無明の朝、川は流れる音を忘れる

ことばを失ってからどれだけの時間が過ぎたのだろうか、わからない(時間もまた、ことばであるのか?)。
なにも見ることができない眼の激痛が和らぐと、そこにことばはなく、なにも見えない闇だけがただ広がっていた。
「おはよう」「ありがとう」「はい」
薄れた意識の遠くからはかすかなことばのようなものが聴こえるかのように唇を揺らしているようだ。

今は夕暮れ時のようである。
一冊の詩集が贈られてきた。どれだけ楽しみに待ち望んでいたことであろうか。しかし今は冒頭の一作を読ませて頂くのが精一杯である。お礼のことばを書き記したいが疲れ切っている妻に筆をとってもらい、つぶやくままに書きとめてもらうばかりしかできない。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう…
時を過ぎることさえ忘れて呪文のように繰り返し繰り返し唱えている。
物事には始まりがあり終りがあるとも聞いたが、私には始まりも終りも分からない。ただ頬を撫でる風を感じ不変なるもののなきらしきことをふと想い出す。
ことばなき者たちよ、希望なき者たちよ、我らもまた不変ではありえないのだ。たとえ我らが石ころのひとつであろうとも、石ころのひとつでさえあり続けることなど、ついには出来はしないのだ。
あるいは我ら光りなき星々として彷徨うとも、出逢い、別れ、また風に吹かれることもあるだろうか-

さて詩は、果てなき永遠を讃えるためにこそ書かれるであろう。
詩を紡ぐ者たちよ、果てなき荒野を称えよ!
詩を紡ぐ者たちよ、果てなき荒野を一歩一歩と歩め!
その足跡こそがことばになりかわることもあるだろう。
我らの墓碑は、その足跡だけなのである。

(#)

(初出:2015/09/28 From note)
2016-01-25 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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