永遠に近すぎる、トコロ

今や静まり、ひとつのラインである汀には
流木や貝殻や缶やらがいろいろあって
それも明るい陽射しに照らされているので
明るい未来を探しに来たら哀しむだろう
それでも子らなら、喜び駆ける

君はひとり、恋人を傍らに
水平線を見守るだけの平凡な番人だが
恋人は石像のように無口だ
冷たい朝、冷たい正午、冷たい夕べ
順々に打たれて君もまた、無口だろう

永遠の扉には手を触れるな
ひとつの掟に無数の賢者、無数の知恵
ただ永遠というだけの概念に
無限と言う、極限と言う、無数とは言った、しかし
永遠の扉に手を触れてはならない

汚物に塗れて苦痛のうちの苦痛に悶え
足蹴にされる平凡な番人よ、君は
君自身の、そのような最期の最期において
それでも口元を歪ませながら
ニヤリとは笑うのだ

そして今や静まり、
ひとつのラインである汀なら
永遠の扉には、手を触れるな
最期の笑いを残したいのなら
永遠の扉には君よ、
決して、その手を触れてはならない

掟ではなく、君の矜持のために
氷像の恋人はなく
掟を捨て去った君の、
君だけの矜持のために
2015-03-31 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

砂漠の始まり

乱立する新興住宅街の不気味さに戦慄したことはあるだろうか
そこに生きる屍の群れを、
屍だけを運び屍だけが運び戻される都会に向かう電車に乗り、
自らも屍となって生きたことはあるだろうか
季節が狂うばかりで、時を見失ったまま能面の笑みが溢れている
滑らかな川面を死んだ魚が、せめて海までをと滑り
(どこまでも昏い川だ、いつでも、いつまでも昏い川だ)
一陣の風を、それでも見るとしたら哀しみが舞い戻る
それは、むしろ厳しい試練なのだ
酷暑の砂漠を乾かす地上百メートルに迫った太陽のように
だから新興住宅街には、むしろ月が必要だった
ただ冷たく光ることもあるだけの
機械的に変形してゆくだけの
あまりにも儚さのなかにしかなく、儚さのなかに沈んでゆく
生贄としての一匹の月が、そこには必要だったのだ
2015-03-30 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

聞こえない噂

放たれた何気ないひとつの問いが街を巡る
孤独な女が置き去りにされて残酷さに目覚め
街角を殺しながら歩いている
無数の無表情が雑踏を形成して
感情を失ったまま、ひとつの生命体に成長する
ひとつの問いが街を巡り
生命体の深部を貫こうともがいている
どこにもない、深さも、浅さも
その生命体には、なにもない
孤独な女が、彼らを殺して吐息を手にする
けっして二人にはならないまま
燃える月、冷える太陽、枯れた花々
それらの持つ象徴の命と
女が黙って心中したと、噂にだけだが
あなたが聞いたことはあるだろうか
聞くために街で死んだことはあるだろうか
聞こえない耳だけになったことがあるだろうか
2015-03-29 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

春の涙

春の涙を冬で受け取り、郵便ボックスは閉じている
重い瞼を青空に向けて、その青さに任せて
干乾びて酸化し、紫外線は厳しい、
季節も厳しい、たとえ、それが穏やかな春であっても

書きたい手紙が、いつも書くことを受け取れない
それに身を任せたままでも許されるように
愛を受け取ってから裏切ろう
裏切者として、あなたを愛そう
いつも遠くで背中だけを霞ませている
あなたを裏切って私は、春の涙を受け取ろう
2015-03-28 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

後ろ手の私

後ろ手に、恋人に触れる

あわせる顔のないときには
私の手は、卑怯である
そして私も卑怯であるので手となって
私は私の、手を切り落とす

あらゆる可能性を放棄するために
無責任に逃げ込むために

だれにも触れられないが
手になって私は
最後の卑怯を手に入れる

微かに錆びた、鉄の臭いの
記憶にも打ち棄てられて私は
卑怯塗れの手だけになるのだ
2015-03-27 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ヤギが待つ、ある眠り

ヤギのように食べている-

そこには待ち草臥れても気丈な彼女、
彼女の伝言が残されているだろう。

下らない繰り言を過ごす度に座り込んだ無数の
岩や倒木、そして浜辺を想い出す。動かない星空を、
いくつもの月で飾りながら、怠惰なぼくを
一体、彼女がどう想っていたのか。
着飾った少女のポートレート、面影は
見も知らずドレスなら、見覚えがあるが。

-残されると辛かったから、やっぱり
 だから私は逃げないでいるの

そのシンプルで強靭な、彼女の倫理が
ただ哀しく、ひたすらな、深い
眠りがぼくを飲み干すのを待ちながら
-あなたは一生懸命じゃない
と笑いながら言った、その言葉なら、もう
忘れようとしている。

-ヤギのように食べている
 ヤギのように、食べている-
2015-03-26 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

眠り、そして眠る

寒さのなかで眠れず、眠りのなかで寒さに堕ちていった
ソファが温まれば冷たいままの私が
微かな熱となって、どこかに届いてしまう、
そんな不安に揺れる葉を見上げながら
深さを失ってゆく空を苦しげに舞う鳥を見ている
もしも、と仮定したいことを考えながら
一瞬で喪う横顔を愛しては、ドブに浸かる
どこに流れてゆくことも放棄したものたちとともに
ただ朽ちえるだけの時間しか共有せずに
その時間を緩慢にさせる寒さは どうしても、愛に似てしまう
ひとつひとつを抽象化するだけで無限に伸びる回廊を
知らない古代が歓迎するが、だれの歓声も聴こえない
だれの声も、届きはしない
腐敗の終焉に位置するドブに、
ひとつの安らかな眠りを置いて、私は眠る
2015-03-25 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

再誕前

視野から零れ落ちる季節には
毀れる雲、引き裂ける雲、堕ちる雲
波に足捕られて海になる雲
カーテン向こうに追い出した光の昼を想い出す
-あたながいない、あなたがいない
夢のなかでは、あなたがいない夢を見る
私がいない眠りのなかで、ひとつの季節
あなただけが、そこには(い)ない
2015-03-24 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

もしも歩いてゆけるのなら

もしも歩いてゆけるのなら川の音を足の裏に感じ、
そのまま繋がる海の波を想像で渡り、
永遠から隔てられた一瞬の水平線に立つのが良い。
あるいは永遠と一瞬の、正確なまんなかの水平線に。
そこでなら出逢うことができるだろう何かを、
それへの期待を植えつけられるだけで私たちが産み落とされた、
そういう何かを、いちどだけ手にし、大きく夜空に放るのだ。
星間空間を絶対的に統べる無表情な夜空の、
その永遠すら途絶えた永遠のなかに、
永遠と気づくことの出来ない永遠の不可能性のなかに。
そのとき足裏が泣くだろう、川のように。
そのときの泣き声を川の音として、
もしも歩いてゆけるのなら、そう、想うのだ。
2015-03-23 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空這う曇天のように

嘔吐感に満ちて曇天は、かすかな文様を描かずにはいられない。
遠くにまで拒絶した陽光を、さらに隠匿しながら地文を見下ろし、
やがて迎えねばならぬだろう天文の憂鬱さには死を以って対抗し、
今だけの感情をうねり描くほか、まるっきしの無力なのだ。

-感情、
 そう呼んでよいのだろうか、きみよ。
 情緒を捨てた冷たさの極だけを求め、その残り火だけで生きるきみよ。
 ここで私に代わりに、あの曇天を見て欲しい-

懐かしさを忘却だけが連れてくるように
捨象だけが愛を連れてくるだろう、
形象を知るものになら愛は与えない、
そして冷たい、寒い、冷たい、あまりにも冷たく寒い曇天の…

想いだせない夏の予感にだけすがりながら、
私の曇天は、それでも生きようとし続ける。
すべての愛、すべての憎悪を拒み、
ひたすらに嘔吐しながら、どこまでも
あまりに遠すぎる水平線、地平線、救済の、涯。
彼らの過酷さには絶え絶えに、曇天は、
透明な深紅を血に模して、空を這う。
2015-03-22 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

凍ったままの人

視界の悪い空を見上げても見えてしまうだろう、
その醜さを忘れさせてくれるなにかを求めて地を這うとしても、
もはや大地が与えられることはない。

それならば美しい人が座り続ける椅子の傍らに、
そっと水たまりが出来るように下る陽だまりをつくっては、
閉じられた瞳の見る景色を共にしよう。

もう開かれることがないだろう唇の朱さから
命を奪った証として紡がれ出ることばなら
一羽の鳥と一尾の魚が死体のまま奪い合う。

闇にあって白く染まりゆく宮殿の静謐のなかで
動くことを忘れた像をかき抱き、
いく人かが疲れ切ったまま泣いている。

静かな傲慢さを永遠にして、
妖艶な微笑が地平線を覆っている。
2015-03-21 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

小さく刻まれた時代に

冷たく吹く風しか愛せずに、きみの振り返る方向を迷い、
昨日が追いついてくるのを待ち続けている
ほんの少しの哀しみを微かな罪責感で癒しながら

山腹から見通せるだろう海については知らなかったので、
山小屋での話は皆目、分からない
山頂の写真だけを違う山の頂きとして見つめているけれど、
それは空中から、空高くから撮影したものだった

滑り崩れしてゆく氷河の音が響いてくる

もう大きな時代は過ぎてしまったのだと想えるように、
海が跳ねる音に耳を澄ましながら、
冷たく吹く風だけを吸い込んで、もう一度だけ
きみを探すフリをしながら眠りに就こう
2015-03-20 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

-今日-

書けないときは「書けない」とでも書けばいいと聞いたことがある、だれだったか。
書けないと書くことが書けないことを否定し、
書いた書けないが加速するのは行く方知れず、で。

ことばの重なりを不思議に想う、遊び、連なることもあり、離れたり近づいたり、
自由なようで自由でなく、自由でないようで捉えることさえ出来ず。
けっきょく手放そうとしながら手放せないことばを探しているだけなのだ、
などと、取ってみても、しっくりは来ないね。

少し本を読み、少し休む積りで長い昼寝をしてしまった一日だった。
一日が昼寝に吸収されて消えていってしまうような一日だった。
昨日も同じで、同じことを書いた気がする。
一昨日は覚えていないが、すぐに今日も一昨日になるだろう。
それで良いんだと、少しは哀しげも装って、明日はなにが書けないのだろう。
2015-03-19 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

青空は低く

いくど、使うまいと想ったことか、
ましてや、なにがすらも怪しいというのに-

近さより、遠さが疎ましく、
それでも遥かさだけを助けとしてならば
続くだろう歩みのなかで季節を変えよ。
なにごとも忘却の深みに沈み、
それでも君だけを想い出したならば、
終らぬだろう別れのなかで出会いを捨てよ。

だから言うまい、使うまい。
むしろ唇を噛んで紅を引き、
乙女のようになろうとも、
決して口には出しはしまい。
2015-03-18 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

もう土に、還ることができない

もう今では煙も立ち上らない煙草を咥えながら、
ただ過ぎゆき終わろうとする冬を見送っている木には新芽の気配がない。
広がるだけは広がっている枝々の向こう側では
緩いカーブが哀しみに寄りそっていて、その先には
君が想い出している海が広がるのだけれど、あまりにも小さい。
懸崖に散るのは波飛沫より深くから蘇る涙であって欲しい、
そう想いながら散りゆく流星を見つめる瞳を探している。
するりするり、と、それはすり抜けてゆかなくては、
そうあらねば哀し過ぎるので、するりするり、と私は告げる。
捕まえたままの透明な甲虫を掌に、
開いたままの手の平から飛び立とうとしない、
その透明な甲虫を君は冷たさから救おうとしているが、
あまりに遠過ぎて私には分からない。
ただ「分からない」としか言えないことが哀しくて、
その哀しみに耽溺し、溺れてしまいたいのに溺れられず、
一艘の哀しみを糧に虚無の涯にまで行き着きたいのに、
水平線は、いつまでも水平線のままだった。
あの木が咥えていた煙草を一本、譲り受け、
どこまでも立ち上ってゆくだろう煙を一塊、吐き出した。
哀しみは、どこまで行っても哀しみのままだった、
ついに飽いた甲虫なら、透明さを喪って土に還っていった。
2015-03-17 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夜すら夕暮を愛して

愛しさばかりを抱いて、
陽が沈んでゆくのを見守っている風が吹いている。
ふり返ることを知らない風にさえ、
よそ見を与えるような季節なのだ、かなしいと、だれかが言うだろう。
いくつかの林立する木立と電信柱、
わずかばかりの苔に似た緑を羽織った路面、
路面から繋がろうとする地面、湿り気を帯び、
ひとつ前の季節だけを生きる地面を求めて地平線がやってくる、
あるいは水平線、だれも知らない。
どんな理由さえはねのけてしまう強靭さで、だれもが弱り切ってゆく。
夏が過ぎ秋が終わろうとするときの、あのバッタに似た虫が、
いちどきりの跳躍を見せるように、あるいは。
ぼんやりと見えるだけの光、その光源を知ることさえ出来ない光があれば良い。
それだけで、きっと十分で、それだけで、すべてが上手くゆく。
「あまりに明るいのは苦手だよ」
彼が苦笑いした理由を想い出すように、陽が沈んでゆく、ここで、
だれかが並んで立ってくれるのを待っている。
そう言いたいような、夕暮れを過ごしていた。
夜の訪れは、いつだって残酷なほど早過ぎるだけだ。
2015-03-16 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

花のように

可能な限り遠いことば、その連なりを、
信じれないことばを信じるふりをして、信じたかったのだ、そう言ったはずだ。
足下には、すぐにでも拾える光る石、光らない石、そして砂-
つまり指の間を滑り落ちることしか知らない、あの砂、つまり川、
それらは川だった、とだれかが伝えただろうか。

語りかける人々を振り払うための反転、反転、
回転にまで届きはしない反転のなかでだけ巡る。
もはや哀しみの裡にのみ生まれるものたちと、
いくらでも沈黙を保ち続けていることが出来た。
それと時間と名づけながら、それだけを-
もう知らないものたちとの間に横たわらせて、
花のように静かに眠ろう、それは、花のように。
2015-03-15 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

被確定

いつ終わるのだろうか、あの何処までとも知れぬ不気味な空の蒼さは。
疲れ切り、もはや書くべきなにものも持たずに拡がる白紙、
無限の広さにまで押し拡がってゆく白紙が絶望的な重さを運んでくる。
拒絶の理由を問いつづけられ、ただ、意味もなく裂け散るのは丁度、
ひとつの季節が切り裂かれて何かが降り注いでくるのに似ている。
それが雨ならば濡れ、雪ならば震えるように、しかし-
ここから降り注いでゆくだけ、なのだ。
ただ見送るだけのことができず、ただ、無力に無気力に手を振っている。
別れ際の、この手を降りつづけているというのに、しかし、
いつまでも眠りを遠ざけ続ける疲れのなかを歩いている。
もう数歩で倒れることを確定する歩みのなかにだけ、いる。
2015-03-14 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

禁じられざる涙を禁ずる

春になり、朧というのだろうか、そんな空気が棚引く空だ、
まだ蕾さえ見定められない道を、まだ咲いてもいない花が散るのを想い出しながら歩き、
そしてコンビニに入る。
「…円になりますぅ」
少し語尾が上がり調子で延びる、今の時期には珍しいレジのお姉さん、どこから来たのかな?
そして煙草を受け取り、人通りの少ない住宅街を過ぎながら、私は遥かな最後の一人となる。
ひとり、ひとりと死んでゆき、あるいは殺してゆき、すべての富も技術も知識もなにも、私だけのものである。
最後の一人、私だけのものである。
現代が困難を、特有の困難を、もし抱えているとするのならば、
私たちは最後の一人として私を差し出さなくてはならない。
そこまで、すべてを推し進めること、それが考え得る最善の方策である。倫理である。
立ち止まることは許されない、自由を、あらゆる意味での自由を抑制することは許されない。
あらゆる法律は、これをひとつひとつ、抹殺してゆかねばならない。
あらゆる憎悪を、あらゆる哀しみを、あらゆる寂しさを、あらゆる-
それらの負債を引き受けて、なお、最後の一人として爛々と春を歩まねばならない。
もはや資本は流通しないがために絶対的な資本主となり、
宝玉を自慢するために完全なる自己を相手とし、
過去の全技術、全知識を手中にして自由闊達に使いこなし、
世界に、君臨するのだ。
春が過ぎてゆくと、かすかに花が開いてゆく音がする。
私のためだけに、ただ私のためだけに、花が開いてゆく音が、
かすかな優美さで、私の涙を覆おうとする。
そして私は、泣くことを、禁じる。
2015-03-13 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

じーちゃんの右側

じーちゃんと並んで畑を見てたとき、農家になりたいことを告げた。
「お前にはできん」「体なら鍛えてるぞ!」「農家は儲からん」
じーちゃんの左顔は嬉しそうだったが畑が悲しく見えた。

みんなが前を向いてるとき、後ろを向いた
みんなが後ろを向いてるとき、前を向いた
みんなが空を仰いでるとき、地に目を伏せていた
みんなが地に目を伏せているとき、空を仰いでた

じーちゃんは、みんなが向く方のことも知ってた
みんなが向かない方にはややこしいことしかないことも
「それしか、できないからね」
そんな風に言うのかな、生きてたら

じーちゃんは寺男、親もはっきりとは分からない。
大きな地震に大きな戦争、色々とあった。
「カエルが鳴いてるぞ、聴こえるか?」
じーちゃんは寝つけない夏の夜、カエルの鳴き声を聴かせてくれた。
田んぼの真ん中にある家で、はじめてカエルの鳴き声を聴いた。

じーちゃんは左の耳が聴こえなかった。
じーちゃんは海軍の砲撃手だったから。
じーちゃんは、いつも、

色んな、じーちゃん、じーちゃん、じーちゃん
もう、じーちゃんと話すことはできないのかな

カエルの鳴き声を聴き分けるよ
畑も少しは耕すよ
みんなと反対の方を向くようにするよ
じーちゃんほど、うまくはいかないけど

娘がね、親父のことを「ずぃーちゃん」って呼ぶんだぜ
親父まで、すっかり、じーちゃんになっちまってね、おっかしぃんだぜ
それにさ、今は「祖父は…」って言ってるんだ、じーちゃんのこと

じーちゃん、言ったことあったかなぁ?

じーちゃんのこと、大好きなんだよ、おれ

じーちゃん、聴いたことあったっけか?
2015-03-12 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

消極的な風だけが吹いている

望むことくらいは知っているはずなのに、私の心は黙ったままだ。
欲望と名を変えてみても沈黙に閉じ込められ、偽装され、どうにも引き出しようがない。
見られたいだろう、そうでなくても知られはしたいだろう、
そうも想うのだが、見えない、目隠しさえ見えない、音もしない。
真っ暗な透明を手探っても虚ろさえ響かない。
それでも生きているという、生物学の不思議を想う。
生きたささえもが偽装され、あるいは偽造され、
しかし決して積極的に死にたいというわけではない(自殺など真っ平御免だ!)。
もっと…もっとも消極的な死だけを生きている。
消極的な死を生きることしかできないでいる。
不可能なことだとは想わないし、考えてもいないことが、
むしろ普通に可能だろうことに身体が、心が向かないのだ。
まるで明後日の方しか知らないかのように。
方向性を失ったわけでもなく。
愛する人を喪ったわけでもなく、
なにが欠けているとも言えず(実際、なにも欠けちゃあいない)。
分かるんだ、分かっているんだ、多分、分かり過ぎるほど
だけど、分からない、だから、分からない(としか言えない
窒息しない限界の息苦しさのなか、心音だけが高まってゆく。
せめて泣くほどの、涙が流れるほどの、哀しみを
それさえあれば生きてゆけそうな気がする哀しみを
胸を引き裂く哀しみを、と、中身のない涙が追いかけている。
それらは、形而上的なものだよね、と言って欲しい、そして納得したい。
そうでしかないと知って爽やかな陽の下に…
2015-03-11 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

君がいるところは知らないが

その系譜のただなかにあって哀しみとか愛だとか、そういう言葉を使いたくないときは少なくない。
新しい言葉が欲しいと想えるうちは、まだ良い方で、なにも言いたくない投げやりとでも言うような気持ちと、それでも何か言いたいという気持ちの間で揺れる。
ひとが揺れるものに魅かれるのは、きっと、そんな何かがある。
ブランコに乗るのは、きっと、そんな何かに似ている(だからと言って、その人が揺れているばかりでもない)。
言い尽くせ、言い尽くせ、せめて言い尽くせ、と想いながら言葉は紡がれる。
「どこまで?」「終点まで」
それは哀しいことか、虚しいことか、切ないことか、負に負を重ねてゆくだけのことか。
私たちの負う負債はあまりに大きく、それを量りたいと想うだけでも愚かなだけの、そんな程のことかもしれないとも想う。
あまりに大きな期待を負わされて、それが言葉なら、悲鳴を上げる間もなく窒息してゆく。
使いたくない言葉を重ねるだけで詩になってしまうようなことは、慎重に避けたいと想いながらも、それも中々に難しい。
だから私たちは私たちの文脈を創ろう、涸れても涸れても、何度でも。
ありえない「私たち」を果敢にも謳い、信じるに値しない文脈を流し、疲れ果て、
しかし、私には君がいる。
どれだけ遠く、もしや知らないのにも関わらず、君がいる。
君がいるのだ、私には!
2015-03-10 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

眠りを過ぎてから眠れよと手紙は書かれる

この眠れない夜が嘘だとしても、
眠れない夜として記録するだろう、秒針の音が
抱える世界を(愛しておくれ)歩き続けている気がする。そんな記憶の隅にある心象が、
静かな傷と青い痛みで柔らかで真ん丸の月を創るように祈ってみる。
その平板さは比類なく、薄さは月の光より薄く
眠れない嘘をいくつか想い出しながら、遠い日の恋さえ想い出しながら、
わたしを忘れているあなたは追いながら、
それは虚しい日ではありませんでした、と告げたかった、そう、想います。
新しい手紙が先に読まれるように、古い手紙を書いています。
いつまでも続く忘却を願いながら(かもしれません)。
そのようなためらいを、あなたなら笑うでしょうか、笑うでしょう
にっこり
と、笑うのです
そして私も笑うのです
少し古い童話を想い出しませんか、と問うだけのことでも手紙を書きます。
のどが渇いていませんか、と問うだけのことでも手紙を書きます。
寒くありませんか、暑くありませんか、どこか痛いことはありませんか
眠れない夜には、あなた宛ての手紙が想い出されます、
あなたを想いながら遠く、小さな背中をうんと小さくして
あなた宛ての手紙を書いている私を想い出します。
あの眠れない夜が嘘だったとしても、眠れる夜として記録していた、
冷たく狂ってゆく川の瀬音、急に激しく叩き付けるための音、
それだけは嘘であるに違いないと、想ったはずだった、
あなたの煙草の煙だけが真実のようで放心を知っていた。
眠りましょう、もう、眠ります
2015-03-09 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

思想家の資質

本棚の奥から懐かしい本が出てきたのでパラパラと読んでいた。
「批評とポスト・モダン」という柄谷行人の著作だ。

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2015-03-09 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ぼくたちの川で

昨日の足音しか聴こえないバス停では雨が待つと告げていて、もう少し先に行くと、きっと季節のない海に出るところで冬と出遭う。九十九折からはみ出した程度で良いから休憩所があれば良い、崖に沿ってだれしもが想うけれど、その頭を休憩所にしている。

うんと美しい、川かな、川を見たいね-
きみの注文は、いつだって難しい。鳥が飛ぶように風が吹き、きみは泣くことを諦めていた。
どうして川を捨てたのか、想い出せない-

想い出したように鎧戸の向こうを過ぎ去るバスのエンジン音は、いつでも遠ざかる音だった。そのことについて話そうと窓を閉じながら、きみはソファに倒れ込むだけで眠ろうとして眠れない。
いつでも火が絶えてゆくばかりの暖炉の前で、きみは時間を見つめ始めるだろうか、想い出はいやらしさにしか属さないね。それでも、いくつかの詩がつぶやかれはしたのだ、残ることを拒絶するだけで詩であろうとする詩が。

忘却と、ひとの言う、忘却、と-

きみの隣が、だれでも待ち、だれをも待たないように空いたまま、ぼくはそこを川なのだと想う。
ぼくたちは川なのだと想う。
2015-03-08 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雲の上にある日

冬は赤い靴を想い出す、それを踏み潰す醜い女どもも。
それがピン・ヒールなら蹴り折るのが都会の習わしだった。
今では、そういう風習は消え去ったらしいと聞くが-

吐き気だけで生きている午後、
雲向こうで飛翔するジェット機の音には哀しみを引き渡したい。
墜落現場に人がいたとしたら、それは不運なのか。

(ただ一つきりに近いほどの体験でさえ、それは不運なのか)
そんなことを考えながら腰を撫でて農夫が農婦を見やる。
農婦からは遠い山を越えるような声しか戻ってこない。

「山の反響がさぁ- 畑に吸い込まれるよねぇ- 」

山に幾筋も反響する光を背景に農婦も少し立って腰を撫でる。

都会では何本ものピン・ヒールが折られ始める。
ゴリラに似た肢体で美しい女どもが歩くことも出来ずに座り込む。
地下鉄の列車の轟音が髪を切り裂き、
「ヤマンバだぁ」と子供たちの嬌声が響きを重ねてゆく。

ジェット機が囁くように墜落しながらつぶやいている。
「山の反響がさぁ- 」
少し雲が濃淡を変えただけで一日が終わる、平和だった。
2015-03-07 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

道の涯

数え終った憎しみだけが石の形で路傍に砕けず置いてある。
兵士は消えた、遠くではなく、すぐそこで。
震える子供たちを見かけることもなく、ただ風に揺れる背高の穂草が時を刻む。

だれかが歴史ということばを刻んだ砂を、
砂場に散らせるか、海の浜に、あるいは川傍に散らせようかと談義が始まる。
ひとりの痩せた女が冷たい視線だけを落ち着きなく動かしている(黙ったままだ)。
子供たちは女を自分たちの前から外さずに後ずさる。

人のよさそうな中年の男が優しく語りかける。
「兵士は消えたよ」
子供たちが繰り返す。
「兵士は、消えたよ」

見失われた道が無数の石を抱きながら夕暮を待っている。
子供たちは手を取る相手を、今度こそは間違えないように、と
道の涯を見続けている。
2015-03-06 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

不要な一日

無線の電波が…切れました?切れています?切れるでしょう?
ふむ、ふむ、ふむ、、、
<切れる>とやらを通じて電波とやらを、いわば<見る>と、そういうことかな?

さても木立のなかを行く細く揺らめく頼りなき影、
蜃気楼のような揺らめき、
遠ざかりも近づきもせず、
しかし向こうを、あちら側を志向してはいるようだ。

ああ、なんとも不確かな存在、見渡せば無数の同じ様の影、蜃気楼のような…

昨日、通話できた電話を覚えているだろうか、今では赤くもない電話(正確には電話機だろうか)。
そこにたたずんでいた行方不明者。
すべて無線だった、そのときの空も雲も、もしかしたら降っていたかもしれない雨さえ。

一本の糸だけで朝と夜を結びなおし、暁に吠えてみよう。
そんな予定を立てながら、今日いちにちを耐え忍んでみよう。

なにごともない、なにごとも起きない、なにごともなにものになれない-
【けっきょく恋人は、要らなかった】
2015-03-05 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

路線バスが残されて

疲労の影を見つめている視線には瞳がない。
それは夕暮だけではない、むしろ明るい昼間、
早朝の青い空の下にさえ落ちている。

ガラクタのように疲労だけを残して立ち去ってゆく、
軽やかなステップ、哀しみのスキップ-

無垢の微笑みは惨殺現場のなかでも無垢のままに、
慈母の想い出は薄らいで薄明のなか、遠い内側に沈んでゆく、
小さな手が一杯に拡げられて宇宙が始まろうとする(宇宙?)。

なぜ黄色い壁際で、そのようなことが、ことたちが起きるのか?

人通りのない田舎道を通りすぎることしかできない路線バスを、
運転手なら放り出して土手沿いに散歩して消えていっただろう。
だれも責められやしない、責めちゃいけないだろう。

ああ、雲が飛ぶように歩いている空を横切って、
今日の虹は消えようともしないのだ。

取り戻せない瞳を抱えたまま暮れてゆく空を夜に見上げ、
そこがひとつの国境なら、だれもが立ち止まり、だれもが嘆く、
そんな川沿いに運転手なら、消えていったのだよ。
2015-03-04 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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