想い出は君に奪われる

電線が鳴るように
一mの空を無言のツバメが鳴き過ぎると
波打際に蛇行する平行線を風が吹き
季節は秋に似た夏だった

山を想い出すように海を眺めている
いくつもの高波が押し寄せるだけでなにもない
海に似ているだけの海を眺めている

消波ブロックの向こうでは
釣り人が波に隠れたままの島を見つめている
君に似た背格好の釣り人が波に隠れ
波に隠れたままの島を見つめいて
暗い雲に似た君の影が通り過ぎた午後を想い出す

私は川面を見つめながらコーヒーの切れた缶を手に
煙草を奪われた気分で陰鬱になりながら君だけを待って
通り過ぎるのは君に似た暗い雲の影だけだった
あるいは暗い雲に似た君の影だけだった

そのときも電線が鳴っていたが
空は潰れて川面に沈もうとしていたし
ツバメは川に溺れて固い物体に変わって
鳴こうとしたまま口を開いていた

決して想い出せない風だけが吹こうとしていたが
決して私が吹かれることなく
季節は冬に似た春だった気がする
君を忘れるために訪れたような
そんな季節でしかなかった気がする
2014-09-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一筋の痕

一つの窓際に置かれた
一つの造花のなかの君の眠り
陽の弱さが造花の弱さを語り
窓外の景色の薄さが眠りの薄さを語り
使われずに息絶える暖炉の熱は
陽に替わって部屋を冷気で満たしている

窓枠をなぞる靴音は鳥のさえずりのように
微かさを命のように抱いている
秋だけで出来た命を君に与えられ
奪われることなく散ってゆく命のように
靴音は静かに遠ざかり絶えてゆく

懐かしさのなかに想い出は宿らず
君のなかで眠る記憶のなかには
きっと探し出せない、いくつもの想い出がある
決して想い出せない記憶がある

君の眠る一つの造花のなかで
一つの窓が開かれると
眠ったままの君の頬には
涙が流れた痕が浮き上がる
いつか、なぞったラインに沿って
流れた涙を拭き取るための
一筋の痕が浮かび上がる
2014-09-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

昏くなる記憶

想い出すと昏くなる記憶が
一つの造形のように弾きだされ
夜の静寂さは
語れば言葉を奪ってゆく静けさに変わり
忘れられた船着場に誰かの影が立つ
それを君と呼びたくない私が
どこからか吹くはずの風に宿っている

-もし哀しみに色を着けるのなら
 この海の色が良いわ
そう言ったはずの君の海の色は覚えていない
その面影を覚えていないように覚えてはいない
ただ、すべてではない
いくつかの季節は覚えていて
剥落した季節には君と出会ったはずだ

-次に会った時には教えてあげるわ
想い出せば昏くなる記憶が
その言葉だけを弾きだし消えて、この夜の静寂さは
語るに足らないことを教えてくれている
言葉の空しさだけを教えてくれている
2014-09-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬の海に向かって歩いて行く

ついに哀しみの不在が横たわり
私たちの別れを導いて
似た道を二本に分けて歩き出すと
二人によく似た犬が先行する

想い出せないお互いを
知らないお互いにするために
二人によく似た犬が先行する

一枚、一枚の枯葉を忘れながら
枯葉だけで出来た街路を
波打際が静かに伸びてゆく

冬の海にしか繋がらない波打際を
一枚、一枚の枯葉を忘れて
哀しみも想い出せないままに
二つの影が並んで歩いている

よく似た二匹の犬を先行させて
別れた二人が仲睦まじげに肩を並べ
時間の定めがない波打際を
それでも冬の海に向かって歩いて行く
2014-09-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

猫を巡る夜|の六連

ほとんど線のように
細くなった猫の瞳に夢を捨て
久しく見ることのない夢を捨て
問われる愛だけに恋をして
いくつもの円環を巡り
向こう岸には誰もいないというのに
あたかも愛する人がいるように
向こう岸だけを愛し続けている

涸れた枯枝が
それでも撓る不思議さにさえ
涙を零しながら、しかし哀しみからは遠く
孤独や生にまつわる寂しさからも遠く
夏祭りの後の虚脱感に似た疲れだけが残り
最後の打ち上げ花火を見終えた後の美しさに酔いながら
混みいった道で肩をぶつけながら歩いている

想い出の少なさこそが愛に変わる不思議を
やはり涙で迎えながら苦笑いし
見送る最終列車すら知ることがないままで
独りきりのホームに佇むように
どれだけの混雑のなかでも独りきりなのだったが
もし、寄り添うものがいるとすれば
肩に重さを喪って宿る鳥の影
光るさだめを奪われて塵にもなれない星の影

猫の瞳は盲いたように細さを超えて
乾いた瞼が静かに閉じはじめる
夜の静けさが開くように乾きながら
薄い瞼の向こうに閉じ込められてゆく
ほとんど喪った夢のように
厚みを捨てて、なお閉じる瞼の向こうに
捨てられた瞳のように閉鎖される

川べりを歩きながら迎える夜には
数歩で踏み出せる車道がある
満天の星に紛うテール・ランプは遠くのカーブを巡り
そこに岬を見たてた一つの海が浮かび上がってくる
陸の暗さを怪しい縁にして
ゆたりと細い月の光を浴びて
海月のように揺蕩う海が浮かび上がってくる

波の音よりも強い川のせせらぎを渡りながら夜を歩くと
数歩で途切れる川の流れがあり
問いかけには居眠りを決め込む猫すらいない
もはや愛のない夜すら訪れない
2014-09-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遠い叙景に

記憶に閉ざされた想い出が
哀しい旋律を連れてくる夜は
哀しみより空しさが似合う

想い出は忘れられゆくために
遠い叙景を描くが
その遠さが忘却を遠ざけるばかりで
哀しみは、むしろ遠さに比例している

閉ざされた想い出なら
健康な皮膚下の傷のように疼くばかりで
想い出せないままの中身が
痛みだけが、消えるように痛み続ける
消えるように消えずに痛み続ける
痛み続ける痛みが愛おしい空しさだけで
いつまでも疼き続けている
2014-09-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜/虫の音

あまりにの虫の音が微か過ぎるので
夜の神経を逆なでている
むしろ、うるさいくらいが良いのだ
特に、こんな雲の出ている夜には
むしろ、喧騒を与えてやるに限る
星も月もない夜なのだから
微かさは不信を呼ぶのだ
哀しく折れたか細い枯木は
地平線を祈りながら泣いているじゃないか
ぼくたちの知らない哀しみが
水平線の意味を知らない水平線を
今でも探しながら波打際に
打ち上げられてくるじゃないか
夜は・・・雲の出ている夜は
そんな寂寞に溢れていて耐え切れぬじゃないか
あらゆる愛も、あらゆる愛おしみも
あらゆる恩寵を覚えることすら出来ぬだけでしかない
はかない時間じゃないか、夜は
ああ、こんなにも美しい虫の音だのに
夜は虫の音が嫌いなのだ
2014-09-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それは想い出

どうして水が
石ころのように転がっているのだろう
とっくの昔になくなった
古びたプールは真夏の最中
誰もいない落葉を抱えて静まり返り
それは想い出といえるのだろうか
一枚の絵画、むしろ一枚の写真-
いや、出来の悪い映画のワン・シーンのように
硬くなった水の表面を空に向けている
石ころとプールが重なり
知らない犬が疲れて伏せたまま
垂れた耳を動かしもせず
飼主を待つような目だけを薄開きすると
疲れた水が瘧から解放されたように
むしろ異次元にでも移されたように消え
プールにはさざ波さえ立ち始めた
止まった時は止まったままで
すべてが極限までスローモーションを押しすすめ
それでも停止までは至らずに
むしろ停止を超えて停止に向かっている
季節については、まったく想い出せない
真夏の最中であるという季節は
まったく想い出せない
2014-09-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

桜葉

今はもう花もない桜だとて
葉ばかりになったとて
その美しさは愛でることも出来ように
人は通り過ぎ、鳥は飛び立ち
季節さえ留まらないまま桜は
沈黙を過ぎて沈黙したまま
川の流れに葉を落とし始めるのか
公園に響く嬌声は変わることがないのに
だれ知ることもないままに
桜の葉は散り終ってしまうのか
連れきた人はいずこへ去ってしまったのか
その人の影の温かさは夕暮の仄かさにに似て
手渡しときまで注ぎ続ける愛を持っていたか
ただ一本で立つ桜よ
激しい遠雷と不穏な黒雲に圧されて
それでも立ち続ける桜よ
死に急ぐ命は
決して君には似合わない
2014-09-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

愛しているとさえ

宛先を知らぬと昨日の君が嘆けば
書くべき中身がないと今日の君は嘆き
紙とペンがないと明日の君は嘆いた
未来に向かって限りなく後退しているのなら
詩にでもなるかもしれないが
後退も前進もしないままでは間が抜ける
停滞しかしない雲を浮かべて
夜に引き渡さずに、いつまでも空は夕暮れている
お互いを理解し合うのに永遠は必要なく
ただ一瞬もなく理解し合えない別れだけが横たわる
輪廻は繰り返しではなく反復だと
もし、そうであるのなら永遠の孤独は輪廻の外か
理解し合えない者同士の間に貨幣が氾濫し
やがて腐食させる貨幣になり変わり
貨幣の顔をした私たちは、もう手紙が書けない
それは約束された未来であり、過去であり
遠くから近づくように遠ざかったままの光である
愛しているとさえいえない今日の私たちである
愛しているとさえ聞くことのない
今日の私たちである
2014-09-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

幻想掌話

遠くの手の平に砂と夕陽とが落ち
空しくなった指先があがくとき
哀しみは手放されている

即物性の愛が植物のように芽生え
抽象化された人々の間を影のように歩み
世界は形而の上下を往来しながら
聴こえない羽ばたき音を探す鳥のように
盲しいた瞳を季節のざわめきに向けて開き
見えない全てを抱こうと
地平に等しい腕を回し
いつまでも振れない空しさに暮れている

一かじりされて捨てられるリンゴのように
世界の空しさは捨て去られ
優しく受け止めるはずのときすら過ぎて
ようやく手の平の感触を確かめる

一方の手の平を、もう一方の手の平と合わせ
祈りに似た胸前で合わせた両手が
もう一つの、さらに、もう一つの手を呼び
共有されるなにものもない

ああ、ただ一つの誰のものでもない
幻想に似たものだけが残される
ただ一つとして同じではない
絶対的差異に隔てられた
幻想に似たものだけが残されている
2014-09-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

激突*

追われるものは追うものであり
追うものとしての自らが外部化したとき
追われるものとなるのである
追うことを知らないものは
ついに追われることもないのである
それは愛の物語である

恋には、ただ一本の
一方向へのベクトルがある
愛には各々に付き一本の
一方向へのベクトルがあり
決して交わることがない
交わらないベクトルは追うものであり
ついに追われるものである

恋に哀しみが与えられ
愛に惨めさが与えられ
それは追跡する方法の違いであり
ベクトルの在り方の違いであり
偶然の在り方である

*原題:Duel 米国テレビ映画(1971年製作)
2014-09-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

見飽きた背中

見飽きたあんたの背中に
うんと薄くした指をなぞらせれば
簡単に薄皮がはがれてきて
哀しいことばだけが
いくつも零れてくるのね

情けないまま長いだけの夜には
愛し合うことなんて出来ないと
そんな古臭い言い方で背を向けて
そんな価値観の話なんか聴きたくないのに
見飽きたあんたの背中は
いつも、そんなことしか言わない

うんと薄く、鈍い鋼色の爪で裂いても
うめくだけで泣きもしないなんて
どうしようもなさ過ぎるわ
萎れた薔薇よりも
どうしようもなさ過ぎるわ
別の夜を探しに行くわ
別のあんたを探しに行くわ
2014-09-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一つの秋が

六つの街を通過した夢のなかでは
黒くなり損ねた犬が
笑いのなかに笑いを解いて
しかつめらしく人影を見定めては
いくつかを吠えたてている

夕暮を哭く夜のように
一つの橋は滴り落ちながら眠りを求め
川面に着く前に息絶えていった
分解された夜は夜霧が覆い
死にかけた影たちは死にそうな街灯に寄りそい集って
猫のように無言の会議を繰り返している

遠くまで行くはずだった犬が引き返してきて
黒くなり損ねた犬の横を澄まして通り過ぎ
白くなり損ねて寝そべると秋が
もう近くまでやって来ていて
私たちには哀しみが返却されてくる

いくつか前の冬に託して凍らせたはずの哀しみを
無造作に秋が放ってくる
人気のない波打際を放り出してくる
黒くもなければ白くもない
色のない波打際を放り出しながら
一つの秋が漂着してくる
2014-09-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

微かな斜線/視線

戸棚のガラスに反射する
窓の外は、いつでも冬景色しかなくて
そこに佇むあなたを見つめ
いくつかの季節を過ぎ終えながら
季節の終わりだけを数えると
変わることのないカレンダーを想い出す

書き変えることも書き直すこともない
一冊の連絡帳の一ページと
開いたとこまでも読んでいない詩集と
別れる直前に愛し合ったあなたとが
一つに重なったまま冬の鉄のように冷たくて

窓枠を通り過ぎる渡鳥の色はガラスの色に消えて
ただ通り過ぎることしか知らないようで
毎朝、訪れる小鳥の影と見分けがつかない
飛びまわる、その様子だけで違うんだと想い込む
佇んだまま変わらない木立のように
戸棚のガラスを見ながら想い込む
きっと見えるのはこちらからだけで
あちらからは見えることがないだけなのだと想い込む
哀しかったのは気のせいだけだったと想い込む
2014-09-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遠景と小池

遠い景色が小池のなかに映り込み
さざ波に揺れて
少しのリアルを示しながら
まばゆい光の昏さのなかに消えてゆき
それを自然と呼びたくなるように
君が映るだろう、その表に
ぼくの影を先に移し込んで置こう
哀しみを去り、抜け殻として
ただ光のなかに消えてゆく一つのリアルとして
微かな希望を熱い季節に閉じ込めながら
もっと正体なく枯れている
水分を吸い込んでさえ枯れている腐葉土のように
幼虫の安らかな眠りを抱いて
温かく湿った乾土として
君を待つことなく、君に遭えることなく
消えてゆく一つの影としてのぼくを
遠い景色が小池のなかに映り込む
さざ波に揺れて、空のなかに消えてしまう
遠い景色が小池のなかに映り込む
2014-09-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

師匠

俺の詩の師匠は
いつも外からやってきて
内側に潜んでいる
食い荒らそうとして
じっと俺のなかを
吹き抜ける言葉を見つめているのだ
詩法や詩学なんぞ糞喰らえ、と
適当な、それでも気に入った言葉を捕まえて
これとこれだ!
それだけ言って、また黙り込み
潜んだ師匠が引き出されるまで
そうやって内側に潜んでいる
所詮、と言いかけて俺は止まる
師匠が嫌う言葉だからだ
俺も嫌いな言葉だからだ
しかし身に付いた習性が許さない
なにを見ても所詮、所詮、だ
所詮、お前はなにものにもなれんのだ!
俺の詩の師匠は嗤いながら
いつも外からやってきて
内側に潜み続けている
2014-09-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

面倒な風

面倒臭い風が吹いている
今日は予定があるというのに
面倒臭い風が吹いている
風に吹かれて痛みは増してゆくし
あらゆる繋がりは理不尽で
遍歴の飽和は錆びたナイフとなって
心臓をえぐり出そうとしている
消息不能・・・
時代遅れの一通の電報が届く
なんなんだ、消息不能とは?
七面倒なシャツにズボン
靴まで履いて、どれだけ原始人に近づけと?
情けない俺の哀しみが潰えて
なにかしら希望めいたものがきらめく時
俺は何度も聞いたように
俺の死体を浮遊して見下ろし
ざまぁねぇや・・・
そう呟いて勝利に酔っている
ああ、それでも風は止まない
面倒臭い風の音が
透明な風切音が
こんな所にまで届いている
どこどこまでも追いかけてくる
2014-09-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一日というのは

とっくに夜明けが遠ざかり
曇りなのか晴れなのか
空は決めかねたような間抜けたとき
目覚めは、なんとも曖昧で
きっと一日は消えてしまう
いつも以上に消えてしまう一日に
君の姿は含まれているのか
問うことも出来ないままの光が
一条のまま透き通ってゆく
これが一日の光のすべてだと告げるように
拡散するのは、もう飽いたと
涙を流しながら光は一条に収束してゆく
目覚めは一日を殺してゆくのだ
夢のなかで過ごした幾千幾万の一日を
嘲笑うことすら出来ず
涙を零す一条の光に一日が殺され
溢死して君は消える
君のいないままに一日も消え
目覚めたばかりで、ぼくもいない
2014-09-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

黒い鳥の影

バイクの音を横切る黒い鳥の影に
それでも追いすがるのか
季節は幾度も泣いたまま留まっている
切断に切断を重ねられ
静かな湖に無数のさざ波が流れるように
季節は季節の血を流す
抱擁しようとする疎林は
まばら過ぎる自らを哀しみ
幾葉かの葉を散らしてみるが
山影は、そっとそれらを拾い集め
どんな影より昏い空に捧げている
黒い鳥の影をバイクの音が横切り
引き裂かれたまま路面をはみ出して飛んでゆく
天体を持たない地面を自由に
千切られ、さらに千切られ、無数に千切られ
黒い鳥の影は飛び続ける
追い続ける季節をも無数に引き裂きながら
季節の泣き声が聴こえなくなるほどに
無数になればなるほど
耳鳴りのように大きく響いてくる
季節の泣き声をも自由に飛び回る
不意の不条理は星の影
鳥影が鳥の形に引き戻される星の影
鳥影が宿り休んでしまう星の影
いくつかの月影をも許したのに
だからこそ、かそけき星の影に宿ってしまい
今は黒い鳥の影が鳴いている
辻を曲がって消えてしまったバイク音の替りに
今では黒い影が鳴き、季節は落ち着いて
いつもの時間が流れ始める
2014-09-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

距離の雑感

根拠のない距離で
風景は抱くもの、抱かないものを隔て
抱くものには憎しみを
抱かないものには愛を分け与え
風景でないものすら風景とした
一度として同じものとして訪れたことのない
季節のやり方で
愛したことのない愛を求める方法で
君のくるぶしを洗うのは
汚わいに満ちた町外れの川だったが
夕暮は訪れないように私は告げて
細ってゆく骨を愛しんで見つめていた
都会の喧騒が届かないではないけれど
ここには、きっと風景の支配を逃れる場所がある
乾いた君との距離の間がある
真空のなかに造り出した真空がある
造形として保ち続けている距離がある
2014-09-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

行方と広がり

窓を横切り飛びまわる
小鳥の行方が分からない
窓の端から現れ
窓のなかを飛びまわり
窓の端に消えていった
小鳥の行方が分からない
空は変わらず
幾片かの雲を凍らせたままで
すっかり季節を見失っているが
そのことさえ意味をなさない空のままで
やがて来る夕暮や夜、朝
雨が降れば変わるかもしれない空を
どれだけの人が見上げているだろう
どれだけ同じ空を見上げているだろう
窓を横切る一瞬を同じに見て
ぼくは君と繋がることが出来るだろうか
そのとき君の窓にも小鳥が横切り
飛びまわり、消えてゆくのだろうか
ぼくと君の上には
繋がっている空があるのだろうか
哀しみを湛えた空が
広がっているのだろうか
2014-09-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ブルー画面

いくら切るように撫でたって
傷の一つもつきやしないと
溜息をブルー画面に吐き掛けると
静かなあなたの息づかいが聞こえる
音から離れた遠いところで
あなたが継いでいるだろう息づかいが聞こえ
私は哀しみを指先に乗せて
傷だらけのまま新しい傷に気づかず
哀しみの唄だって歌うけれど
浮き出る血管も脈打っているけれど
きっと、そんなことは関係なくて
画面のブルーに私は重ねられ
傷ついた画面のように泣くしかないみたい

好きだと言って
波が遠くに聞こえるように
耳がなくなってあなたの囁きだけになるように
好きだと微かに
画面がブルーに染まって
私までが画面のなかに閉じ込められる前に
微かに、聞こえない大きさで
好きだと言って
2014-09-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

真夏の手袋

真夏の手袋を手にすると
子供たちは不思議なものを見つけ
指先に光る重さを見つけ
大きな嬌声とともに戯れる
男は義手を振りながら
困った顔をしているばかりだ
実際、男は困っているのだ
義手を着けようと手袋を着けようと
もう、その手で抱くことは出来ない人を
これからも愛し続けられるかどうか
ただ独り、考える時間が必要だったから
それは意志の問題のようにも想われ
そうだとしたら哀しいことだと
男は頭を垂れたまま
一メートルは続いているだろう
アリの列を見つめている
同じ顔をして同じ手足をして
交わることも愛することも
そのほとんどは成すことなく
ああ、おれはアリと変わるところはないのだ
男は手袋を諦め、義手を捨て
もう一度、愛した人を想い出した後
そっと両の手で耳をふさぎ
すべてが流れゆく川のせせらぎを聞き続けていた
2014-09-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

影に影を重ねて、影の影

街のそこかしこに立ち居並ぶ影と影
影の影、透き通った影
語りかければ自動応答のように
影は傾いてゆく
陽が傾くように傾いてゆく
乾いた影の痕は、いくらでも掘れる
冷たい彫刻刀が影の貌を作ることすら出来る
そして無限に並ぶ影と影、影の影
透き通った影
荒野には立ったままの影が揺らめいている
地平線の上には蜃気楼さえもが浮かんでいる
陽のないままですら影は
それでも傾いてゆくのだ
決して触れることのない風に
さやかな風に
私の影が傾ぎながら灯を求め
結局は夜闇に消えるように
消える夜闇のなかですら傾くように
街の、そこかしこで
ああ、一枚の葉が落ちる
その微かな音にさえ、影は傾いでゆく
2014-09-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

なかの、なか

浅くなりつつある眠りのなかか
眠りのなかで更に眠りに就こうとしていた
遠い世界が、本当の永遠の遠さのなかに消えてゆく
そんな眠りの誘いは優しい柔らかさに満ちている
生誕の記憶はないが、この深さに埋もれていたい

目覚めれば遭うことすら出来ない人の影
不毛な愛だけで出来た生活と
読まれずに積まれてゆく本の山
書き続けることすらままならぬ紙片の散乱
哀しみさえ光の速さで遠ざかってゆく

けっして音を消したわけではない波の音が
遥かな記憶のように微かさのなかに微かさを重ね
ただ静かな波だけが波打際を打ち
晩秋の控え目に降る雨のように気づかれない雨を重ね
眠りのなかに眠りを重ね
夢のなかに夢を重ね
目覚めのなかに目覚めて
ただ消えることの出来なかったことだけで生き返る

碧さを遠くに置いて空は夕暮を抱き
なにもなかったように目覚めを抱いて
飽かず、煌めきのなかに街を落としゆき始めている
知らない人から届けられた息災を告げる葉書を手に
心の距離の空しさのように空は夕暮を抱いている
2014-09-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

しょせんは通過点

哀しみは廃墟の音楽を鳴らし
捨てられたもの、破壊されたもの
存在を忘れられたものの唄が光っていて
はるかな未来から訪れ
そのままに過去へと過ぎてゆく

現在は壊れかかる通過点なのか
いくつもの季節が滞留したまま
北へ、南へと迷走する海流のなかにあり
酒には酔わぬものが酔う雑物のない水のように
愛する人の影がブランコの影を追いかけ
一つの公園に見いだされる

待つ人が追いかける時間を季節に変えて
季節を追いかける時間となって待ち続ければ
ただ壊れてゆく世界のすべてを歌うもの
讃歌を信仰する人の輪の崩壊は
いまだ遠い先のことと想えてくるし
そんな未来は、きっと明るいのに光もなく
私たちは出遭えない幸せに酔いながら
もう一度だけ廃墟の音楽を想い出し
鼻唄だけで帰れる家を探すのだ
2014-09-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一瞬だけ

夕暮時、空がバラバラと
紅を落とすように落ち
あ、という間もないうちに
暗闇に身を潜めてしまうように
ぼくらの命も
あ、という間もないうちに消える
あ、という間もないうちに
時には人を愛したり憎んだり
幸せすら感じたりすることもあり
それが罪悪感となって苛まれたり
そんな
あ、という間もないうちに
この国家という存在は
まるで永続機関のような顔をして
澄まして立っているようにみえるのだから
なんとも不思議なものだと想う
父母の時代には空の替りに
爆弾や焼夷弾が降り注いだのだという
木霊のように
シュプレヒコールが響いたこともあるらしい
ああ、もう、そんなことはどうでもいい
どうでもイイから、どうぞ
どうぞ、御自愛下さい
私を傷付けたもの、癒したもの
私を愛したもの、憎んだもの
彼らが区別なく恩寵に与れるように
そう想えるのは一瞬でしかないから
どうぞ、御自愛下さい
そして、ありのままに忘れて下さい
私という存在がなかったままに
ありのままに忘れて下さい
そして、どうぞ
どうぞ、くれぐれもご自愛下さい
2014-09-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ぼくだけの冬

確かに君と遇い、話したはずなのに
冬は冷たい季節だね
雪や氷が解ける準備をする季節だ
もう一度、君を探さなくてはならない季節だ
二人の間には去ることがない季節、冬があって
いつも、そうして探し出すのはぼくだが
君は冬のなかでさえ凍えることなく
きっと暖かな冬を迎え続けているのだろう
潅木が一振りするだけで終わる季節は
ぼくには冷た過ぎて哀しい
哀しみが冬となり、過ぎては訪れる冬となり
もはや二人の間ではなく
ぼくだけの季節として冬は訪れ続ける
2014-09-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

田舎への手紙

一つの夜のなかに
いくつかの夜をまたいで
光で満ち溢れた高速道は
まばらに高速で駆け抜ける車を乗せて
だれもいないような田舎を走り
都会の喧騒や面倒な渋滞を嗤っている
たくさんの跳ねる魚を抱く川のように
優しい川面を美しい夕暮に彩り
誰知らぬ時間だけを過ごす
あるいは一人だけのために美しく光り
夜の闇のなかの怪しいうねりは魅惑的で
触れれば滑るような滑らかさと
吸いつくような湿りぐあい
ああ、それに比べたら
都会の乾き具合ときたら、もう絶望的だ
夜は訪れることもなく
車は走ることを忘れたまま呆けているし
どこにも女体の美しさは欠けていて
アンドロイドの女たちだけが闊歩している
それが文明というものなのだろうか
男たちの造るものの不器用さなのだろうか
田舎の女よ、その美しく張った胸を誇ると良い
その艶めかしい弾力に満ちた胸は都会にはないのだ
その柔らかな曲線に抱かれた腰つきも
ああ、それでも君は往くのだろう
乾いたアンドロイドになるために
ぼくの知らない女になるために
愛しい人よ、せめて最後の手紙をと想ったが
あまりの無力に、ぼくはペンを持つことも出来ない
もう想い出したくない世界のなかから
都会に外部があるのなら、と書きかけた手紙は
誰も集荷に来ないポストに投函してしまった
もしポストの前で倒れている男がいたら
それが、涸れ切った姿であったなら
それが、ぼくの息絶えた残骸だ
もう中身を、すっかり田舎に移した残骸だよ
2014-09-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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