水溜りでだけ可能な恋の近辺で

きみと恋をするはずだった街角を通り過ぎながら恋人となった仔猫とすれ違うと青い空を落としたような水溜りに出逢いながら忘却のなかにきみが消えてゆく。

それからゆっくりと流れてメロディーを喪ってゆく歌曲が歌い手を持つことを拒絶するのを森が一葉の枯葉を見送るように見送った。まるで来年の花火のように去年の花火を想い描いては今年の花火を見失うかのようだった。
ほんとうは詩について話す積りだった、たったひとつの改行だけで私たちはお互いを見失ってしまうのだった。

たぶん、きみを忘れるために書かれたのであろう手紙を火種にしながら点火装置を持たない爆弾を照らしていると、なにかを爆破しなければならなかった、そんな気にもなるが、なにを爆破したらば爆破の可能性は開けるのだろうと想うと憂鬱だけが飛び散るだけだった。
憂鬱は恋に近い位置にあるということは知っているだろう、しかし恋が憂鬱の近くにあるわけではない。人生の憂鬱に耐えるために恋が生まれた、そんな風に言ったほうが分かりやすいかもしれないね、そうとだけ言って笑っておこう。

荒れた木肌を撫でる風を想い出すと、それだけで、いつも海に出たような気持ちになる。
海岸には冷たい流氷と、激しい熱射、冷たさと熱さと間で右往左往する砂が延々たる集積を継続していて、そこに置かれる足のひとつひとつから逃れることすら忘れている。
そこまでたどり着いて、ようやくきみが少しの納得を見せる、水平線の向こうに消えようとする入道雲のようだ(しかし夏の入道雲ではない)。

きみが喪おうとする足跡だけを求めながら、私は私の足跡だけを辿り続けている。
それは過去のように見える未来でしかなかったのだが、それは紛れもなく正統な過去である。
きみの嫡子のように正しさだけで構築された過去である。

水溜りの場所に立ち返ると、すっかり仔猫は育っていて私は驚くことができない。
時間という存在のありようを知らないので驚けないのだ。
ただ、それが雨ならば拒絶しなければならない、そう想った。
もし、それが雨ならば、私は拒絶することしかできない、そう想う。
きみが、すべての雨を拒絶するように、拒絶の雨しか私は知りえない、そう想ったのだ。

初出:BlogSpot(20150620)
2015-07-08 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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