影ふみ

踏む足を待たずに折れてゆく影のなか
こぼれる季節の乾いた記憶だけで
川面を知らない枯木のように眠り
吹く風を持たない雨のようになら眠らない
一羽では帰ることもできない白い鳥が
帰ることを忘れる暗闇になら二羽で還る
ただ凍えるだけならば愛に近いと告げられ
ひたすらに響き渡る詠唱を破り
光を記さぬ詩碑だけを愛して闇を抱く夢
ひとりでしかあれぬものらが鉱石の
冷たい哀しみに触れるように
どこまでも淡くなる死を求め始める
すべて歩いた足なら切り捨てて
足音のなかに沈んでゆく足あとのように
凪いでゆく波に海が消えてゆくように
ふり返りを折れてゆく風のなか
影だけは踏まない足を待ち続けている
2015-01-31 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

疲れたの大行進

もう疲れたよ、疲れたんだよ

と、いくら書いても記されることがない。
ノートは冷たく光ることしか知らない、
鉛筆はとがることしか知らない、
あれらの人たちは難しいことしか知らない。

だから壁に向かう、私たちは。
私たちは壁に向かって行進する。
壁を越えて更なる壁に、
壁にぶつかりながらも更なる壁に、
そうしていつも壁に向かって行進してる。

行進しながらも言い続けているのは、
疲れた、
その一言だけなのに、だれも聞いてくれやしない。
隣の行進者も自分の行進で精一杯だ、
そういえば私も聞いたことがない。

だれにも聞かれたことがない疲れたが、
あまりにも溢れて海が凪いでいる、
雨はやんでいる、風もやんでいる…

今日も続く疲れたの行進には、
海も山も川もない、雨も雪も風もない、
行進する人の顔もない。
2015-01-30 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

老婆の手は握られる

終らないページをめくろうとして次の駅を目指しているが、
前の駅を通りすぎてしまってからでは到着できない
「だから」と言ったのにというような無言を投げかけてくる男の顔は
幾枚もの新聞紙のなかに埋もれている
だれもがしわくちゃに丸められた新聞紙のなかに顔をうずめ
そうして過ぎる駅、過ぎない駅、過ぎようとする駅を見ないのだ
車窓を眺めているのは呆けたアホウばかりだった
山の頂きはどれも変わることがないし
降り、そして止みながら窓を叩く雨さえ変わることがない
雪さえ降ったろうが窓の決まった筋通りにとけ消えるし
北国も南国も同じだったし、あのスコールだって同じにしか過ぎれなかった
駅員は腰を痛めたまま切符を確認し続けていたし
切符を持っていない連中が隠れる場所も変わりはしないし
切符を持っている連中の無表情がくずれるわけでもない
<男とページの間隔は…>
そう書かれた一枚きりのノートを開いたまま
レールの継ぎ目の絶え間ない繰り返しに涙する一人の老婆が
手を握りしめていた、固く、二度と解かれまいと見えるほどに
それは固く、握りしめていた
2015-01-29 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

衰弱するすべてと

衰弱してゆくものらが語る遠路を想い出しながら、
ただ揺れる、反復する、みの虫のやどり木は世界に朽ちて
この錆びたガード・レールを涯にしていたか
そよとした風すら吹かずに丘の上は鮮やかな緑の波
あの異国の少女の止まったままの瞳のような空の蒼のたなびき
空を切り裂くぶんだけ育ちゆくような真白の雲、雲…
そして雲形定規で描かれた疑似螺旋の無数の途絶
美しい湧泉を想い出す小川の畔ならば語られる恋もあるのか、
いくつもの男女の異形をかたどる影はさ迷い歩く
さてもと苦笑いしながら衰えた筋肉を撫で、
その痛みを生きた証として血にこすれば
数歩で深奥まで達してしまう神の憩い場を横目で過ごし
むしろ息絶え絶えの消炭だけの暖炉を目指す
扉を開ければ出がけのメモ一枚がほろりと机から零れ
それすら拾う力を惜しんで座る椅子の冷たさ固さ
遥かな昔からスリ硝子のように外を通さない窓は
もう寒気が忍び込むだけの用しか果たしてはいない
煙草はないか、火はないか、コーヒーはないか
もっと萎びた自涜はないのか
せっかく暖めたナイフの刃ならば
心地良く裂けるほど美しい肌じゃなけりゃあいけないね
だまって揺れるクモは餌もなく数年を干乾びている
あのみののなかで、はたしてみの虫は生きていたのか
そいつについては確かめもしなかったし
考えてみれば確かめることすら忘れていたんだ
2015-01-28 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

廃船の傍ら

遠くへ打ち捨てられた廃船を想い出すように、
ひとつだけに統一された過去、記憶が蘇ると
それはむごたらしい拷問に似て苦しみに満ちている

かなしくわびしい景色を、気持ちを想像していたのに
あまりにも苦しくて息が止まり
やがてはいくつかのイメージさえもがぼやけ、
あの、終わりがどこなのか分からない、
雲の終焉ふきんのような曖昧さのなかに私は漂着する

既に生きてはいない私として
重いだけの砂を身にまといながら立つことも出来ず
冷たい波がいくたびも嘲笑のように打ち寄せ
こんなことならば、と想いながら、しかし
漂ってきた元を想い出せず、私はあまりに一人だった

廃船から響いてくる汽笛は霧のようで、ただ深く
眠りのなかにだけ沁み込むように
私の死のなかの隙間に埋め込まれてゆき
凝固した血液の赤黒さを帯びてゆく

想い出されたひとつの過去だけならば、
生きているかのように停止し
少しは光を帯びて私の上を舞っているかもしれない
雲の隙間から立つ微かな光柱を期待してはならないが
私の黒々と死に絶えたままの瞳にも少しは
映り映える光が必要だろうと
あまりにも遠い乾きがつぶやいていたようだった
2015-01-27 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

枯枝の呼び方に独り

枯枝の呼び方が忘れられてしまっていること
そのことが気にかかったままの逍遥は迷路だった
出遭うはずのものが出遭うことを忘れ、
あるいは拒否し合い、拒絶し合い
まるで、その、枯枝を見るようだった
しかし、だれも、やはり想い出せないまま
人々は出遭うことなく、また拒否し合い、拒絶し合い
要するに互いを互いとして認め合うことなく
ただ呼び方を忘れた枯枝を見つめる
その一点だけで繋がろうとし始める
そう、そんな夢を見るようにして私は
ひとつの丘を遠くまで下りながら
ある意味では海岸と呼べるだろうところに出て
手に触れられる前には必ず死んでしまう貝を見つける
なにも話しはしないけれど、なにも働きかけてもこないけれど
ただ、その沈黙ですべてを拒絶する貝に出遭う
貝に訊きたかったのは枯枝の呼び方だけだったが
そんなことはどうでも良いとばかりに
貝を覆い始めた波を月が昇り
私は独りであることに気づいたのだった
2015-01-26 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬の歩みに似て

今ならば私は一歩一歩と歩むこと
その重さと軽さをともに
冗漫にさえ語ることが出来るだろう
感情の、あるいは情感のと呼んでもよいが
その無意味さとともに
地平線の遠さ近さのように
ついに私は私との間しか歩めない
そこには冬の
あの一片の雪の重さがあり
あの一片の雪の軽さがあって
コーヒーに洗われた歯が
白くあるいは茶けて
青い空も灰色の空も見つめるだろう
それを現実とすることも
幻想だとすることも意味のない
色のない空を見つめているだろう
今ならばコーヒーに洗われた歯が
ただひとつボンヤリと
ただの空を見つめているだろう
きみの知り得ない空と
ついに私がきみに渡し得ない空と
いくつかの空を巡りながら
ひとつの歯が朝のコーヒーに洗われる
重さと軽さが等価を示す
現実と幻想の重なって降る
あの冬の一片の雪として
今ならば私は一歩一歩を
すべて忘れてしまえるだろう
2015-01-25 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冬の少年の冬

その石が見えるのかと冬の梢が問うだろう朝には眩しい一輪の花が必要だった。
ブロック塀だけが作る道を人工的に歩いてゆく人波には影がない。営々と続く先を知る必要があるにしても影がない。幼い斧をかかげたカマキリを掌に乗せて動かない少年のように影がない。
いくつかの廃駅を経由したら星屑にもなるような砂を拾い集めれば笑うだろう少年も今は冷たい。
まるで季節から零れ落ちたかのように小さく静かな池を巡って枯葉が舞うように蝶を追うと失われる水平線を横切る冷気みたいだと彼は呟くだろう。そのとき一人の女性が彼に寄りそいながら昼の空に星を数えるのは確かなこととして知られているだろう。
異国かと想える壮麗な堂内を隈なく覆う視線には数がない。きっと無数を数とは呼ばないのならばなどと書きかけて無数ですらないことに気づくかのように数がない。
その視線が少年の肢体を愛でながら堂内に運び込むのを拒絶する。その石が見えるのかと冬の梢が問うだろう朝には拒絶しなくてはならなかった。眩しい一輪の花も影もなくとも拒絶はあるのだと示さなくてはならなかった。ブロック塀に寄りかかりながら呟く彼と一人の女性のためにも拒絶は示されなくてはならなかった。
そして複数の狂気を輪舞のように繋げながらでも示される拒絶の前で冬の梢は問うことを諦めるだろう。それでも眩しい一輪の花が必要だったが。その頃には少年のことを覚えてはいない。だれも彼もが人工的に歩いてゆくばかりで知らない先を目指している。少年は一人だけ覚えられることなく遊びすら知らないままに残される。
2015-01-24 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

王の与え

つまるところ<私>はひとつの絶望を知る
<私>の悦びになり得ることが与えることだけであること
ただ与え、与えられ悦ぶ者の快楽のおこぼれを享受するだけであること
(今は与えが快楽を生まない絶望については考えずにいよう)
その果てにあるのが、ただ一人きりの王であり
ただ一人の<私>が君臨するだけであることを

始まりは与えられることを悦ぶだけの乳飲子、
乳飲子が母の乳首を吸う唇であって、
ただ乳を飲むことだけで生きることを許され、
すべてを祝福されて、それを悦び、快楽としてしまったこと

あまりにも単純な、生の支配公式

すべての<私>が逃れ得ぬ支配の原記憶
<私>が在るための呪縛であり軛こそが
<私>を<私>ならしめ、ならしめた、ならしめている、
唯一のものであったということの喜劇的悲劇…

悲劇的人間劇場よ!
これは決して倫理などですらないのだ!!

乳飲子に乳を与えること、
それこそが悲劇の受け渡しであった

そんなにも簡単なことが
<私>の絶望のすべてであるとは、
そのとき<私>は、拒絶すら知らなかったというのに
拒絶も知らずに重荷を、永遠の重荷を背負い
どれだけの荒野が、無限の荒野が

すべてが<私>を支配し続けるだけだなんて!!
2015-01-23 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

沈黙からすら、と私は

林立する沈黙のなかを静かに歩いていたい。
だれとも、なにともすれ違うことなく、
そのとき私は独り、私と出遭うことがあるかもしれない。
踏む足元には累々たるデス・マスクが想い浮かぶ。
彼らの歴史もともに死んだまま地平を水平を形づくっているが、
それはけっして遠くはない、手を伸ばせば触れられるていどだ。
空はどうだろう?
私は、やはりあまりにも寒く、襟元も頼りなく
顔を上げることすら出来ないようだ。
圧しかかる低い雲が薄い虹色を見られないように
風より早く飛び去ってゆく、途切れなく。

生は役目を終えたのだ、あらゆる生は、同時に死も。
生も死もなく、しかし、そこには力がある。
あの、言いがたさの向こう、惑星の呪縛のような、
この青い地球のものではない、
それは、もはや存在の無さが産もうとする嘆きに似て、
死を熱望する生の蠢く衝動に似て、
あまりに冷酷で無邪気な赤子の泣き声、
しかし聴こえない、決して聴こえない泣き声。

ああ、そして私は、ついに私とさえ出遭いたくはない。
沈黙は沈黙の木を離れ
枯葉のようにすべてを覆い隠しながら積もってゆく
私は沈黙をかき分けて、そのなかに潜るだろう。
その沈黙のひとつとしてデス・マスクとは違うやり方で
あらゆる鮮やかさを内包して、しかし、
それらのすべてを絶対的に隠しながら
風より早く通り過ぎる雲だけで構成される
高さを奪われた雲、
私の瞳にだけ似た雲を見つめながら、
ついに私は安堵する。
永遠の私を永遠に一瞬間だけ繰り返し続け
なにひとつ変わることなく営々と流れる雲を見つめ
ついに私は安堵する、その予感を持つ。

限りない無為よ、虚無よ
私は、ここにいるではないか。
あの地平も水平も息絶えた、ここに。
デス・マスクたちにさえ触れさせない、
この厚い沈黙の深いなかから
強い眠気を漂わせて
眠気を漂わせる雲の流れを見つめ
ここにいる私を絶対的に訪れよ、
忘却の遥か以前を絶対として訪れよ。
沈黙を、すべての沈黙を完全なものにするために。
私は、もう、沈黙すら知りたくはない。
2015-01-22 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

永遠と寒冷

寒さ冷たさばかりでどうにもならん

どんなに明るくてもダメなのだな
寒くて冷たくて、だれの気配もせんままで
どうにもならん、
まるでなにも見えんかのようだ

目に入ることは、視野にあることは
見えてることにはならんのだな

聞くことも触れることもなにもかもが
ただ、それだけでは、
どうにもならんかったのだな

しかし寒い寒い、いつまでも寒い
そして冷たい、
冷たいのだよ、どこまでもが

これではまるで永遠の、向こう端にいるようだ
2015-01-21 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そらは青空

いつ頃からのことなのだろうか、つい先日まで
「空」 だったものが
少なくとも今は
「そら 」である
しかし
「 あおぞら 」ではなく
それは
「 青空 」であるし
どちらでもあるのが
「 夜空 」と
「 よぞら 」だったりする

古い人で漢字ですべて書いている人がいて
古事記などは私には読みようがないような漢字ばかりだし
しかし平仮名だけで書いてある和歌も多いし

わたしたち日本人は漢字とひらがな、カタカナ、英語/アルファベット…
じつに様々な文字を、あまりにも絵のように使うのだな
そういえば日本という国の名前がハッキリと出来たと確認出来るのは
浄御原令という西暦七百年頃の法律だと書いている学者様がいた

最も古い国名だという話も聞いたことがある
そのときに消えた国もあるし、そのあとに消えた国もある
線引きはいたる所にあって、しかし見えないものだ

漢字 かんじ カンジ KANJI

少し不思議で
くすぐったいようなユカイさと
笑い泣きしてしまいそうな
かなしさを感じる

今日、そら は 青空 だった
2015-01-20 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

星座の、ダイアローグ

その予感は止まることのない時計の下敷きであり
それでも動きのない身動きを試みている
きっと炎天下にあろうとも汗の一滴も流さずに、その予感は
灼熱にも熔けることがない

沈黙のモノクロ写真に重ねられ続けるモノローグ(独白)
林立するビル群は、その高さを喪い
早足で歩き、あるいは駆けぬける人びとは速さを喪った
時の狭間にはなにもない海を想いうかべる哀愁を捧げる

しかし哀歓を嫌って季節は巡りを捨てるだろう、いつか
夕暮、夕暮、朝焼けと区別のつかない夕暮よ-
暁、暁、夕暮と区別のつかない暁よ-
橋の上に立てばきみたちの違いは方向だけだったが
橋の下には川が流れていないのだ

失うことができないすべてが連れてくる、二人のきみ
そこから始まるだろう過去と未来
失うことが出来るのは今、ここだけだったし
失われてきたのも今、ここだけだった
(そして失ってゆく今、ここ、それらの連なり)

予感を想い出している、あの予感を
遠くまで一色だけで塗りつぶされた海さえ懐かしんだ
きみがベンチに座り、そして立ち上がるときに残した音
きみが座るときに見上げた星座、そして立ち上がるときに見上げた星座
だれにも知らせることなく、きみが認めた星座は
あの予感に似て空を動くことがないかのようだった
2015-01-19 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一粒だけ降る雨と、ただ独りの支配者と

ずぶ濡れになって一粒だけ降る雨を探している
体温に等しく降る雨を一粒だけ
触れる前に消えてしまう雨を
降る前に降り終ってしまう雨だ、雨

海岸に林立する風のように、そこにある遠くを滞留し続け
回遊さえ許されずに凍てつく流れ、そのもの
知られることを望みながら、すべて、さらけ出されながら、しかし
常に回避させられてしまう視線を知ることもなく
木々の梢さえ渡りかねている小さな鳥よ

街は降る雨に鮮やかさを奪われている
雨のなかを震えて歩く人々がいる
雨から逃れて、それでも震え、うずくまるだけの人々がいる
みな、一粒だけ降る雨を探しているのに、きっと
それを知ることはない

海岸を、砂浜を転がる壊れた傘には
はらむべき風があるだろうか
それとも蹴飛ばす子供の無邪気があるだろうか
冷たい、冷たい季節を壊れて傘は、転がる

忘れている、想い出せない、許されてはいない
閉じることからさえ遠く隔てられた瞳は乾き、飢えている
ずぶ濡れになってさえ一粒だけ降る雨を探しながら

砂浜にある遠くをはためき転がる傘
その持主は、傘のことを知らないだろう

今、持主の知らない傘は海岸を占拠する支配者である
そのように支配されるべきものを持たない傘は、
ただ独りきりの支配者なのであった
一粒だけ降る雨を遠くに持つ、支配者なのであった
2015-01-18 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

薄く、薄く、そして雨煙の向こうに薄く

インスタントのコーヒーを作る

とは言っても、あの粉を
パラパラ…
とカップに入れて湯を注ぐだけだ

この粉の入った「お湯」を煮詰めたら、また粉に
インスタント・コーヒーに戻るのだろうか?
そんなことを考えながら、しかし
薄目のコーヒーを飲んでいたはずだった

薄く、薄く、うんと薄く

粉を減らしてゆけば、どこまでも薄味のコーヒーが出来るだろう
最後には水の味がするコーヒーすら出来るかもしれないな、などと
なんとも愉快な想像すら広がり始めたのを覚えている

強い雨足のなかでは小さな傘がゆれ、
安全シートというのだろうか?
仄昏いなかでも目立つシートを被せたランドセル

ランドセルを抱いたように柔らかに揺れる傘、
傘にすら波紋を広げる強い雨、
それらを横目に忘れながら車窓は切り替わってゆく

何か出来ることはないかい?
だれにともなく呟いても返事は求めていない
そんなか弱い、あるいはやさしい気持ちも
煙る雨なら消し去ってくれる

薄く、薄く、もっと薄く

薄味のコーヒーを舌が想い出し
これという理由もなく少し涙ぐみ

ガラス窓の向こう、今は知らぬそこで
静かに激しく降る雨を
忘れたようなコーヒーと見送っている

薄く、薄く、うんと薄く
薄く、薄く、もっと薄く

そうだった、薄く、薄く
だれにも気づかれないほどに薄く、まだ薄く…
2015-01-17 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

どこかの囁き

見開きが本当である海を出てしまって今
私が七秒進んで七秒後退します
穏やかな波だろうと、荒くれる波だろうと

閉じられてしまう前の海を出てしまって今
七秒進んで虹に手を掛け
七秒後退して重力を手にして
(想い出す一冊の本は閉じられる)
哀しみは波の彼方に
虚しさは水平線の月に
砂浜に体育座りして光るあなたを残し

遠くで枯れた枝を覚えていますか
この海の向こう、太陽の沈む場所
そこで枯れた一本の枝と一葉の枯葉と
無数の枝や無数の葉っぱや
花摘む少女の冷たい涙、老婆の月

あなたは微笑んで一台の機械の側に立つ
見開きが本当であるなら、海から私は見るでしょう
本当は見開きの向こうなら、海からあなたが見るでしょう
無秩序を目指して交差する無数の交差点と
無音で走ろうとする無数の車両、電車、見たことのない乗物たち

海音が遠ざかりながら私たちを置いてゆけば
ただ七秒が進み、ただ七秒が後退します
見開きが本当である海を出てしまう時間のなかで
だれもいません、だれもいませんね、と囁きます
2015-01-16 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海であり、そして海ならず

滞留、滞留…
滞留する海流にさえ流れる空虚さが
虹の端をつかんでは消える
そこは街の外、人外の住まうところ
空ろなことばだけが囁きとして交わされ
深い森のなかに沈んでゆくところ

滞留、滞留…
滞留する伏流水の湧水にさえ飲み込まれ
知る限りの足音が響きわたりさえすれば
想い出される風のひと吹きも殺された
知ってはならない、知ることを許さない
永遠の暁に留まり夜に沈もうとするところ

滞留、滞留…
滞留する欲望を蛇に譬えるならば
蛇たちは怒りを鎮めて絡みゆく欲情さえ
乾いた抜殻のように脱皮を残し
交わる人、交わらない人、すべての人に毒を渡す
世界の果てまで毒が満ちようとするところ
私が世界と交わり続ける唯一のところ
2015-01-15 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それを、ひとつの距離と呼んだ

きみを降りつづける雪のひとひらも
私に降りかかることはない
たとえば暖炉が燃えていて、きみを暖めても、私は寒いままだ

冬の海峡を見たことがあったには違いないが
となりを見てもだれひとり、いなかったと想い出す
共有されないままの季節が今も過ぎている

折れ曲がる道の端に佇んでいた花を覚えている
きみが覚えていない、小さな花を
きみの足音を聞いた花を覚えていない
きみが覚えている、小さな花を

ひとつの虚構を見失ったままで私は、それでも
無数の屈折に散ったきみのひとかけらを見るのかもしれない
きみではない、きみを

帰り道を確かな足取りで歩んでいっただろう、
きみの背中を想い出そうとしているが
はっきりと想い出せる背中は私の背中だけだった

きみが去った、そのときに私は
きみより早く立ち去っただろうに
私は私の背中だけを想い出す

きみが去る、はるかな手前の私は
深く深く冬の眠りのなかで
ひとりきりの冷たい冬の夢を知るだろう

きみと分かち合うことを許されない
たったひとりきりの冬の深さを
きみは決して憐れんではならないし
私は決して、憐れみを与えられてはならなかった
2015-01-14 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

わたしを なぞりなさい、とキミが言う

半開きのまま
閉じもせず開きもせず
閉じられもせず開かれもせず

くちびるは
少し遠くの蒼い空に触れ
だれのものにも、ならない

虹の距離で拡がる愛を
セカイは知ることがない
虹の距離で拡がる憎悪を
セカイは知ることがない

重力という名のもとに
セカイは沈黙を保ち続け
だれのものにも、ならない

木立が
風もなくゆれる
すきまを走り抜ける子供のリズムで
星のまたたくリズムに合わせて
くちびるとセカイのまんなかで

一本の木立が
風もなくゆれている
すきまを走り抜ける子供のリズムで
星のまたたくリズムに合わせて
すべてのものでもあるように

一本の木立が
風もなくゆれている
くちびるから果てしなく遠く
セカイから果てしなく遠く

木立は
風もなくゆれている
2015-01-13 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨、雨に住まう

遠くまでけぶるように季節が降り
立ち去ることを許されない一つの虚像を
それでも泣きながら追いすがり
指先の一つすら遥かに届かない枯葉よ

喪われた、引き継がれた命の希望を
信じることなく、風に舞うことなく
もう一度、枯枝にさえ揺れようとする、枯葉よ

雨に住まう木は枯れ続けている
深き谷の底、高く若き木々に囲まれ
今も伸び続ける蔦と根とに
命の潤いを奪われ続けている

遠い、遠いと同じ季節を追いかけながら
あの枯葉を一顧だにすることなく
しかし同じ季節は違う季節、
あの日の季節と、来たるだろう季節
過去と未来に引き裂かれた
それは同じ、違う季節

同じで違う季節が遠くまでけぶるように交じり合い
沈黙のなかに、重力の沈黙のなかに
立つ枯木、散った枯葉、見つめる視線
ただ一つ、視線だけが季節を逃れ、谷を逃れ
季節の外を吹雪くばかりの山頂を見上げ
しずかに永遠の闇のなかに消えてゆく
2015-01-12 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

よろめき、よろめいても

よろめくのは多分、良心と呼ばれるやつだ

何十年にもわたって
こんなにも私を縛りつけるために
費やしたのは数年…いや、数か月か?

(その種を養い育てたのはだれなのか-
 どれだけの労力と時間をかけたのか-
 どちらにしても気がふれた野郎だ!)

そんなことにさえ今さら嘆く無力な私も、どうしようもない
いつ気づいたのだ、いつから知らぬ顔をしていたのだ
その呆けた阿呆面を、どれだけ晒してきたのだ

この際、他の人間のことはどうでも良い
これは私の、もう私以外のだれにも向けられない
私だけの良心なのだから

よろめき、美しい川べりからさえ水面に沈む
訪れる夕闇に抗う術もなく染まる
酔うた人のようによろめいているのは多分、
良心と呼ばれる

私の恥部だ
2015-01-11 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ある夜の紙片をポケットに

奪われるものだけが与えられるに値する-

ポケットのなかには、そう書かれた紙片が入っていて
夜が、影の奪ってゆく光のなかにだけ立っていた
口当たりの良い温度にコーヒーが冷めるまで

煙草を吸う時間は、いつも正確だったので私たちは
別々に煙草に火を点け沈黙を探していた

その名札さえ取ってしまえば…
と想いながら彼の話に耳を傾け
「飲みすぎないでね」
と言われたコーヒーを飲み終える頃には、もう
煙草は吸い終わっていた

<契約>という冷たい文字を目にして
懐かしみ、そして哀しんだ
あげ放っしの便座は冷たそうで座る気にもならず
放尿しながらどうしたものかと考えてもいたようだ

もう一度は考える気にもならない
奪われるものだけが与えられるに値する-
そう呟いて、時間を失ったままの夜を憾んだ
もう朝になる時間で、朝が近すぎた
それだけで、十分すぎた
2015-01-10 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

反響しない声にすら虹が掛かる

この日向から海岸へと続く、途上の椅子に家が住んでいる
それですべてだと言いたかったが、
すべてではない気分だけがきみを追っている、
留まったままの枯枝に宿る私の残骸

骨すら喪い、もはや遺骸としての意味さえ喪い住む残骸
それならばすべてだと言いたかったが、
それでもなお、不足するのか、きみへの想いは
そうして引き出されてゆくのか、私の哀しみは

出自を知らぬ孤児のように揺蕩うことしか知らぬというのに
こんなにも明らかな、こんなにも見失いようのない明らかさのさなか
もう一度、この日向から海岸へと続く、途上
椅子を置いたのが間違いなのかと問いながら
放浪する家に安住の訪れない虹が掛かる

-雨が

そうだ、雨から始まったのだね、きっと

-降っていたのだね

ああ、遠のいてゆく
きみの静かすぎる反響しない声が、
遠のいてゆく記憶のように その声が遠のいてゆく

まるで記憶のように遠のいてゆく、きみの声
失われた嬰児となり私は、声を喪う
とうに喪った声を喪う…

それならば少しは言い得たと想えるかもしれない
影すら持たぬ残骸として
出自を奪われた孤児として
あの日向から海岸へと続く、途上の椅子に住む家の
ただ一人の住民として

すべての少しのカケラを拾い
私はすべてを[問・う]君の声に
懐かしさを忘れずに遠のいてゆく君の声に

-雨が…
 降っていたら良かったのかも知れない
 確かに、それは確かに、確かなことだ

2015-01-09 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

仮定する。風が吹くと

風が吹くとブランコが揺れたので
ブランコが揺れると仮象の風が吹いたが
きみが乗ったときの音をまだ乗せて
ブランコは風とは無関係だ

寒さを乗せて北国からトラックがやってくる
名のある山、名のない山、そして山、山、山
同じように川が、田畑が、自然の造形たち
さらに家々が、様々な建物さえ

そのとき人はどこにいるのだろうか?
私が知っているきみはどこにいるのだろうか?
きみが知っている私はどこにいるのだろうか?

いくつもの問いを存在の上に被せて
しかしすべてを無視して私たちは
寒さを乗せて北国からやってくるトラックを見る
北国からやってきたと知る術もなく

公園から見える限りのトラックの
数々を見送りながらブランコなのだと
一瞬だけの風に仮定する。
2015-01-08 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

田舎町

寂しい田舎町には人影は薄く
季節だけが濃厚に訪れる

立ち止まる風に揺られ登る坂を夕陽に晒し
ただ一艘の小舟が川を下ってゆくのを眺めている橋

光源の定まらぬまま光る山際
同じで同じでなく並ぶ屋根
通るもののいない道々

ほかにも濃厚な季節が抱く無数のものがあり
季節から弾かれた人々がいて
寂しい田舎町は人影薄く季節だけが訪れる

そういえば都会の真ん中には

 ポツン 

と寂しい田舎町だけがある
2015-01-07 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

寂しい迷宮

逆光を光る街の流れに風が吹き込むと
一羽の黒々とした鳥を見送った日がよみがえり
連結すべき日を探してさまよう、
街角と街頭との違いが分からない

ひどく遠くまで見送る瞳だけを想い出しながら
夕暮までの永遠を過ごす降雪、
正しい歩行が寂しい迷宮を直線に変えると
もう、私たちは出遭えない

睡魔がひしめく坂道を前に、その先に
一瞬の眠りに就く愛でもあれば、私たちは
どんなに眠りながらでも抱き合っただろう

細い枯枝に舞い戻る黒々とした、それは羽根
飛ぶことを忘れて空を舞うだけの、
一羽分には到底、足りない、それは羽根

逆光のなかを眠る白夜の祈りは白く
冷たい雪となり、冷たい氷のきみに降る
幾千億の歳月に忍び込めば、それは羽根
黒々と逆光を降り直線だけを示す
ただ、ひたすらに真白い、それは羽根
2015-01-06 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

街だけが待っている

無人の夜を探しながら眠らぬ川に沿って
歩き続ければきっと海に出るから鳥は
歩くより飛ぶのだろう

美しい星灯りを手のひらに零し
去ってゆく夜の後姿を紅く染めて
忘れられた夕陽がどこかで降っている
風なき雨より静かに、むしろ雪より静かに

そんな夕陽なら私はいらない
私の欲しいのは朝焼けだから

夜の背中を追いかけることなく
ただ青空を見たいがために燃える
そんな朝焼けだから

疎林を抜ければ必ず
二、三の疲れが待っている
疲弊した建屋のきしむ音
忘れられたレールが錆びる音-
そんな音なら聴こえないのに
私を酷く疲れさせる、疎林の先

海が恋しい、激しいひと時を散る
無数の波だけがすべての海が
それでも街が待っている
夜明けを過ぎていまだし夜の
それでも街が待っている
2015-01-05 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

微かな湖畔、ようやく二つの坂道となり、坂は雨

浅く表土を雨が通りすぎ、眠るあなたなら雨は届かない
記憶から記憶へと渡り続ける駅舎の陽光は虹へと消え
開封し忘れた手紙をだきながら横たわる少女に手渡される微かな湖畔

坂を越えてだけ聴こえるはずの海の産声さえ聴かず
ただ遥かさをうねる波ならばひとつだけを愛し
雨から雨へと映る季節の極限ならば
蒼い砂浜を逍遥したまま坂を越えられない

密閉されゆく哀しみから洩れる白い炎を頼りに方位を定め
月の昇りを待ちながら朝露が雫を結び
永遠の地上を目指して落ちようとする、想い出の坂道

届かない、届かない、届くけれど届かない…

愛するならば愛さないように届くならば、届かない
あなたが伸ばす指先が冷たさを知りつくし
雨さえ降れば、通りすぎるけれど届かない

風が転がるなら、そこは坂
決して降らない雨を二人で許し合う、
立ち止まりしか愛さない、
風が転がり続ける、そこは坂

海の産声なら季節を知りつつ眠り続け
禁じられた炎を信じる明日を、昨日に生きよ

ついに斜面を持たずに光り
涙が下ることを知らない坂道ならば
哀しみから永遠に遠い今日を
光を知らぬ駅舎のように、ついに開かれ得ぬ手紙のように
その少女を、その虹を、その廃屋を燃やして、
ついには生きよ、微かな湖畔
2015-01-04 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜想

煙草を喫って酒を呑んで、酒を呑んで煙草を喫って
目眩するなかでひとつの思考(に似たもの)が
なにかを目指して はいずりはいずり

涙する暇のない、退く先のない今を受け止めるのは
やさしい過去であり、やさしい未来であった

ことばは機械の部品のように正確に、正しく作動し
どんな私も受け止めてくれていたし
哀しみさえ、いつもと同じように私を訪れた

しらぬ夕暮が連れてきた寒気のなかで私はひとり
こんなにも豊かな、ひとりを抱きしめて
その日はくるに違いないが、酷く遠く感じるのが懐かしい

私のまえを飛び抜けるやさしいい木立
清冽なことばはツバメのようにひるがえり
私の飛べない空を自由に飛んでいる
私の飛ばない空さえ自由に飛んで

私は一服の煙草に酩酊し
すべての哀しみを託そうと酩酊し
遠い過去のように未来を見つめ
思考しない思考というのを、そっと抱き
懐かしい機械の音だけしか聴こえない

酷く遠い、酷く遠い
私の知るはずの私は、こんなにも遠いのか
私の夜をひとつのツバメが切り裂いて

切り裂かれた夜を私は受け止めることが出来ない
私に残された夜は訪れない
2015-01-03 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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【 無意味という意味 】
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