最初の季節、最初の恋人たち

喪われゆく涙を季節のように見送り、恋人の二人は街へと還った。
廃墟を目指して輝く街では別れに似た再会が、永遠の再会のように繰り返され、
傷のない血痕を流血のない傷痕が舐めているのを見つめている。

- ガソリン車を電気自動車に変えましょう、それとも水素ガスだったかしら?
一人の女が恋人の脇を通り過ぎながら呟いているが、その恋人は男か女か、
もしくは男に似た女か、女に似た男か…ああ、そんなことは関係なかったかね…
腐乱し続ける川を淀み微睡んだままの風が、
川沿いのフェンスからまで顔を出して誰にともなく語りかける-
語りかけるが応えるものはなく、恋人は黙ったまま川沿いを幾度も通り過ぎる。

街を閉鎖するように円環に結ばれた川のなかで、彼らは橋を見出すことが出来ない。
疲れた恋を棄てるために恋人たちが枯れた木立に包まれた公園に辿り着き、
椅子に凭れたまま他の恋人の番いを見つめている。
きっと抱く/抱かれるなら、あの人と想い定めながら、別れが通り過ぎるのを待つが、
だれも別れを手にしたことがないので空しい想いだけが空転を繰り返す。

- だから電気自動車の方が良いのよ
もう一人の女が公園を横切り、服を切り裂きながら叫んでいる。
露わな乳房には乳首がない、露わな下半身には陰毛がない、
ハイヒールだけが残されて見送られる視線の一つもない。

- うんと疲れたね、ああ、本当に疲れてしまったんだよ…
ようやく重い口を開いたのは、どの男だったのか。
愛を囁こうとしたらしく響いた声が、更なる虚構を求めて街を街に変える街を探している。
- 涙のことなら街を出てから探せば良いのだと想う
また別の男が、だれもが口に出来なかった一言を重々しげに放つと、
公園を満たしていた恋人たちはすべて雲母のように剥げて消え、
最初の季節、最初の一組の恋人が亡霊として蘇り、最後の涙を互いの指先でなぞり始めていた。
2014-10-13 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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