的を失った買物旅の後で私の痕跡を追うと傘を失っていて
もう一人、傘の中に一緒に入る人を失って以来、そうだったのだけれど
傘を通り抜ける雨音に打たれることには変わりなかった
急な用事で出て行った時のことは忘れてしまったのに
その時が、やはり雨の日だったことだけは覚えている

雨音に打たれるのは話し掛けられるのに似ていて
それに応えるべきか悩んだ後、帰路は傘を差さないことに決めた
雨音を失うと雨は消え、しかし陽に当たることはなく
薄暗い偽の夜を想像しながら吠え続ける知らない犬を置き去りにした
 風が吹くまでは待たなくてはならないのか?
山鳴りに似た遠くの雨音の轟きは風を遠くまで押しやっている

あきらめに似た恋を想い出しかけながら
雨の中に立ったまま雨音に打たれることなく
いつものメモ帳とペンを手に書かれることのない言葉達をもてあそんでは
いつまでも冷えてゆく身体の軋む音を聴き続けていた
2014-05-25 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

不在へと至ることが出来ないという不在の不在を喪失と呼んだ

詩において喪失が語られることが多いのは、詩が喪失の不在、代替への復讐としての代替を語るからかもしれない。詩はレトリックという形で喪失の不在を再度、示し、指し示すという復讐を成し遂げようとするのだ。
愛を失うことで新たな別れを得ることが出来るので、別れは愛の代替として変わることのないものでしかないのだ。愛している時の高揚感すら移り変わるだけのものでしかない。あるいは別れを得るために愛を手放しさえするのである。全てを終わらしめると信じ込まされている死さえ(愛によって別れは手離されたか?)。
だから私たちは復讐の代替として愛することさえ出来る。それは勘違いなどではなく、本当にそうなのだ。私たちは、その実、私たちでさえないという、そういうことなのだ。
忘れ去られようとする営みの中で記憶に刻まれ、永久の苦しみの中に放り込まれる私への復讐。決して報われることのないまま持続される復讐。復讐の代替としての愛、愛の代替としての復讐として、ある種の詩は定義される。
2014-05-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

その朝は何時ですか?

午後から曇なのにと天気予報を幾度も確認しながらぼやく父に
曇天を晴天として伝えるのが天気予報というものだとは言わずに立ち去る

ほんの少し、だが長時間、強く体を捻っていたせいで酷く目眩がする
目眩は世界への憎悪なので、きっと今の私は世界を憎んでいる
ついでに右手をろくに挙げられもしないのは世界から消えたいからなのであろう

狂気の中で正気を保つには目を開けていることだ
半目、薄目、仏の半眼と言うが、目を閉ざさせようとする力への抵抗は常に難しい
-南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経
-アビラウンケンソワカ
-ノウマクサーマンダーバーザラダンセンダーマーカロシャーダーソワカ
寺社に貼られた文言が、ひらがなであったことを想い出す
[ のうまくさーまんだーばーざらだんせんだーまーかろしゃーだーそわか ]
カタカナを覚える前に、ひらがなを覚えよということなのか
お寺さんも中々に厳しい

男は意識の奥深く-あるいは無意識だろうか-に至るために言葉を紡ぎ続けている
やがては本の一節を丸々、紡ぎ始め、今は辞書を頭から紡いでいる
無意識が言葉を有する世界なのか、私には分からないが
辞書の言葉が羅列しているわけではなかろうとは想う

異国の人々の教科書には、木を覚えるために一本の樹木が描かれている
林は二本の樹木、森は三本の樹木といった具合である
木は1、林は2、森は3なのである
山が三つの頂を有している
川が三つの流れを有している

雨が止むことを知ることを、雨だれの音が邪魔する
あるいは雨が降り続いていることを知ることを、雨だれの音が邪魔する
だので私たちは常に雨の中に出かけてゆかねばならず、それぞれに呪文を以って傘とする

今日は珍しいほどの日本晴れだと、天気予報のニュースキャスターが
歴史的な大型台風の時と同じ口調で何度も告げていた
2014-05-24 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

<ある日>の肖像Ⅴ(紫煙の中に)

詩あるいは詩的なものとは無理解の存在指標であるが、存在とは濃淡の差異あるいは度合として理解されるもので、往々にして相対としての世界理解の礎を成すものである。別れは愛を追認するのではなく確認する行為として理解された時点で「資本主義と分裂症」の分裂症的存在に相反する行為として理解され、世界理解の礎に寄与する一つに過ぎなくなる。
イヌは飼主を持った時に犬となるが、猫は生まれながらにして猫でしかなく、彼らには飼われないという概念は存在しない。だから野犬狩りはあっても野猫狩りは、ついぞ実施されないままである。犬は犬でなくなった時、飼主に牙向く存在として変貌、あるいは成長を遂げるが、いつまで経っても猫は猫でしかないのだ。敢えて言えば、ちゃっかりと新世界で他の人の飼い猫として自由を振る舞うだけの偽りの気儘さしか身に付けることが出来ないのだ。そして、その憂いこそが猫を集会させるのである(イヌは群れを成す)。
ランボオはイヌとして牙剥こうと試みたが、イヌであるにはどうしたら良いのかを知らぬまま猫として放浪し、あるいは商人として生きた。その意味で彼は結局、脅威にはならなかったので、ドゥルーズ=ガタリも索引に見る限り、一箇所でしか彼を取り上げていない。あれ程の早期に鋭く欧州の凋落を見抜いたにも関わらず、である。
あるいはランボオは、自らの作品の寿命を察していたのかもしれない。貪欲な認識は無理解の対象を漁っては、なんとか濃淡を通じて相対に位置付け、やがて己の物とする。詩あるいは詩的なものが、詩あるいは詩的なものであり続けるには、その実、簡単な事で書き続ける、しかも理解を超える速さで書き続けるしかないのだ。書き続ける行為の加速の果てこそが、書かないことなのである。
瀧口修三は、そういった意味で、かなりの射程範囲で思惑通りの結果を得たように想われる。詩的実験という巧妙な作品集は、一つの奇蹟とも言えよう。更に荒地の詩人たちは、永遠の無理解に旅立つ方法論そのものをその手に収めるという矛盾的飛躍を自らに課したように想える。その意味では瀧口修三と荒地の詩人たちは同志であり、瀧口修三は協力者たちを得て作品として結実させることが出来、荒地の詩人たちが相集ったのは、野犬集団に倣った必然でもあった。
イヌとして吠え続けることは、それを望む者にとって、喉が裂かれても微塵も構うことなどではないのであろう。吠え続けることでイヌであり続け、つまり未生の死に在り続けられるからである。その速度は丁度、世界を八周しても飽き足らない未知のものであって、自らの吠える声を遠く追い抜き続ける、そのようなものであるようだ。
2014-05-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

<ある日>の肖像Ⅳ(紫煙の中で)

アダルト作品の女優は画面の中でだけ抱かれて共有物となり、アダルト作品の男優は画面の中でだけ抱かれて私物となる。その昔、日本の女は名前を残さなかった。名前を奪われることで永遠の共有物となった。「男は消耗品である」という言を残した作家がいたが、むしろ男は単なる私物なのである。かくて女は拡散的自由運動を指向し、男は収束的拘束運動を指向するものとして分類される。
石貨や装飾品は私物であるが、貨幣や金は共有物である。私物たる石貨類が共有物たる貨幣を装うことで資本が生じるのであるが、資本は第三の性(女性としての男性)ではなく、第三の存在形態を示すのだ。そして、もう一つ指摘し得ることは外面性が内面性を装うのではなく、内面性こそが外面性を装うものであるということだ。その消耗するだに生産され続ける精子は、互いに交わることなく(分裂ではなく)分割され続け、死の極限に迫ろうとするが、決して死に至ることはない。生まれる前、未生の存在として死が許されざるものとして運命付けられているのである。
資本も同じで、共有物を装っても本来の私物性の帰結として分裂、つまり生誕にすら至らず、ただ分割され続ける存在として死を夢想する未生物にしか過ぎないままなのである。その運動は共有物を装うことで加速する分裂の只中にいるかのように見せるが、その露出した内面性にも関わらず、頑として露呈しようとしない外面性たる私物としての分割を加速しながら希求する死から遠ざかって行くばかりである。
女は共有物として生まれて共有物として永久に生き続けるのに対し、男は私物としてプラナリアのように分割し続けるだけで生まれも死ぬことも出来ないのである。女性としての男性は分裂への希求心だけは植え付けられながらも、未生のまま分割し続ける運動そのものの中にいる。資本主義社会の成熟とゲイの社会認知の成熟が軌を一にするのは偶然などではない。
一方、男性としての女性は、私物を装う共有物であるが、永遠の生(達)から生誕に至る運動として定義される。収束的拘束を指向する拡散的自由運動をする存在である。ただ一つ死を運命付けられながらも永遠に分裂しながら生き続ける第四の存在形態(減耗する資本)である。しかし減耗する資本は、その存在認定を社会的に十分に得ることが出来ておらず、ために分割し続ける資本に寄生する形態に仮宿(時に安住)しているに過ぎない。
およそ経済運動が性的運動と、経済的存在が性的存在と同じであることは至極、当然のことであるが、第四の存在形態が認められ得ていないために、二つを同一のものとして語ることを酷く困難にしているように想われる。
このことは又、開くことを放棄する窓(あるいはドア)として、言葉という"機会"が私たちの口から、手指から、全てから流れ出るままになっていることと同じでもある。決して開かれることがないからこそ流れ出るものだけが許されているに過ぎないのだ。ここでは言語運動が性的運動と、更には経済的運動と流れを一にする傾向が、やはり見られるのだが、第四の存在形態の探求抜きに語ることしか、未だ許されていないかのような様相を呈しているのである。
2014-05-23 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

満員電車の中で愛は育まれている

月下の涙のように、荒ぶ都会の声が響いている
地史を跨いで空中に浮遊している
気付けば雪原は痕跡だけを、やたらと残し誰もいない
振り向けば波打際は死骸だけを、やたらと残し誰もいない
始めから、誰もいない
肩と肩をぶつけ合う人波の中には、誰もいない
夜を昼抜きに繋げる音楽の流れだけが星に光りかけている
同じ旋律だけが私たちを救い続けようともがいている
もう一つの旋律を求めた私たちは別の死を生きている
失われたままの季節を数えれば愛が蘇り、二人は別れてゆく
確かに在るはずのタンスの横板には記憶が貼られている
霞んだ彼らが重なり合い、紡ぐ模様を眺めている
その隣で、秒単位でしか刻めない間抜けな時計は眠りたいのだ
刻むべきものなど元よりないことを知っての苦行
押し付けられただけの無為を繰り返すことを見せつける生贄
無意味と叫びたい使命のためだけに眠らずにいるだけなのだ
叫んでしまえば止まることも出来るだろうに
誰も彼もが黙ったまま死んだまま生き続けるように時計は刻む
大して薄くも厚くもなく、丁度よいわけでもなく
朝には忘れてしまっていた恋人の隣に座り
煙草を禁じられ、触れることだけを許される
隣り合うことは遥かな遠方に遠ざかってゆくことなのだった
あえて言うなら哀しさと虚しさだけを残そうとする試みなのであった
だから私たちは互いに隣り合おうとし続けている
満員電車の中では体の区別すら付かぬほどの距離で遠く
哀しさと虚しさが置き忘れた怒りを付け加え
窓を見れば、そこには私の顔が並んでいるだけなのだが
哀しさも虚しさも怒りも向かう先も、発する元もない
だからこそ苦笑があり、少しばかしの孤独も手に入れ
そっと、安堵から遠い、ほっとした想いにも浸るだろう
明日は来ないし、今日もだが、昨日も過ぎてはいなかった
そのことに気付きながら忘れることで呼吸は止まらずにいるのか
優しい残酷さによって生き長らえること
気付かないように互いに傷つけ合うこと
本当は、もう少しだけ続けたいことを切り上げること
始めたくないことだけが始まること
都会を抜けた電車は月の光に照らされることなく
星の姿も見ることが出来ない速さで駆け抜けてゆく
2014-05-22 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夏の序景

月の穿つ深さと波の刻む時の間に私たちの時間は陥っている
このペンと紙との間に無意味化し続ける記号が羅列してゆくように

その、昨日として生きた今日の重さに耐えられないまま私は見知らぬバスに背を向け
遠ざかってゆくであろう貴方の背を想い出す

車というのは不思議な乗り物だ
赤信号では進もうとし、青信号では止まろうとし
進もうとして止まり、止まろうとして進むのだ
貴方は止まるために進むもの、それをバスと呼んでいた
進むために止まるものはバスではないと

こうしてバスの停車場を眺めていると確かにバスはなく
貴方の面影だけが漂っている

影を踏みながら横切る犬と影に押されながら横切る老人が交差する
石陰に潜む悪意は誰にも向かわず、拾われもしないまま朽ちてゆく
錆びたレール上を軋音が過ぎ、カーブを越えて街に出る
夏空の青さには、やはりビルが浮かんでいる
2014-05-21 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海に遠ざけられた雨に打たれるコートのように

乾いた雨の音にずぶ濡れになりながら
失われた水平線から止まない波に打たれ
消失する波の音を聴きながら海を近くに忘れた

山間の人の好い田舎言葉の中でホームに立ち
来ることのない廃線電車を待ち続けながら
喪失を埋めることへの抗いとしての愛を想う

失われゆく過程としての愛については語られた
失われたものとしての愛についても語られた
そして、もう一度、喪失を埋めることへの抗いとしての愛について想うのだ

物語ること、物語らないこと
創造すること、破壊すること
それら両極たちが喪失により始まること
喪失を埋めるために始まること
喪失を埋めることが愛であること

陽だまりは心地良く、花の香りは少し離れて風に乗っていた
限りなく1になる手前で花の香りは生きている
喪失の予感だけを携え、手前でだけ生きることが出来ている
花の香りは、ただ、その香りとして
知らない花の、ただの香りとして生きているのだ

波音は破れたコートをベンチに置き忘れたように差し出し
私たちは、そのコートをはおって歩き出す
あるいは、歩き出さない
(背に当たるのは決して夕陽ではない)

季節の裂目で吹く風の音に巻かれてコートは旅立つ
私たちが歩いていようと、歩いていまいと
そんなことには関係なく、彼らは彼らとして旅立つ
いずれ私たちはコートを剥がれ、置き去りにされることに変わりはなく
脱ぎ剥がされたことすら気付かないのだ

舗道の端ではタンポポを見掛けることがなくなった
見知らぬ小さな花が盛っているけれど、どれも知らない
お互いに知ることなく見つめ合い
その温かさにだけ、少し、生きている
2014-05-20 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

明るさ(暗さ)の分だけ、季節は訪れた

頬を染め、終わりを求めるだけの愛を告白する少女
終わりを知らずに迷うだけの愛を受け取り損ねる少年
二枚の硝子戸の間で消失してゆくバラード
ないままにだけ求められる楽園の誘い
冬を跨いで天井を仰ぎ続けている扇風機
暦を忘れたまま貼り続けられている日めくり
それら全てを燃やす夕焼けの色を殺戮するための夜闇の中では
いつも荒い息だけが吸い上げられてゆく

車を降りるときに畳み忘れたスカートは、それでもドアをすり抜ける
乗り遅れた電車の発車時刻を消すように指でなぞり女は人波に飲まれる
マフラーは、かけ離れた二人の中間地点で汚れに舞い
静かな歌が風に乗り来るのを待ち続けている
何月になったら夏が来るのだろうかと秋は恐れている
通り過ぎた夏の到来を冬が恐れ、忘れられた春だけが静かに死んでいる

蝉の背に乗り飛ぶ空の色は深さを失ったままで風を離さない
その髪の長さだけ愛してくれるのなら修道女を探そう
ナイフとピアスの間に滴る血の多さだけ飲めるのなら異国の酒を探そう
海のこちら側にある異国を彷徨いながら訪れない異国の酒を探そう
深夜ドラマが終わった後のテレビを見ながら流す涙、それを、あなたの愛として信じよう
子供を抱きながら吐きだす溜め息の深さ、それを、あなたの慈愛として信じよう
信じることを信じようとしない、その瞳の透明さの分だけ薄く淡く
2014-05-19 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

渇いてゆく貝たちの音

昼下がりを海岸沿いの道路わきに置き、砂丘に横たわり言う
-ここは砂漠になって永久の死を誓い合う場所になるね
通り抜ける波音を捨てて指先に眺めた貝が乾いてゆく音を聴くと
どこでもが人のいない都会に変った
いつでも愛する人のいない街は都会に変容してゆくが
貝が乾いてゆく音を聴くだけで、そこは都会に変るのだ

決して独りではないという、その孤独を愛することが出来ず
かといって憎むことにも飽き続け、憎み方も忘れてしまった
屋根を越えて見える空が、いつもくすんで見えるのと同じだ
急でもない自転車のブレーキ音と風鳴りは混じり、いくばくかの砂を飛ばす
人の入る気配を忘れたまま開閉を続ける自動扉のように
白い太股の奥は開閉を続けようと喘ぐ

水平線を語る視線は常に海岸線を離れることが出来ないままで
かつての旅を想い出すかのように知らない誰かの旅を語っている
太陽の軌跡を指で描きながら重力の強さに驚き
始めて地球上にあることを想い出したかのように苦笑いし
空気抵抗を感じるスピードで頬に手を伸ばし、頬をすり抜けて髪を梳くと
乾いたままで流れることの出来ない涙を流す

想い出される日記の1ページを破り、火にくべて暖をとろうとするが
どのページだったかを忘れたまま冷えてゆく身体の奥で貝が呼吸する
日記の替りにカレンダーを巡りながら、どれを破れば良いのか思案し
とうに過ぎている月を何度も見返しながら最後の月だけを破り暖に変えた
うつむいたままの少女は椅子を揺らすこともなく
じっとしたまま変わってゆく床の光に溶け込んでいる
少女の母は、ただ戻ってくることを忘れただけなのだ
その父のことは知らない

嘆くよりも祈ることだと、教会は荘厳さを増すために告げられた
告発する永久の死だけは教会の椅子が満ちても増してゆく
花嫁の投げるブーケを受け取ったのは空の椅子だったが
新郎の投げるブーケを受け取ったのは花嫁の母であった
その間、花嫁は貝の渇いてゆく音と交わり、子を産み、育てている

砂丘に戻ると海は波音だけを残して消えていて
水平線すらが夜でもないのに消えていて
貴方が指先で弄んでいた貝が乾いたまま転がり
覚えている限りの風の交錯を一身に受けながら鳴り響こうと転がり
そのことだけが砂丘の全てであったと想い出すのだ
2014-05-18 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

忘れたままの訪問者として蹂躙する

背景のない詩集を手に雨の中の風を歩いていると夕暮れ忘れた夜を想い出す。改行を捨てたセリフだけをしゃべり続ける女性とは背中合わせになったまま、いつまでも冷めないコーヒーの湯気だけを眺めて過ごす少し遅い午後の痕跡としてすら刻まれることのなかった夕暮ではなく。

「何でも良いという時に限って大抵」と言う言葉に継いで「古い世界地図をプリントしておいたよ」と告げて置き忘れそうになっていた風を追い掛けると急いで鞄に詰め込む音が追い掛けてくる。そんなに焦る必要はないよと言うべきなのか分からないままでいる内に雨が止んでしまう。きっと、このままグラウンドは使えないまま私たちを待ち呆けているのだろうと想ったが言わないままでいた。靴が立てる音はグラウンドに喰い込んで響いていたが誰も聞いてはおらず、雨の外の風が数メートル先まで運んでは降ろしを繰り返している。

いつだって本題というのは置き去りにされたままだが、今日は酷過ぎるのでベンチには座らないまま寄り掛って立っていたので足首までがグラウンドに沈んでしまっている。眼鏡の位置を直す間に独りきりになり、暗くなる前の空を映すグラウンドを横切って少し坂道を登っては降り、どこかで見掛けた堤防を諦めてビルを見返すと見事な背景に映えていたのだが、ビルも背景も忘れるのだろう。遠方から訪れたらしい一群の人々の汚れた靴を見やりながら挨拶の仕方を考えている内に見覚えのないカフェの前に着く。
あまり良い日にはならなかったようだ、というように。
2014-05-17 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

私たちの抱擁を残照とする世界の少し遠くで



偽りだけが抱けるのよとつぶやいたあなたのくちびるが乾きゆき
恋人たちが交わす歌の旋律を交えた溜息が明ける空を求め始め
二歩で渡れる道の反対側の壁が白い闇に包まれることを拒否し
川の流音が聞こえるはずの橋の上から飛び降りようとする何かが壊れ
遠いだけで消える世界の始まりが世界を作り始めると
私が抱くはずだった温もりが消えるだけで世界の始まりが壊れ
鳴り止まない音楽を止めるスイッチが見つからずにすすり泣きが響き
決して一つにはならない愛がゼロになるまで時間を止め
まだ早い時間だと知りながら待つ夜の訪れが遠くに過ぎ去り
ただ一つのスイッチでしかない私が訪れるはずの遠くが消え
もう一つのスイッチでしかないあなたが訪れるはずの近くが消え
私たちがいない世界だけの残る世界が静かに回り始めるのを知らないまま
疲弊した顔を映し疲れた鏡が苦笑いを繰り返しながら知らない遠くを示し
示されなかった世界の全てが私たちの知らない私たちを抱いて離さなかった


2014-05-16 00:00 : 想葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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