街占師

薄ら寒い夜街を歩いていたら、筮竹を掲げた占い師が卓を広げている。
今日は少し気が滅入ったから、一つお願いしてみようと座ってみた。
初老の男性は、何やら難しそうな本をめくっているが、座れば口元が変に蠢く。

(さてはて?座ったがいいが、どうしよう?)
と、思う間もなく鍛え抜いた声が響く。
「御仕事でトラブルを持ってらっしゃる。」

「はい。」
「人間関係が大変なようですね。」

「はい。」
「さて、何を占いましょう?」

考えもせず座った自分が馬鹿だと気付いたが、思わず神妙な顔が出来上がり、答えもスッと出たもんだ。
「金銭面をお願いします。」

ジャラ ジャラ ジャラ・・・
素人にはトテモ分からぬ棒分けをして、ムンと沈黙。

「今しばらくは少し大変かもしれませんが、
 この調子でしっかりと仕事に励めば大丈夫。
 金銭で困ることはありません。」

「はい。」
「ただ、気を緩めるといけません。
 くれぐれも女、お酒にかまけるなどしてはいけません。」

「はい。」
「他に訊きたいことなどありましたら。」

と、女房からフイを突いて帰れの携帯コール。
これは申し訳ない、失態だ。

「いえいえ、有難う御座います。
 明日も真面目に仕事に精を出して頑張ります。」

今日は厚めになっている財布を取り出すと、サッと変わった男性の目付きがチラと気になり気まずかったが、
「どうも有難う御座います。」
とバツの悪い苦笑いをしながら会計を済ます。

なんで座ったのだろう?と、そちらの方が気になって仕方なかったが、早く一風呂浴びたくて、満員電車に乗り込んだ。
電車のガラスの向こうは瞬く間にネオンを後方に追いやって、チラチラした光だけになっていく。

街占師との不思議な一体感が過ぎったが、強過ぎる香水を放つ女性が尻をデンと押し付けるので、黙って満員電車に乗っていた。
眼前に突き出された新聞には、明日は「晴れ」と書いてある。

そういえば明日は、休みだった。
明日は休みなんだと気がついた。

いつのまにかチラチラ光も高くなり、あれはきっと星なんだろうとボンヤリ頭で考えながら、いまだ満員電車の中にいる。
もう少し、満員電車の中にいる。

(初出:2004年12月07日)

2006-08-25 10:14 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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