それでも、空だった

千切れた哀しみの予感をたずさえ
雲は不規則なグラデーションで空を覆い
いつものように強い風を受けて
くぐもった立ち止まりのなか
立ち去る先を探している
海の一滴が窓を開くとき
深奥の闇は光に満ち
私たちの恐れは封じ込められ
目を閉じることで開ける視界に生きた
悩ましい混乱の中にあって
世界の静けさは更に深まり
そこに孤独は見いだされようか
私たちは一つの希望を持つ
あわただしさを置き去りにして
雲は薄い夜を連れ来るだろうけれど
その夜は海から訪れる光の夜で
ほんとうの眠りは、きっと
眩い優しさに満ちた
その光の中にある
そんな確信に近づくと
雨音とともに眠れない夜は
幾度目かの繰り返しを過ぎて
次の夏を迎える準備を始めるのだ
2014-07-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

外出するのは滑稽な姿見

考える力もなく
右足を通されるズボンの切れ端が
どこに行ったかも分からぬままで
左足を止めていた
行かなくてはならない場所に向かって
放たれる叫び声は
いつも拒絶を放っている
着信音の替りにFAXが届くように
それは非情な残酷さだ
無機質の結晶が育ってゆく残酷さ
そこにあるはずの命の輝きは
きっと西を向いた断崖に叩き付けられた
あの海が戻るときの光だ
全てを捨てようとするから
結局、なにも捨てられないままのように
宙で止まっていた左足は
そのまま止まり続けることは出来ず
右足も抜こうかと思案する間もなく
尻をついた滑稽な姿を
だから買いたくなかったんだと
想い直すだけの姿見が映していた
2014-07-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

日常の振幅度

その繰り返しが日常を奪ってゆく
そう知りながらも
まるで扇風機が首を振るように
数え終らない振幅は
ほぼ同じ幅で、ほぼ同じ間隔で
きっと繰り返されるのだ
夏の微かな日差しのなかで
たおやかに揺れる日傘のように
足を乗せれば折れてしまう
あの狭い庭の草のようにたくましく
- 空を飛ぶのが鳥だけのように語るのは
  それはぼくの好みじゃないね
だから私たちは描くことにした
傷つき過ぎた指を捨て去り
インクの溢れるペンを投げ去り
それは湖への冬の訪れだ
岸から訪れて中心だけを残す
なんという美しい残酷さか
- 扇風機を止めた時を覚えているかい
  ぼくが覚えている方向とは
  逆を向いたまま
  押し入れの中で泣いていたよ
夏が近づく
私たちを狂気に近づける
あの夏が、もうやってきているのだ
2014-07-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

君のいた川辺

いつも不思議なのは
太陽のないままに光る空だった
(過去形は捨てなくては)
さえぎる雲が見えない
その太陽の光は、きっと
君のいない方向から放射されている
だから、その空を名づけることは許さず
語ることさえしなかったのだ
飛びながらは決して鳴かない
一羽のカラスのように
- ああ、それは終わりだね
  少しづつ
  ほら、雲がずれてゆくように
誰かに聞かされた解説を
詩を読むように想い出しながら
光る空の奥行きのなさを見出し
その鼻腔の蠢く様を
やはり自転車が荷台に乗せて去ってゆく
- やはり終わりだね
  急に
  ほら、雨が滴に変わるように
最後のささやきを終えると
君は自転車を降りるように
川に向かって
決して夕陽の当たらない
土手際を降りていった
2014-07-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

君のいない影

開くことができた窓は
海が閉じるように閉じる
誰の脇でもすり抜ける自転車の理解-
さらに遠くまで押しやる理解の仕方を好み
刻まれた無理解に怒りはなく
ただ同じ円周を巡る"時"に飽き
断ち切られる季節が
たとえ知らない季節だろうと
その季節の中で愛する方法を探った
そうして君は海を捨て
捨てた海の拾い方を探ってもいる
幾度も見た、その背中から
気付くたび、遠ざかるように光は去り
自らの影だけを頼りに歩く
- でも、君はいないだろう?
さかのぼる季節の度に
投げようとする問い掛けは
それ自体が季節として
星が空に砕けるように散った
あの枯れた大樹のように
ただ風に砕かれてゆく
その仕方を、私は、ただ愛そう
枯れた大樹を刈り倒すように
私は、ただ、その仕方を振り返る
2014-07-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

解放戦線、異常ありや

詩にはテーゼは不要だが
テーマがあった方が
取り組みやすいのかもしれない
そうでなければ詩を書く人は
ただ黙して、なお沈黙を守る人だ
過ぎることばを見守るだけの人だ
過ぎったことばは
- それを死んだとは言いたくないが
二度と捕まえることは出来ない
仮にとらまえられても
過ぎったことばとは違っている
ことばは時間なのだ
そのときに拘束される時空なのだ
その拘束を解き放つため
きっと人は詩を書くのだ
その杖として、レーダーとして
テーマは詩を導いてゆくのだろう
なぜテーマを持って詩を書くのか?
私には分からないことが多過ぎて
これもまた、今、ここで過ぎった
拘束を解き放つ試みなのだ
2014-07-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

豊饒の空の下

目的地に着いた渡り鳥のように
ほんの少しで夜を終わらせ
ただ気怠さだけに満ちた一日と
ただ続いていくだけの一日と
- そういえば陽の光を見ないね
幾度も繰り返し仰ぐ空も
飽いたように同じ星だけを浮かべ
暗いのか明るいのか見分けのつかぬ明るさで
ただ空にあるだけのものを並べている
地平線を辿る太陽の端
中天で欠けたままの月
飛行機雲を追い掛け続ける飛行機
雨を降らす、雨を降らさない、雪を-
これらは全て雲にまつわる
虹も雲の仲間だろうか?
オーロラの端で議論が始まる
皆が皆、疲れ切っているのだ
あまりに平和であり過ぎるので
(それは良いことなのか?)
最後の番の子らは孵らず
卵の中で血に塗れていたが
その顔は安らかで
もう産まれることすら
必要としていなかった
群れの端と端とからは
互いに響き合うことのない鳴き声が
あてどなく放たれ
あるだけの空の全てに向かい
地上の空虚さを響かせていた
2014-07-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

丘向こうは底の森

想い出に近づくことすら出来ない
そういう痛手を与える裏切りを
私たちは信義として
低い丘を上り高い丘を下りしながら
陽の光から遠ざかる散策を繰り返し
地図のない土地について語り
千年かけて足跡を消すという森を目指した
残り一年を残した足跡を探し
そこに重ねた足を次にどこに置くべきか
一年かけて検討しようじゃないかと
やたら足跡を付けて跳ぶ鳥を指差して
私たちは腰を下ろした
底は霧の濃淡だけで出来ていて
切り裂くには、あまりに惜しい淡い光と
そのままでは、あまりに哀しい水の溜め息と
互いを見失った私たちが紛れている
- 決して信じることはない
その約束は、やはり裏切られるのだ
同じ方向を向いていたとしても
私たちは気付かぬ振りをして
出立の時の明るい空を同時に想い出しては
苦笑いに至る少し前で立ち止まり
想い立つままの息遣いだけを
残ることも構わずに反響するに任せ
そっと違う足跡を踏みながら
さらなる森深くを探して消えてゆく
2014-07-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

間際まで

両の手で作った輪に収まる
広がりのない空だとて
深さは計り知れず
色彩はひと時も留まらず
大いなる変化の中に、ある
たとえ身動き出来る場が
どれほど狭隘で息苦しくとも
私たちの中にも
そんな深遠な、空がある
古来、どれだけの先賢が
どれほどにも探求しようとも
その深さに達したものが
はたしてどれだけいるだろうか
調御ままならぬ暴れようは
果たして手に余る余計なものか
切り捨てるべき不要物か
今一度、その暴れように
静かに身を任せてみれば
私は今、生きている
その証の蠢きは
誰にも侵し得ない
私だけの聖域である
至極、限られた時間でだけ
私に与えられた聖域なのだ
2014-07-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

炎の傍

それは炎の
不思議な作用で
歌われる虫に限らず
私たちも又
その力に導かれ
火を、炎の源を手に入れたが
焼かれるままに終わらず
その恩恵に与り
その傍らに在れることは
なんとも幸いなことよ
私たちは目をつむれば
炎の静かな激しさに
触れることさえ出来るのだ
身を焦がしてなお
炎の揺れに
触れることすらままならぬ
数多の生き物たちを差し置いて
人には権利がある
炎の不思議を炎のままに
業火に変えもせず
愛おしむ権利だ
ひと時も同じではいられぬ
炎のありようのままに
ただ変わりながら
ただ照らし続けることだ
2014-07-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

太古の在り処

記憶を辿ると
どこかで水面のような
つるりとした
ある表面に触れる
それは輝いても見え
少しくぐもっても見え
水のなか
さらに深層の水との
水境に似ていて
不定形でいて
確かな表面で-
その奥には
一つの生命の輝きの
ある源があるようで
それは覗いて良いものなのか
躊躇わせる力がある
遺跡からは見いだせられない
太古があり
その一つはきっと
私たちの内にあるのだろう
2014-07-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

キスは不思議のままに

終電を送り終え
点滅するホームの灯りは
いよいよに心もとなく
冷たいだけの風は
音もなく私たちの間を吹き
ビル群向こうの複数車線で
時折はエンジン音が響いている
私は寒さに凍えるばかり
覚えているお膳立ては
そんなもの

ただ楽しげに線路を覗き
ホーム際を歩き
想い出したように歩み寄る
幾度も繰り返す
その君の様が不思議で
私は背にした壁の
さらに冷えゆく冷たさを
我慢するともなく
すっかり忘れていたけれど
幾度目かの君は
始めて見る笑顔で歩み寄り
唐突に子供のような薄さの
柔らかい唇でキスをした

それは、あまりにも淡く
君も直ぐに背を向けて
また繰り返される
線路覗きとホームの散歩
それは年下の私への
精一杯の告白だったか
あれほどに自由に舞っていた
君ですら精一杯の
そうだとすれば残酷な・・・
いや、残酷だったのは私だったか

あの夜の冷たさすら
暖かさにすら変えた君の偉大さよ
今も、ふと蘇る
いつも笑顔だった君も、もう今は
苦笑いするほど、遥か年下
2014-07-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

終点に近づく手紙

徐々にかすみ、遠ざかってゆく
想い出の後ろ姿たちには
寂寞を覚えないでもないけれど
湿っぽい気持ちもないではないけれど
想いのほか安堵を覚えるのも本当なのです

鮮やかだったスクリーンの二人は
それでもモノトーンの色調を帯び
やはり少し、輪郭を忘れ始めています

いまでも鮮やかなのは
むしろ私たちのいない秋の山並
冷たい風にはしゃぐクリスマスの街並

星にも届くほど青い空の下で
もう、私たちの後ろ姿は
限りなくおぼつかない儚さで

それは一つの遠ざかり
交点として一つに重なりながら
色をも持たぬ点として
視線を向けられぬ点として
やがては存在を奪われる点として

それは一つの遠ざかり
あれ程に強かった
時経た二人の、後ろ姿
2014-07-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜、水辺の

水の、静けさに押され
夜は地表を這い進み
闇の冷たさで熱を冷まして
ぼくらの孤独を少し慰め
安らかな海へのしるべとなる
月が細かに裂かれ
揺れる夜の波の中に
冷まされた孤独は憩い
ぼくらを忘れてゆく
生きることの無意味さや
せんない悩み、ささいな苛立ち
ぼくらを放り出した
世界への、やるせなさ
ぼくらが気付かぬように
水の静けさは
そっと夜を押しやって
そういう優しさで
想い出すことを教え
眠りの中でまた
再誕することを促すのだ
2014-07-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

振り返りを待つもの

背に降りかかる夕陽とともに
夜に向かうはずの空を見上げると
それは、より強く残照を
頑迷にすらとどめようとしている

その頑迷さは、たかだか一分に満たない
最後の時に途絶えるとしても、だ
雨の終わりが、ついに
最後の一滴で迎えられるように
あらゆるゲームの終焉が
最後のホイッスルの響きで迎えられるように
終わりは常に、継続を求める力とは別に
進行するのではなく、唐突に訪れるのだ
向かってくる車が通り過ぎる一瞬は
どれほどの長さを持つだろうか
その通り過ぎは、どれほどの長さだと?
それほどに短い通り過ぎの中で
私たちは互いの何を知り得るだろうか-

夕暮に向けられたのは
きっと知り得る何ものかを探す背中であり
知り得る何もないままに
迎えくる終焉に立ち尽くす背中だ
夕陽は、ついに何ものも照らし出さず
諦めの先にある海、川-
水面の赤い煌めきの中にあって
私たちの振り返りを待っている
2014-07-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今の仕事

今日の仕事は居眠りです
書き物屋でもないのに
なんでも色々と書き過ぎました
読書家でもないのに
なんでも色々と読み過ぎました
それでも収穫だったのは
ツァラトストラの優しい響き
それはまだ
始まったばかりだからかもしれないが
懐かしい響きは優しい響き
神に不在の権利を与え
悪徳の栄えをも懐に入れ
街に出てはガッカリもし
それでも、あなたに会えたのは
あのガイドの優秀さです
私はガイドに心酔はしませんが
一人で会うには心細い
あなたに会った安心感で
今日の仕事は居眠りです
明日の仕事も居眠りで
そうして過ぎればどれほど良いか
今の私は為すべき居眠りで
五体の火照りをさましましょう
2014-07-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨たち

そんなに激しく降ると
想い出が湧き出てくるではないか
裾に跳ね返る水たまりにさえ
置いてきたものは多いものだ
遠い雷鳴ならなおのこと
あれは何の声か?と
哀しく尾を引くのは
なんの想い出なのか?と
一つ一つを数える間もなく
傘を開けば良いのだろうが
雨に打たれて歩く自由を
幸い私は持っている
しめやかさに変ってゆく様も
想い出が湧き出てくるではないか-
冷めてゆく恋と沈潜してゆく愛と
その日常を甘受しゆく私と
不在になって、明確な輪郭だけになる誰かと
彼らを横切った、あの雨たちと
2014-07-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

タイマー横の当たり前の顔

ピピピッピピピッ
とタイマーが鳴っている
聞いているのは私だけなのに-
セットしたのは私じゃないのに-
そう想う間も鳴っている
タイマーは私に訴えているようだ
セットした人間を連れてこい!
無駄なエネルギーを使わせるな!
私が関知することじゃぁないのに
そう想うはた、不思議な気持ちになる
生れ落ちて幾年までなのかは知らないが
その昔、私の周囲には
そんな不思議な音が満ちていたに違いない
不思議な形象、不思議な匂い不思議な味
今は慣れてしまった「あ」の字の
その不思議な形をなぞりながら
なぜ「あ」は「あ」と読むのか、と
ヒラガナは「安」という漢字が書き易く
変形されて出来たんだよ、と
「あ」と「安」を並べて書けば
それは、どちらも同じほどの書き難さで
大して変わらぬ書き易さであったので
余計に分からなくなっていった小さな私
その不思議が楽しかった私
当たり前が増えると
日々は驚きと不思議を内蔵していった
タイマーの音は諦め、ふと、きっと戦争は
そういう内蔵された驚きと不思議が溜り過ぎ
当たり前に起きたことなんだろうと想い
そんな当たり前は要らないんじゃないかと
すごく大真面目な当たり前の思案顔をして
すぐに当たり前に忘れてしまった
2014-07-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海沿いの坂上り

冬に抱えられていたストーブが
少し疲れた顔のまま休んでいる初夏の昼下がり
病院に至る坂道には名も知られぬまま
勢いを増すばかりの草花が繚乱している
ガードレールは海を仕切り
下には激しく岩に当たる波の海を
上にはどこまでも穏やかな凪の海を湛え
穢れのない白線を水平線に向けて
少し斜に展開している
病み終えず、あるいは治癒を諦観した人々の
静かな狂おしさに満ちた笑い声が
不思議なコントラストで
ガードレールや海
そしてガードレールも海をも横切る
一艘の貨物船とともに沖を目指す
山風は少し勢いを増すが
院内の雰囲気に触れることはなく
それが、むしろ哀しみに変わるまで
屋外の爽快さは際立っているのだった
木陰のベンチでは、いつものように
新米看護士が包帯だらけの患者に肩を抱かれ
敷地の外を見るふりをして泣いている
最も弱いものが最も寄るべき所となり
寄るべき時が過ぎれば忘れられてしまう
ただ、それだけの光景によって
ストーブは、もう少しだけ
不要な陽だまりの中に置き忘れられるのだった
2014-07-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

いくつかの湖を巡って

窓を開くと閉じる景色があり
窓を閉じると想い出される景色があるように
湖に浮かぶ枯葉の塊を分けながら
ボートは静かに岸を離れてゆく
湖面に映る雲よりも深く
湖底はくぐもった色に染まったまま
流れ込む、いくつもの水流と
その源流の季節を運びに慌ただしく
その様を覗くためのボートの揺れに
湖上の城は静かに揺らめいている
夢中に水魚をすなどる水鳥たちの
見えない足の激しい動きを想いうかべ
少女は少しはにかんで山並を見上げる
水鳥の仲間の描く三角形は一辺が失われ
その一辺から響く鳴き声が甲高く響き
まだ流れ込んでこない季節の音色として
山を越えて他の湖にも反響する
ボートは違う湖の繋留場に辿り着き
そこでは枯葉が綺麗に清掃され
替りに美しい花弁が無残に水ぶくれしていた
2014-07-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

永遠を刻む待機時間

全ての詩人がそうであるように
最後に詩人が残せたのは
自らの不在であり
それは記されることもなく
ただ透徹さへの希求を示していたが
他の不在と異なることはなく
非在に至るものではなかったのだ
その不在のありようは詩人の心を
更にさびしくし、
消えることも許されぬ人として
ただ不在に留まりつづけ
彼は、もはや刻む者でも
また刻まれる者でもなく
ただ消しえぬ過去とだけ向き合わせられ
引き裂かれる痛みを引き摺り
その痛みを哀しみに近づけぬ細心さで
か細く響き至る歌に耳を傾けている
詩人は今、改めて泣くことを問い
哀しみの孤独さと一体となって
あるべき形相への移行を待ち続けている
2014-07-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

小さな別れ

失われる日々などなくて
ただ傍にいて欲しいとだけ願う
ささやかな日々を虚しくする
それだけのことだったのだと気付き
私たちは何度かの別れを繰り返し
失われざる日々を
特段の願いなく迎え、送り
その中に突然、違う顔をした君を見る
駅から伸びる商店街には
いつもの店主がいて
いつもの客達が行き交い
時には、ささいな喧嘩もあり
慌てた若い警察官も駆けつける
その横を通り過ぎたのは
紛れもなく私たちだったが
微かに揺らぐだけの
風に至らない空気の震え
その中に擦れ違いは忍んでいたのか
今日も又、同じ空気の中を過ぎながら
私は一人、遠く隔たってしまった
昨日と同じ喧騒の中を行く
2014-07-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

足跡と靴音

何を求めるものがあろうか
足跡は追うだに消え失せて
手には足跡の化石が残り
見上げた地平線までは
ただ広いだけの平面図が
区画も失ったまま
更地にすらされないまま
朝陽を受ける時を待っている
背後に強い闇を感じれば
それは遠ざかってゆくはずなのに
より強く感じるのは
落日の彼方を向いているからか
一人、北辰の輝きも見えぬまま
深い曇天の闇の下
男は靴音だけを鳴らし
冬の風に舌打ちし
炎の赤さだけを見つめ
ただ煙草の熱を追っていた
2014-07-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

周回する海鳥

海鳥は岬の風に乗り
潮の流れを測りながら
海岸線を辿る測量線を描く
それは未来の海岸線だったが
同時に過去の海岸線であり
決して許されない
存在としての海岸線でもあった
二枚貝が開き閉じする
基準となる曖昧な海岸線であり
私たちの歩みの基準線である
海鳥の視点は定まらず
だから永遠に海岸を描き
終わることのない測量に飛ぶ
その飛翔線を追いながら
私たちは空を語る
風の吹かない凪の空
海に対置された空
山に射抜かれた空
空の自由さは海から与えられ
海岸線はいよいよ沖に迫る
そのとき海鳥は岬を失い
戻る巣には子らが眠り
私たちは遺児たちから
そっと次の朝を奪う
海鳥は海岸線のない岬を周回し
自らを海岸線とし
そのまま海に戻って行った
2014-07-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

七夕の変遷

かつては銀河を巡り
星々の語りに耳を傾けながら
傍らを逍遥していた月も
今は、その歩みを止め
一組の恋人を前に佇む
年に一度の逢瀬と定め
恋を星の限りの永遠の中に封じ
生き長らえさせようとした
一組の恋人は、しかし
倦むことを忘れていたのだ
別れの哀しみは
次の逢瀬への希望に替られ
逢瀬は別れの予感に満ち
語られる愛は
互いを不変のものとして
ただ愛し続ける中にあって
互いの自らの中に映る
イメージへの愛として
蘇りへの力を失ってゆく
せめて増殖しないイメージは
二人にとって救いであり
それが恋を少しの愛に変え始め
倦みの中に恋人の
新しい生活が持ち込まれ
深い愛へと変わるかどうか
月は気になって仕方ないのだった
2014-07-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今日の空

私の生きる今日は又、
あなたの知らない一日になる
あなたの上に
私の知らない幾千という
一日が重なり続けたように
私は一日を折り重ねる
せめて鶴のように
折り紙の鶴のように
飛形をしていたら
それは、どこかへ
旅立とうとするかもしれない
しかし今日は
昨日がそうであったように
鶴の形はしていないし
のっぺりとした朝と昼
幾ばくかの夜を経て
あならの知らない
始めての一日と同じで
そのままに重なるだけだ
力強く立ち上る入道雲は
今日に属していない
あるいは今日に歯向かう
わたしの一日の
ささやかなる反逆の徴として
あなたの一日の
ささやかなる記念の徴として
今日に属さない入道雲は
いくつかの街を覆い
激しく屋根を叩き周りさえする
そして青さを取戻し
空は今日の空を広げ始める
2014-07-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海岸の歴史

森を切り裂いた斧は赤さびに浸食され
今は枯葉の内に区別を見出すことは出来ない
彼の骸、そのすぐ傍まであった海岸線は後退し
今では数十キロも離れた波打際で
新たな森が深々と人工的に繁らされ
鳥の謡や蝶の舞い、人々の恋の調べすら囲っている
斧は完全に侵食されるまでの長い時間を
ただ一人で過ごしているわけではない
いくらかの石器は、むしろ彼よりも長命で
その原始性の強弱が命の強弱を定めているかのようだ
確かに、それには一理あって
生きる強さが死なない強さとは限らないのだ
斧も石器も既に死んでいるのだから
生き延びているように見ることはむしろ背信だろう
彼らは既に死んだし、今も死んでいる
敢えていえば死に終える途上にあるやもしれぬが
それは無機物と有機物の間を区画するか
かつての石器も今は蹴られ、踏まれるだろう
われわれ皆が、考古学者というわけではないのだ
川べりに立って遠い時間をかけてなされる
自然の驚異を発掘する科学者でもないのだ
星のように鉱石の中に宇宙を見
経典の内に永遠を見出す詩人でもないのだ
ならば、そこに何の意味を見出すことも出来はしない
斧も石器も既に放置され死に絶えたし
過去は既に過ぎ去ったしで
ただ死に終えた中身を捨てた貝に耳を寄せ
少し哀しんで太古の海を聞くふりをするだけなのだ
2014-07-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

少年の朝

今日も飽かずに不着の電話は鳴る
それは機械的な正確さで
文字通り機械的なメッセージだ
朝は毎日、同じ朝が繰り返され
人の歴史の内で変わったことはない
歴史に刻まれる朝は
人類が時刻として刻んだだけの
ある瞬間としての朝というだけで
それは本当の朝には関係ないだろう
街を行く人々は、そのことを知っている
皆が歩こうと歩くまいと
朝、駅に向かう雑踏があろうとあるまいと
やはり朝は同じように訪れるし
同じように去ってゆく
そのただなかで佇立する一人は
本当に一人になる
見出す仲間は果てしなく遠方にしかおらず
文通もままならない
彼が出来ることと言えば
ただ違って見えるだけかもしれぬ朝に慄き
驚きながら、その奇蹟を記すだけだ
彼は電話も信じないだろう
その先に見る機械の姿は不変の神であり
人のために人により作られたとしても
彼は畏怖するのである
彼はそして、少年の眼のまま
驚きの朝の去るのを待ち
いつもと同じランドセルを背負い
いつもと同じ顔をする友人たちと戯れ
束の間の不変の中に溶け入ってゆく
2014-07-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

続編のない続き

ビルの高層階の遠景に霞む街並みにも
いくつかの恋の物語があるだろう
見下ろす街並みなら今一人きり、二人
あるいは数人の影すら見える
そこにも恋の物語はあるだろう
響き渡る建造物の音は
それらの物語に重なって響いている

強い陽射しは哀しみの歌を呼ぶから
静かな風に変えておくれ
きっと、そこには哀しみの終わりがある
雪が降れば足跡がクッキリと浮かぶように
影は物語の軌跡を刻むよ

雪は止むよりも
積もる前に溶けるのが良いね
足跡の途絶えが見えぬから
そして足跡より先に雪が消えるように

物語が消えるより先に
哀しみは消えているはずだった、ね
2014-07-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ヤモリの今日を


今日のヤモリは
先日に見たヤモリより、少し、小さい
先日のヤモリの去年の子だろうか

今日のヤモリは
先々日に見たヤモリより、少し、大きい
先々日のヤモリの去年の親だろうか

今日のヤモリも
先日のヤモリも
先々日のヤモリも
ジッと張り付いている

獲物が来るのはいつ?
問い掛けにも無頓着に
いつもヤモリはジッとしている
ヤモリにはヤモリの
なすべきことがあるのだ
ジッとしている

ヤモリは今日を愛さない
ヤモリは明日を愛さない
ヤモリは昨日を愛さない

そのヤモリの今日を
忌むべき愛しさで感じる私は
私を眠りはじめている
2014-07-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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