ある日のメモ

書き方を忘れてしまうように読み方を忘れてしまう。
見方を忘れてしまう、愛し方を忘れてしまう。
時間の過ぎ方を想いだそうとしながら眠ってしまう。
長すぎるいっしゅんを過ごしたあなたたちを忘れるいっしゅんの永遠を抱きしめる。
季節はいつも変わることを忘れている。
今日という季節を想いだすことはけっしてない。

(初出:2015/12/09 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

愛を棄てる場所について、あるいは時について

いつもよりも早い季節、古い恋人と夢中で再会した。
二人で汽車に乗りいずことも知れぬ田舎、畑道を延々と歩いた。道すがら、恋人が「○○おばさんに…」と言い、なにか手持ちものを置く気配を見せた。
汽車に乗る前、乗ってから、降車してからの散歩、ずっと伝えたかった一言を告げる前に夢から目覚める。隣の布団では女房がスヤスヤと寝息をたてていて、「ありがとう」と呟いた。
古い恋人に、ずっと伝えたかった一言について少し想い馳せる。女房と古い恋人は二人で一人だったし、一人で二人だった。
「それでも、ほんとうに愛していたんだよ」
ああ、その一言を伝えたかったのか、女房に、古い恋人に、あらゆる恋人に、世界中に。なんと呆気ない一言なのだろう。
二度目の眠りのなかにはだれも現れはしなかった。揺れる風を追う季節のなかで煙草をふかす朝が訪れる。
いつも季節は早過ぎる、早過ぎる季節を追って私は愛を棄てる場所を追い求め続けている。
(#)

(初出:2015/10/28 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

詩人との五時

「ほとんど字が見えないのです」と説明すると少し驚いたようだった。
夢のなかで詩人が会いに来てくれたのだった。

いろいろと話もしたが、わたしにはわたしの言葉の良さがある、とアドバイスされたことを覚えている(そうであってほしいものだ)。

「それを見つけるのは大変、むずかしそうですね」と苦笑した。

痛みで目が覚めたが私は大丈夫、希望もないが絶望もない。ただ緩慢な眠りに向かうだけだ。煙草を一服すると朝五時の光が見えた。

-言葉は日本刀のようだ、美しいが人を斬りもする
 そしてすべての欲望は果たされねばならない、昇華されねばならない-
などと書きとめてベッドに向かうと女房が起きていた。
久しぶりに人に会ってストレスでも感じたんじゃないの、と笑われた。そうかもしれないし、そうではないのかもしれない。
痛みの先には光も闇もない。生きているということは、やはり<苦>なのだ。

光をください、あなたたちの智慧を分けてください。

眠るのも難しい時間になり、朝日が昇り始め、まばゆき痛みを伴う朝陽を浴びた。詩人との別れが知らないうちに訪れていたと気づく。

光をください、あなたの言葉の光をください…

(#)

(初出:2015/10/13 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

無明の朝、川は流れる音を忘れる

ことばを失ってからどれだけの時間が過ぎたのだろうか、わからない(時間もまた、ことばであるのか?)。
なにも見ることができない眼の激痛が和らぐと、そこにことばはなく、なにも見えない闇だけがただ広がっていた。
「おはよう」「ありがとう」「はい」
薄れた意識の遠くからはかすかなことばのようなものが聴こえるかのように唇を揺らしているようだ。

今は夕暮れ時のようである。
一冊の詩集が贈られてきた。どれだけ楽しみに待ち望んでいたことであろうか。しかし今は冒頭の一作を読ませて頂くのが精一杯である。お礼のことばを書き記したいが疲れ切っている妻に筆をとってもらい、つぶやくままに書きとめてもらうばかりしかできない。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう…
時を過ぎることさえ忘れて呪文のように繰り返し繰り返し唱えている。
物事には始まりがあり終りがあるとも聞いたが、私には始まりも終りも分からない。ただ頬を撫でる風を感じ不変なるもののなきらしきことをふと想い出す。
ことばなき者たちよ、希望なき者たちよ、我らもまた不変ではありえないのだ。たとえ我らが石ころのひとつであろうとも、石ころのひとつでさえあり続けることなど、ついには出来はしないのだ。
あるいは我ら光りなき星々として彷徨うとも、出逢い、別れ、また風に吹かれることもあるだろうか-

さて詩は、果てなき永遠を讃えるためにこそ書かれるであろう。
詩を紡ぐ者たちよ、果てなき荒野を称えよ!
詩を紡ぐ者たちよ、果てなき荒野を一歩一歩と歩め!
その足跡こそがことばになりかわることもあるだろう。
我らの墓碑は、その足跡だけなのである。

(#)

(初出:2015/09/28 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

バスは無言であるだろう

やさしすぎる無言を聴いているとセミが鳴き始め、陽が差し込み始めた。
包帯を巻くのが限りなく下手くそなナースと厚い雲のした、小さな川の小さな砂利を踏みながら大きな川のように渡る。なんにもないようになんでもある夏だったので夏ということばだけであふれている、あるいはそれが川だったのかもしれないし夏だったのかもしれない。
セミは鳴いているか、木の一本もない街々で。夏は泣いているか、夕暮のひとつもない街々で。
バスが過ぎる、音もなく、バスが過ぎる。やさしすぎる、その無言が夕日に伸びてだれかを遠くへ誘っている。運転手は、見当たらない。

(初出:2015/08/24 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

夢のなかでは、出逢えない

もし、その夕暮れに私の影がなびいていたら
きみは知るだろう、そこにはだれもいないことを
私も知るだろう、きみには逢えないだろうことを
バスが発車音だけで消えてしまうように、
きみも私も消えてしまったわけだが
そこには小さな小川が流れていて、
私たちの知らないひとが活けた花が揺れていて、
そうして再び、きみも私も息を吹き返す
いくつまで数えたか忘れてしまった星
どこまでを数えたか忘れてしまった星
どこからでも私たちが星だけを数え始める夜が始まる
それは悲しいことではない
きみに告げよう、それは悲しいことではない
振り向ける、振り向けられる、
精一杯の笑顔を
受け取ることが、できる
もし、その夕暮れに私の影がなびいていたら
悲しみにはあまりに遠すぎるじゃないか
砂がすいこんでしまう涙さえ

(初出:2015/08/15 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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