街の川、斃れたきみ、街角について、など

雨が降り始めると街角を想い出しながら街の内側、外側を知らずに歩き始める記憶、記憶が歩き始める。
なにものも記録することを知らない記憶が街と無関係に街角を想い出しながら雨を歩き始める。静かな音楽を邪魔するほどではない雨音とともに流れ出すように。

きみが乾いた路面に斃れたことを立ち止まりのなかで忘れながら乾いた血の痕を、黒々と夕暮れだけを知る血の痕を見つける。
私の代わりにきみが斃れたのだったら、どれほど感動したことだろう。
その血痕を路面から剥がし、今すぐにでも抱きしめながら泣いただろうに、きみが斃れたのは私とは無関係なことだった。

-遠くから訪れる雨と近場から去ってゆく雨が出逢うのね

雨の雫で見えない表を指差すように鼻を向けた女が本を落としながら言う。
コーヒーの湯気が女を消すまでの間、そのことばを言い終えるのに十分な間。
そうしている間に汚濁した渦を巻く都会の排水路には「川」と名がつけられている。

その知性を愛しながら、むしろ雨に打たれることを祈り傘を折った。
街角に消えてゆく後姿だけで知る知性を愛していたに違いなかった。
街のなかには、いつでもだれもいない、それが「街」だからだ。
街は記録する、街角を使って、ひとつひとつの街角にひとつひとつの街の記録。

そうして街角は記憶を喪ったまま雨により想い出を与えられるのだ。
街の記憶を喪った街角が、そうして雨が降り始めると歩き始めるのには理由があるのだ。
音楽を止めよ、会話を止めよ、女を黙らせよ、街角が歩いている。
街中を、街の外を知らずに街の記憶を持たずに街の記録を保っている街角が歩いている。
音楽を止めよ、会話を止めよ、女を黙らせよ、街角が歩いている。

初出:BlogSpot(20150626)
2015-07-15 00:00 : カイエ、詩 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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