不透明な雨音にさえ抱かれよ

「ゆっくりと、だが、たちあがることがあるだろうか、その雨は」
そうひとりごちながら川沿いを歩く、影を見失いながら、見まわして影を探しながら、迷い子のように歩いているようにみえるのだ。
風が吹くときは、いつでもそんなふうで雨を探している、枯葉が落ちるときにはけっして吹くことがないのに。
けっしてだれが文句をいうはずもないというのにブツブツとしかめ面をした通行人たち、彼らしか抱擁できない透明な街、彼らしか抱擁してくれない不透明な街、そのとき街灯はきみを照らしたね、すこしだけだ。
「街灯は…あまりにも淫靡だわ」
そう言いながらも抱きよせられるままに太ももを露わにされ、厭うことはない。
「ああ、きっと雨ならふることはないさ、忘れられたからね、」
男の影が雨音に濡れながらボンヤリとささやく。
「聴こえないわよ、なにも聴こえない、でも聴こえるかしら…」
女の嬌声がくぐもり始めると厚みを増した雲のように霧が立ちこめる。
街頭の光に宿る霧のひとつぶをひろいながら浮浪者が野次をとばす。
「雨も降りやしねぇのはおめぇらのせいだ!」
もはや無数の無人が満ちている、海のような砂漠を愛する蜃気楼の街のように。
うんとゆっくりとだが、それは遡行する流れだったかもしれないが、その川が流れた気がした、川にも水がある気がした。
くりかえし、くりかえし伝えられるだろう、
「ゆっくりと、だが、たちあがることがあるだろうか、その雨は」

(初出:2016/01/28 From note)
2016-02-15 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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