一日を終わらせるために峠があって、しかし知らない峠である

美しさを刻むだけで去ってゆく残酷な一日は峠から放った

そのとき季節も喪われたが、きみへの愛を語ることばは戻らないまま
戻れない場所で無限のリピートをくり返し始めたし
知らないことばだけが作り損ねた紙飛行機のように舞い戻ってきたし
手紙を入れ損ねた封筒のすべてが投函されたように消えてしまった

残された封筒を持たない白紙の手紙を前に一枚の鏡を立てると
決まって甲高い悲鳴を響かせて割れてしまうので
もう、だれも白紙の手紙の前には立つことすらできない
ただ盲目の少女だけが白紙の手紙に書き記す特権者だった
それで彼女とも彼とも呼べる少女に花束を

夕暮れの風は好きになれないといいながらきみが巡った池の傍では
読めない手紙を手にした三人の男がベンチを陣取る
そうしてどれほどの月日がたとうとも夜空を見上げようとはしないが
きみは時折、黙って彼らの横を過ぎて池を巡る

海ほども大きな池をどのように巡るのか
きみは問われるたびに笑う
「あなたには海ほどにも大きく見えるのね
 きっと、ひどく寂しいひとなんだわ…
かきけされてしまう語尾を風に乗せてきみは巡る

残酷な一日だった、それだけに美しく
しかし、きみのいない一日でもあった
きみを得てきみを喪うだけの一日だった
なにも起きることなど持ち得ない一日だった

峠からは重畳したまま死にゆく一日たちが見えるだろうか
彼らを軽く放るのは決まってきみだから知るひとはいない
ただ傍証だけを頼りに、そんな風に語られていることがあるだけだった
もちろん、傍証だけでじゅうぶんだった
ただ峠から放られた一日があり、それは美しく残酷だった
それだけを少しいってみたかっただけのことだ

初出:note.mu(20150610)
2015-06-23 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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