季節という問いに応えながら

男がひとり、男物のシャツを握りしめて「男になりたい」と叫んでいる。通りすぎる女たちが「なれるわけないじゃない」「バッカみたい」と嘲りながら街灯に消えてゆく。
割れることなく立ったままの酒瓶の口に雨が降る、霧のように上も下も知らない雨が降る。もう、そうとうに永い月日を経たはずだ、ネズミに似た親子が囁きながらいぶかしんでいる。電線が招いた風を音が裂く、昨夜のことを覚えているかと喉笛を切り裂きながら、夜に似たまま夜になれない夜が訪れる。
海を想いだしてはいけないし、想いだすこともできない、もう、海は消えた。この街に海はない。この街からは海が見えない。
男物のシャツが一枚、男に絡みついてささやく、
「ねぇ、わたしを愛するよりも女を抱きなさいよ、味わいなさいよ」
霧笛のように海が覚えているのは、一枚のステンド・グラス、光だけしか持ち得ないステンド・グラス、もう、けっして記憶を許さない海が神の記憶のなかに眠り眠る。
リフレインに似たような雨のなか、きみに抱かれた男たちは乾いてゆく、死に人たちの腐敗に巻きこまれないように、静かな夜を迎えるために。

女の街が、朝焼けに染まり始める。

(初出:2016/03/04 From note)
2016-03-07 00:00 : Zero Areas Ⅰ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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