アブサロム、アブサロム!(1/4位?):備忘録

「アブサロム、アブサロム!」(フォークナー、高橋正雄訳、講談社文芸文庫)

クェンティ(コンプソン)を中心的な「聞き手」として物語が進む。
まだ初期の南部の田舎町(村)ジェファソンに現れた事業家(と、言うのが適切だと想う)・サトペンと、既にジェファソンに居場所を築いた小さな商店主・(グッドヒュー・)コールドフィールド。

サトペンはジェファソンの人々には理解出来ない粗野とも言える野心(?)と、それを制御する精神の持主で、自らの事業の糧として、ジェファソンの人々の信頼を得ているコールドフィールドの娘・エレンと結婚し、一家を成す。サトペンを中心に語られる物語の血縁関係は複雑さを増して行くが・・
やがてエレンは死ぬが、彼女と入れ替わるようにサトペンに嫁いだローザは、サトペン家の興亡を受止めて生き残っている。

第一章では、このローザを語り手とするが、その語られ方に注意を要するように想われる。非常に「分かり難い」という印象を受けるが、この語りを「(ある種の「熱」を持った)過去に対する預言者的姿勢」のものと受け取れば、その語られる「過去」は海底火山に熱せられて生じた気泡が、やたらと「浮かび上がってくる」様に似ている。
ここでは「ストーリー」を理解することが大切なのではなく、語り手の一言一句に耳を傾けることが大切なのだと想う。実際、文頭からローザが語り出すまでの誘導は非常に丁寧かつ巧みで、フォークナーは決して奇を衒った難解さを持ち込んだわけではないことが分かる。

その後、クェンティは父(コンプソン氏)を通じて「整理された」話を聞くという立場に置かれるが、ここでは「語り手」の入子構造や時間の前後はが激しい。しかし、これは「父を通じて聞く(古老の)昔物語」であり、そのことを念頭に置けば、ここでも、いかにフォークナーが緻密な筆を入れているかが伝わってくる。普通、我々が「昔物語」を聞くときには問い掛けが許されるが、「小説」であるが故に、読者は問い掛けることが出来ない。その「問い掛け」を丁寧に不要になるように、しかも興味を失わないように、とページは進む。

ここまでの全体を通じて感じるのは、異端者とは言い切れないが強烈な個性を持ったサトペンが、ジェファソンという閉鎖的空間を通じて、より鮮明で興味深い人物像を持って浮かび上がってくることで、やはり「サトペンとジェファソン」を通じて鮮明さを増していくジェファソンの在りようだ。「ただ人がいる土地」は、「(呪われた)人を作り出す土地」へと変貌を遂げていく。
この土地・・・大地の変質の姿を描かれている点だけでも、ジェファソンは我々にとっての「共通の土地」として意味深いものになる。

本作は実験要素が織り込まれているという点については、我々が日常的に「小説」と言っているものに「ストーリー」とは異質な「(実際の)物語」を持ち込もうとしたことが一つ挙げられると想われる。その現われがローザの「預言者的姿勢」であり、コンプソン氏の「昔物語」である。
この両者ともに、我々が「小説」と言っているものに織り込むには非常に難儀なものであることは明らかであるが、本来であれば「物語」の原点の一つとして忘れてはならないものではないか、と感じさせられる。
しかし、我々が「小説を(ストーリーとして)理解する姿勢」を放棄しさえすれば、「この小説」は逆説的に極めて分かり易く書かれた「物語」であることにも気付くことが出来、我々に極めて親密な距離を持とうとしている「実験小説」でもあることが分かると想う。

2006-08-31 19:08 : 実験中&備忘録 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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