遠い陽光の中に消し忘れられた落書

一辺のみが太い三角の歌

温かく君の歌声に揺られて眠るのが好きなので、どうか歌い続けて下さい
冷酷で無限に笑う、あの恐ろしい優しさというヤツを打ちのめす歌を
曇天の、少し太陽が覗いて照らされた公園を抱えた四辻を左手に曲がる君と会った日のように

四辻に来ると、君は必ず左手に曲がる
まるでそれは僕が決めた通りであって、僕が望んだ通りであって、君は左手に曲がる

風が吹くときは、かならずやラジオ・カセットが壊れて知らない歌を歌い出すから恐ろしくてかないやしない
そんな日は、酒を片手にぶら下げたまま呆けて立ち尽くす、亡くなった人達が僕を包んで守ってくれる
ただただ黙って、いつまでも守ってくれる、その人達に何かを渡さなくてはいけないのに、いつも忘れてしまうから哀しみは絶えない
かならずや壊れてしまうというのに、そして、きっと守ってもらえるというのに忘れるというのは罪ではないのか

凍った波を黙って砕きながら、川上に向かって静かに滑り落ちていく壁掛け時計は、永遠の時を刻みながら世界の終わりを置いていく
風に吹かれ、鮮やかな緑のままに凍てついた草原を静かに歩く、あの麦藁帽子の男の影が何処までも伸びていくように私達の周りの空気も広がりの中に消えそうに消えない
いつでも君が歌声を響かせていることは知っているのに置き忘れてしまう乳児を、そんなに大事にするから限りない稀薄さは、更に稀薄さを求めて、ついには私達を押し潰してしまう

坂道は上っても下ってもいないし、私達は決して上ることも下ることも出来ないのよ、と笑いながら教えてくれた君の笑顔が消えていった赤や黒や緑やに涎まみれの大口が僕の足の下で眠り、いつでも正しく正三角形をしている眠りは頂点から頂点へと移るだけの運動の中に閉じ込められて笑い転げている
ついでに空から吊り下げられた太陽と星々と、そして、やはり月が風に吹かれるままに揺れ、釣られて揺らぐエアーに直立するタワーだけが煌々とした光を身にまとい、やるせなさを増す
いつでも融けるままに凍り続ける炎のように、やるせない想いが僕の足指の間を数えながら両の足を行ったり来たり

どうしてもというからなのに、僕は歌うけれど
ゆっくりと歌うけれど
あまりに速く届いてしまう歌は僕の手の中で輪唱を奏でる
きっと不協和音が生じているに違いないと手をこじ開けて耳を澄ますから、輪唱は美しさを増して君は聞く

僕には分かっている
山彦に問えば海彦が答えるが、海彦に問うたことはない
海彦は山彦にしか答えないから、その答えも、どうせ深みにしまい込んで、二人でニヤついて楽しむだけだから、結局は同じことなのだ、と
隆起する山の創生だけが彼らの唯一の本来の楽しみであって、他は、本当はどうせも良いのだ
だから涙は海にも落ち、山にも落ち、川も流れ、そしてもう一度だけ僕の瞳を濡らして消えていく
永遠に涙し続ける僕の頬を伝う涙の跡だけが、氷雪に削られて崩れ落ちる氷河のように嘘をつく

テーマ:詩・想 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/02/05(火) 01:21:11|
  2. 一億光年の氷光
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