波を見たことがない人に

遠景は不安定な輪郭の小円のうちにあって
なにか真実めいた光景を横切っては
あるものよりないものを想い出させるだけで
刻まれることばに残るものはなく
二人の人影も見いだせずに消えてしまう

二人の描いた轍は、ある種の哀しみであり
降らない雨の水たまりとなり
晴れということもなく青いだけの空を
過ぎる先を喪った雲を映している

それは海岸線への距離であったし
消えてゆく海との距離でもあったし
湾岸沿いの幅広な高速道に車影はなく
光なきままに照らされる小さな演芸場であり
無音が聴こえない音に変る瞬間でもあった

もし波が立ったなら教えて欲しいと伝えた人は
波を見たことがない人で
きっと荒れた海を見つめて黙ったままだろう
届く手紙には「今日も波は立ちませんでした」と
短く記されるだけで泣いていた

遠くから寄るものがないので水平線は必要なく
波が立たないので海は必要のない水たまりだった
戻るための遠景すら、もう訪れることを拒み
想い出される公園のなかに私はいない
想い出す私も、もう、いなかった
2014-09-11 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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