クシャリ、クシャリと月が潰れ

ぼくが「(愛を)愛している」というと、女はプイと出て行った
ぼくが「(哀しみを)哀しんでいる」というと、詩人はプイと出て行った
ぼくが「(孤独を)孤独している」というと、月だけが残された
中天だけを注意深く避けて天を横切る月だった
ぼくには優しげに見えたけれど、誰にも見えない新月のようで
指差し語り合う誰もおらず、少し寂しかったのを覚えている
光のなかで風が吹くように月は月のなかを光っているだけだった
(あるいは月のなかを昏やんでいるだけだった)
非常に共感するところがあったのに、月は月であるだけで
枯れ葉のように、やがてはクシャリと音を立てて潰れてしまうのだったが
その潰れる様が、また素晴らしかった
そのように、あらゆる生はクシャリと潰れてしまうべきだとさえ想った
およそ魂というものがあるのであれば、それすらクシャリと潰れるべきだった
女も詩人もだが、その月のクシャリを見せてから語るべきだったかもしれない
「(孤独を)孤独する」とは、きっと、そういうことなのに違いなく
今日、風が吹かずに明日のなかに吹こうと努めているのに似ているし
明日、風が吹いても今日のなかに吹き止もうと努めているのにも似ている
数年前に記憶されたはずの何かの畔では、いつもベンチに座っている人がいて
それが男か女かも分からぬのは詮無いことなので問題ないことだとして
明日、訪れるかもしれない、その畔には、もうベンチがなくなっているらしい
誠、世は転変だけで余は余剰だけがあるばかりである
その余剰のすべてこそがクシャリとゆくことを願うばかりであるが
そうともいかぬのが世の倣いであり、昨日もクシャリ、今日もクシャリといくに違いない
そういえば、ぼくの愛しみも哀しみもクシャリと消えてしまった
そうして、いつの間にか新しい丘と風のなかを月は今日も昇っているので
ぼくは、もう、ただただあきれ返って月を見つめている
あきれ返っている内にはペンは手にあるし、紙は目の前にあるしで
さてはて呆れるままに、よしなしごとでも書こうかと想うのであった
2014-09-04 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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