禁じられざる涙を禁ずる

春になり、朧というのだろうか、そんな空気が棚引く空だ、
まだ蕾さえ見定められない道を、まだ咲いてもいない花が散るのを想い出しながら歩き、
そしてコンビニに入る。
「…円になりますぅ」
少し語尾が上がり調子で延びる、今の時期には珍しいレジのお姉さん、どこから来たのかな?
そして煙草を受け取り、人通りの少ない住宅街を過ぎながら、私は遥かな最後の一人となる。
ひとり、ひとりと死んでゆき、あるいは殺してゆき、すべての富も技術も知識もなにも、私だけのものである。
最後の一人、私だけのものである。
現代が困難を、特有の困難を、もし抱えているとするのならば、
私たちは最後の一人として私を差し出さなくてはならない。
そこまで、すべてを推し進めること、それが考え得る最善の方策である。倫理である。
立ち止まることは許されない、自由を、あらゆる意味での自由を抑制することは許されない。
あらゆる法律は、これをひとつひとつ、抹殺してゆかねばならない。
あらゆる憎悪を、あらゆる哀しみを、あらゆる寂しさを、あらゆる-
それらの負債を引き受けて、なお、最後の一人として爛々と春を歩まねばならない。
もはや資本は流通しないがために絶対的な資本主となり、
宝玉を自慢するために完全なる自己を相手とし、
過去の全技術、全知識を手中にして自由闊達に使いこなし、
世界に、君臨するのだ。
春が過ぎてゆくと、かすかに花が開いてゆく音がする。
私のためだけに、ただ私のためだけに、花が開いてゆく音が、
かすかな優美さで、私の涙を覆おうとする。
そして私は、泣くことを、禁じる。
2015-03-13 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補