思想家の資質

本棚の奥から懐かしい本が出てきたのでパラパラと読んでいた。
「批評とポスト・モダン」という柄谷行人の著作だ。

小論のなかに「モダニティの骨格」という吉本隆明論が掲載されていて、その前に掲載されている「批評とポスト・モダン」「無作為の権力」の内容を受けて展開されているものだ。「そうだなぁ」と納得するところと「そっかなぁ?」と疑問に感じるところもあり、いずれにしても非常に興味深い。吉本と柄谷の対立期に当たる著作になるのだろうか、私は、そういう論争はあまり知らないのだけれど、徹底的に論争し尽されていて欲しいと想う一方、中途半端に終わったんじゃないかな、という芳しくない予想もある。いずれにしても後年、吉本は柄谷を再評価したようだし、柄谷に何かしら託すような気持ちはあったのだろう。

まず柄谷によると「言語にとって美とはなにか」では「虚構の体系の設定」が提起され、そこに画期的意義があったという。しかし特に「マス・イメージ論」でそれを「反復する意味」を問い、それを<「内面の表現」や創造とは縁遠い広告の書き手たちを、結果的な「自己表出」として救出しようとする。救出されたのは彼らではなく吉本隆明の「体系」である。>というところに見出す。
これに関しては多分、吉本をマルクスに強く紐付けし過ぎた理解で、むしろ吉本はフロイトの自由連想的なことを無意識にでも企図していたのではないかと想う。そう見取れば、むしろマルクスの上部・下部構造の吉本的反転への指向だろうし(あるいはドゥルーズの方向に近いかもしれない)、吉本をマルクスに紐付けし過ぎて理解しようとしたら、それは食い違ってしまう。
*「自由連想」というフロイトのアプローチは、そこから経済システムが生まれ出る源泉(夢思想)をあぶり出し得る可能性を持っているだろうと見ることが出来る、という意味で
いずれ本人同士が飽くなき徹底論争を繰り広げることが第一であることに間違いなかっただろう、というのが私の考えだ。

吉本の第一の美点というのは、いつも一人で向こうを張って論を繰り広げるという点で、たまたま「現代思想」の吉本追悼号で見掛けたロシア文学者の内村剛介に向けた吉本の追悼談に興味深い話が出ていた。
<ロシア人というのはともかく理屈が大好きで、筋の通らない屁理屈でも、その場の空気を壊すような勝手な口舌でも、それを延々と続けて言い負かせてしまえば、彼らは納得してしまう。それがトルストイやドストエフスキイの小説を貫く論理だよと解説してくれました。>(<ロシア学>の最後の学徒」)
この内村の話を<僕にはなかなか魅力的な論理だなと感じられました>と、自分のキセル体験談を続けている(キセル乗車を見つかり詭弁で逃れようとしたが失敗したそうである 笑)。
いずれにしても一人で徹底的に論争してゆくという吉本の心意気が思想家としての最大の資質だった。
<吉本隆明は、多数の弟子や崇拝者に囲まれていたが、孤独だった、と柄谷行人が言っていた。至言である。>
哲学者=山崎行太郎の政治ブログ『毒蛇山荘日記』 より

吉本も柄谷の才能については認めていたようだし、そのことは特にここでは問題ではない。
ただ、柄谷の前掲論文には気になる一節があって、引用すると長文になるので要約すると、「ひっ掻ける世界がなくなったとき」の態度だ。ここで吉本は空虚さにとらわれながらも書き続けたが、柄谷は書かなかった、という。そして「書かなかった柄谷」が、「書いた吉本」を納得できないと指摘するのだ。

私なぞは、ここで柳生新陰流で剣極意とされる「攻撃精神の純粋維持」を想い出してしまう。あるいは「書かなかった柄谷」の方が、それを「実現」したのかもしれないが、思想家は屁理屈でもなんでも言い(書き)続け、言い負かすくらいの勢いがあって良いじゃないか、と想ってしまうのだ。つまり、それは「ロシア的」なのかもしれないが。
虚無にとらわれるだけで何もしない理由も論理も、いくらでもある。やはり「書いてこそだ」というのが妥当するなら、才能では柄谷が吉本の上を行ったとしても、いや、行ったとして、吉本を越える資質について柄谷は考えるべきだろう。そういう意味では、私も柄谷買いしてるということなのだ、と今、気づいた。

思想家は孤独かもしれないが、その孤独こそが資質を磨くだろう。
ここで取り上げた吉本・柄谷の二人に、そして多くの孤独な思想家に、敬意を表する。

2015-03-09 00:00 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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