君待つ、ここでは

寂しい瞳を通り過ぎながら名残惜しむ蝉が初夏の風に乗る肌寒い夜には、知らない君の声が聴こえるので、ぼくは遠い道の上に廃駅を築いて二人だけでのみ見つめることが出来る夕暮を待とうと想う。初めての再会を待つ黄泉の人のように白く細い手を、鈍く錆びたレールに触れながら、揺れる草に風を読み取ろうと想うけれど、揺れるには短かすぎるのだろうか、彼ら草の丈は。

死せる山並の山腹に、大きなトンネルは点滅する灯に燃えるようだけれど、ついに汽車の音が響くことはなく波音だけが反響を繰り返す永遠の鏡に覆われて、入るもの出るものすべてを捕えて離すことがない。ぼくは、そのトンネルの向こうから来た一人の異人であり、遺児であったのだ。

ほんの少し向こうからなら囁くだけの人声すら聞こえるというのに、なんという静謐だけが満ちているのだろうか。知らない人の墓標を撫でながら、ぼくは鎮魂の作法を祈りに変えながらひざまずき、鐘の音を棄てることを誓ったのだったが、どのみち、あらゆる教会は破棄されていた。

想い出せないだけで愛することが出来た君の輪郭、その襟首から漂う香りを想い描きながら、一人で見上げる空からは星が降る。きっと一人では見切れないほどの星が雨のように降り注ぎ、その光のなかで眠るように死んでは蘇り、死んだふりをしては深い眠りに落ち、目を開くだけで幾度も空からは星が降り注ぎ続けている。
2014-10-13 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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