- 肖像 - 祖父(母方)

1.
健脚だけど耳が遠いおじいちゃん

帰路は、とっても長い下り坂で
底の家は小さな掌にも隠れてしまう

テクテク、スタスタ
小さくなってく背中を追って
大きな声で呼び掛ける
「おじいちゃん、おじいちゃん!」
テクテク、スタスタ

変わらない足取りで坂下に向かう
追い縋りかねない小さな手を
強く、優しく引き止めるお母さんの手
「聴こえないだけよ
 また、すぐに来るから大丈夫」

2.
すっかりツルツルだったおじいちゃん

私の目の前でピカピカ光る
ペタペタすると気持ち良い
「こらこら!
 おじいちゃんの頭をはたかない!」
それでもおじいちゃんは、きっとニコニコ顔

皆がいても特等席は変わらない
安手の半纏、カーキと深緑の格子柄
膝上に収まってしまう私の上で
もくもくと立ち上る煙草の煙
安い、安い、煙草の煙

ボクシングやキックボクシングが大好きで
私の目の前、中継に合わせてパンチの真似
贔屓の選手が勝っても負けても
「よく頑張った、大したもんだ」

3.
ペンキ屋だったおじいちゃん

筆を持つと大真面目
散歩がてらのスケッチを前に色を練り
器用な水彩画をサラサラサラ

教えてもらった龍の描き方、簡単だった
半円二つを鼻にして
そこから段々の伸びる鼻梁
ギョロリと描く大きな目
角を生やせば龍になる

GHQのお風呂の仕事は少し自慢げ
「おっきな富士山を描いてきた」
大きな洋館に富士山は似合わないんじゃないかなあ
出されたお菓子は美味しかったんだって

4.
小さかったおじいちゃん

徴兵検査でも小さ過ぎ
戦争に行けずに悔しかったんだって
戦争に行けずに恥ずかしかったんだって

私の知らない伯父さんの遺影
南洋で戦没して戻らないまま

おじいちゃんも話したがらない戦争の話
大空襲の真っ赤な空に、一杯のB-29
川に飛び込んだ話を聞いた

5.
明治生まれのおじいちゃん

「関東大震災は凄かった」
確か上野から赤羽まで
道は死んだ人で一杯で
帰るのに精一杯だったおじいちゃん

色々な悲しいことを知っていて
色々な悔しいことも知っていて
それでも黙ってニコニコしてた

5.
動物が大好きなおじいちゃん

公団団地で犬は飼えない
小さなベランダを緑地に変えて
大切に飼っていた数匹のヒメダカ
「大きなヒメダカは三年目かな
 そろそろ卵を拾ってあげなくちゃ」

ガタンゴトン、ガタンゴトン
大きな音を立てながら
新しい地下鉄が通り過ぎる音

ピューン、ビュンビュン
大きな音を立てながら
大通りを車が通り過ぎる音

6.
脳梗塞のおじいちゃん

家に戻ったら蒲団の中で動けない
家族は周りで大慌て
何も言えないおじいちゃん

小さくなった手を握り
「分かったら握り返してね」
ギューッ!っと握り返してくれた

声を掛けて音楽を鳴らしながら
小さな胸に飛び込んだ

救急車が到着して
抱えたおじいちゃんは軽かった

7.
管だらけのおじいちゃん

もう握り返してはくれなくなった
口の中は綿だらけ
お骨を拾えばポロポロ零れた
さようならも言えなかった

8.
始めて覚えているおじいちゃん

幼い私は海に入るのが恐ろしくて
おじいちゃんと海岸沿いを散歩する

不思議な石や貝殻の間
あったかい太陽の中を散歩する

クジラ石を見つけて大喜び
二人で見つけたクジラ石
クジラが海から頭を出してるみたい

二人で大事に持ち帰り
今は私が頭を撫でて
おじいちゃんのことを想い出す

いつも一緒のクジラ石
もう会えない、おじいちゃん
大好きだった、おじいちゃん
まだまだ一杯の、おじいちゃん
2013-04-06 15:21 : 消去一葉 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
コメントの投稿
非公開コメント

« next  ホーム  prev »

拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

For Admin

落書内検索

月毎落書

一言お報せ

リンクは勝手に頂戴、削除してます
ご迷惑な場合は、ご一報下さい



メール・チェックは非常に稀です


BlogPeople

出現するかもエリア-転記候補