栞の挟まれたページ

そんな君と二人で並び歩く後姿を追い掛けて
伸びる影の残骸が足元から去ることはなく
しゃがみこんだ私は残骸に言葉を置いてみた
波に洗われた
風に吹かれた
けれど言葉は消えないままで、僕は手を伸ばす

僕の指先には灯りがともり、一匹の蛾もとまる
蛾がとまるのだ、指先に
昨日、星を指した指先に
これだから私は遣り切れないのだ

夕陽が、あんなに傾いているというのに赤くもならず
空は青いままで、雲は白いままで、花にはちょうちょうがとまっているというのに指先に蛾がとまっているんだから
ビルに遮られたあの山の向こうから
飛んでくる理由なんてどうでもいいことは分かっているのに

ビルに登った泉が
そう、ビルを這うようにして登っていった泉の周りが緑に満ちて花も咲き
ビルを見上げている僕は泉に触れたこともなく、溺れたことだけを覚えているが、僕は泉に触れたことがない
空気を吸い込めなかった記憶も、泉の水が肺に満ちてきた記憶もあるのに、僕は泉に触れたことがないんだ
何人いたかも知れやしない無数の人たちが、黙ったまま僕を見つめていたのも本当さ
だのに信じることを知らないんだ。

毎日乗ってる周回電車が、僕を乗せたことを忘れて
グルグル、グルグル回り続けるのと同じことだけど
私は、だから黙っていることしか出来なくて
手ににじんだ汗だけを握り締めて乗り続けていたじゃないか
いつでも降りることが出来たのに、強いる誰もいやしないのに
実際、乗客の顔は駅に着くたびに変わったし、僕だって、ただの一人の乗客だよ

叫んだはずの声が失われ、誰も振り返らない道を歩いているようなもんなんだ
涙は鼻水になっちまって流れもしないし、涙だったのかさえ確かでは
ない
うん、確かではない
確かではないから僕は涙を知っているんだ

フンッ

と君の小鼻が開いたのを見たベンチに一人座りながら、そこで僕は涙を流しているんだよ
僕しか座っていない真っ赤なベンチに
さっき乾いたばかりの赤ペンキの光沢に包まれながら

あのページに涙が挟み込まれてしまったのは僕のせいじゃない
もちろん、ベンチが赤かったせいのはずもない
今は君が持っている、その本は
あのページに涙が挟み込まれてしまったのは
僕のせいなんかじゃ、決して、ない
2006-09-18 17:40 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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