蟻のように、雲が散る

見苦しい雲が空を這っている、風は吹くことを知らないままだ。地上をゆくだれかが見上げることがあれば雲は愧じるだろうか、彼はなにも持たずに悶え続けるだけだ。

蟻の巣をつついたことはあるだろうか?
私は、ある。

入口に山積みにされた土塊をホンの少し崩すだけで彼らは大騒ぎをする…
というのは嘘で、急ぎ足で淡々と土を運び出すだけだ。壊されても壊されても淡々と土を運びだし、どれだけの長さの巣を築くのかは知らない。

巣を掘り進めれば掘り進めるほどに餌を運ぶ距離も遠くなる。
仮に彼らが苦悩を知っているのなら、その営為の虚しさを知っているのなら、掘ることと餌を運ぶことを較べることを知っているのなら…
知っているのだ、散っても散っても湧いて出てくる雲のように。

彼らの驚嘆すべきところは、そう知っていても変わることができないこと、いや、変わることそのものを拒否し、拒絶するところにあると言いたいのだ。

淡々たるものとはいえ、見苦しい営為は醜悪である。
「あるいは」と語り出したくなる神話たち、沈黙せよ。
君たちにそれを語る資格がないことを私は知っているし、もちろん私も語る資格などない。

改行について語りたかった。
それを言葉と言葉との距離の問題としてではなく。延々と繰り返されるだけの改行について、あるいは一度も生じ得なかった改行について、一度だけ生じた改行について、二度だけ繰り返された改行について。

私と君とのあいだの改行について知り尽くしたまま沈黙する雲と蟻とのあいだになら、私と君が存在する余地があるような気がしている。
君の意見は要らない、私の意見など蚊帳の外である。ただ、この世を満たす改行について少しは語ってみたい、ただ、それだけのことだった。

「雲と蟻とのあいだには、ついに改行を見出すことができなかった」と、そう報告したい。
付け加えるなら「…にも関わらず、雲と私たちのあいだには改行が存在し、私たちと蟻とのあいだには改行が存在する」と。

雲が消えるのを知らないままの蟻が一匹、迷子になったまま部屋なかで乾ききるまで歩き、息絶えていた。

初出:note.mu(20150524)
2015-05-26 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

月毎落書

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補