始めに言葉達が壊れた

三つか五つかの季節を過ぎやって開く二ページ目の片隅には小さく一ページ目が記されていて、一ページ目の片隅には小さく本の表紙が記されている。いくつかの季節を過ぎやれば本は消え、作者のいなかったことに気付くだろう。

抱きしめたままの愛が壊れたままであったように、抱えたままの言葉達は壊れたままであった。
-下痢のようだな
吐き出す言葉に飽いて沈黙を求めると初夏の鼻水が流れ出した。
左右に違う大きさのティッシュを詰めると、勝手に言葉達は溢れ出すが、鼻水の方が多くて見失う。

夜の雲を愛しみながら月を求めていた。時計の針は音量を心得ていたので、それだけで心地良い夜だと満足しなくてはならなかった。
昼の雲は好きになれないまま雨を求めていた。時計の針は速さを心得ておらず、それだけで不機嫌な昼だと不満足にならなくてはならなかった。
リフレインを繰り返す日々をハイウェイを駆ける車で誤魔化しながら、昼も夜も失ってしまった街を遠く眺め、山に残された灯台に小さく灯を点す。

川面を走る泡のように想い出す人を記憶の底に追いながら、禁じられるべき言葉を数えた。失うべき言葉は多過ぎて、それだけで気を失いそうになるので念入りに。
想い出すことを遠くにおいやるためだけならば、残された数少ない言葉を手元に残しても良いだろうか。語らずにしまっておくだけならば。

物語を簡単に記した碑の傍で静まったままの湖畔に立ち、全てがあることを確かめた。山も海も川も空も大地も、それらに付随する色々も。
物語は湖に投げ込まれ、その深い底を溺れながら泳ぎ渡って対岸に立ち、こちらを見つめている。視線を落とすと星の明かりがチラチラと湖面を走り、無限に小さくなりながら、彼岸と此岸の渡し舟となって消えている。
手にしたはずの本は奪われることなく開くことが出来なくなっていて、二ページ目のことも、すっかり忘れていた。デリート・キーとバックスペース・キーとが違うことは、改めて覚えた。
2014-05-28 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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