指輪の中(初出:2006年07月14日)

久し振りに、その駅を過ぎた。
 何年・・・いや何十年になるのかな・・・
そんな想いで、つい視線を走らす自分に苦笑が絶えない。
数分後、よくよく考えてみたら、
「今、目の前を素通りされても分かりゃぁ~しねぇんじゃねぇか?」
と想ったら、余りに滑稽で涙腺が緩んでしまった。
悲しい・・・とかいうのとは違う。
ただただ、涙腺が緩んだだけ。

彼女との断片を書いたことがある。
 アソコら辺で降りて行くんだったっけかな・・・
その駅も、いまや当時の様相を変えている。
そうしてやがて結婚して、今の自分がいて。
なのにそんな家庭を危うくしかねない。

自分・・・

暑い最中にネクタイを緩めず、しっかとした足取りを進める人々。
彼らとて何かしらは抱えて生きてはいるのはずなのに私は・・・つくづくに自分勝手にしか生きられないヤツと情けなくて惨めにもなる。
それでも、
 アノ時のアノ部屋だけでも残っていないか?
などと駆け出したくなるのだから、さらに増して始末が悪い。

あの時、彼女に一つだけ訊いたことがある。
 その指輪は・・・捨てられちまうんだろうな・・・
 私、いやなヤツのだったら捨てるけど、これは捨てないよ
なんとも残酷なことを聞いちまったもんだ。
彼女のことだけを想い浮かべて選んだ指輪。
 それが今もあるのかもしれない、何処かに・・・
なんて考えるとは馬鹿なヤツだね。

先日、あまりに落ち込んで女房に相談した、その直後だってのになぁ。
 俺な、結局、アレが出来れば他にいらないような気がするんだよ。
  なんか、ゴメンな・・・疲れてんのかな・・・
 いいんじゃない?食べていければいいんだし。
  子供が大きくなるまで、少し頑張れば大丈夫、なんとかなるわよ。
金にもならないことに夢中になる亭主抱えて、それが冗談ではないと分かってて。
それでも彼女を想い出す・・・過去に置き去りに出来ない想い・・・大馬鹿者・・・

先生の言葉が脳裏を巡る。
「史上最弱!はっはっはっはっは!!」
自然の理、だ。
強く出れば反動も強い。
強く出て強いままでいられるのは、反動に耐えられる間だけ。
人は死ぬまで、老いていけば、少なくとも肉体は弱くなっていく。
気持ち、を保たなくては・・・

想いも、想い出も・・・全て同じだな。
強い想い、想い出は、反動がクルもんなんだな。
だからといって、捨て切れない自分を嘆いても、答えを探しても、何も見つからない。
それでも日々は過ぎていく。
新しい喜びや悲しみや、色々なものを包みながら。

重かろうと軽かろうと、捨てようとして捨てられないなら・・・
抱えて生きている自分を見つめるしか、ない。

大きかろうと小さかろうと、手に入れたくても手に入らないなら・・・
手に入れられない自分を見つめるしか、ない。

諦めなんかとは違う。

だって、あの時の指輪は・・・やはり、今でもあるかもしれないじゃないか?

そっと眠るだけの日々に埋もれているかもしれないけれど。

だから俺は・・・俺は、今の俺であり続けよう。
今の俺であり続ける事だけが、たった一つ、俺に残されたモノだと想うから。

2011-11-15 12:22 : 落陽 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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