海と季節

山間の谷間に似たところから、顔を上げるのさえ重くて難しいという様子で見上げる瞳に向かって晴れやかな陽が降る様が残酷で冷たいロケットのようだ。少し見渡す限りでは霞がかっていて陽の光がオーロラのようにカーテン模様を描いて朧な向こうの山まで届くのを見届けさせない。

「海を探しているんだ」
乾いた口調で言おうとするには湿っぽさの残る子供の声で俯いてゆく。手指の先から滴る泥しずくが妙に美しく感応的なリズムで田に引き入れられ始めた水面を打つ。

「季節が違うね、たぶん」「そのようだ」

私の代わりに探していたのだろう彼の手首をグイと引いて草むらに引き上げると冬間近のように冷たい風が夕暮を運んでくる。いつでも私たちは疲れていて海を探すことしか考えられなかった。彼女のことについて訊こうと想ったのも、もう何年も前のことで今では、もう、そんなことは訊いてはいけない気さえしている。彼もなにも訊くことはない。互いに訊くことがないことが心地良いこと、大切であることを学び始めていたので私たちは友人になりはじめのだとさえ言えたかもしれない。

それでも互いに互いへの海を探していたことは間違いないことで、それは見つけるためではなかった。冷たいコーヒーをコーヒーとは呼ばない人がいるように、見つからないままでいる限り、それは海だった。
見えない海にだけ沈んでゆく太陽があり、私たちは今日も、見えない海にだけ沈んでゆく太陽に支配された日常を送る途上で再会し、少しだけ一緒の時間を過ごし、別れていった。
2015-02-20 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補