息絶えのなか

冷たい光のなかでだけ鏡の奥に咲く花を見たら、消えさる時間を追いかけるじゃないが、きみの名前は覚えようじゃないかと、その面影なら撫でるように愛されたはずだ。
山頂から山頂への飛翔は華々しくて好きになれないが、深海から深海への沈潜だって曖昧過ぎて好きになれやしない。だから平野を歩くのだと聞いたが、そのときに吹いていた風を覚えていないように枯葉だけを落とす木立の歩みで歴史を忘れながら一つのベンチから眺める滑り台には子供がいない。

封鎖されたすべての公園から対岸を目指せよ、解放を謳歌するすべてを抹殺するように沈黙し、そのまま目指せよ。川瀬を踏む足音で目覚めるきみを探しているから、封鎖されたすべての公園から旅立ち対岸を目指せよ。
あらゆる魂を乗せて走る電車は銀河を知らないが、冷たいときも温かいときも汚れに満ち続ける川から眺める夕暮だけを知っている、そこに昏い背を持つ夕暮なら知っている。

理由を問うならば決して応えない静けさを追って私たちの時間が走る。決して使われないことばを探して私たちの一つだけの時間が走り、並走する無数の幻想時間たちを振り払おうとし続けている。
忘れてしまったきみの名前が泣いて、嗚咽が響く。汚れた川だけに凭れる夕陽が静かに息絶えてゆく。無限に繰り返す死のなかで、たった一つにもなれない息絶えのなかに沈んでゆく。
2014-12-31 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

久遠に降る

-だれの足跡も残されなかったら
 それはぼくが登った山だ
永遠に降る雪のなかできみが言う

-今宵、聖夜なら星は天に還るだろう
ぼくは、そんなフレーズを想いつきながら黙っている

街にはきらびやかなすべてがあった
醜悪さえ輝けるなにかがあった

ただ雨が降らないという理由だけで壊れる愛があったし
ただ風が吹いたという理由だけで蘇る愛さえあった

通りすぎるのは車であって欲しくなくて
素敵な香りをまき散らしながら走る地下鉄だって走らせた
きみとぼくの二人さえ、そこにあったのだ

世界中の希望を一つに集めたような
そんな歌だって響き続けていた
壊れる愛も、蘇る愛も、生まれる愛も

-すべてを祝福する意志となった影なら忘れられる
きみが、そんなフレーズを想いつきながら黙っている

-だれの足跡も残されなかったら
 それはきみが登った山なんだね
永遠をさえぎって降る雪のなかでぼくが言う

ぼくらの幻想を雪が降る
絶望の不足を補うために雪が降る
はるかな垂線を横切って
永遠を知らずに雪が降る
2014-12-30 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

恋人のいる里では

寒さを距離として、かじかみながら萎える足の冬になり
遠くへと進むより近くへと進んだひとつの影を追い
恋する雪なら雲にすがりながら、いくつもの山を越える。

恋人のいる里いない里、恋人のいる里なら知ることがない

人のいない田畑がきらめいているので
ざわめく季節が指先に触れると、
そのまま季節になりたくなるだろう。
大股の歩みが山頂を巡り途絶えているが
男の姿は、もう見えない。

冷酷な祈りの鐘が響いてくる、
荒波の岬だ。
身投げするだろう女が独りで生きている。
あばら家に乳飲み子を置いて、
ふくよかな胸をはだけながら。

輪舞が始まる静かな夜にだけ去る季節がある。
人気のない一瞬を過ぎ去るだけの小さな季節がある。
寒ささえ距離となる季節を知らず、
過ぎ去ることだけしか知らない季節が、
男と女を永遠に隔て続けている。
2014-12-29 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

届かない吐息

公園には揺れることがないブランコがある
甘い香りの雪が降り始めていて私は
あなたの涙が怖くて影を落とせない

遠くから訪れるものだけを待っていたのに
今ならとなりにいるものだけを待っている
風のなかに消えるものだけを待っている

瞳を隠して瞼が陽のなかで泣いている
あなたの吐息が届かない
やさし過ぎるあなたの手紙が手のなかで冷たく
微かな風にさえ散る脆さであれば

記憶の波に侵される愛ならば要らなかった
あなたが歩く街の記憶なら要らなかった
私をなぞるあなたの指の記憶なら、要らなかった
2014-12-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

腐乱する夕暮れ

街中の、街外の、
すべての輪郭を無情に奪ってゆく
夕暮のやさしさよ

ゆっくりと指示される腐乱が
静かすぎて気づかれない
だれも気づかない

腐乱する夕暮だけを愛した
どこからでもよかった

夕暮の輪郭を奪う様が見れさえすれば
その意味を考えることもなく
分かっているはずだったし
分からなくても良かったから

-さようなら

そんな一言さえ腐乱させて夕暮は
だれにも止めることが出来ない絶対さで
ゆっくりと、でも確実に-

暴力的な光は、嫌いだよ
2014-12-27 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

あまい歌で

残酷なことだけを真実として与えられるから
ずるがしこい詩人の笑みで
冷たい陽射しがことばの輪郭をなでている
季節のない陽射しでことばの輪郭を探っている

-わかりそうでわからない心を
 とけそうな甘い歌なんかで誤魔化そうとしないで

鈍色の空をこえて宛先のない問いが飛んでゆく
飛び立ったばかりの飛行機の音は低いままで
さっき梢に引っ掛かった風船をすり抜けて
そのまま雲の向こうに消えていった

いくども数え直された愛の数が合わないまま
知らない恋人の甘いくちびるの感触が想い出されると
グラスのなかでは溶けない氷が眠りを探している

-わかりそうでわからない心を
 とけそうな甘い歌なんかで誤魔化そうとしないで

そういった恋人を覚えていない
最後の恋人は覚えていられない

ことばの輪郭には
二度とは触れることが出来ない
一度目も触れることが出来ない
2014-12-26 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

くちびる

むしろ それは永遠のくちびる
あわい雪ひとひらのとけるだけの一瞬だけ
幼く赤みをおびて
むしろ それは永遠のくちびるなのだ
なによりもかろい空をのせて
どこまでも深くくちづけする
むしろ それは永遠のくちびるです
わたしがふれることなく
おもいだすことも許されない
むしろ それが永遠のくちびるでした
2014-12-25 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

波する吐息

冷たい吐息を抱えて戻る道すがら
夜は昏い波を想い出す
水平線のかなたまで光を持たないゆらめきと
ほのかな暖流に呼吸を預ける無力さを

星の語らうまにまに死にゆく命は
その無価値さを輝きに変えられただろうか
乾いた血潮のめくられる灼熱の岩肌よ
夜はお前とは出遭わない

猥褻なネオンの鼾を叩き
しかし止まないネオンの鼾を聴きながら
夜は昏いだけの波を想い出す
波音だけになった波を想い出す
2014-12-24 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

散策の表紙

冷たい本の表紙で踊るきらめきの光たち
その楽しげな様子を見つめる不思議な子供の瞳
つむじは激しい回転を続けている
ついとも揺らぐことのない緑の葉を一枚、乗せて

晴れやかな埠頭を湿り気を帯びて足跡は行く
あてどない足取りに、かの子供の笑顔を乗せて
遠洋にすなどる漁船は、もう水平線を越えた
世界を周回するような豪華客船は出航の見送りに酔っている
船員なら、手榴弾を懐にしまいながら船を物色している
足跡は、それらを横切って沈黙し直す

飽きることを知らない幼い視線に、罪は映らない
腐臭すら、どこか懐かしい甘美さとして鼻腔に覚える
萎えた男、萎れた女
その間で花開く残酷な無垢よ
このひとつの季節さえ越えることないか弱き命よ
テーブルの上では一冊の本が
ただ、その表紙だけで二つの瞳を見上げている
2014-12-23 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

荒岩

磯の荒い岩を洗う波など見たことがないのに、
こうしてありありと想い浮かべることが出来るのは
きっと、どこかで写真でも見たからだろう…しかし、
その写真の視点さえ、機械的なものでなければ
私も見ることが出来たはずなのに、
私には、その波を見たという記憶が、むしろ資格がない

おもむろに吹き抜ける風の、その先につむじ風が巻き、
一つの記憶を魔法のように消してしまう
公園では、いつもそんな風に封印されて私は
ただ置き忘れられた置物のように
冷たい涙も持たず、描かれた涙の筋だけを浮かべ
もう何も想い浮かべまい

夜にさえ夜を迎えた記憶がなく
今の昼を昼とする力とてなく
せめて静かに息絶えるようにと願ったとしても
ゼィゼィと醜い息ばかりが響き渡るばかりだ
それでも愛した人はいたろうに
それでも恋したこともあるだろうに
今でも沈黙したまま、波は荒岩を洗っている
2014-12-22 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

今日の唄

-もう終わりにしようじゃないか
そう詩人が告げて倒れる場所は、どこかにないか
委託された預言の実現を追いかけて
私は採石場を彷徨っている
なによりも立派な碑石、いや墓石を
山頂だけが占める空を
私の瞳が覆っているというのに
なぜかしら私は泣いている
あらゆる文法に背を向け
詩人は、どこまでも遠くを目指す
そう信じていたのはいつだったか
詩法の影は、もう薄い
詩語の漂う波は凪いでいる
-時代が変わったのだ、適応だ
深化する進化の大波に
伏流水のように対抗しながら
しかし湧水はついに涸れたのだ
小さな公園を造園するときに
掘り出される小さな遺跡
終った戦いを終わらせないために
虚しい試みだけが一人、続いていた
掘り返した草の根だけが逞しく
女は今日も今日の唄を唄っていて詩人は、
男だった
2014-12-21 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

いつまでも

哀しくも短い目覚め
眠りは長く、いくつもの冬を重ねたようだ
厚い雲の下でうごめくように
しかし正確な街の営みが営々と重ねられ
波頭の重なりに似て無為が漂う
一台の選挙カーがなにも言わずに通り過ぎ
手を振るあなたはなにも見るものがない
木立のなかを燦々と降りしきる陽のように
だれも見返ることなく振られる手のなかで
微かな熱を帯びた藁草の匂いがする
春の谺が遠く山の向こう
今でも覚えている夏のなかで
いつまでも響き続けている
2014-12-20 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遺棄された哀しみに

さみしい空の一角から一つの愛が零れ始めると
スキッ歯のような街の一隅からさえ
楽しげなクリスマス・ソングが響き始める
だれも祝うものなどいないのに唄は唄を生きている
冷たい滑空の音さえ聞かず
後ろから刺す光を躱すことも出来ず
投身する哀しみが地に着く前に紙きれに変わる
男の拾う侘しい背中には
乾いた死児が瞳のない子犬と戯れ
母親を持たない幸いを偽母に捧げながら
男の首筋を指さしている
だまっていた狂人が一人だけ気づき
死児の指をナイフに変え
安堵した男の祈りを聴きながら
そっと首を刺し
穏やかな陽だまりの公園のなかで
喪われた街が一つの誕生を迎える
もう終わりのない誕生を
さみしい空の一角から一つの愛が見つめ
還れない夜空を想い出しては泣きはじめると
いくつかの雨が降り注ぎ
傘を失った早足が
繋がる先のない舗道を叩き続ける夕暮が訪れる
もう、だれもいないだろう
この世界には、もう
だれも必要とされていないだろうと
哀しみが棄てられる
無数の落葉に似せて
無数の哀しみが、棄てられる
2014-12-19 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

英雄

流れる血の元を辿れば一筋の川だ
切り裂かれた古木の根太、
掘り起こされ、雨ざらしにされる記憶
古代の荒々しい大地と空との記憶は
私には見えない血を流して川を下る
荒波さえゆたかに鎮めて
知らない国の埠頭を凍らせて
どの埠頭からも出航し始める一艘の帆船の
帆のなかで眠る錆びた時代
語られない愛だけで生きてきた
一人の老婆が編み物を頼りに泣いている
苔むした墓石と真赤な夕暮に
川は精一杯の狂音を響かせながら
今日も真赤に染まっている
2014-12-18 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

リフレインを棄てる瞳

厚い窓越しの音が語る世界は
ひどく視界がボンヤリとしていて
走り抜けている車の種類だって一つしかない
ああ…色もグレー、灰色しかない
でも誰かがいる、人が
顔はない、輪郭は与えられた
声を持たない、叫びを与えられた
寒空が広がっているだろう
どこかでは広大な湖も広がっているだろう
大地と空とのあいだでは
いくつものリフレインが交錯し
極彩色の紋様さえきらめいているだろう
すべては厚い窓の向こうで
真っ黒に染められた窓の向こうで
瞳は閉じる
静かに外を想い出すため
美しい外の世界を創りだすため
瞳は閉じたまま開かない
見るよりも創るために開かない
2014-12-17 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

いのち

二本、三本と煙草が増え
吸い殻入れが満ちてゆく-

そこに小数点はあるのだろうかと
いくらかは微分された哀しみをさしはさみ
そこに分数ならあるのだろうかと
切り分けられたリンゴの哀しみをさしはさみ

曇天の遠くを立つ樹は寂しさを燃やしている

冷たい季節から遥かを眺めながら
少女の軽やかなスキップと
街の吹き溜まりで横たえる身を持たない
老いきった一人の男の歴史と

並べるもの、並行するもの…
地平はゆくまい
水平線なら、なおのこと

ことばを喪ったまま
渡鳥が越えてゆく山稜の
その微かな線にさえ触れる空のした
君の足跡だけが残るように記憶は捏造され
一陣の風のように消えてゆく命があるだろう

最後の煙草を流星のように吸い終わり
光輝のうちに溶けこんでゆく
そんな無一物の命が、きっとあるだろう
2014-12-16 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

分岐する季節の空

決して降らない曇り空が好きだときみが言い、ぼくは
決して光らない晴れた空が好きだとは言えない

降りかかるばかりの別れのなかで
きみとぼくとでは近すぎるほどだったから、
湾岸線に沿って地上を走り抜ける地下鉄のように
並走し、決して交わらずに遠くまで駆けてゆける-

秋の稲穂が豊かに一本づつ分かれてゆくように
そして折られてゆくように

冷たさを大気に戻しながら石は
いくつかの哀しみさえ分け合いながら
あるいは遠くの、あるいは近くの
人のいない街を眠り続けるために採石され
賑やかなトラック野郎に運ばれる

-演歌を聴いたかい?
 とびきり、ド派手で賑やかなヤツを?-

田植えころの姿を留めたまま
一面の田園風景のなかで老婆が一人
ぬかるんだ重い足を上げることも出来ず、せず、
ただ一直線に走り抜けるトラックを横目で見るだろう

(面倒くさいんだ、色々と-)

めいめいに想い浮かべる暖炉の火
消炭に残る、微かな季節の静謐な名残り

移り変わりを放棄した色とりどりの四季が集い
空模様の改革について静かに論じているが結論は
いつものように、翌春にまでは持ち越される
2014-12-15 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

みずぎわ

冷たい水面に視線を滑らせながら
揺れる水平線を見つめていると
滑らかな光だけが口のなかに飛び込んでくるし
もがくように歩く足は街を踏まない
きみの立つ街角を曲がることもできない

とおくで入道雲が立ちあがるように
背中のなかで羽が立ちあがり
乾いた大気のなかへと私は放られる

眼下に見えるのは大きな目玉ふたつを
水面上に突きだし震えているだけの私だが
そのとき私は神の視点さえ持ったのだ

決して自らの意のままにならない神として
私は小さく震えている

手のうちから上り始める三日月にさえ
震えが止まらない弱々しい神として
もういちど水面上を遠くまで見つめ直し
溺れながら眠りに就いた

イワシをかじりながら
ショッパイ眠りに墜ちた
2014-12-14 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

白き骨

光る鍵盤を踊る指の合間で泡立つ波のように
君の後ろ姿が林の向こうへと去ってゆく

写真を煽りながら吹く風のなかに散る街灯の
少しの涙を夜が抱きしめ
アルコールを燃やしながら君が泣く
小さな子供が子犬の遺体を埋めている汚れた庭で

遺棄された心理を拾いながら
長いトンネルを掘り続ける地下鉄のホームに
吹かないはずの風を想い出すと
夕暮のなかを漕ぐ自転車で歌われる唄がある
哀しみを捨て切れない君の唄がある

ここで途切れるはずの続きを
なぜ書き続けるのかと問いながら
ぼくの哀しみは居所を喪ってゆく

明日、掘り出された庭の犬は
もう吠えることのない白い骨

星灯りをあちらこちらに散りばめながら
闇を滑ってゆく、白き骨
2014-12-13 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

敷衍的腐敗術

浮遊する腐乱に花開くラフレシア
その四本の長い脚をもてあまし、
なぜ燃やすのか、なぜ火を使うのか?

加速する腐敗のなかで、
お前はオイルに、俺は石炭になろう
すべてを黒く染める時間に
六十兆の細胞が年に一つづつ死滅する
(六十兆だって?

腐敗を学んだ数学は
きっと美しいエロスだろうが
今は期待もできそうにない
シゲキガ タリナイ…
呟く数学は健康だ

俺たちの肺のように
暗闇を彷徨うことも出来はしない
ならば、お前は鉱石となれ
あらゆる光を拒絶する、孤高の鉱石となれ

ラフレシアの不器用な四つ足を休め
オイルに浮沈し、石炭を冷たくし
六十兆の細胞がともにした昼と夜を貫いて
星にまで届く鉱石となれ

そのとき微かな勃起が訪れる
濡れた数式に自慰を重ねる男と女
(組み合わせは無限が良い
場末でくすんだ一枚の紙幣
暗闇では燃えて消えてしまう一枚の紙幣

火を使うのは、だれだ?
2014-12-12 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

君の柔らかな指先を出航する

柔らかい指先が切り裂く季節の空を
飛ぶように歩く鳥が泳ぎ始めると
私と君のあいだに訪れる冬を想い出し
小さな貝のなかで溢れる海を想い出し
岬の突端から帆を突きだす帆船の帰航を祈るだろう

二本の樹で覆われてしまう、この街では
君の居場所は無限に広がり
私たちの出逢いを許す場所がない
還る場所がない二人は一人に戻る

冷たい黒猫を抱く腕を彫琢して君は
微かな呼吸のなかに中身のない祈りを込める

私たちには、まだ幾億年かを期待し
知らずに届く呼吸が残されていて、
私は見上げる星々すべてが
呼吸を止めていることを考えている

神の呼吸について、大地の呼吸について
空の、雨の、呼吸についても

帆船は呼吸に抗いながら出航し
私たち二人の瞳を別々に受け取るだろう
そのとき見る水平線の向こうに消えるために
冬以外の季節なら、いつでもよかった
それが冬でも私は、もう気づけない
2014-12-11 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

初冬(あるいは晩冬)の汀の鋭さに切り裂かれた、

笑いながら死と血を交じり合わせて
生まれるすべてを葬り去る喜劇のなかで眠る幾千億もの冷たい石塊
その一つに宿るだろう私、その一つに宿るだろう君…

祝福する空の下で迎えられるだろう季節の息を殺しながら
遠い街のなかに住み込んで床を這う惨めさを競い
テレビのなかから響いてくる嘲笑を競い
頂点に君臨する悲劇を喜劇に転じる、その力を鳥の羽ばたき
遠く、あの山の頂上を越えてゆく鳥の羽ばたきとして
私たちがともにすること、それだけが祈られている

抽象化された地平線の向こうからせり上がってくる季節には
きっと雲が糞のようにこびりついているのだが、
ヤドカリの背負う巻貝は苔むしていて、ただ冷たい潮飛沫だけが降りかかる
北の国のことについて話した記憶を遠ざけて
陽気な南国のスコールのなかで立ちつくし、立ちつくしし…

語られるすべての悲喜劇の区別を喪う病に伏す間もなく
震えて伸びる指先にさえ触れる間もなく
砕ける石として宿る私ならば、砕ける意志として宿る君

君は、やがて立ち上がり、私を手に取る

眼下に幅狭く狭隘を極めた水平線を見下ろし、
その先に私を放り
「つまらなかった」
とだけ呟いて去ってゆき、君は
見知らぬ部屋のなかで作者不詳の一篇の詩に涙する

ちょうど、暖炉のなかでは一つの爆ぜが生まれようとしていて
それが私の再誕であっても君は知らない
いくつもの爆ぜを聞き流して君は雨の心配をする

やがて気づかない雪が積もり、君のあばら家を覆いつくし
私たちは長い結婚式の溜息をともにして
いまも輝いているだろう地平線を境に
想い出せない慈しみを与えたものに想い馳せ
互いを知らないまま「おお、神よ」と跪く
2014-12-10 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

四季なき海の、遠い季節を預ければ

追いきれぬ落日は乾いた海の波が追い
星は砂の間に光を喪い堕ちて
波のまにまに照る月も知らず、波音も知らず

枯木に咲き融ける雪の賑わいに目覚める春は
夏よりも遠く冬の手前で秋となり、見つめる
鏡のなかでだけ踊るカラクリ人形に
おどけた思考は眠り、思想は眠り、
深夜を超えて途絶えぬ足音なら、蒼き猫の影が追い

遠くまで響く鐘の音の死に絶えるところで出遭う、
一つだけに…無にさえなりゆく哀しみを拾い、
すべての要求を退けて陽は沈んだか
昇る中天だけは残されたか、遠吠えを奪われた狼よ

想い出せる限りの記憶の虚無を波に合わせよ
その踊るだけの骨カラクリを足音に合わせよ

隣に眠る電車を起こせよ
朝が来るように街を起こせよ
理解しえぬ海の乾きをこそ、想い起せよ

そして、だれもが起きえぬ朝にだけ
凪ぎる海をどこまでも遠くに沈む夕陽を見つめ
影の長さに怯えながら一人、時計の音を聞き分けて
きっと一粒の砂が歌う
乾いた海の唄を、歌い続ける

星の閉じた瞳の内に届くまで
星の閉じた瞳の奥深く
歌われぬ唄が、届くまで
四季なき海の、遠い季節を預けたままに
2014-12-09 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ごめんね

ポップな関係を愛しながら見送るクリスマス、
街に溶けて消えてゆくはずの後ろ姿は
滲んだまま残り続けて無惨に晒される

灌木のあいだで淀む空気を吸い込みながら
耳障りな音を立てつつ腐りゆく呼吸音と、
腐乱したキスで正しさを求める愛に横目を流し
石を口に含んだ君が氷として受け渡され

空を見ないか、と
だれかが問う世界の終わりの涯に立てば、
その豊饒さのなかで腐乱する二人を包む街を、もう一度、想い出す

すべての会話が成立を拒みながらアスファルトに叩き付けられ
私の想い出す言葉の限りを掬い続ける君の手の平が地平線にまで拡がるだろう

ぼくたちは、ごめんねとだけ言い続ける
2014-12-08 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

曖昧な輪郭を愛しながら、憎みながら

冷たい光を吸いこみながら森は静かな死を考えている

もう、そこに存在することさえ忘れられたとき森は
空に覆われて静かな死を、涯ない哀しみとして
あるいは重心を与えられた無機物として迎えるのだろうかと
生誕の泉を涸らし、なおも涙さえ湛えた小池も忘れして

畔に立つ女の髪は長く、そして永らく、永遠に近く
風に揺られながら問いかけていた

慰安を与える術を拒絶しながら空に屹立してゆくものたち
一滴の涙の重さにさえ耐え切れずに地に伏してゆくものたち
(地鳴りを遠く/近くに、耳鳴りを近く/遠く…)

<教会>こそがすべてである世界の真ん中に立つ樹ならば、きっと
そうは遠くないはずなのだが…だからこその
この<救いのなさ>が心地良い風を吹かせている

風は心地良く吹いてゆく
近くから遠のいてゆく鐘の音のよう
(女を抱きながら、抱き寄せながら)

冷たい光を吐き出すとき、そこに森はなく
ただ一人の女の髪がなびいた記憶が吹きぬける
切り取られては捨てられるだけの季節の幾片かが
戻るべき空を喪ったまま、彷徨う先を求めるだろう

森に捧げられる思案が森を死滅させたのは、
死滅した森こそが静かな死を考え続けていたからだった
冷たい光を、吸いこんだからだった
2014-12-07 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

捉えられた君の始まり

いつも鏡によって開かれるのは、ついに無限のゼロの、
だれのものでもない光の狂乱だが、同時にまた
所有者を持たない無限個の世界が、そこにはある。

君の歩みを嗤う力だけを保ちながら、
ようやく歩いているように見える樹影さえそうなのだが
果たして愛に想いを馳せて語ろうとする君よ、
(ある一つの嘆きの残照として、あるいは光るだろうか)

遠さについて語るまいとしても語らねばならないだろうか、
鏡において開かれる無限のゼロと、
さらに以って押し広げられる無限の負の領域を

ある種の透明さだけが持ち得る不透明さを見出す
負の涯へと誘う怪しく歪んだ歌の光は
力なく起き上ったベッドからの視野を覆い尽くすだろうし、
窓の外から押し寄せる樹皮のおぞましさは
多くの安堵を与えるだろうが

それでも最後の一瞬、君は鏡を覗き込んでしまうのだろう。

多くの身支度を手早く済ませ、
置きざりにすべきもの、持ち出すもの、忘れたもの、
それらすべての分別を聡明な手際でこなしながらも、その後、
ただ一瞬によって君は、鏡を覗いてしまうのだ。

君の今日をまた、
失敗した、その一瞬からだけ始めるように。
そして実際、その一瞬からしか始まらないように。
2014-12-06 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

精一杯のエールを君に

もしも、ぼくの声が聴きたくなった人がいたならば、世界で一番、冷たい石を探せば良いだけのこと。なにも難しいことじゃなく、冬になればそこらに転がっている、ひとつだけの石を拾えば良いだけのこと(ただし、ふたつ以上じゃだめだけれど)。

その石をそよと吹く風にさらせばきっと、乾いた世界の音がする。それはカラリとした哀しみに似た音色かもしれない。でも本当は、そんなものじゃなくて、ただ一面の白い雪原を夢見て惨めに黒いアスファルトに転がっているだけの石ころさ。
そして苦みばしったダミ声で、ぼくの声を探した人に言うだろう、「なにを聴きたいのだか知らないが、ぼくは眠くて仕方ないだけなんだ、そっと、そっとしておいてくれ…」と。

実際、冷たい夜空に、いっそう冷たく光っているだけの、誰も振り返らない、誰にも見つけられない星のひとつとして、ぼくの精一杯の輝きを、地上に届く前に消えてしまう輝きを放ち、その光の中で死んだように眠り、眠っているように死に、それで十分なのさ。
すべてが酷い疲労にしか変わりえない地上には、ぼくは、もう微かにすら触れられない。
こんなにも哀しみだけが満ちてゆくばかりの空を見上げる地上には、ぼくの居場所など一切ない。

それでもきっと這いずり回らなくちゃならないとしたら、なんという喜劇なんだろう。ぼくは、もうぼくを離れて笑い転げよう、まったき神という存在がそうであるように。自愛に満ちた君の瞳のなかで最期を揺れる、一枚の枯葉がサラサラと舞い落ちるように。

こんなぼくにも夢がなかったわけじゃない。それはもう、壮大な夢だって抱いていたことがあるさ。今はもう、どこに置き忘れたかも忘れてしまった夢を、きっと抱いていたことがあるに違いないのさ。頬を赤らめて秘密にしていた夢だって、きっと抱いていたに違いない、人並みに、ひとなみに、ね。その無意味さに名前を与えられる前までは、だけれど。

遠く北の島が押し寄せる流氷に覆われて誰も何も出ることが出来ない。知っているだろう?そこからは光さえ出ることが出来ない暗黒があることを。ぼくはひとつの嘘を君についたことになるのかもしれない。
君が聴いたとして、その声は、そのときの声じゃないんだよ、気付いたろう?
もう、すっかり忘れてしまった頃だろう、今ならば、そんな遠い過去の声、いわば残りかすだ。しかし、それは精一杯のぼくの君へのメッセージだ。
君の輝ける未来への、せめてもの、精一杯のエールに違いないものなのだ。
2014-12-05 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

自由なる哀しみのなかで閉じる場所が探される

満員電車が発車し、終電も見送られたので、
もうホームを訪れるものはなく、しかし、なにかが
別のなにかがホームのベンチで待ち続けられただろう

冷たいバスの発射音が冬の風にように、
さほど早くもない朝を通り抜けて行くのが想い出されると
哀しみのなかを通り過ぎる幾羽かの鳥は
決して群れをなさずに想い想いに飛ぶのだった

一色の雲で覆われた空、
それはサーチライトを持たない夜の空に似て
きっと、そのままでは保たれることがない
冬と呼びたい冬以外の季節にさえ
見事に孤独が演じられただろうか
冬の孤独、すべてを死に追いやる冬の孤独を

ホームのベンチ下で負傷した一匹の猫がうずくまっている
倒れた缶コーヒーの甘味を一つの助けとして
越えようがない冬の寒さのなかで
猫の瞳は静かに閉じる時間を待ちながら
閉じる場所を永遠に持てない不安に溢れている

君の閉じた瞳を見やりながら私は
扉を少し開けたまま、そっと君を置き去りにする
満員電車を求めて、せめて一両の電車を求めて

冬か、冬でない季節かのなかに置かれたベンチからなら
きっと一人になれない場所ばかりが与えられ
君の閉じた瞳を想い出しては途方にくれる

冬以上に冬である冬以外の季節のなかで
あの一匹の猫のように、しかし、
どこも負傷していないなんて
どれだけの寒さを迎えなければならないのか、
いつまで経っても、わからないままだ
2014-12-04 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

曖昧な孤高

目を見開いたまま瞳を閉じると、
ぼんやりと見えてくる黄色く、紅く、
切り取られたのは燃える岩肌だった。

矩形に突きだす様まで辿り着くと、
岩の輪郭が空の空虚な青さを際立たせてゆく。
しかし支える大地の不在と、どこまでも圧倒的な不毛、
振り払えない無人の荒野には、いつ、
雨が降ったことがあるのだろうか(そもそも?)。

ふと乾いた薄い白雲が横切る空を追い掛けて、
しかし、夕暮は遠過ぎる。
既にして明るい朝と昼、夜と並んで砂丘の頂上、
そこで夕暮を問い待ち続ける。

-砂丘は大地にはならないのかぁ?
-砂丘って大地ではないの?
-砂丘は大地の拒否だった!

問うものと問われるものが交互に入れ替わりながら、
少しでも確かさを手に入れようとしているのだ。
一人だけ訪れない夕暮を待ちながら。

曖昧さだけを彷徨う夕暮を待ちながら、
灼熱の冷気で尻から凍ってゆけば、
やがて静かに口も動けなくなり、
星座の語らいの向こうで微かな夕暮が流れ星のように、
すっと通り過ぎても気づかない。

黄色く、赤く、岩肌は切り取られたままで沈黙を保ち、
そこに夕暮が潜り込んでも気づかない。
最後にカサコソ、とサソリが後を追えば、
夕暮に気づかないだれしもすらが、いなくなる。
2014-12-03 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

君であるから

たった一人の君とさえ逢うためならば
星のように無限に拡がる
哀しい季節の数々を超えなくてはならず
通り抜けてゆかねばならず
途上で遭う人々を置いてゆかねばならず

それでも君と逢うためならと
萎える足の鈍さを呪い
眩しく照らす美しい陽の光を呪い

ただ君の面影を
もう喪いつつ

そこが坂ででもあったのなら
それで報われ斃れられたかもしれないのに
悔しいことに下りも上りもない真っ平らな道の上
十字路のまん真ん中で

それでも君は
たった一人
たった一人の君であり

木枯しさえ吹く影となっても一人
君を求めて膝に手をつきながら
行く方なき行方を見定めている
2014-12-02 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
ホーム  次のページ »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補