銀河鉄道の詩集/極私的世界の不完全性

巷には腐るほどの詩集があるというのに
ただ一冊の詩集が欠けているだけで
世界は全くに不完全だった

海を、空を、秋を
あるいは哀しみや憤り、孤独や怒り
諸々の有象無象が語られ
それぞれに意味ある、意味のない
しかし詩作品としての完成に向けて
どんなにか素晴らしい作品が溢れていても
ただ一冊の詩集が欠けているだけで
すべてが空しい

となりの空席について語ろうか
あるいは、そこに座るべきなのは
誰もが通り過ぎるだけの曲り角
あるいは、そこに座ることを期待するのは
誰もが通り過ぎて気づかないすれ違い
それらすら語り尽くされているというのに
なぜ、となりの空席は埋まらないままなのか

あるいはとなりには秋にだけ降る雨が
あるいは、となりには憤りにだけ開く瞳と
瞳のなかでだけ開く窓
窓枠の中でだけ自由に飛び回る鳥
彼らが、そっと透明なまま座っているかもしれない
それでなら埋まるだろう空席は
となりにあるというだけで埋まりようがない

世界の不完全がとなりから世界に広がってゆくのだ
となりの基点が他ならぬ<私>であるように
想えば、それが相対と絶対の狭間に落ち込んだ
現代の縮図なのかもしれないと
それは少し思想めいているのかしら?

窓枠の外は夏を外れてゆく蒼い空
夏の残渣を輝き始める季節と季節の間にだけ
きっと拡がるだろう輝きに満ちた蒼い空

そのくすみは、<私>と、となりとの間の色に似て
一瞬だけで終わる永遠の生命の唄のように
ただ誰にも耳にされることのないような細心の注意を払って
そっと空席のままの、となりを掠めて列車の通路に出る

踏切を、あるいは河口をさえ横切ることなく
あらゆる横断を拒否したまま
ただ上空を走り続けるだけの銀河鉄道のように
となりに座り続ける人は、詩集を書くことがない
空席に置かれた詩集は、決して開かれることがない
2014-10-04 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

月毎落書

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補