臨海する冬空

「そう言えば、携帯は?」
小柄な私より更に小柄なその肩を深く右脇下に抱きかかえると、彼女が履いているジーンズだろうか、右手は軽く右腰辺りの余り布を掴めた。
「カーッ!携帯ねぇ、ママがさぁ・・・」
小雨に濡れた茶色く柔らかな和毛が掛かる額に唇を寄せた時、悪戯っぽく微笑む、その顔の持ち主を想い出して、初めて夢だと気付いた。

平坦な雲が広がる空の下、地下鉄だろうと想うが、モノレールに似た高架を走る列車からの見通しは良く、車内に点滅する駅名が少しづつ変わってゆく。
「どの駅に降りるのさ?」
慌ただしく車窓の外と路線図を見交わしながら、自信なさげに、しかし力強く、
「次じゃない?次よ、次!」
と、彼女は答える。

点滅する駅名は「臨海」だった。
駅舎は露天のようで、降車すると車内では気付かなかった小雨に直ぐに打たれた。
誰と一緒に歩いているのか、そう疑問に想うこともないほど自然に彼女は隣にいて、会話を交わしていた。
当時、携帯なんか今ほど普及してなかったというのに、夢と気付いたというのに、私は・・・


(参ったなぁ・・・)
いつも目覚めてから、決まって晴れた冬空を見上げて苦笑する。
二十年以上も前のことだというのに、この季節になると何故か一度は見る夢、別れた彼女。
昨年だったろうか、珍しく夢を見ることがなく、少し心の奥深くでも「気持ちの整理」が付いてきたのか、と想っていたのだが。

別れる理由があったのか、なぜ別れたのか・・・別れたという事実だけが残ったままではある。
強く残るだろう彼女の痕跡は、出来るだけ残さないようにした。
今、連絡を取ろうとしても興信所にでも頼んで探すのでもなければ居場所も分かりはしない。

所用で彼女の住んでいた駅を何度か過ぎたことはある。
二人で渡った歩道橋は、当時、感じていたより小さかった。
それでも大きくは変わることのない、その駅を降りた向こうに、もしかしたら、まだ住んでいるのかもしれないと想うと、唐突に(今更、何を・・・)という想いが重く圧し掛かってきたのを想い出す。

「臨海」というのは、東京ディズニーランドのことだろう。
彼女が大好きだったディズニー。
私は嫌いと言って良いほど好きではなく、それは今でも変わらないが、彼女が行きたいのなら、と、一緒に行ったことがある。
好きでもないのにディズニーものに目が向くことがあるのは、もしかしたら、その記憶のせいかとしれないと想うのも、あながち的外れではないだろう。

ネットというボーダー・レスな世界にいると、やはり「もしかしたら」と、無意識に彼女の痕跡を求めている自分を自覚することがある。
もっとも活発で行動的だった彼女がネットに馴染んでいるとは、とても想えない。
しかし私も、元々はネット(PC)好きとは言い難い・・・にも関わらず、効率的等とドライにジャッジして嗜み、多少は詳しくもなり、果ては仕事すらネットなしではママならないのだ。
今の私を見たら、彼女は昔のように笑い転げるだろうか。

いずれにしても、未だに夢にまで出てくるかなぁ?と苦笑の止むことはない。
ただ・・・やはり今でも、あの時の明るさのまま、元気でいて欲しいと強く願ってはいる。
とは言え、この夢を見て数日は、いつもに増してボンヤリとしてしまうのだ。
こうして「書く」ことがリハビリになってるんじゃないかと考えてはいるのだけれど。

そう言えば彼女との初めてのデートは、夜の臨海だった。
遠い、もう、いい加減に忘れ去っていいほどの、遠過ぎる昔のことだ。




http://youtu.be/kbUxFKwPm5A



今日は風が強いよ
春一番には、まだ早いと想うけど
どこまで吹いてくんだろう
今日の煙草は・・・少し辛いかな
変わらないものなんて、ないはずなのにね

2013-01-18 14:04 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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