その喧騒のなかで君の破片を拾う、そういう可能性はあるのかと君に問う

ひたすらな喧騒が追いかけてくる
静けさをもとめるからだと嗤いながら

思考を奪われながら遠さが距離を喪失してゆく
これが生きてゆくことなのだ
そう笑うひとびとのなかで
ひとつながりの記事すらない新聞の破片を拾う
切れ切れの記事の端にだけ住んでいるように

本を手にしたのはいつだろうか
冷たい川の風を想い出す夜風が吹き込んでくる
きみの冷たい手が局部に触れ
萎れる性器を哀しげに見つめる沈黙を想い出す

去勢するのに道具が必要だろうか
去勢する必要のある対象物を所有しているだろうか
去勢されるに足る何ものかが付属しているだろうか

もう、なにも知る必要はなかった
もう、なにも聴く必要はなかった
見るもの触れるもの、あらゆる感触を殺されて
ただ街灯の影だけを追っていればよかった
もう、きみのことを知ることもなかった

初出:note.mu(20150603)
2015-06-30 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

きみの愛が、わたしたちを追いかけてバスは発車した

傷だけでは足りないと血を求める
きみの愛は飢えきっているから
自らの姿形を喪ってしまったから
忘れてしまった姿形を取り戻すため

それは草むらで、よりロマンチックには草原で
大きな月の見える丘に雨が降る夜
傷を、つづいて血を
求めながら、きみの愛が干からびて
潮風を呼んでいる

岬をめぐる鳥に色を与えるように
静かな星の弾ける音を与えている少女のように
年老いた男は銀河にも手を伸ばす
指先をめぐる血の温度を星に変えて
ついばむ鳥を愛する方法を確かめている

幾重にも大きく振られる帰り道
疲れきった川を幾筋も渡りながら私たちのバスが往く
バス停を持たないバスが走り始める
きみの愛が追いかけてくるので
バス停を持たないままバスが走り始める

夜の加速に更に加速を加えながら
きみの愛が追いかけてくる
私たちのバスは冷たい車体を揺らすこともない

果てのない白銀を滑ってゆくソリのように
少しは白い時間を蹴散らしながら
それでも眠りを脅かすほどの音はたてることもなく
あの森のなかを、見えない森のなかを目指して
私たちのバスは走り始める

初出:note.mu(20150613)
2015-06-29 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

過去メモ~200150622~20150628分転記

適当&ランダムに(一部改変)

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2015-06-28 00:00 : メモ帳 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

崩れずに崩れたままの均衡を

開きかけた、閉じかけた
どちらにも想える扇が不自然な緑を宿す枝に静止していた
いつでも瞬時に飛び立つ小鳥のようにも見える
違うのは空がないことだろうか、空は潰れている

きみが疲れきったままよろめく帰路を
軽やかに通学してゆく学生たちが大勢、過ぎるだろう
そこから遠くないところにあるようだ
それを象徴と笑うのも良いのだが
いずれにしても一瞬のことだ

開きかけ閉じかけ、閉じかけ開きかけ
どちらに傾くかは過去に依存するのか未来に依存するのか
そういう問いの仕方をきみは好んだかもしれない
今は、もうどうでもいいかもしれない

閉じられようとする窓をすり抜けて
かろうじて飛び出した小鳥が後も見ない
それだけで十分だった、そう想う
脱出というのは、そういうものかと想う

初出:note.mu(20150611)
2015-06-28 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

光る道に始点と終点を引き渡した君は斃れただろう

ときおり現れる一本の道なら
両脇には数えられるほどの数えられない枯れ木に似た木立
その先に浮かぶ真っ黒な太陽は決して日食中ではない
向こう側に、より大きな月すら浮かぶだろう
そんなことを考えながら少しづつ忘れてしまう君を
私は許すことができないでいる

聞いただけで見たことのない九十九折の階段に伏し
私たちは折り重なっているが
君は海を見るか、それならば私は山を見るか
私が海を見るか、それならば君は山を見るか
ふたりして海と山とを同時に違えて見ているだけだろう

重なるほどに遠くにいることで立ち上がってしまう
座り込み倒れこみたいのに立ち上がってしまう
烽火は激しい、赤黒い炎も何本も立ち上っている
着弾音が激しいあいだを縫って遠い私たちが立ち上がってしまう
そんな、ときおり現れる一本の道なら
不吉な鳥の一羽さえいれば十分だ

そして、いつか聞いた郷里の話を共有した
郷里を創生するのだと沸き立つひとびとのあいだで
ひっそりとだれも振り返ることのない郷里の話だけを

舞うように湧き出ずる黄金を抱える国で
どれだけの不幸を生み出そうかしら?
愛なら到底、不足しないほど満ちているわ

すべてがあまりに狂気すぎていて
すてべがあまりに正気すぎる
だのに私たちの道には狂気も正気もない
ただ曲がりくねった直線、迂回だけを知る直線の原理に従って
寂しい歩みだけを、哀しい立ち上がりだけを存在せしめているだけだ

初出:note.mu(20150602)
2015-06-27 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

蟷螂の夢

初出:Tumblr(26 6月, 2015)

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2015-06-26 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

501

初出:Tumblr(26 6月, 2015)

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2015-06-26 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

問うきみ、問わないきみ、希望しない逢瀬

狭いトンネルを抜ければ名を変えながら咲く花畑だ
振り返るだけで変わる名前を追いながら花は咲く
季節を追うことを許されたまま追うこともできずに花は咲く

いくつかの周回するソレを星と呼ばないように
注意深く花は咲く、あるいは咲こうとしている、
そうして咲こうとしていたはずだろう、花は

山を織るように陽が沈んでゆくと
山人たちの悲しい声が海から吹き上げ来た
花よ、花よ、と求める声だった
応えるもののない声だった

狭いトンネルを戻ると名を変えながら光る街だ
振り返るだけで変わる名前を追いながら街は光る
星のめぐりを知ることを許されたまま
星をしることもできずに街は光る

そんな街と花畑のあいだだけだった
いつも少しほの暗い場所だけだった
きみの横顔にトンネルの天井から水滴が落ちる
涙に似せてきみは笑う

いくつもの、あるいは皆無の
愛を与えてくれますか?

一滴の水に溶けてゆく、きみが問う

初出:note.mu(20150610)
2015-06-26 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それは「手負い」か

初出:Tumbler(25 6月, 2015)

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2015-06-25 00:00 : メモ帳 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ただ哀しむためだけに

もし穏やかなだけの昼であれば夕暮れの遠ざかりは愛しいだろう
穏やかさを愛するひとにとっては愛しいだろう
そこに幾重にも複雑な論理が機能しているとしても
そのことを、まったく知りもしなくても、知っていたとしても
そのひとにとっては愛しいだろう

それは哀しいことだ、とても哀しいことだ

しかし哀しいことがなかったならば私たちは
まるで決められた動きだけしかできないロボットでしかあり得ない
だから哀しみに見舞われることはロボットになることへの拒絶現象だ

愛しいものに恵まれないこと、報われない愛だけを抱いてしまうこと
それらすべて、もし哀しみになるのだとしたら
私は多分、まだロボットではないのだろう

夕暮れが一日、一日と遠ざかってゆく季節のなかで
穏やかな昼の光を浴びながら
それでも私は哀しむのだ、ただ哀しむためだけのために、哀しむのだ

初出:note.mu(20150610)
2015-06-25 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ブツカル

初出:Tumblr(24 6月, 2015)

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2015-06-24 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ある薬害記録

初出:Tumblr(24 6月, 2015)

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2015-06-24 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

未完成の約束

未完成の季節だけを描き続けるきみを追いながら
そっと見上げる空には無数の季節、
そして追う足、止まった足から足音だけが響く
渓谷、止まったままの足音だけが響く渓谷だった
川を見たものが終焉を見るような
いつもそこから季節が始まるような
渓谷、それは渓谷だった
きみの足跡は確かさを以って描かれていた
そこに季節のひとつひとつを残しながら
季節はどれもひとつ未満だった
ああ、風が吹く、きみも知らない風が吹く
安堵する足音が響くのは、山頂にしよう
白い渡り鳥が延々と連なり越えてゆく
メビウスの輪を眺めることができる、
そんな山頂にしよう
わたしたちは、そんな約束をしようとしていた

初出:note.mu(20150610)
2015-06-24 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

一日を終わらせるために峠があって、しかし知らない峠である

美しさを刻むだけで去ってゆく残酷な一日は峠から放った

そのとき季節も喪われたが、きみへの愛を語ることばは戻らないまま
戻れない場所で無限のリピートをくり返し始めたし
知らないことばだけが作り損ねた紙飛行機のように舞い戻ってきたし
手紙を入れ損ねた封筒のすべてが投函されたように消えてしまった

残された封筒を持たない白紙の手紙を前に一枚の鏡を立てると
決まって甲高い悲鳴を響かせて割れてしまうので
もう、だれも白紙の手紙の前には立つことすらできない
ただ盲目の少女だけが白紙の手紙に書き記す特権者だった
それで彼女とも彼とも呼べる少女に花束を

夕暮れの風は好きになれないといいながらきみが巡った池の傍では
読めない手紙を手にした三人の男がベンチを陣取る
そうしてどれほどの月日がたとうとも夜空を見上げようとはしないが
きみは時折、黙って彼らの横を過ぎて池を巡る

海ほども大きな池をどのように巡るのか
きみは問われるたびに笑う
「あなたには海ほどにも大きく見えるのね
 きっと、ひどく寂しいひとなんだわ…
かきけされてしまう語尾を風に乗せてきみは巡る

残酷な一日だった、それだけに美しく
しかし、きみのいない一日でもあった
きみを得てきみを喪うだけの一日だった
なにも起きることなど持ち得ない一日だった

峠からは重畳したまま死にゆく一日たちが見えるだろうか
彼らを軽く放るのは決まってきみだから知るひとはいない
ただ傍証だけを頼りに、そんな風に語られていることがあるだけだった
もちろん、傍証だけでじゅうぶんだった
ただ峠から放られた一日があり、それは美しく残酷だった
それだけを少しいってみたかっただけのことだ

初出:note.mu(20150610)
2015-06-23 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

過去メモ~200150615~20150621分転記

適当&ランダムに(一部改変)

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2015-06-22 00:00 : メモ帳 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

ある雨の日の夜のエピソードとして

否定では弱すぎる季節を拒否する季節で覆いながら
拒絶だけを傾斜に変える坂道を歩いている
フェンスが網になると見通すことが容易になった向こう側は
たどり着くことの不可能性でしかなかったのだが

網フェンスにひっかるように身をもたせかけていると
横に転がってしまい縦に転がることを忘れてしまいそうだ、
そういって笑うきみを愛していた
縦に横に転がりながら私たちは愛を方々に放り捨てていた
それしかやることがなかったからだ
あるいはクモが蝶を絡め捕るのに似ているだろう、それは

クモは種類によってさまざまに糸を使うと聞いた
土中にもぐるためのふたを作るもの、
投げ縄のように放るもの、
普通に巣を張ってただ待つもの
愛は私たちを絡めとろうとする策略のすべてを網羅するね

さあ、否定、拒否、拒絶…
そのようなものたちだけでは語れないこと
そういうことを語り始める時期すら訪れることだろう
その強度を私たちが獲得するまでは待ってもらいたいものだが

知っていたかい、あの網フェンス
ちょっとした工夫で破れるものらしい、あるいは穴もあるらしい…
そうして長い長い坂道を下りながら、
私たちの無為な傷つけあいだけが生きている
私たちの死を迎え入れるためだけに季節は、色を変えている

初出:note.mu(20150609)
2015-06-22 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

From Note.mu

それは、どこかオマージュに似ていた(Moovies)

レコードがないなら画を聴けば良いじゃないと君は言う(Graphics)

あまり溜め込みたくない、転記したら削除したい(Talks)

ある日常(Notes)

Maybe About At June,2015
2015-06-21 00:00 : メモ帳 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

比喩に遠すぎる場所で記憶を結べば、きみをみることができただろうか

もうすこし遠く離れてから語るべきことが多すぎて
遠ざかりを待っていると、なにも語ることができない
その無言を愛することも考えてはみたが
遠く離れてしまったときには忘れているだろう
すでに記憶の外延を零れ落ちているだろう
だから、その縁をなぞるように語るわけだが
それでも輪郭の怪しい陽炎だけが闇夜に浮かぶばかりなので
別のことを語るしかない
そうして今を今として語らずに過ぎてゆくきみを
自分のように見ながら歩き続ける影を追っている
せめて巧みな比喩の距離を保つことができたのならば
それはひとつの詩にもなるのだろう
あるいはひとつの愛にもなるのだろう
そう、分かっていても手元には比喩がない
降らない雨にさえ壊れてしまったことばの欠片を拾うように
ただ黙って並べることしかできない
それで良いじゃないか、と語り掛けるひともいない

初出:note.mu(20150608)
2015-06-21 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そのとき詩人を持たない詩碑が重力を持ったかもしれない

「もうひとりになっていいだろう」
そう言いはじめて気づく遠くまで長い廃線の線路は陽に照らされてまばゆいほどに光っている。そのときの線路は一メートルほどだったし、それを永遠の一メートルと呼んでよかった。そこにはお決まりのように菜の花や名も知らぬ花を捧げておこう。

「揺れるのは傘ではなく陽の光なのよ」
そう笑うきみさえいたかもしれない季節を夏と呼んだし、冬とも呼んだ。忘れられたように春と秋が交互に過ぎてゆく。夏と冬は常に一緒に訪れてくるから雨季は休む暇がない。すべての季節に雨季が訪れるからだった。
梅雨を憶えていないので次の梅雨が訪れることを知らないままでいるが、傘ならどこにでもあるだろう。一体、傘のない世界など見たことがないのだから。

そんな少女のような戯れに付きあうのも、たまには悪くないものだ。ただし、あまり近寄らないで欲しい、できれば見えなければ尚のことよい。
坂道を下るのは中々に忙しくて、何がほしくてそんなにも引き寄せようとしているのか分からない重力だけが二本の足を交互に引っ張ってゆく。足が二本で足りなくなったら転がるのが最善なのだろうかと「効率」という言葉を想い出す。

そうこうしていれば線路からもずいぶんに遠い。無数の花々も、もはや数の外にはみ出している。もう一度くらいは言うべきだろうか、少し悩みながらひとの気配を恐れているので言うべきだと想う。
「もうひとりになっていいだろう?」

応えるひとのない問いをくり返しながら転がるのも楽しい気がしたし、放り出された足なら夕暮れの空に、と言いたいところではあるが、あいにく夕暮れ時ではない。より正確にいうならば、どんな時間でも良かった。
ただ、そのときの空に足なら放り出された、それだけで十分だった。

いくつもの季節を同時に感じながら少しだけかもしれないひとりを、それでも感じれれば嬉しくて泣きそうになる…そういっていた詩人を少し想い出すように創造する。
詩碑にまで到達してしまったならば回転が止まってしまうだろうから、詩碑が遠くにあることを望みながら、わたしだけの詩人を創造しながら愛し続け、遠くまで遠くまで坂の下を転がり転がり、決して底のないことだけを祈る鐘を鳴らし続けている。

初出:note.mu(20150608)
2015-06-20 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

我らの分水嶺を存在せしめよ

分かれるために出会った分水嶺で別れることができない
分かれたまま別れることができない
出会いが偶然であるように別れは物理的必然に従うだろう
焦ることもなく増してゆくばかりの重力量なら
ちょうど分水嶺を目指して分水嶺に切り裂かれゆこうとしている
別れずに分かれるために私たちは私を複数に
あるいは二の累乗的に
あるいは四つに分かれてから二つに収束する
不思議な細胞分裂でもするかのように
それらすべての現象に興味を向ける必要はないし
興味を向ける気にもならない
むしろ今、問うべきなのは我らの分水嶺がどこにあるのか
我らの分水嶺はほんとうに存在するのか
いつまでも向かい合ったままの私たちが
出会う前にまでさかのぼりながら思案を重ねている
「分水嶺は確かにあったはずだ」
きみが言うように私も言う
なんなら歴史も言うだろうし、昼と夜も言うだろう
首をかしげながら言うだろう
「分水嶺なら確かにあったはずだ」
いま私たちは我らの分水嶺を見出さねばならない
異なる水脈をゆくためだけに
ただそれだけのためにしか出会うことができない我らのために
私たちは我らの分水嶺を見出さねばならない
なんなら協働して分水嶺を作り出さねばならない
地下水脈となり低く低く標高を喪うまで流れゆくために
そこが終点だとしてなにが私たちを待ち受けているのか
それを知るためだけにでも我らは分水嶺を必要とする

初出:note.mu(20150607)
2015-06-19 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

きみのいる空、いない空

きみを想い出す時間を抱いた
そこに置きたかった夕暮を知らないまま
星だけが満ちた夜のはずの空
ふたりが並ぶと海のうえにひろがった空
段々に見晴らしを良くする菜の花畑のように
きみとの会話にはすべてを忘れさせるものがある
だからいつでも季節は冬だった
夜空という夜空を探しながら星だけと出遭い
段々の菜の花畑をはぐれながら上り
ようやく下りを見つけたかもしれないと
振りかえればきみはいない
それでも鼻唄のひとつでも覚えながら
そんな風に想いながら
きみのことを忘れるための
段々畑を下ってゆく
ひとかけらづつ星が堕ちてゆく
空が夜を取り戻してゆく
夜から夕暮へと戻ってゆく
きみを想い出せない時間を抱きしめる
その季節も冬だった
秋に似た冬だったとだけ
書置きに似たなにかを残しておいた
そう、記憶した

初出:note.mu(20150606)
2015-06-18 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

動かない、しかし動いている、しかし動かないでいた

遠くばかりを横切る多分、車を追うように視線を移す
移すといっても移動する、移動するといっても動きはしない
緩慢さのなかの緩慢さだけで風が吹こうとしているが
愛を謳う場所に留まろうと渦を巻いているばかりだ
季節を越えようとする陽光は、いつでも眩しい
ただ幻惑するだけで通りすぎる冷たい令嬢のように眩しい
もう前の季節、その前の季節と追いながら秋を越えて冬を越えた
春と夏を想い出すのは難しい
秋ならば少しは想い出せる気にさせてくれる
それでも秋を覚えていないので冬について語ろう
しかし雪を覚えていないので冬を語りにくい
ようやく想いだしてきた秋の落ち葉のようには冬を語れない
きみの唇の感触だけが冬という記憶に重なるばかりで
それを冬と呼んでおこう
「その車は、まだあるの?」
もし訊く人がいたならば、こう答えねばならない
「その車を消すために見たのだよ」
横切られていたのは、やはり水平線ではなかった
ただ、どこか乾いた遠く、
光を拒絶したまま光る遠くのことのように覚えている

note.mu(20150606)
2015-06-17 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

そのときだけは坂道を転がれないボール

振り返ったときだけ陽のあたる坂道を
いろいろな雨に打たれながら空気の抜けたボールが転がろうとしている
転がることさえできないまま下ろうとしているのか
上ろうとしていたことを忘れているだけではないのか
雨を避けて陽の当たる坂道を、もう振り返る勢いもなく
こどもたちも振り返ることなく
ああ、もうボールですらない、転がれないものは
もはやボールですらない、そう言うべきだろう
つぶれたままのボールが並ぶ、そんな坂道で
古老のように腰かけた黒い犬と黒い猫が
互いの名まえを覚えようとネームプレートを見つめている
すべてを無視して古いカートがひとりだけ
スルスルスルと坂道をわがもの顔に下り通り過ぎてゆく

初出:note.mu(20150606)
2015-06-16 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

空は時を刻めない、認めない、あるいはそんな風に言ったかもしれない

なんということもない空に時間がない
朝の空も昼の空も夕空も夜空も混じったままか
すべての空があって、すべての空がない
ただ少し疲れた風が吹き上げるだろう、
そんな気ならするだろう

少しの空間があれば息を吸い
少しの空間があれば息を吐きしながら
少しの空間が見つからない
溢れるように言葉が愛を壊してゆくように
溢れるように愛が言葉を壊してゆく

せわしいだけの商店街にはひとがいない
人影を投じない昼の街灯だけが夜を歩いている
あるいは、わずかな隙間から覗くようにしてだけ
痩せた黒い犬が這うように出てくるかもしれない
あるいはただ覗いた後に去ってゆく後姿があるかもしれない
どちらにしても、それだけで街灯も消えてしまうのだ
商店街も消滅してしまうのだ

「空がない、空がない」
はしゃぎながら公園に向かうこどもたちよ
きみたちに親がいないことを知らないきみたちよ
空にさえ見捨てられた公園になにがあるのか
「それは行ってみなければ分からない-」
老成したこどもがしたり顔にだれにともなく言いながら
ゆったりとした足取りでやはり公園に向かう

そうして始めて月とすれ違うくらいはできた
タイヤの軋む音も少しは遠くに想いだすこともできた
「酒がない、酒がない!」
「おお、それは大変なことだ、うんと大変なことだ」
星を拾いながら老婆が塔婆を背負い背負いして応えている
だれもかれもが酒もなく酔いしれているのだ

なるほど、それならさすがに空に時間があるわけもない

言葉だか愛だか分からない代物の欠片でも散って、
やはり時間のない空になるだけのことでしかない

初出:note.mu(20150605)
2015-06-15 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

暗がりは遠さのなかに見えない

遠さを暗さに変えて、ここからはなにも見えない
古くもない記憶さえなにも見えない
かすかに聴こえるように聴こえない歌が通りすぎる
瞳に触れそうな距離さえ遠すぎて通りすぎる
瞳を切り裂かれても気づかない距離で遠すぎて通りすぎる
遠い、すべてが遠くて遠すぎて安堵する
こんなときに想い出すだろうはずの君もいない
どの君も覚えていないし想いだすこともできない
うっすらと浮かぶのは灰色の水平線の際に似た
いくつもの季節を混ぜたような遠い不透明な、
ああ、分からない、それも分からない
想いだせないし覚えてもいそうにない
記憶から遠すぎる距離でだけ、そう
あらゆる記憶から遠すぎる距離でだけ
かすかに鳴くようにゆったりと羽を振る
一羽の鳥の幻がスクリーンに映るかもしれない
だれにも見えないように瞬間をぼんやりと過ぎる気がする
そんな一羽の鳥の幻すらも消え
ここで静かに暗さが増してゆくままに
すべてとともに暗がりに消えてゆく

初出:note.mu(20150603)
2015-06-14 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

雨の方向に逆らいながら一匹の猫を記憶する

もしも雨が降ったなら空が乾くだろう
だから雨は降らないままでいい
ほんとうなら理由なく、ただ雨は降らないままでいい
空は空を歩いていればいい、なんなら雲を引き連れて
空色の哀しみに染まる湖をまたいで
きっと一羽の鳥が飛ぶから
それは鳥の影、深く深く湖の底を翳らせる
深く沈んだ白骨が静かに笑う
想い出すのは古い屋根、わらぶき屋根
家族を持たないまま逝ってしまった彼の家
あるいは一匹の猫が横切るように眠っている
良家の奥様よろしく上品なしぐさで
時折は空を見上げることもある
空を見上げる猫なんて、彼の記憶のなかにしかいない
そういうことを含めても
雨は降らないままでいい
きみの知る空なら知らない街の上で光っている
ここには誰も知らない空
それだけを見上げる影がある

初出:note.mu(20150603)
2015-06-13 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

だから朝露と、並木道でならすれ違うだろうから

きみの影が見えない陽炎となって照らす夕暮れから昼に向かって少し戻り、もう少し戻り、朝露に光る星を拾うときみを喪うだろう
そして、もうそれだけで満足する、まるで星を見たことのない夜を知るように満足する
だれかが拾い集めた季節を枝にかけながら歩いた並木道ですれ違おう
そのうちの、いっぽんだけの木を探して、すれ違うためのいっぽんだけの木を
明るい陽射しを憶えているだけで熔けてしまうだろう?
そんなものだと言ったことがあっただろう?
手紙を書けば封筒が燃えてしまうから封筒だけを送るように言ったじゃないか
だから、もういちどだけ、並木道ですれ違おうよ
もう、こんなにも遅い時間だ、夕暮れを覚えてもいないけれど、きっと遅い時間だ
こんな時間には月明かりのなかにきみが燃えている
その炎の色を、白や青と呼ぶのは、ひどく簡単すぎてきみは怒るだろう
だから炎の色は知らない
だけど、こんな時間なら月明かりがなくたってきみは燃えている
翌朝の朝露の影に戻るために、光を喪った星になるために
あるいは愛したかもしれないはずの微笑が燃えている

初出:note.mu(20150603)
2015-06-12 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

それが最後の瞳なら、遠い貝殻のなかに閉じ

声だけを追いかけて消える夕暮のなかを君が歩くと、想い出の貝殻のなかで海が波立ったのだ。それだけで私は知るだろう、そう想っていたものだ。

私の知ること、そのすべてを引き渡しながら知らない過去だけを引き受けてきたし、どこに君がいるのかさえ見失いながらも君の影だけは踏むように歩いていたはずだった。そして痛む躰をさえ愛さなくてはならなかった。
縮むことしか知らなくなった躰が、それでも縮むことを拒否しながら悲痛な叫びを上げている。まるで君を求めたときのように、激しい痙攣を次々と引き起こしながら、そうだ、あの海の小波のように。

「一番、安い魚を下さい、そのうち一番、かなしい魚を下さい」
夜になってから乗り込んだ朝市の痕を追いながら夜風が吹き渡る。一等、私が悲劇に見舞われたのは、いつも階段があったものだが、そこには階段はなかったはずだ。なのに、その夜風は悲劇的だったし、私を吹きぬけた後にだけ喜劇を演じた。
「一番、かなしい魚を下さい、そのうち一番、安い魚を下さい」

ぼくは、と私は言い、つまり、ぼくは、そんなにも君を知っていた。しかし、悲劇と喜劇のどちらに加担すべきかまでは決めかねていた。だから、こう言ったのだ。
「魚に似ているだけの魚を下さい」
そして、こうも言った。
「その魚は私と似ていますね」

君を想い出す貝殻のなか、私はひとつの海となり、小波に分かれながら君と重なった。縮みこんだ躰と躰を無数に集めて私はひとつの海となり、小波なんかに分かれながらも君と重なり、君の永遠を奪う君となっていったのだ。
「そういえば、ぼくは夕暮を見てないな」
などと呟きながら、そのまま最後の瞳も閉じたのだ。

初出:note.mu(20150602)
2015-06-11 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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