風の吹く

風が強く吹いている今は、まだ冬なのだろうか、もう春なのだろうか。
気圧、熱、公転、地軸の傾き、太陽からの距離、その他諸々…私の風は諸事情によって吹いていて、それによって強さが変わるのだけれど、その諸事情を私は知らない(ほんの少しなら知っているかもしれない)。その理由という、あるいは原因という国境は遠すぎて届かない、天気予報が当たらなくとも憾むに値しないことだ、当たったとて変わる日常こそ疎ましいだろう。

遠く海を感じる季節を、いくどかは越えた。身近に、それこそ身体中が海であるかのような季節もあったと記憶している。そのとき、きみはいなかったが。
なんどでも飽きずにめぐる、そのひとつの季節のなかには確かに私がいて、君もいて-などもしたかもしれないし、しなかったかもしれない。しかし、どちらにしても意味を成すには遠かった、そうは想わないだろうか?それは、あるいは倦怠によるのかもしれないし、ただ疲れているだけからの想いなのかもしれないけれど(だって僕は、そんなにも君を愛していたから)。

さて、ひとつ話しておくべきことがあるとしたら、それは何であろうか。
色々と想い浮かぶようで、これは、中々の難問、そして良問であろうかと感じる。この「良問」という言葉は受験生用の問題集に付されるのしか見たことがないのだが、良い言葉だとは想わないかい?良い答え、解答は良い問いに導かれるものだ。そして、これは良問なのだ、そういう意味でも。

さて、ひとつ話しておくべきことがあるとしたら、それは何であろうか、何であろう?
このように迷うことさえ楽しくなってしまう、愉快になってしまう問いを、ぼくは知るようになった。
いつのまにか音が聴こえなくなった風よ、君なら、どう答えるのだろうか、それとも吹き抜けるまま微笑を返してくれるだろうか。そのときは、きっと春の穏やかな風であって欲しい。秋の風であっても良いのだが、初秋の、夏の気配が少し残る、あの…

さあ、時間だけは待ってくれないようだ。
ひとつ、聞いておくべきことがあるとしたら、それは何であろうか?
次に逢ったときには、聞かせておくれじゃないか(古い言い方だろう?)。
2015-02-28 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

鳥に

ほんの一瞬間もあれば、どこにでも行ける。つまらないことばかりで泣きそうな日でも忘れたように。むしろ、どこにでも行けなくてはならない。とどまり、ためらい、何もできないままでいるのが、それでも良い。どこにでも行けるまま、とどまり続けるのだ、同じことだと乾いた無表情にものを言わせて。どこかに移動するのは、その、はるか先のことで良い。
戻る海が遠ざかってゆく、少しだけ哀しい季節を通りすぎて、鎧戸のむこうの気配は静かに、晴れているか、雨が降っているか、あるいは曇りか、雪か、、、遠すぎる一瞬間のための時間は永遠に近いが、しかし一瞬間で永遠に遠ざかる。それも、また良い。

あわただしく憎々しいだけの日常が、ただ続いてゆく、遠くまで。そして想い出す星の幻影。色を失い星という仮象のなかに閉じこもってゆくひとつの星、その幻影。恋人の声は近く、そして別れたままで、懐かしさが乾いた響き、割れる響きのなかに繰り返す反響を送り込み始める。
一人きりだ、たった一人きりなのだ、と繰り返すだろういくつかの日、哀しみを探しながら滂沱と流れる涙に目覚め、恋人の手の温もりが蘇る日、誰も傍にはいられないのだと知りつつも求めてしまう日、、、

ああ、、、貝には なりたくない、貝にだけは!

むしろ抜けてばかりの羽根の痕を見返ることもなく飛べないまま羽ばたき続ける血塗れの鳥だ。
バランスを崩しては哀れにも頭から地面に突っ込み、それでも羽ばたき続ける鳥だ。完全に飛べないことを分かりながらも羽ばたきをやめることができないとき、それでも羽ばたく鳥のひとふりで世界が鈍く、哀しみを投げつけられる。彼が拒否できない絶望を、鳥は引き受けもせずに羽ばたき続ける、飛ぶことができないまま、飛べないことも知らずに、飛べないことも忘れて、飛ぶことも忘れて-
2015-02-27 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

M、へ

今日も、君がそこにいる夢を見ながら起きる朝だ。
もう遇っても分からないだろうくらいの月日は過ぎ、いくども理由についてだって考えた。もう忘れられたように想ったときだってある。しかし今日も、まるで君がそこにいるように夢を見ながら起きる朝だった。カレンダーを見れば毎年、君を想い出しながら起きる頃で苦笑するしかないのだけれど、もう私も君も今を、今の生活を生きているしかないし、今までの生活を、別れてから今までの生活しか過去には持たなかったし。
どんな理由が、これほどまで君を想い出させるのか。
いくつもの理由を考え、きっと、それは自分には都合の悪いことだと、考えたくもないほどのことだと想い考え、挙げながらも。
どれもが結局、ただ喪いたくなかっただけだという、今も一緒にいたいだけだったという、それだけのことなのか。
君とは過ごすことも越すこともなかった季節は、もう数え切れない。
いまも君との別れをただ疲れ切りながら迎え、無数に迎え、ただ想い出のなかの君だけを想い出している。
明日にも、今日にも忘れて不思議はない君を、今はまだ覚えていて忘れることができないでいる。
2015-02-26 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

陽が高く、そして眠る

陽が、高くなり始めたように想う。
雨が降る気配だけを残して雲は動かない、しかし、陽が高く、なり始めたように想われる。恋人の乗るはずだった電車の音を想い出しながらでも、散歩ができそうなくらい、陽が高くなり始めたように想う。
川沿いに歩いてゆく人を想い出す、そう、想い出の季節なんだ、と。そう、言いたい、言ってみたい。
ガラスを通して七色に輝く光を追いながら、七色以外の色を忘れたように私も、その七色と化して恋人と逢おう。草いきれを鬱陶しいねと笑いあいながら転げるように恋人と逢おう。そして川沿いを歩いてゆく人を見送ろう。
いくつもの木の乾いた音が破裂する小さな夜を集めて、新しい季節の音としよう。「タタール人の砂漠」の一シーンで描かれた風景だ。
命の、溢れる命の無邪気さが私たちを哀しませる時節なのだ、いつだって、きっとそうなのだけれど。
久しぶりに空から響いてくるジェット機の音、低空を、ゆっくりと飛び去ってゆくジェット機の音。
陽が高くなり光の、色の時間を迎えながら目を瞑る。
音が、いくつもの、無数の音がざわめいている。動いている。
いまも季節が動いている。
陽が高くなり始め、しかし曇天の今日、それでも無数の音に囲まれて静かに、眠る。



「タタール人の砂漠(ブッツァーティ)」岩波文庫版 P213
 夜になると、兵舎では、背嚢をのせた木の板や、銃架や、扉や、大佐の部屋にある大きな胡桃材の見事な家具も、砦じゅうのありとあらゆる木材が、ごく古いものさえ含めて、暗がりの中で軋みを立てるのであった。時にはそれらは…
2015-02-25 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

舟、二人の舟

舟と舟の間にある涙で波を一度だけ、一度だけ愛したことがある。
遠い話はしたくない、今の話も必要ないだろう、これからの話もなおのこと不要だ。ことばを、話を時に渡したくはない、そんなことを言ってみたい(それを存在などとは言いたくはない)。闇のなかでは海もよくは分からないのに、しつこい潮の匂いが鼻から離れることがない。捨てたいものばかりが捨てられずに残る逆説ばかりを想い出す。
もう海から離れようと、いくども想うのに、戻る場所がなくて海にいる。
深い底も知らずに、浜辺で待つ恋人も知らずに、相乗りする友だちも知らずに。
-水平線が光る夜の海、私たちの舟は二艘なのか一艘なのか、分からない…
そう、つぶやく声を自分の声として隣に聴きながら暗闇のなかにしか見つからない眠りが見つからない暗闇を彷徨っている。
2015-02-24 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

手慰み

川が流れているように滑りゆく愛をながめている、冬の空に似る季節の終わり、朝焼けを想い出す。
遠くにだけ佇む駅の記憶を手繰りながら列車の空白をひとつ、ひとつ埋めてゆく時間を止められない。砂に似た時間よりも時間に似た砂を愛しながら海へと、海へと。
哀しい流木に座ってひとり歌う女の美しさを愛して、一本の川の流れだけで生きる島を海に漂わせる。
辿り着かない、だれも、どの船も辿り着かないのに波が訪れる。
砂浜ができるまでの時間には川も女もいなくなる、喪われなければ砂浜ができない。
今日を位置付けるブイにつかまりながら、ひとつかみの藻が月の光を探している。
ただ流れてゆくだけの言葉に意味を求めないでくれ。
パズルのように楽しむのなら、それは良いだろう、慰みに。
さても、さても、、、
2015-02-23 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

季節のように

寒さのなかで震えることだけが、やり過ごすことだった。
「冬が終わる、冬が終わる」
春の訪れが告げられないまま何度もくりかえし告げられるの冬の終わりだった-

季節には何度も語ることを止めることに決めたはずなのに、何度でも巡ってくる。巡ってくる季節、季節を拒絶する力もないまま、なにを送っているのかも分からない鉄塔となって夕陽に染められている、ある日の情景。暗い中に掲げられたままの白い腕を見つめながら大きく弓なりに傾いてゆく鉄塔。季節のなかに消えてゆく、ひとりの女性を想い出し始めている。

交替してゆく想い出のなかを散策するように落葉を拾い、放り、拾い、柔らかな指先は、あくまで冷たい。
「昨日は一日、眠っていたわ」「ぼくも、だ」「そう」
報告が終わると次の眠りを探して別れる二人、女性は男性を探すことがない。

凪いでいる海を前に眠れない男ばかりが肩を並べていた。なにも言わずに昏いまま、静かな波音だけを送ってくる海に似た方向を向いていた。そんな男ばかりでギッシリの浜辺があった。
2015-02-22 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

あるいは<遠さ>として過ごす(改行へ)

どこまでも歩いてゆこうと辿り着く海岸線は荒い波だけが無数に押し寄せてきていて、入道雲で定かでない水平線だけが距離に似た海を広げも狭めもせずに<向こう>にある対岸なら、しかし<遠い>とは限らない。

春を見るような気分で眺められている川面が氾濫すると夏のような田園風景が空を映すのだけれど、季節は変わらないままでいて欲しいと願うひとに寄りそったままでいる。どこか、もう少し遠くが、見えない<向こう>がないだろうかと探す視線をさえぎって低く飛ぶ鳥に名前を授けることはない。きみが、そう決めたように点にしか見えない鳥だけを<鳥>と呼ぼう。

懐かしさが直ぐに文字になり、刻まれ風化する一連を繰り返す丘の上でなら眠ることもできるのだろうか、恋しいときにはだれもいないというような時間が訪れるのだろうか。コーヒー一杯で朝焼けから夕焼までをながめる喫茶店の窓枠はマスターの苦笑いで出来ているね、とボンヤリと想いつく。
丘は、ここで良いと、そのときに気づく。<向こう>なら、ここから見える、すべてがここからなら<遠い>ことに気づく。二杯目のコーヒーよりも苦い三杯目のコーヒーには飛び込みながら、懐かしさのなかで流れる涙を忘れようとしている。





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どこまでも歩いてゆこうと辿り着く海岸線は
荒い波だけが無数に押し寄せてきていて
入道雲で定かでない水平線だけが距離に似た海を広げも狭めもせずに
<向こう>にある対岸なら、しかし
<遠い>とは限らない



春を見るような気分で眺められている川面が氾濫すると
夏のような田園風景が空を映すのだけれど季節は
変わらないままでいて欲しいと願うひとに寄りそったままでいる

どこか、もう少し遠くが、見えない<向こう>がないだろうかと
探す視線をさえぎって低く飛ぶ鳥に名前を授けることはない

きみが、そう決めたように
点にしか見えない鳥だけを<鳥>と呼ぼう



懐かしさが直ぐに文字になり
刻まれ風化する一連を繰り返す丘の上でなら眠ることもできるのだろうか
恋しいときにはだれもいないというような時間が訪れるのだろうか


コーヒー一杯で朝焼けから夕焼までをながめる喫茶店の窓枠は
マスターの苦笑いで出来ているね、とボンヤリと想いつく


丘は、ここで良いと、そのときに気づく
<向こう>なら、ここから見える
すべてがここからなら
<遠い>ことに気づく

二杯目のコーヒーよりも苦い
三杯目のコーヒーには飛び込みながら
懐かしさのなかで流れる涙を忘れようとしている
2015-02-21 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

海と季節

山間の谷間に似たところから、顔を上げるのさえ重くて難しいという様子で見上げる瞳に向かって晴れやかな陽が降る様が残酷で冷たいロケットのようだ。少し見渡す限りでは霞がかっていて陽の光がオーロラのようにカーテン模様を描いて朧な向こうの山まで届くのを見届けさせない。

「海を探しているんだ」
乾いた口調で言おうとするには湿っぽさの残る子供の声で俯いてゆく。手指の先から滴る泥しずくが妙に美しく感応的なリズムで田に引き入れられ始めた水面を打つ。

「季節が違うね、たぶん」「そのようだ」

私の代わりに探していたのだろう彼の手首をグイと引いて草むらに引き上げると冬間近のように冷たい風が夕暮を運んでくる。いつでも私たちは疲れていて海を探すことしか考えられなかった。彼女のことについて訊こうと想ったのも、もう何年も前のことで今では、もう、そんなことは訊いてはいけない気さえしている。彼もなにも訊くことはない。互いに訊くことがないことが心地良いこと、大切であることを学び始めていたので私たちは友人になりはじめのだとさえ言えたかもしれない。

それでも互いに互いへの海を探していたことは間違いないことで、それは見つけるためではなかった。冷たいコーヒーをコーヒーとは呼ばない人がいるように、見つからないままでいる限り、それは海だった。
見えない海にだけ沈んでゆく太陽があり、私たちは今日も、見えない海にだけ沈んでゆく太陽に支配された日常を送る途上で再会し、少しだけ一緒の時間を過ごし、別れていった。
2015-02-20 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

地球を、見る

背中を見つめながらたどり着く坂の頂きからならすべてが見えない
せめて夜になれば星か月でも見えないかとそわそわと気ぜわしく見回してみるが
いつまでも夜になることもないまま花瓶を一つ割ってしまう

透明な花瓶をひとつと白い花瓶をひとつ、ガラスの花瓶と陶器の花瓶
ふたつして同時に割れながら違う音を最後に生きているように想える
冷たいだけの雨なんて嫌いだったので活けられていた花が
流れ出した水にひたされて泣き出したように突っ伏している
むしろ泣き出したいのは私たちだったけれど私たちには、突っ伏す床がない

床のように見える月のうえで静かに並んで
遠い地球を眺めているように地上を床に敷き
上らずに(そして下らずに)済む坂だけを探し続けていた
2015-02-19 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

朝のカフェ

煙草の煙が立ち上る向こうには一面の曇天が広がっていて、むしろ紫煙よりも汚れた雲が季節を汚しているかのようだった。もし、これが夜だったら月だって汚されていたろうに、残念なことに夜ではなかった。昼にまでは達することのない朝だった。
ときに想い出をなげかける面影を冷たく破り捨てるように、新聞紙の端が破れて今日のニュースはすべて終わりだった。バスの発車音が平和な銃器の音に似てけたたましい。あの混雑のなかに、どれだけの発見があるのだろう。生きることのすべてがあるといわんばかりの混雑のなかに。嘆かわしい努力で彼女なら(そんなものはなしでも)見つけるのだろう、毒物にきらめく貝殻の美しさのように、溢れんばかりの美しさを。
天が動くより早く動く地上では、目ざとさが重要だ。「ああ、分かっているさ」路傍で眠るみんながいっせいに呟いている。だれもがだれも、それを口にしながら立ったまま路傍で眠り、路傍で眠りながら混雑をすり抜けてゆく。
汚れた雲は煙草の煙の消えるよりも早く少しの明るさに空を明け渡し、遠い季節を予感させ始めている。「なんという絶望なんだろう、美しすぎるね」彼女は呟いて残りのコーヒーを捨て、テーブルに突っ伏して眠り始めていた。
2015-02-18 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

季節の狭間として日常は

季節より早くめくられるカレンダーを手にして、だれもが戸惑うだろう。
それは、あの青空の季節よりも遠いだろうか、あの想い出のなかで想い出よりも近しい妄想の記憶に似た色情の季節に、むしろ似ているのではないか、むしろ街路をゆく人波の足音よりも古めかしく風に逆らう昔の新聞紙のように、ただ機械的にめくられるべきものなのではないか、などと。いくつかの問いを手にしたままなら考えに浮かんでくるはずの無数の窓、真っ暗で初めての褥だけが見える窓のような問いならば、もはや季節を遠く過ぎているだろう、などとも。

どこまでも広がって見えるだけの重なり合いのなかに浮かぶ丘のように、雲はいつもの表情しか返してこない。まるで、それが始めてで終わりの答えのように、雲は表情を変えることがない。もし重なり合う死と死が、あるいは生と生、死と生と死と生などの無限の繰り返しのただ中に放り込まれようとも、ある種の偉人たちの威厳を伴いながら変わることがない表情のうちに雲の無表情を見出し、そこに住まう私たち、見下ろせば哀しみに、怒りにうちふるえることすら許されない束の間を生きていると想っている私たちだ、疲れた視線の見下ろすのは。
いつも早過ぎる季節を嘆き、遠過ぎる季節に想いを馳せ、過ぎ去った季節すら取寄せて嘆き、しかし何も変わることのない季節を、私たちは疲れている。疲れているのに分からない、疲れていることを、知らないのだ、疲れていることを。
カレンダーを乗せてゴミ収集車が通りすぎる、夕暮だって、まだ遠いくらいの季節が、もう過ぎ去ったようにやってくる。
2015-02-17 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

休日の日記

昼近くには、もう起きたことすら忘れたままのコーヒーがある。

休日になったらやろうとしていたことは、もう前日には出来なくなっていて、逃げ込んでくる読書を温かく迎えることさえ出来ない。弾き損ねた灰ばかり落とす煙草は、それでも指先を捕えたまま放すことがなく、ひとつの休日、まるで塊となった時間たちを煙で満たすまで息絶えることはない。ひとつふたつ愛らしい嘔吐が過ぎ、義務感だらけの食欲に洗われて昼食を唱えている。

想い出せる恋人なら、もういらないし愛せない(いく度も書いたと想う)。休日の前日か、その前日だったなら、いくつかの告白された愛があるはずだ。横たわった記憶のない眠りのなかでは追いかけることの出来ない追憶だけが何度でも蘇っている。今日も空っぽの駐車場に立ち、乗員のいないバスを無数に見送っていた予定を握りしめている。春は、もう来ないらしいと聞いた。

春一番が吹こうとしていて、冬は、もう去ることが出来ないとも聞いた。ひとつのコーヒーが冷めるのにさえ、非常に時間がかかるのが難点という日だったと記しておく。
2015-02-16 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

季節の少女

それほどまで鍛え上げられた肉体をもってなら、きっと夏の空を目指していたのだろう。痩せ衰えさせるために降るスコールを、それでも再帰的に含んで積乱雲が季節を探して旅をする。空と海との境を失くすためならば、ひとつぶの雨さえ降れば十分だろうに。

ぬかるみだけを選んで弾けるスキップを少女は手に入れている。傘を差しながら激しい風を遠くに、はるか山向こうに遠ざけて、幅広の草原は一跨ぎで終わり森の内、一握の哀しみを投じるためだけに泉を掘り、彫像と化して微笑み。星を隠すならくすんだ夜空に、昼の空なら太陽を、熱砂のうちには情熱が宿らない。

少女の彫像なら泉の畔、泉の畔以外で少女を見かけたことがない。だれも知らない波だけが小さく繰り返す泉の畔になら、少しの少女も微笑んでいる。重い、重い、いくらでも重ね重くなる薄い日々を背負う両親を捨てて、いくらでも遠くまで行ける電車なら乗れなかったかもしれないけれど、少しの少女なら微笑む泉、その畔。
入道雲が訪れるには、まだ遠い。そして遥か以前に訪れてしまった、そういう畔、それを持つ泉、その畔。
リフレインする、それが再帰なのかを問わず、リフレインする、あるテーマ、失われたテーマ、季節。
2015-02-15 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

恋人の空間

一種類の花の名前を覚えただけで無数の種を滅ぼした。
けっして回避できなかった今日が滅亡してゆくのを、もろい岩が風に斃れるように、影が静かに命を手放すように、視線が光を忘れて彷徨うように、どのようにも感じながら一種類の花の名前だけを与えた。蛮族の集う海上の孤島、漂流物だけを奪い合う逞しい肉塊、汚物だけから生まれる生き血を啜る幼子に母親は目玉を失ったままだ。

想い出すのは幾度でも、無限のように車両が渡り続ける細い川の鉄橋、橋脚を立てる幅さえない川に照りつける昼の、真昼の光。季節など、どんな季節でも良かった。真夏であろうとも真冬であろうとも。ただ、それが未踏の高原の一本の木を無上の美しさに仕立て上げるとしても、雲だけは認められなかった。むしろ汚水処理場に流れ込んでゆく泡吹く流れの方が美しかった、その川になら。

土手の上から静かに見下ろす影には持ち主がいなかった。想い出す人もいないだろう、永遠に、(という表現が許されるのなら永遠に、)だ。影の持ち主、そのような抽象的な概念は必要なかったから、私たちはそれさえ知らなかった。
「私たち、恋人なの?」
そう問うことすら覚える前に、きみは立ち去ってしまっただろう、星空の下で私は息吹く。まだ浅い色しか帯びていない芽が息を吹き返すように息吹く。それだけでも風が吹くように、それだけでも哀しみが訪れるように。
「覚えているかい、あの花を?」
だれも答えない、だれも答えてはならない。うち滅ぼされた種として、だれも答えることはできない。
2015-02-14 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

彼の不可能性なら牢獄へ

夜の刑務所でだけ聴こえる嘆きなら林木に刻んで去るだろうけれど、かすかさしか彼を知らない。むしろ彼が知るのはかすかさだけだっただろう。たった一つの注文すら受け付けることのできないレストランで彼は、いつもコーヒーだけを何時間も待ち続けている。それは彼女と呼ばれるのを待つ儀式のようなものだ。
新聞紙を広げたように同じ本を広げ、同じ個所ばかりを繰り返し読み続け、ついには一冊を読み終えてしまう。彼なら、そうしてしまう。彼女なら、どこも読まずに何冊でも読み終えてしまう。

風に呼ばれたように海では波が立つ、湖の波なら風に置き忘れられたように、川なら傾斜への抵抗として波を抱く。どの波を愛したらよいのだろうかと悩む間も与えられず命は去ってゆくだろう。すべてを置きざりにするように、置き去りにされて、冷たくも温かくもない無機物の、報われれば鉱物の涯に。
けっして緩められることのない歩みを嫌いながら、拒絶できない坂道の途上にだけ立つあばら家のように、だれしもが立つだけで精一杯だのに、なぜに空は透きとおれる、碧くいられる?鈍色の雲を無数に抱いて、立ち上る蒸気に蒸し殺される無数の生き物たちを睥睨しながら、なおも空は空でしかあり得ない哀しみを追っているのか。
どれだけ遠ざけようとしても追いかけてくる「哀しみ」という言葉に催す、この激しい嫌悪をだれかれ構わずに手渡し、固く握らせ、それが黄金色を発する宝石でもあるかのように唯一の、なにかしらの王者の徴ででもあるかのように。しかし逃げられないのか、こうして書いている限り逃げられないのか、手渡すことはできないのか…むしろ嫌悪ではなく正確には「哀しみを」だが…できないのか…

告げられることのない不可能性のなか、私たちを結びつけるしか能のないことが多過ぎる。私を置きざりにしてはくれないことが多過ぎる。彼の包まれるだろう夕暮のなかに私は、激しい慟哭だけを残して決して立つことはあるまい。もう立つことも、座ることもなく、ただ伏すには伏して星を爪弾きながら数え続けていれば良い。それが夕暮なら、私を通りすぎて届くべき人の元にあるべきだ、むしろ彼の元に、彼女になれない彼の元に、ある枯れた夕暮として黄昏るが良い。
2015-02-13 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

問い、問い

夜を哭き通した鳥の眠る昼の休日に、私たちの眠りは浅く、まるで淹れ損ねたコーヒーのように薄く不味い。
遠浅に接続する手近で丸まった浜辺に拾う、夜だけ蘇る都市の残骸には季節を渡しながら、風の方向を測ることができない風見鶏のように吹きぬけてゆく時間、いくつかの時間。それらを数えながら泣きはじめようと待つ恋人の背中には先に落ちる夜、視線を閉じてゆく終わらない恋の終焉で、たむろする空虚な哀しみを生もうとしている。
平日だったら違った景色のなかで別れを迎えられたかもしれないと、忘れられた嘆きを、疲れきった嘆きを放るようにぬるくなったコーヒーを飲みはじめ、さらに枯れてゆく冬の野原を雪もなく歩きはじめる、視線、失われるべき視線。むしろ想い出に変りはじめる新しい視線を遺棄しようとあえぐ古い視線のなかで愛しあっただろう記憶すら失われる。坂を越え、もっと坂を越え、ただそれだけで異国に行ける、あどけなさのなかに消えれる。
「ら、ら、ら…」
歌うように、ら抜き言葉を探している子供たちを真似て訪れる夕暮に、休日の足取りは早い。
「哀しい、ね?」
だれも問う人はいない、遠いところまで辿りついてしまう島から訪れたひとつの乾燥した問いだから。砂丘を覆い尽くすほど薄く引き伸ばされた問いだから、風に似せて問われることもない、そのように問われる。時間と恋人との関係を式立てるなにか、そこに関係を見出しながら愛そうとする不能、それを愛してしまう恋人、いくつかの恋人。さらに問われない、さらに広がる、問い、問い、いくつもの、無数の問いに囲まれている。あまりに簡単に囲繞されて笑っている、残照(「どこから?」と)。
2015-02-12 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

消えてゆく、一日のはじまりが

射し込む陽射し、その幾重かの影、
その向こうにある、くすんだ青空、茜色に染まり始めた空…
小さな窓の小さな隙間から見える屋根は複雑で語りきれない
こぼしていたのは雲ばかりではなくて
もっと大事なものがあるということだけは覚えている

発車することなく鳴り続けるエンジン音、
乗車する客を持たない路線バス、
行先には向かわない路線バス、
オレンジのパーカーを着て通りすぎる夕暮のなかの人
彼の歩みを止めることのできない恋人の声を聴く

一日なら、あっという間に終わってゆくのに
一日の始まりはとてつもなく遠い
拷問にあっているかのように遠過ぎるほど遠い
幾重にも重なる祈りのようにうっすらと積り、
ただ消えてゆくだけの一日が、それでも始まり、
その始まりは、とても遠い
2015-02-11 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

…きっと、ひとりの恋人

恋人のとなりなら一つの白いカップが置いてあり
コーヒーのように注がれる時間を感じている

一羽の鳥が陽の束を、さらに重ね持とうとするガラス向こうでなら
帰れない巣を想い出して、もう一人の恋人がたむろする街路を抜けると
田園であればと願い、似た色彩を不規則に重ねただけの
暖かそうな屋根たちに出遭ってしまう

足りない、足りない、季節が足りない-

そう、つぶやく花の傍に、そっと膝を抱えて座る夕暮、
その夕暮を遡る遡及力の強さにさえ負けてしまう記憶のなか
明確な輪郭を崩せない波をひとつひとつ崩しながら
ある午後(午後たち、だった)が壊れてゆくのを願っている

あの泡のように、依存しない時間のなかのコーヒーが飲まれると
かたく独立を守る湯気が一筋の頑固さとともに天井を目指してから、
恋人の恋人が恋人であるように絶対の依存を求める時間、
依存しない時間だけでコーヒーは消えてゆく

知らなかったバスの発車音が想い出されるならば、どうしても哀しい、
そう言ってしまうだろう小銭の音がレジに吸い込まれ
足りなかった季節のなかには、恋人なら消えてゆくから、
だから想い出さない、そのためにすべてを足りない季節に閉じ込めて、
想い出さない、足りない季節のなかだけで春が消える冬を待つ
2015-02-10 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それなら 問い です

息絶えてから生まれる虚空では、
せせらぎの音を眠るまでには聞き届けられる。
ひとつの意識には美が遠い。

所属する、属する、所有される…
意識からは遠いところに美を与える、ただひとつきりの美さえもが
はるかな遠くでなら与えられる(あたかも散文のように)。

そう、、、
想い出された散文のように踏み渡られる草むら、
懸崖にすがる波しぶきなら詩文のように引いてゆく。
いくつかの韻律が配列を待つ公園、そこでなら逢えるのだろうか…

と、問う。

-雨が降るね、どの二人の間にも
-雨は降らない、どの二人の間にも

降る雨と降らない雨とが出遭う限りは
濡れない雨にだけ濡れ続ける二人、
濡れる雨には濡れることがない二人。

所与の道程を少しだけ引き延ばそう、
もうだれのものでもない意志として。

干乾びて風に舞う意志として、
けっして触れられない道程を足あともなく
確かさだけで過ぎる足音だけなら、きっと、
ある。
2015-02-09 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

"ある余白"として

切り裂かれて記憶は陽だまりに融けている、雪が降る

いく度も訪れる冷たい季節を遠くから、近くから
雲が通りすぎるように、星ならばまたたくだろう

水平線の向こう-それがあるとして-水平線の向こうになら
ひとつの恋が生き続けているのだろう

異国の服を着て異国の街路を
見たことのない風景にとまどいもせず、仮象として
生きることを仮象として営まれ…

愛される以上の困難さに沈む愛するということが
あまりに単純に苛む砂漠で聴く波の音

恋の蜃気楼なら耳に訪れて、指先に熱い

きみの溜息をひきつれて遠ざかる夕暮ならば
そこで目覚める無数のひとの溜息を聴いているだろう
2015-02-08 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

遠いものだけが生きている

誕生するなら、そこの路上、冬の
残酷に和らいだ冬の陽だまりに湯気たつ向こう
固い霧のように頑固な霜に横たわる
影だけが幾重にも重なるなか
光からなら、より遠いものだけが生きている
誕生するなら、そこの路上、冬の
さっきの朝、死んだようにタイヤを軋ませ
恋人のひとりも知ることのない冷たさでだけ訪れる
あらゆる季節を見棄ててきた冬
そこに座ったまま眠り逝く男らの知らない季節として
誕生するなら、そこの路上、冬の
コインの落ちる音が真っ先に凍る、冬の
もう昨日には終わり、過ぎた、冬の
誕生するなら、そこの路上、冬の
きみのいなくなった、きみを失ってしまった
そんな冬の路上でなら言うだろう
ぼくさえ少しだけなら誕生しただろうと
誕生するなら、そこの路上、冬の、冬の、冬
2015-02-07 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

丘の空

岬からこぼれるひとつの小石のように
その空からなら哀しみが零れるだろうと
二人して仰向いた丘の広さは優しく
想い出として遠ざかるには優しすぎ
物語には優しさ不足で
その具合が二人にはちょうどよかったのだろう

遠くまでは飛びゆかない鳥の影
猛禽類の速度で二人をまたいでゆく季節
川の音が近すぎる丘の上なら
さびしさに似た哀しみで草をなびかせ
そこで眠る二人を忘れてふく風も
運ぶ雲を忘れて凪いだままだろう
歴史が語るいく本かの木を抱えて
今日も知られるままに忘れられた丘の上を
見上げる人を待つ空が深く広がろうとしている
2015-02-06 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

死んだままの殺人者

一本というより一人というべき殺人者である枯れた木
そのそばを人は、風のように通り過ぎることができない
死んだ、死ぬよりも先に命を知らない風のようには
命に縛られて命は窒息しながら生き長らえようとするのか
まるで寄生木に宿る寄生木のように
我が身を喰らう伝説の生き物のように

さても彼(彼女)はなにもしてはいないのだ
ただ伸びるままに乾いた一本の枝が激しい雷に折れ
そこに石に蹴つまづいた子供が倒れ込み
目から脳髄を貫かれたまま抜くこともされずに放置され
ただ灼熱の陽に焼かれるままであるばかりで
ただの枯木に過ぎないのだ

かなり遠く、望む街もないではないが
ここに到る酔狂人は、もはや望めず
むしろ、その一人の子供が何故、ここに到り
その枯木に駆け寄ったのか
そのことの方が不思議なのであって
しかしだれにも知られることのない不思議だった

子供の両親、親族、友人、知人の落胆は激しく
もはや打ち切られた捜索は懸命なものであって
警察の捜査も慎重かつ万全なものではあった
それらすべては、やはり無機な風がときおり
吹くような吹かないような不気味さに消えてはいったが

空からの枯木は、こんもりとした森に隠れ
そこにひとつの死体があることなど分かりはしない
森の生き物たちのいくつかは餌の増えたことを喜んだようだが
それは、あまりに擬人化し過ぎであろう
ただ腐乱するままに折々、食うべきものが食いに訪れたのだ

ついに枯木が倒れ、骨ばかりが残るまでは数年でしかなく
しかし骨ばかりは数万の時を超えるに至ることになるだろう
美しい骨ばかりが不自然な組み方で、しかし
見出されることもなく枯木を抱き再び風に吹かれることがあるのか
森の寿命さえ数万の時は超えないであろう
そして殺人者は、変わらず憂鬱に死んだままである
雨にも乾いたまま、死んだままであることを変えないままである
2015-02-05 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

その差異にだけ想い出す…

ある種の冷たさのなかから、ひとつの冷たさを拾い上げ
季節から外れた風に乗せられながら走る、あなたのバスを想い出します。
岬の危うい縁を危うくたどりながら走るバスです。

疲れた鳥なら一羽ではいられない。
そこにはもう一羽の疲れた鳥が寄り添う、そしてもう一羽。
まるで輪廻のように隣に伝わるのは、ひとつだけの哀しみ。
陽の当たり方で、光の当たり方で、見え方で、
あらゆる意味で同一ではなくなってしまう、
しかし、ひとつだけの哀しみ。

鳥たちの瞳が輪のなかに開くとしたら絶望的で、
それならば閉じていた方が安らぐに違いない、そう想う。
むしろ輪の外、冷たい雨さえ降る、
辛く孤独な輪の外に向けてこそ瞳が開かれたとき、
そこには希望に似た力が宿るだろう。

だから愛しい人の瞳を見てはならなくて、
私たちは互いを知らないまま、希望に似た力で立っている。
バスの通り過ぎる音が響くときは、きっと、そういうときです。

岬の切り立った岸崖の鋭さで開かれた海、
その揺蕩うような凪の波を見ながら私は、
そうしてきっと、あなたを想い出します。
バスの去る音だけを繰り返し聴きながら、そう考えています。
2015-02-04 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夕暮のなかに

風の吹かない理由を投げ捨てて
海を知らない島を放浪する渚の音と
遠く虚無に沈んでゆくあなたの重さを
腕のなかに感じながら
空ろな人影が通りすぎる街角を
まるで花がゆれるように曲がりながら夕暮が訪れてくる

けっして知らない夜を迎えるために
夕暮は美しさを増そうとはせず
見られることを捨てて隠れる森を探し
そこで私は、あなたと出遭う

愛するように出遭い、出遭うように愛し

私たちを夕暮に沈めてゆく

夜を知らない夕暮のなかに、沈んでゆく
2015-02-03 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冷たく眠る、あなただから

たとえ少しづつでしかなかったとしても
そこには距離を置き、重ねてゆくべきだった
分からなくなるために
理解からの隔たりを増すために

-しかし分かることは理解することか?
 理解した答えは問いから遠ざかる
 答えは分からないままでも理解されるだろうよ

それでも距離が必要だった
尾根を巡った風が人のいない山里に舞い込む
そんなふうにするりとすり抜けるのだから
せめて距離が必要だった

遠かろうとも吹く風を知っている
知らない場所から吹く風を知っている
それらは哀しさしか運んでこないことを
孤独しか知らないことを

それでも距離には温もりが残されるだろう
ひとつの結晶のようにだれにも所有されず
ただ在るだけの温もりが距離にはあるだろう
それが希望だし望みであるような
だれにも引き渡されることのない温もり…

不在という名で、あなたが隣に眠る
行先を決めないままのレールを軋ませ
雪国のストーブを拾い集めながら
だれも乗せない汽車のように
不在という名で、あなたが隣に眠る
距離を消して、あなたは隣に冷たく眠る
2015-02-02 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ベンチがあるのならば私たちはいない

きみを降る雨を殴りながら長い風を上り下りして
ようやく冬の陽だまりのように冷たく横たわったベンチからは
流れたことのない川さえもが見える
雪をかぶったことのない山並の頂きさえも

こだまを吹き鳴らす海はどこに消えただろうか-

電柱に張りついたまま動こうとしない
一枚だけ黒ずみ汚れたビニール袋の光のなかなら
私たちの秘密をこぼしたカバンが乾いて軽く揺れ
「私たち?」と小さいつぶやきが驚く

柔らかな胸なら月のように 夜の水平線をとどまって
受け止める眠りの重さに沈んでゆく 波のようにくりかえしていて

降る雨をきみが受け止め私が殴ったように
ささやかな願いだけを置き忘れたベンチなら
いつでも今を壊れてゆくみたいだと
きっと夕暮の風にささやいて
2015-02-01 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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Author mak From "空白"

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【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
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大海にも降る一滴
2015.07.17.

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