陽が高く、そして眠る

陽が、高くなり始めたように想う。
雨が降る気配だけを残して雲は動かない、しかし、陽が高く、なり始めたように想われる。恋人の乗るはずだった電車の音を想い出しながらでも、散歩ができそうなくらい、陽が高くなり始めたように想う。
川沿いに歩いてゆく人を想い出す、そう、想い出の季節なんだ、と。そう、言いたい、言ってみたい。
ガラスを通して七色に輝く光を追いながら、七色以外の色を忘れたように私も、その七色と化して恋人と逢おう。草いきれを鬱陶しいねと笑いあいながら転げるように恋人と逢おう。そして川沿いを歩いてゆく人を見送ろう。
いくつもの木の乾いた音が破裂する小さな夜を集めて、新しい季節の音としよう。「タタール人の砂漠」の一シーンで描かれた風景だ。
命の、溢れる命の無邪気さが私たちを哀しませる時節なのだ、いつだって、きっとそうなのだけれど。
久しぶりに空から響いてくるジェット機の音、低空を、ゆっくりと飛び去ってゆくジェット機の音。
陽が高くなり光の、色の時間を迎えながら目を瞑る。
音が、いくつもの、無数の音がざわめいている。動いている。
いまも季節が動いている。
陽が高くなり始め、しかし曇天の今日、それでも無数の音に囲まれて静かに、眠る。



「タタール人の砂漠(ブッツァーティ)」岩波文庫版 P213
 夜になると、兵舎では、背嚢をのせた木の板や、銃架や、扉や、大佐の部屋にある大きな胡桃材の見事な家具も、砦じゅうのありとあらゆる木材が、ごく古いものさえ含めて、暗がりの中で軋みを立てるのであった。時にはそれらは…
2015-02-25 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補