遠く、別れるまでの遠く

「まるで井戸のような雨だわ」
そう言い放った唇の冷たさで、その日も君の雨は降って、夜半には止んだ。

できれば私たちが固有だなどと勝手に想いこんでいるそれ(意識と呼ぼうか)が消え、
昼と夜との区別がないようにと祈ろう。

今日の六(十八)時半には、すべてが終わるように仕込んでおいた。
そんな火山の麓で私たちは逢瀬を重ね続けている。
まあ、いずれ海も山も消えることだろう、そのようなものでしかない。

そうして今日も、遠さについてだけ語る波音が小島を一周する間に、君の帰宅時間は終わる。
明日の出勤時間には、君は、もう一度だけ、今日の帰宅時間を振り返るのだが、
それについては君も、もちろん私も触れはしない。

まず、それに触れるには井戸のような雨、それについて語らねばならぬから。
私は君に それを問う気はないのだったし、君も答えなど求めてはいなかったのだったし。
それだけで私たちは十分に別れることが出来た、そうだろう?と木々は応える。

季節のように岩肌が焼けている。
雨一粒が遠ざかるスピードで焼けた岩肌に寄りそいながら二人で、
私たちは、二人という季節を探しながら滅んでいく。

井戸の底に今も降る、あの雨のように。
そう、だれもが知る、あの雨のように…

私たち固有の問題については、それはいずれ、
語る時が来るだろうし、来ないだろう。
私たちは、それを知る必要がないし、知ろうともしないだろう。

さあ、もう一度、訪れる六(十八)時半のように、
私たちは私たちを終えてしまわねばならないね。
さようなら、また、いつか。
2017-12-08 00:00 : Zero Areas Ⅱ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

非在という出会い方について

川ぞいに歩く。
泣きながら、涙に似た石を拾いながら。
わたしには、もう涙がないから、と。
ポツリ、ポツリ…と雨が降るように風を追う。

街から街へと行きわたれば陽炎のような陽炎と出会う。
わたしには、もう言葉がないから、と。
それでも川ぞいに歩く。
川に似た川を、遠くから歩く。

ベンチに似たボロ犬が坂道を転げるように、
笑いながら乳母車に潜りこんだが、
私には乳母車が見えなかった。

朝だっただろうか、その時は?
いや、朝だろう、朝に似た、朝だろう。
いつか見た記憶のある、朝だっただろう。

川には、もう流れがない。
淀みににた水は澄んでいるのだろうか、
凍った魚影だけがキラキラと光っている。
光を遠ざけながら光っている。

川ぞいでは、きみに会えない。
あまりに近すぎて、もう、わたしたちはきみに会えない。
そう、なんども呟いた川の縁に、
ほんのかすかな笑顔を置いて、雨が降る。
もう、わたしたちには、きみとの出会いがない。
2017-12-05 00:00 : Zero Areas Ⅱ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

失われた喪失の

どこか、街のはずれ
その、円環のような涙
失ったはずの、なにか

吃音者が声を取りもどしながら
言葉を、そして声を、うしなってゆく
その奇妙さに震える砂漠

どこまでも深く、
とても深くまで穿たれた穴の
その奥になら

そう、想像してみる
想像してみるだけだったが

「終わらないね」
そう、つぶやきながら消えてゆく、君の終わりを見ていた

夕暮れ、陽が沈まないまま暮れきってしまう夕暮れ
街に似た街路に佇む記憶が風を真似て揺らいでいる、夕暮れ

失われた失いを失いながら
「それを喪失と呼ぼうか?」
わたしたちは問いつづけ、問い続けながら
むしろ、失うことの意味をうしなっていった
2017-12-04 00:00 : Zero Areas Ⅱ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

虹の夜

雨戻りの橋で待ちます、とだけ書いて
砂にしか見えない虹を追っていた
あるいは、砂ならば見える虹
虹のように見える砂ならば手に取ろう

さて、遠くの波に虹が沈むころ
彼女が三歳の誕生日を迎えたときの話だ
殺されたばかりの血が塊りのまま
そこらの地平線を埋めつくしていたという

そのときの椅子を
あるいは虹に輝く夜を見つめながら
どうしようもなく近くでしか聞こえない波音を聞いている
あるいは星のようにしか聞こえない波音を

虹の話をしたかった、それだけだった
血にまみれた大地と空と、そして知らない海と-

ああ、おれは覚えているはずだったさ
そんなに遠く、どれだけ遠く
ただ、待っていただけの、その橋で
波間から虹が顔を出すのを見ている夜に
おれなら、覚えているはずだったさ
2017-12-03 00:00 : Zero Areas Ⅱ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :

冷たい街が買い歩く

残酷な街だね、
なんて言わないでおくれよ、きみよ
ぼくらが生きなければならない街を

そうしてぼくらは買われてゆくかなしみに

冷たい街が買い歩くように笑っている
2017-10-09 00:00 : Zero Areas Ⅱ/0 : コメント : 0 : トラックバック : 0 :
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拝啓




Author mak From "空白"

想一葉、兼訪問帳

星々の冷却(書肆侃侃房)
渓谷0年(オンライン版)
Both by mさん

【 無意味という意味 】
すこしの風を追いかけて
【 短文 】
大海にも降る一滴
2015.07.17.

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