きっと、想い出さないために想い出す雨音

枯れなおしだけを繰り返す枯れ木の群れを通りすぎると、白紙の本を手にしたきみに出逢う。

微笑を白紙に落としながら陽を遠ざけて泣いているきみと出逢う。その不思議を感じることができないまま、隣席の空いているベンチを探すが、きみは座っていてベンチにはいないのでひとり、ベンチに腰を下ろした。

空は青く広がっている、そう言いはじめて「べき」と「だろう」の間で決めかねて言葉を噤んだ。その後もきみの微笑が次いだが、どちらと決める、そういうものではなかった。私との間にも微笑を置こうとして戸惑いながら本から目をそらすと涙が幾筋か流れたのが見えた。

想い出といえば、それがすべての想い出なのだろう、講義をするような口調が響くところを喪って私の記憶を少しだけ巡って消えた。時間にそぐわない空の色を眺めるときには並べた肩の上には、きみの色の空が浮かんでいる、そう想いたかったので見ることはなかった。

上手く枯れることができない木立が一斉に、最後の枯れゆきを見せているなか、きみは立ち上がり、一本一本と枯れ具合を確かめながら枝を折り、手にまとめて微笑を絶やすことがない。
「想い出が満ちると枯れるか真っ白になるかしかないのよ」
枯れ木の束を本に変えながら戻ってくるきみが私の膝の上に本を置いて立ち去った。

暮れ空から遠ざかろうと喘いでいる空の下でなら、すぐにきみを見失い、想い出のなさに安心を覚えた。
きみがだれだったのか、いつもの通り私は知らないし、分からない。
「また、明日」
繰り返される明日を今日に布置するだけで私たちは出逢うことなく出逢った。
「さようなら、いつかね」
きみの声を、まだ青い空に置きながら、きみが拾いすぎたと苦笑いした雨音を想い出そうとしていた。

初出:BlogSpot(20150624)
2015-07-12 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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