大鬼の嫁

常にではないが、時に大鬼は村に来ては村人を伴い、その村人が戻ることはなかった。
鬼の腹の中は極楽というぞと、長老は伏目がちに娘に告げた。
大鬼は山を二つ越えた先の池端に住んでいる。
若者衆が先導と殿に五名づつ、一山越えるまで娘と同行した。
中に娘と心通わす若者もいたが、誰も無言であった。

娘が池端につくと、大鬼は、既にして娘の二倍はあろうかという半身を沈めていた池の中から這い出してきた。
大鬼は池端の大穴を指差して娘に示した。

大穴が、二人の居所となった。
今までに何人の娘や村人やが大鬼に喰われたかは見当もつかない。
娘はいつ喰われても仕方ないと観念し、毎日、甲斐甲斐しく大鬼の世話をし始めた。

しかし大鬼は、いつになっても娘を喰らう気配がない。
それどころか娘の出す食事にも大して手を付けない。
池に落ちる滝水を飲み、半身を池に沈め、夜になると眠る。
その繰り返しであった。

そのうちに娘は、妙なことに気が付いた。
大鬼の家には厠がない。
厠に行っている様子もない。
あの体であれば一山も出来そうなものだが、と娘は不思議でならなかった。

もう一つ不思議なことに、大鬼の男は至って小さい。
まるで幼児のようである。
程なくして、娘は言葉少ない大鬼の嫁になることを望むようにもなったが、
大鬼は、いつも気のない返事しかしなかった。

大鬼が寝ると朝までは決して起きることはない。
ある夜、娘は大鬼の腰を自ら跨いだ。
しばらくして後、大鬼は目を覚まし、大きな目に涙を溜めて娘を見上げた。

事の最後に至り、大鬼の男は体に相応しい大きさになって娘の体を引き裂いた。
噴出した精が、引き裂かれた娘の体を追い掛け満たし、娘は息絶えた。
大鬼は余さず自分の精と娘の亡骸を集め、全てを腹に収めた。

翌朝、大鬼は黙って半身を池に沈めていた。
大鬼の瞑った目頭から涙があふれ、村にまで大水をもたらした。
その秋の村は、いつになく豊年で、秋祭りも大いに賑わった。

大鬼は、いつの間にか村に現れることもなくなり忘れられてしまった。

2006-07-24 22:25 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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