精一杯のエールを君に

もしも、ぼくの声が聴きたくなった人がいたならば、世界で一番、冷たい石を探せば良いだけのこと。なにも難しいことじゃなく、冬になればそこらに転がっている、ひとつだけの石を拾えば良いだけのこと(ただし、ふたつ以上じゃだめだけれど)。

その石をそよと吹く風にさらせばきっと、乾いた世界の音がする。それはカラリとした哀しみに似た音色かもしれない。でも本当は、そんなものじゃなくて、ただ一面の白い雪原を夢見て惨めに黒いアスファルトに転がっているだけの石ころさ。
そして苦みばしったダミ声で、ぼくの声を探した人に言うだろう、「なにを聴きたいのだか知らないが、ぼくは眠くて仕方ないだけなんだ、そっと、そっとしておいてくれ…」と。

実際、冷たい夜空に、いっそう冷たく光っているだけの、誰も振り返らない、誰にも見つけられない星のひとつとして、ぼくの精一杯の輝きを、地上に届く前に消えてしまう輝きを放ち、その光の中で死んだように眠り、眠っているように死に、それで十分なのさ。
すべてが酷い疲労にしか変わりえない地上には、ぼくは、もう微かにすら触れられない。
こんなにも哀しみだけが満ちてゆくばかりの空を見上げる地上には、ぼくの居場所など一切ない。

それでもきっと這いずり回らなくちゃならないとしたら、なんという喜劇なんだろう。ぼくは、もうぼくを離れて笑い転げよう、まったき神という存在がそうであるように。自愛に満ちた君の瞳のなかで最期を揺れる、一枚の枯葉がサラサラと舞い落ちるように。

こんなぼくにも夢がなかったわけじゃない。それはもう、壮大な夢だって抱いていたことがあるさ。今はもう、どこに置き忘れたかも忘れてしまった夢を、きっと抱いていたことがあるに違いないのさ。頬を赤らめて秘密にしていた夢だって、きっと抱いていたに違いない、人並みに、ひとなみに、ね。その無意味さに名前を与えられる前までは、だけれど。

遠く北の島が押し寄せる流氷に覆われて誰も何も出ることが出来ない。知っているだろう?そこからは光さえ出ることが出来ない暗黒があることを。ぼくはひとつの嘘を君についたことになるのかもしれない。
君が聴いたとして、その声は、そのときの声じゃないんだよ、気付いたろう?
もう、すっかり忘れてしまった頃だろう、今ならば、そんな遠い過去の声、いわば残りかすだ。しかし、それは精一杯のぼくの君へのメッセージだ。
君の輝ける未来への、せめてもの、精一杯のエールに違いないものなのだ。
2014-12-05 00:00 : 試詩的終宴 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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