恋った?

初出:note.mu(20150529)

―もしかして堕ちちゃった?

 一晩中、歌のエンディングが残響するようにエコーし続ける声を夢の中でまで聴きながら目が覚めてしまった。目覚まし時計に起きる時間は遥か先だよと教えられても、まだ反芻し続けている声が重ったるい。

 錆びた階段を上がってゆくと私たちの夕焼け浜辺だった。無人の廃ビルは五階建て、大きな窓のガラスすべてが取り払われてしまっていて三階以上になると並ぶ屋根も眼下になり、うんと遠くまで見渡せた。

 初めて二人でそこに行った時、ダラダラと過ごしているうちに素晴らしく綺麗な夕焼けが訪れて二人並んで見とれていると、やがて街をさらってゆく夜の影が一面にコチラに向けて広がってきて、まるで真っ黒なスローモーションの波が打ち寄せてくるかのようだったのだ。

「夕焼けの浜辺みたいだね、ココ…(これはアキが言った)」

 二人で妙に気に入ってしまってから、そこを夕焼け浜辺と呼んで二人、放課後には入り浸るばかりになった。私たちは大して趣味が合うわけでもないし、好きな音楽さえ違っていたけど、妙に居心地良さを感じていたんだろうと想う。なんとなく二人の時間を必要としていた、そんな感じだったと言った方が良いかもしれない。

「恋ったよね?」

 アキの言う通りだった、言う通りであることが悔しくて、アキが平気な軽い口調で訊くのが、もっと悔しくて私の心は否定の声で満たされた。この、二人だけの夕焼け浜辺で訊かれたことが、もっともっと私の悔しさをかき立てて、夕焼け浜辺でも珍しいほど見事な夜の影が打ち寄せてくると、もう悔しさが何倍にも何十倍にでも膨らんでいって仕方なくて、私は泣くことしかできなかった。

「知ってたよ、ダイジョーブ!」

 全然、大丈夫なんかじゃないよ、私は悔しくてたまらないんだし、嗚咽のなかに入り混じる感情が溢れ溢れしながら窒息してて、まるで声だって外からしか飛び込んでこないかのように言葉まで失ってしまっているじゃないの。
 それで、なんとか叫びだけでもぶつけてやろうと想った時、アキはつづけたんだったね。

「私の方が先に恋ってたんだもん、それくらいは気づくよ?
 でもね、私だって怖かったの!」

 アキは悔しいくらいに、本当に気障だった。肩を並べることを私に促してから最高の夕焼け浜辺が闇に染められてゆくのをひとつの瞳で二人、眺めて、初めてお互いのシャツをはだけてお互いの柔らかな胸をまさぐりながら、幸せいっぱいにクスクスとくすぐったがりながら泣き笑いする時間をプレゼントしてくれたんだった。

―もしかして堕ちちゃった?

 今度は私の声が軽くエコーして聴こえた気がした。

(#)

2015-06-09 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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